とっぷ・おぶ・そろ!   作:がんがんがん

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ぼざろの世界に怪物を放り込みます。


1.孤高の天才。

 なんとなく世界の理不尽さを知ったのは、14歳の冬、母の葬式でのことだった。

 女手一つで育ててくれた母は私の目の前で眠るように亡くなった。

 父は、私を育てる中で過労によって物心つく前に亡くなってしまった。肉親を無くした私の心にはぽっかりと穴が開いてしまった。

 

 母から聞いた話だが、父は出会ったころは音楽で生きていこうと夢見る人だったそうだ。ただ、その才能には恵まれず、バイト代をパチンコなどのギャンブルに費やし、何とか活動費に充てていたという。不思議なことに負けることはなかったらしい。

 

 「耳の出来はいい気がするんだ。」

 

 4畳半の奇麗ではあるものの、年季を感じる部屋で母は泣きそうな顔で語ってくれた。ギャンブルにはまっているのではなく、勝つためだけにやるという父のスタイルは幼い私にはよくわからなかった。

 しかし残酷なもので、どんなに耳のいい人でも演奏するのはほかの才能に依存する。そこに恵まれず、止む無く私を授かったことをきっかけに夢をあきらめたそう。自身のけじめとして、楽器までも売り払うつもりだったそうだが母はそれだけは残しておこうと、路上で引いていたアコースティックギターは手元に残しておいたらしい。

 

 私は父のことは全く記憶がないが、耳の良さというのはあながち間違いじゃないと思う。その才能を私は引き継いだ。いつか紛れ込んだパチンコ店で、台の中の釘の配列であたりの設定を見抜いたのだ。そんな才能に加えて、様々な才能を神様は詰め込んだ。まるで父に頼まれたかのように、こと音楽に関しては圧倒的な。

 

 現代における音楽コンテンツの一角には私のハンドルネームが常にあった。単純に母に楽をさせたい一心でフリーソフトを買い与えてくれた中古のPCで書き並べていく。世間に認知されるまでに、3曲の配信を行った。11歳の誕生日を迎える夏には、それだけで遊んで暮らせるだけのお金を得ていたそうだ。環境を整える以外の使い道を私は知らなかったので、それ以外は自由に使ってほしいと母に管理をお願いした。しかし、母は生活に大きな変化は出さなかった。

 当たり前のようにパートに行き、年不相応にしわくちゃな手で毎日ご飯を作ってくれた。ご飯は今までよりもいろんなものを食べさせてくれるようになった。ただ、母は自分のためにはお金を使わなかった。

 

 幼いながらに母を楽にさせたかった私は、高価なものの象徴としてタワマンに母を住ませるということを目標に多くの曲を世に送り出した。それにはしっかりと結果がついてきたし、たくさんの感想を読むこともモチベーションにつながった。

 

 だが、結果として母を楽にさせることはできなかった。タワマンという目標を働かずとも達成できる価格を私が知らず、母の言葉を真に受けて母との思いでいっぱいのボロ部屋で創作を続けた。

 

 泣くこともできず、何もやる気が起きずという状況で、葬式に参列してくれたのは私もよく知る母の友人と、顔も知らない親戚だった。よく家に来て遊んでくれたお姉さんがいてくれたおかげで恙なく式を終えることができた。

 そのお姉さんは母の姉だったそうだ。関係性を気にしたことがなく、母が亡くなってずっとそばにいてくれたその人が、なんとなく母に似ていたのが最後の支えだったのかもしれない。

 お姉さんの支えで母との部屋に帰ってきた際に、渡されていたという母の手紙を受け取った。気を使ってくれたのか、電話がかかってきたふりをしてお姉さんは外に出た。

 

 その手紙には多くの謝罪があった。もっと楽させてあげれなくてごめん。一人にしてごめん。無理に音楽をさせてごめん。お父さんの話をしてあげられなくてごめん。

 ただ、それだけでなくたくさんの感謝もあった。元気でいてくれてありがとう。お父さんが大好きな音楽をはじめてくれてありがとう。こんなに小さいのにお手伝いしてくれてありがとう。

 

 『お母さんはあなたのお金は使えません。お姉ちゃんにおねがいしているからたよってください。これからのあなたの人生に多くの幸せがありますように。』

 

 日頃から私のために自分が無理をする人だった。私を一番に行動してくれる人だった。一緒にいて安心する人だった。

 

 母の死で泣けなかった自分はなんて薄情な人間なのかと思っていたが、スカートが涙でぬれていた。

 

 私は、母が後ろ向きな自分を絶対に応援してくれないと思った。まず生きている間には叶えてあげられなかったタワマンに住ませるという目標を達成するために、新宿で一番大きなタワマンの最上階の一室をお姉さんの力を借りて購入した。そこに父と母の仏壇を用意した。

 父も母も私を育てるために一生懸命働いてくれた。せめていい場所で私を応援してほしいというエゴだ。

 

 音楽活動を高校入学でより本格的に始めるために、高校は入学しない考えだったが、お姉さんに『高校卒業までのお金をお母さんから渡されている』と伝えられた。金額を見たが、私立高校に進学しても払える金額で母のやさしさに涙が止まらなかったものだ。

 

 いろいろ考えたが、タワマン周辺で音楽活動の準備を行うためにも、勉学を疎かにしないためにも進学する公立高校を目標にした。結果として合格し、お姉さんに泣きつかれた。仏壇で隣で大号泣しながら報告する彼女に少しだけびっくりしたものだ。

 たまたまかもしれないが、同じ中学からの生徒はおらず、少しだけ孤独感を感じながら「下北沢高校」に入学した。入学式にお姉さんが参加してくれた。

 

 式が終わってクラス分けされた教室に入ると、前の席にずいぶんと顔の整った短髪の子が眠そうに顔を伏せていた。その前に、金髪長髪の子が起こそうとしている。進学校にもヤンキーがいるのか。

 担任が入ってきてHRが簡単にはじまった。いろんな話があり、自己紹介を軽くやって終わろうという雰囲気になった。

 ふむ、金髪の彼女は伊地知というのか。あまり絡まれないようにしよう。その後ろが山田か、彼女も要注意しよう。

 

 そんなこんなで私の番になった。

 

 「玉置玲音(たまきれのん)です。趣味は音楽を聴くことです。」

 

 この自己紹介で伊地知さんからの視線が強くなるのを感じた。

 

 

 …なんで?

 

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