この男には裏がある   作:死滅回遊魚のソテー

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 ハイパー見切り発車です。優しく見守ってください。


二面相

 

 

 

「おはよう彼方くん!」

「おはよう伊地知さん」

 

 隣の席の少女から挨拶を受け、爽やかな声で返す。

 彼の名は彼方琳(おちかた りん)。容姿端麗、文武両道に加え学校中では知らない人間はいないという程に人望がある。その容姿や人柄の良さから好意を寄せている女子生徒も多い。

 また教師からの評価も非常に良く、次期生徒会長は彼以外にいないと皆口を揃えて言う。俗に言う優等生というやつだ。

 

「今日は山田さんと一緒じゃないのかい?」

「何回も電話したのに出ないし、流石に遅刻しちゃうから置いてきちゃったよ〜」

 

 そう言うと息を整えるようにため息をついて黄色い髪を片側に纏めた伊地知虹夏は席に座る。彼女は誰に対しても優しく男女問わず人気がある。

 

「まぁでも山田さんは伊地知さんに頼りすぎなところはあるよね」

「彼方くんもそう思う?やっぱりもっと厳しくしたほうがいいかな〜」

「そうしたら彼女泣きだしそうだね」

「確かに・・・想像しやすいかも」

 

 ホームルームの前に軽く雑談をする。これが彼らの日常だ。

 いつもは虹夏の親友である山田リョウもここに混ざっているはずなのだが開始1分前になっても来る気配がしない。

 そうこうしないうちにチャイムが鳴り担任の先生が入ってくる。

 

「じゃあホームルーム始めるぞ〜」

 

 先生が出席を確認していると教室の後ろの引き戸が勢いよく開く。そこには先程の虹夏とは比較にならないほどに息を切らしたリョウが立っていた。

 

「セ、セーフ」

「セーフじゃない、遅刻だ山田」

「えっ」

 

 頑張って走ってきたのに、と小声で呟きながらトボトボと席に座る。よほど急いできたのか今にも息絶えそうだった。

 

「そんじゃ、全員揃ったしホームルーム始めるぞ」

 

 リョウが遅刻することを除けばこれがいつも通りの学校生活の始まりだ。

 授業を受けて友達と話して帰る。そんなありきたりな生活が今日も始まる。

 

 

〜〜〜

 

 

 時は過ぎて放課後。

 ある者は部活に励み、ある者はバイトに向かい、ある者は課外活動のために帰宅する。

 

「彼方くん、この仕事も頼める?」

「大丈夫ですよ」

 

「彼方先輩、あの、相談したいことがあるんですけど・・・」

「問題ないよ、話してごらん」

 

「いつも頼んで悪いな彼方。お前が居てすごく助かってるよ」

「いえいえ気にしないでください」

 

 一方の彼方は生徒会の仕事や学級委員長としての役割、その他諸々などで放課後は一般の生徒に比べて忙しい。部活には所属していないものの人望がある故に多くの仕事を任されているため放課後の時間はほとんどそれらの業務に費やす。一般の人からすれば考えられない仕事量だがそれらを嫌な顔ひとつしないで行うのも彼の評価が高い理由の一つだ。

 

「お疲れ様、色々大変だったね」

「伊地知さんが手伝ってくれたおかげでいつもより早く終わったよ。ありがとう」

「いつもこんなに仕事してるの?」

「そうだね。困ってる人は放って置けないし、放課後は時間があるからね」

「だからってこんなに働いてたらいつか倒れちゃうよ・・・忙しかったら言ってね、いつでも手伝ってあげるから!」

「ありがとう、でも伊地知さんもバイトがあるだろうし気持ちだけ受け取らせてもらうよ」

 

 今日は虹夏も時間があったため彼方の仕事に同行していたがその仕事量の多さに驚いていた。これは彼方以外の人間から見れば1人の高校生が行えるタスク量ではないことは確かだった。

 

「そういえば今日は珍しく遅くまで残ってるんだね」

「リョウが先生に呼ばれちゃったて、それを待ってるんだけど・・・」

「またテストの点数が悪かったのかい?」

「聞いてよ!せっかく勉強教えてあげたのにほとんど赤点だったんだよ!」

 

 山田リョウという女は一見何を考えているかわからないミステリアスな女の子に見えるがそれは大間違いである。

 本来の彼女は脳みそが小さいため基本一つのことしかまともに行えない。受験期は勉強に本腰を入れていたがそのせいでベースの弾き方を忘れてしまうほどである。

 

「それは災難だったね」

「良かったらなんだけどさ、彼方くんもリョウに勉強教えてくれない?」

「それくらいなら構わないよ」

「ほんとに!?学年トップの彼方くんが手伝ってくれるならすごく心強いよ!」

 

 虹夏は太陽にも負けないくらいの眩しい笑顔を彼方に向ける。

 それからは誰もいない教室で世間話をしながらリョウが来るまで時間を潰す。

 

 

 


 

 

 「あ゛ぁ゛〜」

 

 日が落ち暗黒に包まれた人気のない喫煙所にこの世の者とは思えない呻き声が鳴り響く。その正体は片手に火のついたタバコを持ち、昼間のような優等生の面影が微塵もない彼方だった。

 これが彼の本来の姿というのが一番近しい表現だろう。

 

