魔法少女アズミ2×才-世界を救ったのに出世できません- 作:小魔神
着けていた魔装具はボロボロに。右腕はもう上がらない。脚はまだ付いているのかどうか。それでも左手は動く、ステッキも辛うじて折れてはいない。
だったらやれる。ようやく訪れた絶好のチャンス、ここを逃してなるものか!
「…はぁ、はぁ。フゥー」
息を整えろ、全ての魔力をこの一撃に込める。
「さぁ、これが私たちの正真正銘最後の一撃! 爆ぜろ、そして砕け散れ」
名一杯の力を込めてステッキを振り下ろす。
刹那、視界一杯に広がる眩い光。そして聞こえる空全体が崩れ落ちたのかと錯覚するようなとてつもない轟音。
そして視界が開けたとき、私の口から歓喜の言葉が零れる。
「やった、やったんだ」
目の前には完全に原型をとどめていない黒い影。それが霧散するのを見届ける。
全てが終わったことを理解した私の脳裏にはかつての戦友たちの姿が浮かんでくる。
「ツバサ、ユウ、アイ・・・そしてエル」
ようやく普通に戻れるんだ。
☆☆☆☆☆☆
「こうして私は世界を救ったってわけ」
「先生、すごーい」
「何回聞いても、かっこいい」
私の名前は生従愛純(おきよりあずみ)2?歳。十年ほど前に世界を救った英雄様だ。もっとも今では全盛期の力はないので、こうして後進の育成に励んでいる。
今の悩みは、未だに現場に駆り出されること。正直、この年でまだ前線で戦ってるの私だけなんですけど。
「でも先生、よくそんな相手と戦って勝てたね」
「確かに。すっごく強かったんでしょ?」
後進といっても、今の私が担当しているのはこの2人だけ。
左のちっこいのがマナで。右のちっこいのがミク。当たり前だけどどっちも偽名だ。
世間にとって私たちは浮いている。何かを解決すれば称賛されるが、逆に何かヘマをしてしまった時の非難のされようったらない。それを少しでも軽減するための偽名だ。もっとも、私が現役の時はそんな配慮は無かったので思いっきり本名で呼び合っていたけれど。
そのせいで、私の個人情報なんか特定されてるし。まぁ、ずっとこの施設で働いているうえに、外部と連絡も取り合っていないから弊害はあまりないんだけど。
「色々あったのよ。あなた達もしっかりトレーニングを積んで一人前になれば勝てるようになるわ」
この2人なら大丈夫! なんて言ってもこの私が選び抜いた2人だし、今に出世して私に恩返しをしてくれるはず。今までの教え子の中にも出世した子はいたけど、みんなどういうわけか、私を前線に引っ張り出そうとするし。
もう私は戦うのはこりごり、大体今の私なんて、もはや一線級でも何でもないのに。
「勝てるかなぁ」
「心配しなくてもマナカのことは私が守ってあげるよ」
「ミクが守ってくれるなら安心だね」
「さぁ、休憩はおしまい。トレーニングに戻りなさい」
今日のトレーニングは長距離走。魔法使いはこういう基礎的なトレーニングをおろそかにして魔法ばかりに注力する傾向がある。
だけど今の時代、魔装具の性能も以前に比べて格段に進化している。昔は個々人の資質に左右された魔法も、各々に調整された魔装具を身に着けることで、ある程度のレベルまでは能力を引き出してくれる。だから魔法を伸ばす必要性はそこまで無い。高レベルの魔法は一部の特別な子たちに任せてしまえばいいからだ。
ただ、魔装具は一度着けると換装が難しい。各々にチューニングされているせいで他の魔装具を着ければ拒否反応が出てしまう。輸血みたいなものだと思ってもらえればいい。
そのせいで色々な弊害が出てしまう。魔装具の換装ができないというのは、つまり更新ができないことに他ならない。私たちの力量は各々の能力にも依るけど、基本的には魔装具の性能に左右される。そして、魔装具の性能は日夜向上しているわけだ。つまり、ベテランになればなるほど相対的に力が落ちていく。
私たちの多くは、10代前半から後半にかけて魔装具をつけ始める。その方が適合しやすいからだ。そしてその多くが5年も経たないうちに、明らかに性能が不足してくる。結果どうなるかって? 基本的にはその時点でお役御免。除隊か後方部隊に下がるわけだ。
中には、膨大な費用をかけたワンオフの魔装具を作成して更新していく人間もいるが、それは特別中の特別、一握りの天才だけだ。
しかも、私たち世代の魔装具に関しては、色々とやばいことをしちゃっているので換装は実施不可能。つまり、この装備で戦い続けるしかない。某国民的RPGでいう呪いの装備だ。まぁ、外すことは普通にできるんだけどね。
目の前の2人の魔装具についてもそれほど高出力のものじゃない。それなら基礎体力や効率的な体の動かし方を身に着けて、継戦能力を高めた方がずっと役に立つ。そうして生き残りさえすれば後は自由。もらったお金で優雅に暮らせるはずだ。
