2164年6月6日 地球の衛星「月」シャクルトンクレーター上空
「付近に地球側の勢力の艦艇はいないようです、艦長」
クロム伍長は冷静ながらも、どこか安心した様子でノアス艦長に報告した。
「わかったこのまま宇宙港からの通信が入るまで警戒態勢を取れ」
かつてのパンドラの5人組は今や貨物船に偽装した戦略艦ガリレオ・ガリレイに搭乗しており月面に降りれる瞬間を今か今かと待ち望んでいた。
<こちらシャクルトンクレーター宇宙港だ、聞こえるか>
「通信良好です、どうぞ」
<貴艦は第19港へ着陸せよ>
「了解です、ナビゲートをお願いします」
「よし、何ヶ月ぶりかの仕事だな」
ミデラス少尉が言葉を発すると艦内に慣性が発生し始めた。船を垂直にしているのだ。
<よし、態勢は整ったな、そしたらすぐさまタグボートを向かわせる少し待っててくれ>
「それにしても、帰還まで偽装が持つのでしょうか?」
レミントン伍長が不安そうな声でノアス艦長に質問をかける。
「…持つと考えるしかない、今は」
「ああきっと持つさ、いざとなりゃこの艦の真の力を…」
アラン中尉が途中まで喋ったところでノアス艦長が発言する。
「中尉、本艦の任務はあくまで偽装があってのものだ、その場合のことはあまり考えるな」
その時同じく船に乗り込んでいる海兵隊のコルト大尉がブリッジに上がってきた、コルト大尉はブリッジに来たと同時に
「もう月面なんだな?それなら他の冷凍睡眠中の隊員を起こしていいんだな?」
と発言した、それに対しノアス艦長は
「ああ、起こしてもらって構わない、本物の荷物の搬入に手こずってもいかんからな」
ガリレオ・ガリレイには船体外側に多数のコンテナを搭載している。中身はもちろん本物だだからこそ遠征前に乗組員は荷物の搬入の訓練を受けていた、間違っても本物の軍人であることをさとられないために。
「よしそれでは起こしてこよう、起き次第すぐに搬入の準備につかせる」
「コルト大尉、少しは手加減してくれよ、早すぎても不信感を抱かせかねないからな」
「了解です」
コルト大尉は再び下の階へと向かった。
<こちらシャクルトンクレーター宇宙港だ、間もなくタグボートが到着する降下の準備を>
「了解しました、ミデラス少尉降下の準備を」
「わかった任せてくれ、機関長エンジンのチェックを忘れずに」
「了解」
それから20秒後にはガリレオ・ガリレイの船体には無数の小型のタグボートが取り付き始めていた。
「シャクルトンクレーター宇宙港へタグボートの指揮権をこちらに譲っていただきたい」
<了解した7秒後にはそちらの指揮権になる>
「よし、指揮権がこちらのものになった、これより降下する。
ガリレオ・ガリレイはゆっくり降下を開始した。
船体内部ではタグボートとメインエンジンの振動が伝わっていた。
降下開始から3分後
<着陸パッドまであと6000メートルだ>
「少し北方向へ前進する」
「全タグボート異常なし」
「一度エンジンをカットする、このまま1500メートルまで降下する」
わずかながら船体の振動が収まる。
<1500メートル>
「エンジン再点火、出力の調整を開始」
ブリッジには緊張感が走っていた。
<予定では30秒後に着陸だ>
「あとは自動操縦で大丈夫だ」
ミデラス少尉はコンソールを操作し自動操縦に設定した。
<1000メートル>
だんだんと振動が強くなっていく。
<500メートル>
<タグボートの連結を解除する>
「了解です、指揮権をそちらに渡します」
ガタガタと連結が解除される音が響き渡る。
<100>
クロム伍長はなんとなくレミントン伍長の席を見る、そうするとレミントン伍長はどこか震えているように見えた。
<50>
「もう着陸だな」
