2163年6月24日 土星 エンケラドゥス 第7都市
先の演習にて第1艦隊を殲滅した艦隊の旗艦、ジョヴァンニ・カッシーニの艦長こと西井暁少将は頭を抱えていた。(彼らをどのように扱えと言うんだ、、、あっちも人手不足なんだぞ)。
土星連合はとにかく人手が足りなかった。どのくらい人手が足りないかというと、一時期一部の階級を削ろうという話があったほどだ。そして今、西井少将はこれに振り回されていた。
数時間前
西井少将はミド・スチュアート中将から連絡を受けていた。
「西井君、先の演習についてだが、、、」スチュアート中将が落ち着いた声で話す。「はい、何でしょう」西井少将が返事をする。「報告書によれば、カッシーニを始めとする新型艦の性能試験はうまくいったようだな」ありがとうございますと西井少将が喋ろうとしたときだった。「しかし、一隻の艦のために少し手こずったようだな、少将?」と続けてスチュアート中将が口を開いたのだった。「それは、、、申し訳ございません」西井少将はとっさに謝罪したがスチュアート中将からは「いや、謝らなくてもいい、むしろ興味がある」と西井少将にとって意外な発言が飛び出してきた。
「その君を手こずらした艦の名前はなんといったかな、少将?」西井少将は答える「パンドラというようですが」しばらく間を置いたあと驚くような発言をスチュアート中将はした「彼らに興味がある、この通信が終わり次第彼らについて調べてもらえないかね」。
西井少将は驚いた。ただでさえ人手不足なのに警備艦隊から更に人材を抜こうとしているのだ。
西井少将は異論を出した「しかし、もうすでに精鋭艦隊、、、いえ第11艦隊はすでに満足の行く戦力なのではないでしょうか。それにこれ以上削るのは土星の防衛力低下につながるおそれが、、、」しかし「それを見越してのことだ、我々はまだ戦力を欲しているのだよ、西井君」とスチュアート中将に話を切られてしまった。「、、、分かりました、通信が終わり次第調べましょう」西井少将は仕方なく要件を受け入れた。「それでいい、では頼んだぞ西井君」スチュアート中将はそれで通信を切った。
2163年6月25日 エンケラドゥス 第2軌道港
フリゲート艦パンドラの乗組員は食堂にいた。
「全くこの前はひどい目にあったな」アルトがロンにつぶやく「そうだな、もっとこう、うまくいくものかと思ってたぜ」ロンが返す。ひどい目にあったのは演習のことだけではない、それは帰還途中に起きた。
第1艦隊が帰還中、仕方がなくデブリの雲を通り抜けることになった際にしっかりとレーザー防護もしていたのだが、不幸にも比較的大きめのデブリがパンドラに直撃したのだ。
幸いにもけが人はいなかったが、パンドラが損傷したがゆえに帰還が数日遅れたのだ。
「もっと監視していればな、、、」アルトは落ち込み気味に喋る「いやいや、防御の担当は俺だからさ、君は悪くないさ」ロンがアルトを励ました。
そうこうしていると突然二人に声がかかった。声の主は機関長のロムだった。「二人共、こっちに来い艦長からだ」。二人は不思議そうな顔をしながらロムのところへ近寄った。
ロンがロムに質問をする「いきなり呼んでどうしたっていうんだ?」ロムが答える「とても大事な話だそうだ、俺たちの人生に関わるぐらい」アルトとロンはその言葉を聞いた途端緊張し始めた。「俺たちなにかしたか?」ロンはアルトに質問をする。アルトは「さあな、行ってみなくちゃわからん」と答えた。
その後三人は航海長のデニスと艦長のレオンと合流した。「、、、よし皆揃ったな」レオンは続けて話す「上層部から連絡があった、パンドラの乗組員を集めてこいとな」デニスは不安そうにレオンに尋ねる「やっぱりデブリにぶつかったのがまずかったんじゃあ、、、」レオンは答える「さあな、そのときは謝れば済むだろう」しばらく沈黙が続いたあとレオンは口を開いた「よし、それじゃ通信室に向かうぞ」。こうして皆は通信室に向かった。
