2164年6月14日 シャクルトンクレーターより北に50キロ 廃棄された軍事基地周辺
「改めて演習内容を確認する」コルト大尉が今回の演習の説明を始める。
「着陸ポイントより北7キロ先にある旧軌道防衛基地の占拠が目的だ、今回の想定では敵基地が味方艦隊に被害を与える前に対宙ミサイルサイロの破壊、または司令部の確保が目的となる、激しい抵抗が予測される、また本作戦には月共和国軍も参加している、いいか?俺達土星警備軍の実力を見せるときだ! ウーラー?」
「「ウーラー!」」輸送機内に隊員たちの声が響き渡る。
「そろそろ着陸地点だ、減圧開始」パイロットからの声が聞こえたとともに隊員たちは軍用宇宙服のバイザーを閉める。甲高い空気の抜ける音がする、減圧が始まった。川島二等兵は呼吸を整え始めた、しかしその途端機体が大きく揺れ始めた。「どうした!?」コルト大尉が叫ぶ。
パイロットからは「クソ、こんなところに対空陣地が!、かなり激しい弾幕だ!」と聞こえた。
山野二等兵が川島二等兵に「こんな調子で大丈夫だろうか」と話した、しかし川島二等兵は黙ったままだった。
かなりの弾幕らしくかなり機体が揺れている、コルト大尉は決断した「パイロット、近くに安全そうな場所はないか!?」「ありますが…まさか降ろせと?」「そのとおりだ!早く降ろせ!このままだと作戦失敗だぞ!」「…了解です」間もなく体が浮く感覚に襲われた。急降下しているのだ。
「緊急着陸、全員降ろし次第離陸する、ご健闘を!」機体が月面にタッチダウンするとハッチがすぐに開いた「ようし、お前ら!行くぞ!」隊員等は敵陣地のど真ん中に突撃していった。
「すべての敵を相手にするなよ!?俺達は基地を奪えばいいんだ!」コルト大尉が叫ぶ。
全周囲から音もなく弾丸が飛び交ってくる。しかしそれでも隊員等はくじけることなく機械のごとく基地に向かって前進した。しかしそれでも敵の戦力は想定以上だった。段々と演習用弾によって脱落する兵士も出てきた。「クソ!足が…」「奇襲だ!11時の方向!」「だめだ、そいつは放っておけ!」敵の火力は激しくだんだんと指揮が崩れ始めていた。そんな中一人の兵士がコルト大尉へと「このままでは全滅です、全滅するぐらいなら一部兵士を基地へ向かわせてください!あとのメンバーで足止めします!」と驚くべき提案をした。
しかしコルト大尉の決断は早かった「…わかった、山野!川島!俺達だけで基地へ向かうぞ」「少なすぎじゃありませんか!?」川島二等兵が驚きながら反論する。しかしコルト大尉は「いやわずかながらでも可能性がある方にかけるぞ、ついてこい!」「了解」「…了解」三人は残りの隊員に背中を任し基地へと向かった。
演習開始より15分
三人はようやく基地周辺の岩場に到達することができた。
コルト大尉はスコープで周辺を確認する。
「特に異状はないようだ、しかし攻撃の準備が最終段階のようだな…よし、川島、山野ステルスで接近するぞ」「「了解」」
三人は姿勢を低くし細心の注意を払いながら基地へと接近し始めた。
どこにセンサーがあるかもほぼわからない三人を緊張感が襲う、もし見つかれば確実に即死と言っても過言ではない。
宇宙服のセンサーも逆探知されない程度に活用する。
しかし思ったよりセンサーはなく意外とすんなり基地の内部へつながるゲートへとたどり着くことができた。
「意外とぬるい警備だったな…」「川島、気を抜くな」三人はゲートのロックを解除し内部へと侵入し始めた。
内部はかなり硬めの警備だった。
数多くの警備用ドローンに重武装の歩兵、監視カメラにセンサーがこれでもかと積まれていた。しかしこちらも只者ではない、迂回できるところは迂回し、敵兵は背後から演習用格闘武器で倒し、ドローンに関してはハッキングで対処した。
