Under the Same Sky   作:moco(もこ)

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Operation-4

 

「……ぐあー、煮詰まった」

 

 Pith先生が連れてきた炎系アーツを得意とするエリートオペレーターの見せた数々の術を、自分の術式に応用しようと図書室にこもり、ああでもないこうでもないと考えるうちによくわからなくなってしまった。ペンを取り落としてどかりと背もたれに身を預けながら嘆息する。ノートを閉じながら、ふと隣に置いてあった本に手を伸ばした。

 

 自分の生まれた時間から自身の運命を予見する占い。そういえば、自分のことを占ったことはなかったなと気分転換に自分が生まれた日について調べていると、ぬっと頭上から手が伸びた。

 

「これがオメーが生まれた日か?」

 

 本を取り上げられ、あ、という間もなく、ニェンはアタシの頭に顎をのせてぱらとそれをめくった。

 

 最初に出会ったときも、ものの数秒で炎国語からヴィクトリア語に切り替えてアタシと対話をしてきたし、きっと言語の違いなどこいつにとってはさしたる問題ではないんだろう。

 興味なさげにさらりとそれに目を通したニェンが、へぇ、と呟く。無言で取り返そうと手を伸ばすと、またかわされた。

 

「……おい」

「なるほどな、丙辰(ひのえたつ)の子か」

「ひ……なんだって?」

火性(ひしょう)の陽、天上の火、太陽の子供らよ。しかも火生土(かしょうど)かよ、道理で私と相性がいいわけだ」

「火生土?」

陰陽五行(いんようごぎょう)相生相克(そうせいそうこく)、ものが燃えれば後に灰が残り、灰は土へと還る。木火土金水(もっかどこんすい)、これらが循環することで万物が形成され、この世となる」

 

 ようやっと体を起こしたニェンが、指先でくるりと円を描く。それを目線だけで追い、ぶっきらぼうに問いかけた。

 

「……なにが言いたいんだよ」

「褒めてんだよ、オマエは生まれから美しいってな」

 

 指先に小さな炎を灯して弄びながら、そんなこっぱずかしいことをさらりと言うニェンに思わず閉口する。こいつ、こういうところあるよな。恥ずかしくないのかよと問えば、きっと自分が大好きなこいつはなにを恥ずかしがることがあるんだよ? とでも余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)で返すだろうことは目に見えているので、むすりと黙り込んだ。

 

「しっかし大変だな、丙辰(ひのえたつ)で双子とは」

「なんでそこでハイビスが出るんだ」

「二人とも負けず嫌いで些細なことでも衝突、いつもどっちが上かで揉めている。どうだ、当たってんじゃねぇか?」

「当たってるもなにも、知ってること言ってるだけだろ。大体双子に姉も妹もないだろ」

「ほらな?」

「ぐっ」

 

 本を返しながらニヤニヤしているニェンに対して、口ではどうせ勝てないことを知っているので黙ると、しょうがねーなーと奴が得意げに口を開いた。

 

「お姉ちゃんを立ててやるのも妹の務めだぞ?」

「そうかよ。お前の妹は可哀そうに」

「なに言ってんだ、妹なんてのは皆お姉ちゃんが大好きって決まってんだよ」

 

 その言葉に思わず渋面をつくる。

 

「ありえない」

「ハイビスカスも大変だよなぁ?」

「ハイビスの肩持つっていうなら、今日の火鍋はなしだ」

「拗ねるな拗ねるな、私の可愛いラヴァちゃんよ」

「ぶっ飛ばすぞ」

「その日が来るのを楽しみにしてるさ。せめて上背くらいは私を越えてほしいもんだ」

 

 ぽんぽんと頭を叩いて資料室を後にしようとするニェンの後姿を見つめる。こちらを振り返りもしない、なんだかんだ言いながら後を追ってくることを確信しているといわんばかり。

 

「……背は大して変わんないだろうが!」

 

 悔し紛れに叫ぶと、からからと笑ってニェンが後ろ手を振った。その余裕が気に食わないんだ。他にも待っている人もいるから、と自分に言い訳をしつつ、本をかたして慌ててその後を追うのだった。

 

 

「ほら、手から簡単に滑り落ちないアーツユニットだ」

 

 予想していたものよりも遥かにごついものが出てきて面食らう。

 腕に固定するタイプの杖。いや、その黒々としたメタルボディといい、デザインといい、取っ手を握ればまるでラテラーノの銃のようだった。

 手から落ちないように手首で固定できるような杖という曖昧な注文に、まさかこんなにイカすデザインで仕上げてくるとは。ただ実用面でひとつ物申しておきたくて、口を開いた。

 

「確かにこれなら落とさないかもしれないけど……ちょっと、邪魔じゃないか?」

「ああ、そう言うと思って」

 

 予想していたとばかりにヴァルカンさんが取っ手部分を弄ると、微かな機械音と共に杖が腕輪部分へと収納されていく。その様子に思わず目を輝かせて感嘆の声を漏らした。

 

「おぉ!」

「この状態でもアーツは使えなくはないが、源石回路が伸長している場合よりも簡易的なものになるから複雑なアーツは使えないぞ」

「どういう仕組みなんだ、これ」

「収納されると源石回路部分が折り重なってひとつの簡易回路になるように調整した」

「さっすがヴァルカンさん、最高にクールだ!!」

「気に入ってもらえたのなら鍛冶師冥利に尽きるというものだな」

 