ただ、2人にとっては退屈だとは思う。少なからず魔法というものに憧れはあるはずだろうし。
「はーい」
「また、ランニングかぁ」
「文句言わないの、ミク」
文句を言いつつもしっかりとトレーニングに取り組むのは流石だ。私はサボってよく怒られていたし。そのたびに口うるさく注意してくれた彼女のおかげでこの訓練の重要性は理解できた、ただそんな彼女も今では還らぬ人になってしまったけど。
「駄口叩かない。さっさと走る!」
「ほらいくよ」
「分かったってば」
**************
「はぁー、はぁー」
「おわったぁーー」
長距離走を走り終えた二人が疲労困憊といった様子で私の方に向かってくる。タイムは物足りないけど、とりあえずは合格。
「2人ともお疲れ様。よく頑張ったわね。それじゃあ今日は上がっていいわ」
「あ、ありがとうございます」
「やったー。ほらマナ行くよ」
「ちょっと、待ってよー」
さっきまでの疲労はどこへやら。二人は一目散に引き上げていく。この様子なら、明日からのトレーニングはもう少しハードなものにできそうだ。
「で、あなたはいつそこから出てくるの?」
「流石です、アズミ先生」
現れたのはリン、私の教え子の二期生に当たる。もっとも今では私の上官で、とてもじゃないが現場に出るようなことはない。だからリンという名前も今では使っていないんだけど、彼女をリンと呼んでしまうのは、彼女がリンであった時に多くの時間を過ごしたから。あとは単純に彼女の本名を覚えていないんだよね。
本当は彼女が出世した段階で、名前だけの役職をもらって隠居生活をしたかったんだけど、困ったことにリンはそこら辺を察してくれない。私から言いだすのもいやらしい話だし。
「よしてよ、今じゃあなたの方が出世しているじゃない。で、要件は?」
「先生にしごかれたことを思い出せば、失礼なことは言えませんよ。まぁそれはさておき。実はですね明日うちに有名な政治家の方がいらっしゃるようで、ぜひ先生にも同席して欲しいと先方から要望がありまして」
政治家! これはチャンスだ。私を直接指名するということは、少なからず私に好意を抱いているはず。ぜひ、お近づきになって現場から遠ざけてもらいたい。
「いいわよ」
「非常に申し訳ないんですけど、っていいんですか?」
「そう言っているじゃない」
なんだったらメディアに取り上げてもらったりもしたい、そさてちやほやされたい!
いや、いっそ本なんか書いてもいいかもしれない。印税でがっぽり稼ぐのも夢じゃない。なんたって、世界を救っているわけだし私。
大体この十年、そういう話の一つや二つ私に来ないことがおかしい。もっと称えられてもいいくらいの仕事はしたはずなのに。
「ありがとうございますアズミ先生。これで私も大手を振って上司に報告できます」
「上司って、ユキのこと?」
ユキ。かつてあの時代、背中を預け合って戦った戦友の一人。ただ、彼女は割と早い段階で負傷離脱となってしまったので最後の決戦には参加していない。それでも、彼女も戦いを終結に導いた仲間だ。
「その名前で呼ぶのは先生くらいしかいませんけどね」
「数少ない同じ時代の生き残りだからね。まぁ、あの性悪の下っていうのも大変でしょうけど頑張りなさいね」
私も散々な目に合ったから、辛いのは分かるよリン。酷いときなんて、負傷した私を囮にするために魔装具を破壊されたこともあったっけ。まぁ、あの時は私が一番助かる見込みが無かったわけだし、しょうがない。
それよりも許せないのは、ちゃっかりと私よりも出世していることだ。いや、百歩譲ってそれもいい。でも、私も出世させてくれてもいいじゃない。数少ない生き残りの仲間なんだかし。
「フフ、ありがとうございます。先生もお元気そうで何よりです。では失礼します」
**************
「というわけで先生はご参加いただけるようです」
「は? 本当にアズミの奴が参加するの?」
「そう申しあげましたが」
「あの戦闘狂が参加するなんて意外ね」
「正直、私も意外でした。戦うこと以外、興味のなさそうな先生ですから」
「まぁ、アズミも礼儀知らずってわけでは無いから問題ないでしょうけど」
「けど、なんですか?」
「本音を言うとアズミには参加してほしくないのよね。色々と面倒なことになるのが分かってるから」
「だったら、こちらで断っておけばよかったじゃないですか」
「そうもいかないのよ。個人的にアズミには誠実でいたいの私。それにどうせ断ると思っていたし」
「はぁ、なるほど。まぁ私もそう思いますよ」
「私ってアズミに頭上がらないのよね。過去に負い目もあるし、何より世界を救ってもらっている恩義がある。はぁ、頭が痛い。とりあえず明日の段取を考えないと」
「心中、お察しします」
「あんたもやるのよ!」