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「ラヴァ! じゃあハイビスお姉ちゃんをボクにちょうだい!」
──カランカラン。
クオーラのその言葉に、口へと運ぼうとしていたスプーンを落としてしまった。幸いにして皿へと落ちたスプーンが奏でる余韻が消えるまで、しばし固まる。
一体全体、どうして今までの会話の流れからその発言へと繋がるのか。アタシはただ、いつものように有無を言わさずにハイビスがまずい健康食を口に突っ込んできたことに対して愚痴っていただけだったはずだ。誰だって兄弟姉妹を選んで生まれてくるわけではないもんな、と、そういう感じの愚痴を。だから、そこからなぜそういった突拍子もない発言に繋がるのか理解できなかったアタシは、頭痛を覚えながらもクオーラを諭すように口を開いた。
「あのな、実の姉妹ってのは血が繋がってるんだぞ」
「ボク気にしないよ?」
だめだ、話が通じなさすぎる。ああだこうだと言い合い、最終的に双子の姉であるハイビスカスに対してちょうだい、やらんという押し問答を数度繰り返したところで、話がクオーラの好奇心により、姉妹であるはずなのにどうして二人が一緒にロドスに来なかったのかという話題へと移っていった。
「アタシとハイビスは確かに一緒に家を出た」
「うん」
話せば長くなる話だ。
事の発端は些細な喧嘩。些細でありながらも、毎回二人は大真面目に喧嘩をし、そしてあのときはそこで怒って遠くへ出たアタシが道に迷ったことによりさらに複雑化することとなった。
「だけど途中でちょっとした事故がだな……」
ふんふんと頷くクオーラに、身を乗り出して説明する。荒野で迷子になり、運よくキャラバンに拾われてからリターニアの先生に出会うまでの大冒険を。最後にボロボロになってロドスに拾われた部分にだけは触れずに。
──今でも、思い出すと微かな痛みを覚えるあの記憶にだけは、触れずに。
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キャラバンで移動しているときに、盗賊に襲われた。それ自体はよくあることで慣れたもんだったけど、この道は比較的安全だからとお金をケチッて護衛を雇っていなかったのが災いした。
リターニアで先生に音楽とアーツを教わったから。
「──なんでアーツユニットを持っていないのに、
そのときまで、差別らしい差別を受けたことがなかった。ヴィクトリアでは父さんと母さんがあの穏やかで優しい生活を守ってくれていたんだということも、リターニアが感染者差別が比較的少ない国で、それこそ変わり者の先生に出会えたからこその日々だったのだということも知らなかったし、知る機会すらなかった。今までの自分は運がよかったということすらも。
差別を受けるとはこういうものなのかと、あの日知った。
仲間だと思っていた人達の冷たい眼差し。驚愕と、感染者であることを黙っていたことに対する静かな怒りがこもる低い声。出ていけ、と突き落とされたときの、あの顔。砂埃をあげて、こちらを振り返ることなく去ってゆくキャラバン。今でも、少しの痛みと共に思い出す記憶。
──姉妹喧嘩で一度だけ、姉ちゃんを殴ったことがある。
人を殴ったことのない奴には、人を殴る感触も、手に微かに残る痛みも、罪悪感だってわかりゃしないんだろう。
ましてや、その罪悪感を覚える暇もなく暴力をふるったことも、死への恐怖さえ理解できるはずもない。誰にも理解されない痛みを伴う記憶と
戦わなければ、大切なものを守れない。自分の命でさえ。
それを知ったあの日。痛みを知った、あの日。頭を殴られ、意識が飛びかけたときに、なぜかあいつの顔が頭によぎったんだ。
『──ほら、手、いたいでしょ? もう人をたたいちゃダメだよ』
幼い頃に一度だけ姉ちゃんを殴ってしまったことがある。殴られた自分の方が痛いだろうに、今まで誰も傷つけたこともないだろうに。自分の痛みよりも、なによりも。アタシの手に残るその罪悪感と痛みを、誰よりも知っていると言わんばかりに両手で包み込んで。
泣きながら笑っていた、あいつの顔が。