2163年6月10日 土星 タイタン低軌道上
ウィリアム・ハーシェルを旗艦とする第1艦隊はタイタンの低軌道を飛行していた。フリゲート艦パンドラ、そしてクロム伍長もそこにいた。
「いったいいつまでこんなところを飛行するつもりなんだ、、、」クロム伍長はレーダーのモニターをにらみながら呟いた。しかし、そのつぶやきは砲雷長のロン・レミントンに聞こえてたらしく「仮想敵が見つかるまでさ」と返されてしまった。
現在第一艦隊は内大衛星郡のミマスからはるばる外大衛星郡のタイタンへ演習のためやってきたのだ。しかしいつもとは一つだけ大きな違いがあった。それは仮想敵の位置が第一艦隊には知らされていなかったのである。
いつもの演習、特に火器管制演習では仮想敵の位置が安全上必ず知らされることになっていたのだが、今回は火器管制演習のはずなのに一つも敵の位置がわからないのだ。そのため第1艦隊の艦艇乗組員は皆、落ち着いていないのである。
「実は仮想敵がいないなんて展開だったらどうする?」レミントン伍長がクロムに話かける。クロム伍長は、「いや、ここまで艦艇を集めといてそれはないだろう」と落ち着きつつも、どこかそわそわした様子で答えた。
それからどのくらい時間が立っただろうか、流石にクロム伍長はイライラし始めていた、ずっと変わらないモニター、静かすぎる居住区、対Gシートに座り続けていることが、全て疲労として乗っかり始めていたからだ。これぐらいならレミントンが言ったとおりに本当に「仮想敵」が嘘の情報でこのまま帰れたらどれほど嬉しいだろうか、そんなことをクロムは考え始めていた。
2163年6月12日 タイタン低軌道上
今日もただモニターを見続ける日になると感じていたクロムにとってはいきなりすべてが遠心分離機にかけられたような日だった。
レーダーに反応があったのだ、仮想敵の反応が。
反応した途端クロム伍長は叫んでいた「レーダーに反応!敵艦です!」クロムにとってはこの上ない喜びだった。なぜなら様々な苦痛や疲労から開放されるのだから。しかし、それは長く続かないということをクロムはまだ知らない。
第1艦隊全艦が敵を補足したらしくウィリアム・ハーシェルから艦艇を敵艦へ加速させるように命令が下った。ロム・アラン機関長が「エンジン再点火します!慣性に気をつけて!」といった途端に、身体が対Gシートへ押し付けられるのが感じ取れた。
だんだん敵との距離が近くなっていく、距離が3万2千キロメートルを切ったあたりで遂にレオン・ノアス艦長が「光学兵装照射準備!各ブロック隔壁閉鎖!」と命令を下した。クロムは緊張し始めていた。いや、全員が緊張し始めていた。この先どうなるかは、誰にも予想できなかった。
距離が2万5千キロメートルを切ったあたりで変化が起きた。敵が光学兵器を使用し始めたのだ。「こんな距離で当たるものか!」航海長が一気に回避マニューバを取り始めたのと同時に第1艦隊全艦が陣形を崩し始めたのがレーダーでわかった。「航海長!ウィリアム・ハーシェルの護衛に回れ!砲雷長!この距離でも構わん!レーザーを照射しろ!」ノアス艦長が叫ぶ。「「了解!」」レミントン砲雷長とデニス・ミデラス航海長が同時に叫ぶ。
戦いはペースを増していった。レーダーでは敵味方ともにレーザ-砲戦が繰り広げられているのがわかる。
パンドラがウィリアム・ハーシェルについたときには距離は両軍ともに有効射程に入っていた。そして両軍ともに撃沈判定を受け、システムをシャットダウンした艦艇も見受けられた。しかし数ではこちら、第1艦隊が上、このまま数で敵を押し切るものかと思われていて時だった。
レーダーに新たな反応があったのだ「レーダーに新たな反応!」クロムは叫ぶ「何!?」ノアス艦長は驚いた様子だった。
新たに確認された敵艦は今相手にしている連中と全く違う。なぜならレーダーに反応しにくい上、動きが磨かれたものだからだ。(精鋭部隊、しかもステルス艦か、、、)クロムはそう思った。新たに確認された敵は今までの「仮想敵」とは思えない軌道でこちらに接近し始めていた。
そいつらは有効射程と思しき距離につくと一気に友軍へ襲いかかった。沈める速さも尋常ではなく一瞬にして3隻が沈められた。
「パン、ダフニス、アトラスが沈みました!」クロムはなんとか落ち着きながら状況を報告した。しかしそれでもなを、敵の勢いは止まらず遂にはウィリアム・ハーシェルにも食らいつき始めた。わずか数十秒だった、一瞬にしてウィリアム・ハーシェルの兵装プラットホームの各兵装は破壊判定を受け、機関もズダボロにされ遂には居住区にもレーザーが照射されたのだ、ウィリアム・ハーシェルは一瞬にして撃沈判定を受けた。あっけない最後だった。「これが最新鋭艦の力、、、か」クロムは呟いた。
しかし感傷に浸る余裕はない、敵艦がパンドラめがげて突撃し始めたのだ。我に帰ったクロムはすぐさま状況を報告する「敵艦複数!こちらに向かってきます!」ノアス艦長は少しだけ考えた後に艦長にとっては苦渋の決断を下した「これより本艦は艦隊を離れ敵艦隊へと突っ込む」1隻で敵艦隊へと突撃するのは普通ならあってはならない決断だった。しかしこうでもしなければ被害は増える一方だった。しかし逆説的な言い方もできる。それほど乗組員全員を信用していると。
「慣性に気をつけてください!一気に行きますよ!」ミデラス航海長が叫んだのと同時に様々な方向からGがかかるのが感じられた。「よーし、今までのお返しだ!」レミントンが叫ぶ。その途端だった、一気にパンドラは戦場の支配者となった。さすがにパンドラは比較的小型なためレーザーの出力も弱いがそれでも善戦した。敵のエンジンを焼き切り、VLSを暴発させ、居住区に穴を開けた。しかし、パンドラ、王者にも限界はある。あちこちで友軍艦を沈めた敵艦がパンドラへと魔の手を伸ばし始めていた。「更にGかかります!」ミデラスが叫び船体も悲鳴を上げ始める。しかしそれほどの機動を持ってしても遂にパンドラは被弾した。
「レーザー砲1,2使用不能!被弾した!」レミントンが報告する。「敵艦16!こちらに迫ってます!」クロムも続けて報告する。そして、遂には機関部に被弾した。「ダメです!機関出力20%!そろそろ停止します、、、!」アランの言葉を最後にフリゲート艦パンドラは遂に撃沈判定を受けた。
タイタン軌道上 パンドラ撃沈より5分後
「ひどいざまだな、、、」ノアス艦長はつぶやく。もはや敗北は決定的だった。残存艦艇はすべて大破しており撃破されるのを待つだけだった。演習とはいえ味方が沈んで行く様子を見るのは不快だ。
「もうちょっと、あとちょっとレーザーが照射できていれば、、、」レミントンは悔しそうにつぶやく「あれでも十分だったさ」クロムが慰めるようにレミントンに呟いた。
2163年6月12日 第1艦隊は壊滅した
しかしクロム、いやノアス艦長も気づいていなかった。本当の演習の作戦目標がタイタン地表にあるとは一つも思っていなかった。
、、、タイタン地表にて激しい戦闘が繰り広げられようとしていた。