感謝します。
フラフラのきくりさんに手を引かれて歩き出す。ライブと言っていたが、彼女は生き様同様にバンドをやっているのだろうか。…いや、ほかの音楽での方向性がわからない。
5分ほど歩くと、彼女のいうライブハウス「FOLT」に到着した。どこから出したのかわからないが、紙パックのお酒にストローが刺さっている。
「酒は飲んでも吞まれるな」という言葉は、彼女以上にふさわしい人はいないだろう。
連れられてライブハウスを進むと、お金を数える姿が様になりすぎる男の人がいた。厳つくてちょっと怖い。
「銀ちゃーん!!きーたーよー!」
「あぁ?」
凄まれてるのか、視線が怖い。怖さが格上げされた。
「あーら!かわいいファンだこと!私、
「…あ、玉置玲音です。あと、連れてこられただけで…。」
「そんなこと言わないでー!」
「アンタねぇ…」
呆れたようにこちらを見る吉田さん。きくりさんのこの行動は、割と日常なのかもしれない。
「『SICK HACK』のリハ、もう時間終わったよ」
「だいじょぶだいじょぶ!!志麻が何とかするよ!あ、私のバンドメンバー紹介するね~!」
彼女のホームグラウンドは割と居心地がいいのかもしれない。深く理解しなくとも、どこか理解してくれる相手。それは必ずしも同じ道をたどる必要はないが、目指すものが同じなのはどこか羨ましかった。
控室だろう裏の部屋に彼女のメンバーはいた。
「きくりオソイよ~」
「お前、そろそろ酒を…ん?」
「ま、まぁそんなカッカしないで!今日は私の恩人連れてきました!」
「えと、玉置玲音です。」
「すみません、廣井が迷惑を。私は
「ワタシはイライザ!ヨロシクね!」
…お母さん。意外と類は友を呼ばないようです。
個性の塊のような彼女の周りには、良心が見えるような優し気な人達がいたのだ。割と、補い合ってうまくやれるのかもしれない。
今日ほど感情が二転三転するのは初めてかもしれない。
「いい席で見てよ!!きっと君を満足させてみせるよ!」
「有名なバンドだから、私なんかじゃなくて…」
「君は私なんかよりもずっとすごい。びびっと来たんだ。だから私なんかが君を動かして見せる。」
控室を後にしようとした私にチケットを握らせる力が強くなる。目が合うのに、こちらが見透かされているように視線に吞まれる。
「…来てよかったと、きっと思います。私の勘は鋭いです。」
「いうねぇ!楽しみにしててよ!」
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様々なバンドを見たが、同じようなバンドはなかった。自分たちの個性や強みを発揮できる実力は、素直に尊敬する。今まで作ってきた音楽とは大きく異なる方向性。上手い下手関係なく刺激的だ。
創作する上で、きっかけは大事だ。どんなに才能が有っても、曲を作るのに熱意がなければそもそも完成できない。少なくとも私はそういうタイプだ。
「かっこいい」
同世代だからなのか、学生バンドの印象は強く残る。積み重ねていろんな努力がみられる。厳しい目で見れば、まだまだ拙いかもしれないが魂をぶつける気概というか、迫力を感じる。
もしかして、私がやりたいことはこういうものなのかもしれない。
トリになり、雰囲気が変わる。きくりさんたち、『SICK HACK』の出番だ。バンドという方向性に詳しくないが、音楽に集中すると身体の感覚を奪われるような。のちに知ったが、サイケデリックロックというジャンルは、ドラッグなどの幻覚をロックで再現したものだそうだ。入り込んで聞くと私は飲み込まれてしまう気がする。
周囲を巻き込んで、会場をより盛り上げるきくりさん。彼女たちの魅力は確実に実力の影響もあるが、それ以上に依存性のある音楽を生み続ける創作力が大きいだろう。
「私は…」
雰囲気だけでなく、実力を正確に評価できている自負はある。それだけのものを自分が作ってきた。ただ、この一人善がりを孤独だと自分は思うのか。
「思わない」
自分のやるべきこと。証明するべきことを見つけることができた。きくりさんには感謝だ。
「おっぇ…はぎぞう…」
…尊敬は、別の人に向けよう。
飽きるまではしっかり更新します
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