2163年7月7日 土星某衛星軌道
「諜報部の奴ら、間違ってないんでしょうね?」「ああ、諜報部は確実にこのデブリ雲で確認したと言っている」
土星警備軍陸軍宇宙作戦課のロウ・モーガン少尉とドミトリ・ウィード大尉は現在とある軌道にて目標を探していた。
「しかし今回の目標はたかが海賊の首領でしょうに、なぜ大型艦を投入するんですかねえ」モーガン少尉はウィード大尉に尋ねる「何度も言わせないでくれ…やつは地球火星連と太いパイプを持っている可能性があるんだ、そんなやつをほっといたらこちらにとんでもない損害が出かねん」ウィード大尉は呆れながら答えた。
ここ最近地球火星連合と土星衛星群の対立は激化している、しかしそれは軍事演習だの宙域の侵犯といった目に見える範囲のことだけではない、当たり前だが諜報においても対立は激化している。
実を言うと土星は結構不利だった。月独立戦争、木星戦争、小惑星帯戦役といった戦いで敗北を重ねている地球火星連、正確には地球軍は一見するとあまり強くは思えない、しかしそれはこれらの戦いが比較的初期の宇宙戦争であったことに加えて人体改造すら受けた人間のいる地球外の人類に対し、地球人類は貧弱だった。
だからこそ木星や月は独立できた。それ以降地球軍は諜報や無人化で対応したり人体改造を受け入れることで前の土星での戦争に勝った。それ以降も特に諜報活動に力を入れておりこの方面で言えば地球はトップクラスの力を持っていた。だからこそ土星連合軍は焦っていた、日に日に情報が筒抜けにされているのだから。
「だからといってジョン・ハーシェル(タイタン軍の旗艦)を向かわせるのはいくらなんでも…」「そこまでだ少尉、俺たちは与えられた任務をこなすだけだ、いいな?」少尉は黙ったままだった。
デブリにしがみつきながら漂うデブリを眺めていたら連絡が入った。<こちらジョン・ハーシェル、未確認の飛翔体をレーダーに捉えた、直ちにそちらに迎え>「「了解」」二人は近くに隠していた小型艇に向かった。その時、少尉は発言した「俺、嫌な予感がするんですよ」大尉もどこか同じ気持ちだったらしく「奇遇だな、俺もだ」と返した。
40分後
二人は小型艇から降り、目標の近くに接近しつつあった。「こんなデブリのさまよう中、なんのようでしょうね」「だからこそ俺たちが調べるんだ、モーガン」母艦からの誘導に従いつつ良い感じに身を隠せそうなデブリにしがみつき目標を探した、目標は案外すぐ見つかった、がなにか異様だった。「大尉、目標は小型の商船でしたね?」「そうだ」「あれじゃないですか?」少尉の指差す方向には確かに小型の商船があったしかしこの宙域のデブリの多さを加味しても明らかに船体の傷が多かった。
少尉が発言する「いくら偽装用の傷だとしても多すぎません?」「そうだな、しかも致命弾もあるな」
「こちらウィード大尉、目標を見つけたがなにか異様だ、変化しないうちに調べる必要がある、突入の許可を」<こちらジョン・ハーシェル、了解した…突入を許可する、また武器の使用も許可する>「了解したハーシェル、聞いたな少尉、行くぞ」「了解」こうして二人は目標へと近づいていった
目標はえらく静かだった、たしかに隠密行動ではあるもののそれにしてはえらく静かだった
なんの抵抗も変化もなくエアロックに二人はついたが、問題が発生した「クソっ電源が落ちてやがる」「…吹き飛ばしますか」「えらく頭が回るな少尉、しかしそんなことをしては艦内の空気が抜けるぞ」「そのつもりです、なんか問題が発生したら俺に責任を押し付けてください」「…わかったよ、爆薬を貸せ」
大尉はエアロックに爆薬を取り付け二人は爆薬から距離を取った。「爆破するぞ!」爆薬は小さな光となりエアロックは吹き飛ばされた、がそれだけだった「なっ」「空気がない!?」二人は驚いた基本有事でもない限り艦内に空気はあるものだ、しかしそれはないのである。二人は覚悟した。「何があっても驚くなよ」少尉はうなずいた。
