太陽系制圧演習記録   作:アメリンゴ二等兵

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死の数秒間

2163年7月1日 土星の環付近

 

 

死の数秒間…それは非常に危険な任務だ。内容は土星の輪を通り抜けるだけだが、それでも幾多の死者を出してきた危険な、昇進のための儀式だった。しかし、死の数秒間はその危険度から撤廃されようとしていた。

今、史上最後であろう死の数秒間が始まろうとしていた。

 

「土星の輪をレーダーに捉えました」クロム伍長が報告する「…分かった」ノアス艦長は重々しい声で答えた。

「いよいよこの時が来たか」アラン機関長が緊張した声で発言した。

ノアス艦長は発言した「航海長、可能な限り被害が最小限になるように船をコントロールできるか?」航海長は自身を持って答えた「任せてください、皆を家まで送り届けてみせますよ」「砲雷長、可能な限りデブリを除去してくれ」「りょ…了解です」砲雷長は不安げながらも返事をした。「機関長、エンジンはどうだ」「バッチリです」機関長も不安げに返事をした。

それから50秒ほどで運命のときは来た。

「もう環が目と鼻の先だ!衝撃に…」クロムが発言した途端だった、艦は激しい衝撃にさらされた。クロムは脳裏で(地球や火星で体験できる雨とやらはこんな感じなのだろうか)と考えた。

衝撃は本当に数秒で終わった。死の数秒間と言われる割にはそこまで恐れるものではなかった。あるいは運が良かったのかもしれない。クロムは安心しきった表情になったが、コンソールを見た途端に顔を真っ青にした。

…艦のあちらこちらで酸素、燃料、冷却材が漏れ始めていたのだ。クロムは急いで艦長に報告する「た…大変です!艦からあらゆるものが出ていってます!」「総員急いでダメージコントロールだ、まずは酸素からだ、バイザーを閉じろ船内の気圧を下げろ」。その途端機関長がコンソールを操作したのだろう、船内の減圧が始まった。「クロムとレミントンはEVA(船外活動)を実施しろ!ミデラス、アランは私とともに船内の修理だ」こうしてクロムらは船外へ出ることになった。

 

死の数秒間が始まって2分後

 

エアロックを経由して船外へ出たクロムらは急いでバイザーの情報を頼りに破損箇所へと移動した。船体はひどくボロボロになっていた。明らかに核分裂炉に穴が開いていて、与圧区画はあちこちにへこみやクレーターのようなものができており、船首の特徴的なシールドに付いてはほぼなくなってるも同然だった。二人はまず与圧区画の後方にある酸素タンクから調査することにした。

外部から見た感じだとそこまで被害はなさそうに見えた「一応中身も見とこうか」「そうしよう、ここで見落としたら命を落としかねない」二人は中身もチェックしてみたところいくつかの亀裂を確認した。レミントンは無言で素早くクロムへリペア用の特殊工具を渡していた、クロムは急いで亀裂へ工具を吹き付ける。二人は協力して亀裂を見つけては亀裂や穴を塞いでいった。

大体塞ぎ終わった頃船内の機関長から通信が入った。<そろそろ酸素漏れは落ち着いてきたようだ、次は冷却材漏れの対処に向かってくれ>。

二人は急いで船体後方の冷却関連の装置へ向かった。到着した二人は外部アクセス用コンソールを使い船体の被害をチェックした。すると意外なことに外部の損傷は少なく逆に内部の配管等へのダメージが大きいことが判明した。レミントンは急いで機関長へ連絡する「こちら砲雷長です、船内のほうがダメージが大きいようですどうぞ」<そうか、航海長には帰れたら一杯奢らなきゃあいかんようだな、ある程度修理したら先に燃料関連のチェックをしておいてくれ>「分かりました」こうして二人は船体を囲うように取り付けられた冷却装置を一周するように確認したが致命傷になるような損傷はなかった。

こうして一番被害が大きいと思われる燃料関連の確認を始めた。燃料関連の被害は船の構造上目で見るよりも明らかだった。この船は船体の外部にシールドからはみ出ない程度に燃料タンクが取り付けられている構造になっている。つまるところ、ほとんどの燃料タンクが持っていかれてしまっているのである、もはや破損が激しすぎて治すところがないぐらいである。二人は絶望するしかなかった。

 

死の数秒間開始より40分後

 

二人は与圧された船内に戻ってきた。燃料関連の損傷に関しては船内からも把握できたらしく残りの三人もひどく落ち込んでいた。

「これからどうします?」クロムがノアス艦長に指示を求めた艦長は素早く指示を出した「二人共、通信機器はどうだったかね」レミントンが答える「特に損傷はありませんでしたが」「よし船内の道具をありったけもってこい、救助要請を出すぞ…その前にもう一度通信機器を確認してくれ、船内からで構わん」クロムはコンソールを確認した、思ったより被害は軽微であったがやはり通信設備も一部がデブリに持っていかれていた。クロムはこのことを艦長に報告した。「ううむ、やはりか…それでもやるしかない」こうして総出で船内にある電子機器やら工具やらを漁ることになった。

使えるものは何でも集めた。予備のバッテリーやら通信関連の増幅器やら携行型のレーザー通信機まで集めた。

 

30分後

 

こうして電子機器に詳しいクロム伍長とアラン中尉が指示を出しつつ全員で通信機の修繕を開始した。

「この増幅器はこことつなげてください…こことつなげたらダメです」「すまん誰かこのコードを支えてくれ」

本来軍人(と言っても地球火星連合軍基準だが)はありとあらゆる状況下でも戦果を上げるべく様々な教育を施される、特に22世紀に入ってこの傾向は大きくなっていった。しかしこれでは兵士一人にかける費用が大きくなっていく、そのため資金の少ない国家や組織、特に土星警備軍はこの影響を受けやすかった。その結果として今オンボロ艦にいる5人は本来短時間でできるはずがかなりの時間をかけることになっていた。

なんとか通信機器の復旧を終えた5人はようやく稼働させることに成功した。

「これでなんとかなるだろうか」レミントンが不安そうにクロムに尋ねる「なんとかなるさ…きっと」

 

土星高軌道のとある軌道港

 

「起きろマッケリー!仕事だぞ!」「うう、ん」マッケリーは叩き起こされた。

「黒井さん今日はなにもないんじゃ…」「それが今さっき救助要請を拾ってな今すぐ救助することになった」黒井はマッケリーを引っ張るようにしてタンカー船に搭乗させた。黒井は航海士に指示を出した「よし今すぐ出港するぞ」「了解です」

こうしてタンカー船は救難信号を発している船に目がげて飛行していった。

 

「レーダーに反応!軍籍のタンカー船です!」クロムは大喜びで報告したが、「いや、まだだ警戒を怠ってはいかん」「どうしてです?敵陣と言うわけではないでしょうに…」クロムの言葉に艦長は黙ったままだった。

しばらくクロムは警戒していたがやはり味方の反応だった。クロムは艦長に疑問をいだき始めたが、その疑問は通信の声によって遮られることになる「こちら土星警備軍タンカー船だそちらの状況を伝えてくれ」「マッケリーか!?しばらくぶりじゃないか」「クロムか!?どうしてこんなところに…」「それは後で伝えるよ、とにかくこちらの状況を…」クロムは船の状況を伝えた。しばらくの沈黙の後タンカー船からドッキングすると言うことが伝えられた。2分ほどしてドッキングが完了した。

 

2163年7月3日 最後の死の数秒間より全員生還した。

 

 

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