三人にとっては監視の目が多いだけで質に関してはかろうじてくぐり抜けられる程度だった。
こうして司令室の手前にやってきた。
「川島、フラッシュバンを」川島はフラッシュバンを取り出した、そしてコルト大尉が司令室の扉を開けた瞬間、川島二等兵はフラッシュバンを司令室へと投げ込んだ、閃光が出るとともに三人は一気に司令室へと侵入し発砲した10人ぐらいはいたものの三人にとっては一瞬で処理するのは簡単だった。
司令室を制圧した三人はコンピュータに取り付く。
「山野は基地の防空システムを落とせ、川島はミサイルサイロを」
時間は限られている、急いでシステムをシャットダウンさせる。
「防空システムシャットダウン」「よくやった山野、月の連中を呼ぼう、こちらブルーチーム防空システムは落ちた直ちに援軍をよこしてくれ」「こちらHQよくやった、直ちに援軍を派遣する」「コルト大尉ミサイルサイロのシステムも落ちました」「全員よくやった、あとは外に出よう」
その時警告灯が光り始めた。
「流石に気づかれたか…外まで強行突破するぞ」「「了解」」
三人は基地の外に向かって走り出した。
しかしすぐに敵に足止めされてしまった。
「8人の歩兵が接近、重武装だ!」敵は圧倒的弾幕で司令室へ押し込もうとしている。三人は装甲の隙間を狙い撃つなどありとあらゆる手法を使って敵の壁を突破しようとした。が敵は増え続けるばかりだった。
「クソ、こうなったら司令室へと一旦後退しよう…」三人は物陰や壁を利用しながらうまく司令室付近へ後退した。しかしその時だった、「しまった!足に…」山野二等兵が倒れる「山野!」川島二等兵が迅速に駆けつけなんとか物陰に隠れることに成功した。
「大丈夫か!」「なんとか大丈夫だが骨折判定を食らったらしい、足が動かない」状況は悲観的だった、敵は増え続けてる上に重装備の歩兵がまだ7人も残っている。コルト大尉と川島二等兵はそれでも応戦するが敵の津波とでも表現するべき戦力差に限界が来ていた。「これが実戦だったらどうするよ」川島二等兵が山野二等兵に話しかける、「さあねどう思うんだろうか」「そういやお前どうして警備軍に入ったんだ?」「今聞くかな?ともかく僕は親のせいで入ることになったんだ」「親のせい?」「親がタイタン出身なんだそれもひどい扱いを受けてたコロニー出身」「もしや復讐心的なあれか?」「そういうところだ君は?」
「…皮肉だな俺もそうだ復讐心的な理由でな」「…そうか」
その時だった弾幕が一気に4倍近く激しくなった「伏せろ!」コルト大尉が叫ぶ。三人は伏せたが、何かがおかしい、弾幕が増えたかと思うとすぐに止んだ、三人は警戒していると声がかかった。「こちら月共和国軍歩兵部隊だ土星の諸君無事か?」「…生き残ったようだな」「ああ」
こうして本演習は損耗が激しいながらも成功に終わった。
シャクルトン宇宙港警備局にて
「しかし意外だったよ、俺と同じ理由で入隊したとはな、山野」「本当は土星の環でゆっくり氷を採掘して過ごしたかったんだが」「そうなのか」「だって何度も演習をこなしているうえで言うのは矛盾してるのかもしれないけれど、僕は軍に向いていないんだ…」「…」「未だに引き金を引くのにためらうことがあるんだ」「人間そんなもんさ、あまり気にすんな、今夜奢るからさ、元気出せ」
50年前の戦争の後10年間土星は厳しい立ち位置に置かれた。
多額の賠償金、資源輸出のノルマ、悪化する治安、汚職、何もかもひどかった。今となっては地球火星連合と対立できる程度には復活したが、あのときの憎悪は消えない、最悪戦火で燃えない限り。