優木せつ菜ガチ勢   作:桜井ナナヲ

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追記: 待ち合わせ場所を東京テレポート駅から虹ヶ咲学園駅に変更。(果林が寮生だった事を失念していたため)


#6 果林

夢を見ている。

まだ二桁の齢にも到達していない男女が、楽しそうに遊んでいる。

少年は楽器を弾き、少女は少年を見てすごい、すごいと褒めちぎる。

小さな音楽会に夢中になっていた二人を呼ぶ声。

はーい、なんて楽しそうに返事をする二人。それはとても仲睦まじく、手を繋いで駆け出していった。

 

あぁ、これは昔の俺と─────

 

「菜々…」

 

と、そこで目が覚める。

 

随分と懐かしい夢を見た。

まだ二人が小学生だった頃、よく演奏しては菜々に聞かせてたなぁ。別にそれ以降弾かなくなったという訳ではないのだけれど、なんだか懐かしい。その後に母親の買ってきたケーキを二人でよく食べてたっけ。

 

枕元に置いてあるスマホを見る。曜日は日曜、時刻は午前7時を表示している。

今日は少し用事があるが、友人との待ち合わせは駅に9時なので少し余裕がある。

 

中川菜々が優木せつ菜としてスクールアイドルに復帰して、あれから既に一週間ほど。以前のようによく笑うようになった菜々。彼女が笑ってくれるだけで生きる活力が湧いてくる。それどころか、死すら乗り越えられそうな程だ。

そんな事を考えながら身支度を整える。

 

無駄に手際の良い朝食の準備を済ませながら、昔を懐かしむ。

昔からお互いの両親が仕事で帰宅が遅くなる事が多く家も隣同士だったため、よく二人で夕飯を囲んでいた。最初は上手に出来なかった料理も、菜々の喜ぶ顔を見れるならと思い必死に練習した。好物の唐揚げなんかは特に。

 

「懐かしいな」

 

なんだかノスタルジックな気分になってきた。

こんな朝っぱらからそんな気分になってたら夜には悟ってそうだな、なんて一人でツっこむ。

なんだかんだ思い起こしていると、身支度も終盤。

軽く鏡の前で髪の毛を整え、玄関で靴を履く。

扉を開けて振り返り、誰もいない部屋にいってきますをする。

いってらしゃい。

なんだか、遠い記憶が返事をしてくれているような気がした。

 

 

 

 

時刻は8時40分、待ち合わせ場所の虹ヶ咲学園駅。少し早すぎたか、なんて考えていると、すぐに待ち人は現れた。

 

「おはよう。待たせてしまったかしら?」

 

「ん、いや。待ってないよ」

 

現れたのは朝香果林、俺の仕事仲間。

一口に仕事仲間といっても、俺と彼女じゃ大きな差があるのだが。共に被写体ではあっても彼女は売れっ子、こちらは不定期のアルバイトレベルというように。

 

「それにしても随分と早いのね。待ち合わせ20分前に居るなんて」

 

「俺には迷子のお姫様を送り届ける仕事があるからね」

 

「ま、迷子なんてならないわよ…」

 

そう、朝香果林は重度の方向音痴なのである。

それは地図無しで目的地に辿り着けないどころか、ほぼ毎日通うニジガク内ですら迷うほど。まぁニジガクは広いので迷うのも仕方ないといえば仕方ないのかもしれないが。

 

「ま、冗談はこれくらいにしておいて」

 

「え、えぇ。そうね…早く行きましょう」

 

目的地は恵比寿、電車では乗り換え無しの数駅程度。しかし、彼女はそれですら到達できない可能性があるので、あながち冗談でもなかったりした。

 

ホームで待つこと数分。時刻表通りに来た列車に乗り込む。

と、そこで彼女は口を開く。

 

「そういえば私、スクールアイドルを始めることにしたの」

 

「君が…?」

 

「あら、せつ菜から聞いてないの?」

 

初耳だった。

 

「ふぅん…?なかなか彼女も可愛いところがあるのね」

 

「彼女?せつ菜のことか?」

 

「えぇ」

 

朝香さんは少し含んだように笑いながら言う。

 

「そりゃあせつ菜は可愛いに決まってるだろ」

 

「あなた…本当に彼女の事になると盲目なのね」

 

呆れたような顔をする。

 

「なんでかしらね。せつ菜って、何故かついからかってみたくなるのよ」

 

今度はイタズラっ子のような表情。

それからはスクールアイドルについての話をした。菜々以外とスクールアイドルの話をするのは初めてで、なんだか新鮮だった。

 

そういえば、今日の彼女はなんだか表情が豊かな気がする。それもスクールアイドルを始めた影響なのかもしれない。

 

「朝香さん、なんだか楽しそうだね」

 

「えぇ。これもスクールアイドルを始めたお陰かしら。意外と新しい発見ってあるものね」

 

ズバリ的中したらしい。

あぁ、そうそう、なんて彼女は思い出したように言う。

 

「あなた、私の事を『朝香さん』って呼ぶじゃない?そろそろ『果林』って呼んでくれてもいいんじゃないかしら?」

 

「あぁ、そういえばそうだったね」

 

人の呼び方、なんて特に考えた事が無かった。菜々は気づいた頃にはそう呼んでたし、エマに関しては海外では一般的にファーストネームを呼ぶ文化があるからそうなった。他の人達は基本的に苗字に敬称だ。

 

「私だけ下の名前で呼ぶのも変じゃない?それに私も友人は大切にしたいのよ」

 

ふむ。なんだか呼んでほしいようだしそうするとしよう。

 

「果林」

 

「っ、あら。案外恥ずかしがらないのね」

 

「あぁ。人をどう呼ぶかなんて勝手だからね」

 

「そういうものかしら」

 

「そういうものさ」

 

「ふぅん?」

 

なんて会話をしていると、目的地を告げるアナウンスが鳴る。

 

「さ、行こうか果林。パッと行ってパッと終わらせて帰ろう」

 

「えぇ、そうね」

 

電車から降りる。

 

なんだか仲が深まった、そんな気がした。

 




観月リオ
・数少ない気を許せる間柄である果林の事は結構好き。

朝香果林
・せつ菜をからかう事が最近楽しい。
・リオ以外に異性の友人は殆どいない。

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