「失礼しました。お見苦しいところを見せてしまって」
隣でパレオがティッシュケースをもって心配そうに覗き込んでくる。
「大丈夫ですか?キッドさん、あとついでのような形になってしまうのですがご加入おめでとうございます。」
「ああ。ありがとう大丈夫…あとやはりその辺はハッキリさせようか。な、チュチュ」
そして向かい側に座ってグラスに入ったジャーキーを食っているチュチュへと話を振る。
「何の話よ?キッド」
そしてグラスに入っていたジャーキーは姿を消していた。一瞬で食ったのかよ。
「俺はあくまでサポーターでありたい。もちろんアンタらとやるのに不満はないんだが…」
俺hが言いごもるとチュチュは俺ににらみをきかせてくる。
「またそういう言い方をするのね。言いたいことがあるならハッキリ言いなさいよ!私は、Not私たちは本気であなたをスカウトしてる!オーディションのときもそう!それに対してあなたは私たちに本気で向かってこようとしないじゃない!相手の本気には本気で応えなさいよ!」
チュチュの怒りは至極当然なものだった。しかし本気で対してしまえば涙以上に醜く弱い部分が出てしまいそうになる。それがとてもつらい。
「ちょっと待ってチュチュ、キッドの話も聞いてみない?話を聞いたらなぜ私たちに本気にならないのかわかるかもしれないし。ね?キッド」
そうして俺にレイヤは俺に目をやる。俺はそっと目を背ける
「和奏先輩…俺は別にマジになってないわけじゃないですよ。」
「何か言った?というか先輩って?もしかして同じ高校?」
口調は優しいが少し苛立っているのが分かる。というか余計なことまで言ったようだ。
俺は自分に対して溜息をつきRASのメンバーにある一つのことだけを除いてすべてを話すことにした。中学まで『demise』という名前でバンドを組んでいたこと。夢も希望もない名前だな。そしてそこでメインボーカルとギターを担当していたこと。なかなか有名でプロダクションの人からも声がかかったくらいだ。そして…中二のときに一時的に歌えなくなった、いや正確には声が出なくなったこと。医者に見せたところ声帯に異常があることは確かだったがそれだけではないと言われほかの医者に見せたところプロダクションの話や先の見えない将来のことで精神的によるものもあるだろうと言われ無理して歌えば遠からず声が出せなくなると言われたこと。そしてそのことによるバンドの自然消滅したこと。そして歌っている奴を見ると無性に苛立つことがあったこと、無論今は制御できると苦笑交じりに話した。
「「「「・・・。」」」」
みんな黙ってしまった。こんなことを聞かされれば当然といえば当然である。
「ふぅん?話は分かったわ。でもそれが私たちに対して本気にならない理由にはならないんじゃないの?」
…時折前に座るこの小さな女の子の姿がとても大きく見える。錯覚なのだろうがな
「そうだな…それは本当に失礼した。お詫びにもならないんだが俺みたいないい加減なサポートギターではなく心の底から欲しいと思えるギタリストが見つかるまで本気でサポートさせてもらう。これでどうだろうか?」
そう聞いたチュチュはパレオに紙とペンを取らせに行かせて
「Goodそれでいいわ。今言ったことが嘘ではないということを紙に書いてもらえるかしら?あと判子もあればいいわね」
「チュチュ!そこまでする必要があるの!?」
レイヤさんはチュチュに詰め寄る。そしてチュチュは腕を組み
「あらレイヤ、随分とキッドの肩を持つのね。そう思わない?マスキング」
チュチュと同じように腕を組んでマスキングさんは頷き
「そうだな、私もまだこいつのことは信用しきれねえ。もしかしたらまだ何か企んでるかもしれねえしな」
「ますきまで!もう、キッドも反論しなよ」
とレイヤさんは困ったような顔で俺に言い寄る。よくもまぁ他人のことで真摯になれると内心思った。
「まぁ、俺の決意の表明みたいなものですから、そのあたりは二人に賛成ですね。」
俺はそう答えて紙を書き終えて判子を押してチュチュに「これでいいか?」と差し出す。
「OK、じゃあキッドもう一度ブースに入ってオーディションのやり直しよ。本気でやりなさいよ?そうしなければ今後一切ギャラは出さないから。」
それは困る。金質を取られては本気でやらないわけにはいかない。いつかはぶっ潰す対象だとしても、今はこの時間に浸るのも悪くないと思った。そして先ほどよりも本気でギターでチュチュの曲に立ち向かう。チュチュをはじめ他のメンバーは頷きパレオに至っては「少し怖いくらいですね」と言っていたらしい。
そして真のRASのギタリストになるものの気配が近からず遠からず寄ってくるのであった
demise→終焉の意。ここでは木戸尋が率いるバンド名