 腕を動かしてみて確認する。思ったよりは重くはない。自分でも操作してみてヌルヌル動くそれに感動している隣で、

 

「一番気を使ったのが重量。外装をスリム化し、なおかつ任務中の行動に耐えられるだけの強度を保つために熱処理を──」

 

 とスラスラと今回のアーツユニットについてヴァルカンさんが語る。半分以上は何を言っているのかはわからなかったが、どうやら彼女的にも改心の出来だったようで何よりだ。

 

「あとは色」

「色?」

「最近服装を変えただろ? 色も黒で統一した方がいいかと思ったんだが」

「ヴァルカンさん……」

「ダメだったか?」

「最高。なぁ、これ今から試してもいいか?」

「ああ。気になることがあったらいつでも言ってくれ、調整する」

「わかった、っと、源石回路の図面、もらっていい?」

「ほら」

「サンキュ」

 

 明日は医療班が感染者の難民キャンプに赴いて、基本的な検診と投薬を無償で行うことになっている。ハイビスもそれに参加するし、積み重ねてきた実績も評価されて、行動予備隊A1を含めた複数の班が今回の任務での護衛を担当することになっていた。滅多なことはないって言ってたけど、それでも油断はならない。

 

「あれ、これって」

「基本的な回路は本をベースにして、負荷がかかったときに別の回路に切り替わるようにしてみた。これなら今までより大出力でも耐えられるんじゃないかと思って」

「なるほど……これがこうなって……ああ、そういうことか」

「わかるのか?」

「今アーツユニットのエネルギー効率に関する論文読んでるから、少しだけ」

「なるほど。今度私が武器を作製する際に参考にしている基本的な回路構造についてまとめた本を貸そうか?」

「いいのか!?」

「うん、基本パターンをいくつか覚えておくと応用も利く」

 

 また二人で脱線していると、扉を叩く音と共に誰かが入ってきた。視線を上げると、呆れた顔のフェンがそこにいた。

 

「やっぱりここにいた。あと十分でミーティング始まるよ」

「い!? もうそんな時間か!?」

「ほらほら、とりあえず荷物はそこに置いて。遅れると首が飛ぶよ」

「物理的にだよなそれ!?」

 

 パンパンと手を叩いて急かすフェンに、慌てて後で取りに来ます! とその場に図面やらなんやらを乱雑にまとめてヴァルカンさんに頭を下げ、その場を飛び出す。その後ろを駆け足でついてくるフェンに思わず文句を言った。

 

「なんでこんなギリギリに呼びに来るんだよ!」

「いや、そろそろ時間の管理くらい自分でしてよ……」

「集中すると時間が飛ぶんだよ!」

「知ってるけどね」

 

 勝手知ったるロドスの地上型艦船内部。ここ数年で覚えたショートカットを駆使して時間を短縮しながらちらりと腕時計を見やる。よし、一分前には着く。

 

「ラヴァ」

「なんだよ、喋ってると舌噛むぞ」

「ラヴァは凄いね」

 

 その言葉に思わず振り返ってまじまじとフェンの顔を見る。すると、フェンが笑って口を開いた。

 

「近くで見てると、本当にラヴァのアーツがどんどん成長してるのがわかる。私には、才能がなかったから。純粋に尊敬するなって」

 

 その言葉に、自然にお互いの足が止まった。ちょっと困ったような顔をしていたフェンを軽く小突いてやる。

 

「いたっ」

「それは隊長であるお前が好き勝手やれる環境を整えてくれてるからこそだろ」

 

 思ってもみなかったのか、きょとんとしているフェンに呆れてため息をついた。

 

「大体な、地形を選ばずに優位な位置取りができる脚力だとか、ドーベルマン教官が認める槍術だとかを持っといてなに不安になってんだよ?」

「……不安、なのかな。ラヴァが褒めるなんて、珍しいね」

「ふん。ま、せっかちなのはたまにキズだけどな」

「うっ。そ、それを言ったらラヴァは不規則な生活と睡眠不足がたたってか、ハイビスと差が出てきてるじゃない、背丈」

「誰がチビだ!」

「それは言ってな──」

「あー!! まずい、このままだと五秒遅刻だ! 走れフェン!」

 

 こんなところで無駄話している暇はないんだったと再度駆け出す。

 

「フェン!」

 

 そして、駆け出す際に振り返り、大声を張り上げる。

 

「チームだとかは面倒くさいけど、お前はよくやってるよ!」

 

 言い逃げに近い形でそう言って走り出すと、しばらくしてフェンが追いついてきた。その顔は少しだけすっきりしたようなものに見えた。

 

「ありがとう!」

「待て、加速するな置いてくな!」

「おかげで元気出たよ、お先」

「裏切者! ドロップキックは嫌だぁああああ!!!」

 

 行動予備隊A1の中で死神の鎌とひそかに名づけられているドーベルマン教官の必殺の一撃を思い出して、身を震わせながらありったけの力を脚に込める。

 

 結局、アタシだけ一秒遅れてドロップキックをくらった。この世は理不尽だ。

 

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