ミデラス少尉は安心した声でいった、しかしすぐレミントン伍長が何かを発言しようとした。
が着陸の衝撃で何を言ったのかはわからなかった。
<0、ナイスランディング>
クロム伍長は座席のベルトを外しながら
「シャクルトンクレーター宇宙港誘導に感謝する、通信終了」
と言い、すぐにレミントンの席に向かった。
「おい、レミントン大丈夫か?」
レミントンは
「…大丈夫じゃないですよ…」
と怖がった声で返答した。
クロム伍長はひょっとしてという感じで質問する。
「お前もしかしてコロニーと船舶以外に足をつけたことないな?」
それに対しレミントンは
「…そうなんですよ」
と小声で返答した。
クロムはやれやれといった感じでレミントンのベルトを外し肩をたたきリラックスさせるようにしていた。
15分後
乗員移乗用の通路がエアロックに連結し始める頃にはレミントンは落ち着き始めていた。
「落ち着いたか?レミントン」
「あ、ああ落ち着いたよ…ありがとうクロム」
その時ノアス艦長が声を発した。
「諸君、長旅お疲れだが、我々の任務は始まったばかりだ、これから月共和国国防軍とともに演習をし、第三世代核兵器を輸送せねばならない、しかし今は一時の休暇を味わってくれ、また荷物の搬入については海兵隊がしてくれる事になっている、以上」
「ようし月の観光に行ってきますか」
アラン中尉は一足早くエアロックに向かった。
「ええと、では自分も一足早く行っております」
アラン中尉に続いてミデラス少尉もエアロックに向かった。
ノアス艦長は残った二人のもとに近寄った
「レミントン伍長」
「は、ハイ」
「君は惑星に着陸するのは今回が初めてなんだね?」
「そうです」
「それは大変だったなとしか言えないが、とりあえず初めての地表だゆっくりしていけ」
「わかりました…行こうかクロム」
「そうだなレミントン」
二人もゆっくりとエアロックへ向かった。
「ノアス艦長」
「…コルト大尉」
二人はブリッジにだれもいないことを確認したうえで本題に入った
「本当にいいんですかな上からの命令とはいえ」
「…あの書類と間接的とはいえ地球の将校に接することか?」
「そうですその件です、流石にまずいのではないのでしょうか」
「いいかこれはあくまで奴らに対する脅しだ、情報の漏洩ではない」
「しかしだからといっていくらなんでも我が経済圏の事細かな情報と我々の乗っているこの船の航路を渡すのは…」
「多少のリスクはつきものだコルト大尉、確かにこれが奴らの手に渡るのは非常に痛手だが、君ほどの理解できる人間であればわかるはずだ」
「…」
コルト大尉は黙り込んでしまった。
確かに今回地球の将校に渡そうとしている書類は非常に厄介なものだ。
土星圏の各大企業から自治区の細かな経済情報、貴重資源の産出量、そしてそれらの場所。
もう一つはまさしくガリレオ・ガリレイの航路が書かれている。
しかしそれらを攻撃するとなるといかに海賊を買収しようともここまで緻密な情報の下に計画下となると絶対に地球が関与したという事実が浮かんでしまう、それにもう一つ取引があることをコルト大尉は知らなかった。
「君にはもう一つ知らないことがあるようだ」
「…?!」
「奴らからも情報をもらうことになっている」
「な…!」
「流石にこればかりは君にも言えないがね」
ノアス大尉は確かに背負っていた、誰にも言えない取引を。
ひとつは地球のとある将校に情報を渡すこと、これにより若干不利にはなるものの、逆に地球側も手を出しづらくさせること。
もうひとつはその地球側の将校から「地球の政治的弱点」をもらうこと、あわよくばその将校をこちら側に引き入れることだった。
「さて…もう十分だろ、どのみち搬入の時刻も迫っている」
コルト大尉は何も言わずにブリッジをあとにした。