 彼が煙草を始めたのは去年の夏のことだった。両親、学校、世間からの期待によるプレッシャーに押しつぶされそうになり、精神が病みかけた時に少し歳の離れた友人から「吸ってみるか?」と提案され試しに吸って以来どっぷりとはまってしまっている。

 このことを知っているのは片手で収まるほどの人数しかいない。半年間この生活を続けているが平均より高い身長と大人っぽい顔立ちも相まって他人から見れば社会人にしか見えないため私服を着ていればまずバレない。

 そのため今の所はトラブル無くいつも通りに生活できている。

 

「あ、やっぱりいた」

 

 基本誰も通らない謂わば秘境のような所で突然声をかけられ咄嗟にタバコに火を消してしまう。

 しかし声の主は彼方の裏の顔を知っている数少ない人物である本日遅刻をかました虹夏の親友のリョウだった。

 

「来る時は連絡入れろって言ったろ、焦って消しちまったじゃねぇか」

「驚く彼方が面白くてつい」

「ついじゃねぇだろ・・・ったく」

 

 隣にリョウが座るのを尻目に再び箱から新しいタバコを取り出し再び火をつけ、紫煙を喫んで吐き出す。

 この時の彼方は口調も変わり、声も昼間の爽やかさとは真反対とも言ってもいいほどの威圧的な雰囲気を出している。

 

「そんなにバレるのが嫌ならやめればいいのに」

「タバコがないともうやってらんない体になっちまったんだよ。ああ見えて優等生を演じるのは結構疲れるんだぜ」

「なら優等生(そっち)をやめてみたら?」

「いきなり学校一の優等生が煙草吸ってましたなんて、大騒ぎになるぞ」

「それ自分で言うんだ」

「事実だろ、今までの俺の功績を舐めんな」

 

 彼方がこれまで積み上げてきた人望は側から見てもとてつもないものであり、唯一無二と言っても過言ではない。

 今まで確立してきた地位を捨てるという選択肢も一時期考えていたがこれまでの実績を今更溝に捨てるのは非常に惜しいためストレスは溜まってしまうが高校を卒業するまでは仕方なく優等生を演じる道を選んだ。

 

「そういやお前の出来が悪いから次のテストお前に教えることになりそうなんだが」

「虹夏から聞いた。なんで私が彼方から教えてもらわなきゃいけないの?」

「そらこっちのセリフだ、なんでお前に勉強教えなきゃいけないんだよ」

「こんな美少女と一緒にいられる時間が増えるんだぞ、泣いて喜びたまえ」

「お前じゃなくて虹夏さんに会えるのは嬉しいけどな」

 

 彼方にとって虹夏は優等生を演じ続けるにあたってモチベーションとなる存在だ。

 だがそこに恋愛感情は無く、単に彼女の母性の様な優しさと天使のような笑顔に癒されているだけだ。

 例えるならばアイドルを推す様な感覚だろう。

 

「彼方って虹夏に対しては甘いよね」

「当たり前だ。あの大天使は別枠だろ」

「好きなの?」

「いや別にそういうわけじゃない。つか好意があったとしてもこんな猫被りの腹黒優等生より虹夏さんにはもっと良い人がいるだろ」

「ふーん」

「聞いといてどうでもいいような顔すんな、ぶっ飛ばすぞ」

 

 吸い殻を灰皿に押し付け火を消す。時計を確認すると21時を回っていた。彼方はまだ晩飯を食べていなかったため腹の虫が小さく鳴く。

 

「今日はお開きだな」

「そうだね」

 

 彼方が帰路に向かうために歩き始めようとするとリョウに肩を掴まれる。

 その理由はわからなかったがとりあえず彼女の方を向く。

 

「お金ないからご飯奢って」

「は?お前この前給料入ったって言ってたじゃねぇか」

「・・・もう無い」

「一応聞いといてやる、何を買いやがった」

「古着と欲しかったアンプ」

 

 彼女は金遣いが非常に荒く常日頃金欠である。そのためか虹夏がリョウのために弁当を作って来る時があったり、その救済がない日は草を食べている時もある。

 

「今日も草しか食べてないからお願い!」

「自業自得だ、反省しろ」

 

 そう言い残して帰ろうとするとリョウはスマホの画面をこちらに見せる様に持ち勝ちを確信した様な顔をしていた。

 

「この画像を虹夏に送って欲しくなければ今すぐ美味しい店に連れてって」

 

 そこに映し出されていたのは彼方がタバコを吸っている写真だった。

 虹夏にこの姿がバレて幻滅されることを恐れている彼方には最強と言っていいほどの交渉材料だ。

 

「ちっ、奢りゃいんだろ」

「わかればよろし痛い痛い」

 

 勝ち誇ったリョウに苛立ちを覚え本気のアイアンクローを決める。ため息をつき仕方なくリョウを連れて店を目指す。

 ちなみにこういった流れは何度も経験している。

 

「あ、そういえば虹夏からこれ預かってたんだ」

 

 そういうとリョウはポケットからチケットを一枚取り出して彼方に渡す。それはライブハウスに入るためのものであった。

 

「虹夏さんバンド組んだの?」

「そう、私と虹夏とあと音信不通のギターボーカル」

「すでに穏やかじゃないんだが・・・まぁ楽しみだな」

 

 チケットを財布にしまいリョウと肩を並べて繁華街へと向かう。

 これもまた彼方の日常の一つだ。

 

 





 虹夏ヒロインの小説が増えて嬉しい所存です。
 僕は喜多ちゃん推しですけど。
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