通信室に向かうとすでにオペレーターが待機していた「ノアス艦長ですね?」オペレーターが尋ねる「ああ、そうだ」ノアス艦長は答えた。オペレーターは「今すぐ繋げますね」といい作業を始めた。5人は目的の人物が映るであろうディスプレイの前に立った。
それから30秒ほどして目的の人物はディスプレイに映った。
「私は西井暁少将だ。君たちがフリゲート艦パンドラの乗組員だな?」。5人はうなずく、「君たちには伝えなければならないことがある」西井少将は重々しい声で5人に話す。5人と西井少将の間には言葉にできないほどの緊張が走っていた。しばらく間を置いて西井少将は自分の決意を話した。
「君たちには来月付で第11艦隊に移ってもらう、、、早い話が栄転だ。おめでとう」5人はその言葉を聞いた瞬間にへの口になった。(万年平伍長な自分たちが、、、昇進?)アルトは心の中で疑問に思った。が西井少将は待ってくれない「安心したまえ、階級の昇進もさせよう、それに、、、」西井少将の話が進むに連れて、5人の疑問は深くなるばかりだった。なぜ自分たちが、何故このタイミングで、そもそもまだ警備艦隊から人材を引き出すのか、、、など疑問は深くなるばかりだった。
こうして長い通信も終わり5人は食堂に戻っていった。
「いや不思議すぎる、、、」ロンが不安そうにつぶやく「やっぱり戦争のことか?」デニスが言葉をかける「それもあるけど、それなら警備や防衛の艦隊の増設を検討しないかい?」「たしかになあ」デニスはロンの言葉に納得する。そこにアルトが「先制攻撃のため、、、と?」と二人に話しかけた「今考えうる限りではそうだろうな」デニスはうなずく、ロンは「じゃあ僕らとんでもないところに送り込まれるってことか!?」と顔を真っ青にし始めた。「「どういうことだ?」」アルトとデニスはロンに質問をする、ロンは少し落ち着いたあとゆっくりと話し始めた「これは噂なんだけど、死の数秒間って知ってる?」アルトとデニスは物事の深刻さを理解し始めた。
死の数秒間、それは恐ろしい、ある種の精鋭部隊になるための儀式のようなものだ。簡単にいえば土星の環に突っ込むと言うものだ。
土星の環は厚さ20メートル程しかないがそれでも大量の石の集まりに軌道速度で突っ込むのは自殺行為だ、並の船や乗組員では一瞬にして蜂の巣かバラバラになるのが関の山だろう。
その儀式のある種犠牲者になる可能性が出てきてしまったのである。
3人は顔をしかめ始めていた。
数十分後
「よく決定してくれた」スチュアート中将が喋る「、、、ありがとうございます」西井少将は複雑な心境で答えた。
スチュアート中将は言葉を続ける「君には死の数秒、失礼対デブリ雲突入訓練に使う艦の選定を行ってほしい」西井少将は驚いた様子で「私が、、、ですか?」と答えた。スチュアート中将は「そうだ君が行うのだ、なにせ君も昇進する予定だからな」と西井少将にとって驚くべき事実を話した(この私も、昇進だと)西井少将は心の中で驚いた。
「さて対デブリ雲突入訓練の艦はともかく彼らが生き残ってた場合に譲る艦の選定も行わければな」スチュアート中将は忙しさを表現するかのように喋った後通信を切った。
西井少将は呆然としていた。自分さえも昇進するのだ、きっとスチュアート中将も昇進するに違いない。これが意味するのは考えうる限りでは士官を増やすこと、きっと人材の消耗にも対応するためなのだろう。近年の世界情勢、艦隊の攻撃性を考えればやはり、上層部は先制攻撃も視野に入れてるに違いない。
気づけば戦争の足音を不安視する西井少将自身がいた。