大尉から船内に入っていった。船内はごく一般的な商船のものだった。しかし壁や床は異常だった。あちこちに血痕や弾痕が見受けられ、死体がそこらを浮いていた。「見えるかハーシェル、後で解析を頼むぞ」<了解した大尉>二人は死体をどかしながら進んでいった磁力靴の足音に時たま異音が入るのが不気味だった。「少尉、死体を見て思ったことはないか」「いきなりなんですか」「連中の傷を見て思うところはないか?」「…」少尉は注意深く死体を観察しつつ通路を進む。足に3箇所の弾痕があったり、明らかに即死するところにあったりとまばらだった。「…他の海賊から恨みでも買われたんじゃないですかね」「…今のところはそうだな」少尉としては早くこの場から早く去りたかった、なぜならこの任務が実質初めてだったからだ。土星軍の質は残念ながら低い、そもそもいくら質が高がろうとも、PTSDになる場合もあるのだ。それが現状名目上は、警備、治安維持中心の軍隊の兵士には負荷は高かった。最も大尉のような実戦をくぐり抜けた兵士は別として。
死体は実にその時の惨状を表現しているかのようだった。
殺意を目に宿したまま死んだ者、苦痛に表情を歪めている者。最期に家族のことでも思ったのだろうか悲しい目をしている死体…実に様々だった。ここまで来ると死体ながら気持ち悪さよりも悲しさが沸き起こってくる。
そんな感情に押し負けそうになっている時大尉が発言した「少尉…気づいたか」「…!、何にです?」「コイツらをよく見ろ」少尉は死体たちを観察する。「…特には何もなさそうですが」「コイツらすべて急所を撃たれてる」「そりゃ当たり前でしょう」「入り口の奴らを思い出してもか?」少尉ははっとした。
入り口の時は海賊がやったのと思っていた、しかしここの、司令室近くの死体を見ればそれは間違いだと言うことに気付かされる。なぜなら死体すべてが急所に一発食らっただけなのである。
「大尉…!」「これは相当まずいことに手を突っ込んでいるのかもな」二人は察した、この惨劇の裏には土星以外の組織が暗躍していることにほかならなかった。「司令室まで急ぎましょう」「そうだな」二人は急いだ。
死体をどかしながらついに司令室の前にやってきた。「もう一度爆破する、少尉爆薬を」二人は手慣れた動きでドアを爆破した。本来ならまずい動きだが、何が起きるかわからないので迅速に行動する必要があったからこそドアを爆破した。
「中に人は…!」司令座席に人がいた、二人は急いでその人の方へ向かう。だが結末は予測できたものだった。司令座席を正面に向けると、その人はすでに死体だった。腹部を散弾で撃たれたようだった。「…やはりか、他の情報端末は?」二人は司令室を漁った、がこの船を襲撃した連中は相当慌てていたのに関わらず徹底的に情報は破壊していたようだった。「クソ、何も得られなかったか」その時だった、<こちらジョン・ハーシェル!そちらに未確認の飛翔体が接近中!直ちに退避しろ!>その後の二人の動きは早かった、なぜなら、何かが起こると確信していたからだった。二人は死体の山をどかしながら磁力靴が外れないように走った。エアロックは近いはずなのになぜか遠く感じた、死体の怨念がそうさせているのだろうか。
なんとか二人は船外に脱出し小型艇に取り付いた。「急げ!脱出だ!」小型艇は最大出力で現軌道を外れジョン・ハーシェルとの合流を急いだ。
なお商船の方は二人が脱出して3分後に飛翔体によって木っ端微塵にされた
<ジョン・ハーシェルより司令部へ>
今回の任務は地球との深いつながりがあるとされる一海賊派閥のリーダー、通称アクーラの捕獲が目的でした。しかしアクーラはすでに殺害されていたようです。
しかし誰が襲撃したのかについてはまもなく判明するでしょう
今後はどうなされますか
<司令部よりジョン・ハーシェル>
先の任務ご苦労だった。
申し訳ないが解析作業についてだが直ちに中止してもらいたい、そしてデータは破棄しろ。
また直ちに司令部の第5宇宙港に来てもらいたい。
次の指示は司令部にて直接下す。