宇宙空母、それは比較的新しい艦種であるが2163年現在、まだ力を出し切れていなかった。
原因は艦載機のエンジンにあった。無人とはいえ艦載機である以上小型化を強いられる艦載機はどうしても航続距離に縛りが出てしまうのである。これは宇宙空母の事実上の初陣である火星戦争のときから言われてたものである。それから何度かのブレークスルーを迎えた今でも技術、戦術ともに宇宙空母は他の艦種と比べて未知数なところが多かった。
2163年 7月3日 土星低軌道
空母フェーベは艦載機の発艦準備をしていた、目標は古くなった宇宙駆逐艦である。
フェーベの艦首では電磁カタパルトと艦載機の準備が進められていた。
「よし、一機目の固定が完了したぞ」「そしたら次は2番格納庫の機体を取り出してカタパルトへ」
ロイ・ボールドウィン大尉と中山俊二大尉は艦載機の発艦準備を進めていた。
ボールドウィン大尉がロボットアームの操作を、中山大尉が艦載機の調整をしていた。
「しかしこのオンボロ艦までも演習に使われるとはな、つい最近まで訓練艦だったのにだったのにな」ボールドウィンが中山に話しかける「そうだな…船の構造や設備が旧式ならまだしも、艦載機さえも旧式だからな艦載機をいずれ交換するならまだしも、そんな空気が一切ないせいで上の考えが掴み取れん」。
二人は愚痴を言いながらも着々と発艦準備を進めていた、もう一機もロボットアームでつかみカタパルトまで移動させ固定する、もう慣れた作業だった。また二人と同じ愚痴を持った乗組員がもう二人艦にいた。
CICにて
「なぜこの船が実戦を想定した演習に付き合わなければいけないんだ…上層部は総力戦を望んでいるのか?」
「…真相はわかりませんが、どちらにせよこの船では総力戦を生き残るのは難しいでしょうね」。
もう二人とはこの艦の艦長と副長のレイ・オブライエン大佐と黒川正中佐だった。
「母艦の武装が少ないのはいい理解できる、空母だからな」「そうですね、空母が重武装な訳ありませんからね」「しかし問題は艦載機だ、戦闘攻撃機とは名前だけの攻撃機、しかも中古品に軽武装だ、これでどうしろと」「後ほど新しい艦に異動するのでは?」「その余力があるとは思えん、無理をしない限り」。
空母フェーベは土星にとっては初めて自力で建造したといっても過言ではない艦艇だった、しかし初めてである以上完璧とは言い難かった。
初期の頃は確かに貴重な戦力として役立った。活躍し始めたのは第一次土星独立戦争後ではあったものの治安維持においては抑止力、射程ともに非常に強力だった。
しかしこの艦はウィリアム・ハーシェルとほぼ同期である、また艦載機の格納数に重点を置いたがために拡張性に乏しかった。
ウィリアム・ハーシェルが拡張性を活かし未だ第一線で活躍しているのに対し、フェーベは訓練艦として配備されていた、つい先月までは。
「これには裏があるんだろうなあ、君はどう思う?」「最近の噂では土星と地球火星連合との総力戦は避けられないとも言われてますから…なんとも言えないものです」
会話を続けているとコントロールルームから通信が入った。
<こちらコントロールルーム、艦載機の発艦準備が整いました>「艦長、ご命令を」「よし艦載機を発艦させろ、発艦後もあと9機発艦させろ」<了解>
こうしてフェーベから艦載機が発艦していった、その姿はまるで流星のようだった。
艦載機発艦から50分後 CICにて
「艦載機目標を捉えました」オペレーターが艦長に告げる。
「艦載機に攻撃許可を出しておけ」「了解」CICに緊張が走る。
「オペレーター、ミサイルの弾頭モードはHEATだ」「わかりました」。
「副長、勝率はどのぐらいあると思うか?」「いかに旧式といえども相手は反撃しませんからね、それなりに高いものかと…」。
艦長席のコンソールには近づきつつある目標と艦載機の様子が表示されていた。
(いつ見ても緊張するものだ)オブライエン大佐は静かに思った。
ついにその時は来た「艦載機再度加速を開始、目標への攻撃態勢に移りました」「攻撃後回避行動するようにと通信しとけ」「了解」。
ミサイル発射まであと30秒を切った
(無人とはいえ敵艦に攻撃を仕掛けるのは何年ぶりだろうか)オブライエン大佐はどこか複雑な心境に至っていた。
「ミサイル発射まで5…4…3…2…1…」ミサイルが発射された。
コンソールでは艦載機から味方のミサイルの反応が増えた、ミサイルはそのまま敵艦へ向けて軌道を進む、
着弾までは一瞬だった。
前段目標へと弾着した、その瞬間に目標は複数に分裂した。
おそらく余った燃料系統に引火したか、敵艦の構造自体脆かったか、しかし今はもう関係ない。
「敵艦の破壊を確認しました」「よし、それでは艦載機を格納しよう…」
こうして艦載機は帰還軌道へ入った。
攻撃より6時間後
「ボールドウィン、仕事だぞ」「ああ、もうこんな時間か…」ボールドウィンは体を伸ばしながら再びコンソールへと向かった。
基本的に宇宙空母、特に現代的なものはマスドライバーとマスキャッチャーを組み合わせたものにエンジンを取り付けたような構造をしているそのため帰還時はほぼ全自動での回収となるため負担は発艦時と比べて乗組員の負担は少ないとされている。そう現代的な宇宙空母なら、フェーベのような旧式艦は輸送艦、揚陸艦といったものをベースとしているため回収に負担がかかってしまうのである。
「中山、前回の回収時間は何分だ?」「15分程度だな、安心しろ今回もしっかりサポートする」。
こうしてボールドウィンと中山がコンソールについた瞬間には艦載機は目視できる距離まで迫っていた。
「艦載機逆噴射まで3…2…1…」艦載機が逆噴射をし、ちょうどロボットアームの直下で相対速度がゼロになった「ボールドウィン、まずは3番機から収容しろ」「了解」
ロボットアーム、それも宇宙空間と聞くとあまり速さが出ない印象があるかもしれない。
事実かつて地球上の国家が協力して建造した初期の宇宙ステーションのロボットアーム、カナダアームとも呼ばれたそれは今から見ると稼働速度が非常に遅い代物であった。
しかし現在では姿勢制御技術の進歩によりトルクが大きい、つまるところ稼働速度が早いロボットアームの搭載が可能となった。逆に言えば過去の技術ではトルクの関係で稼働速度の早いロボットアームは載せられなかったと言うわけだ。
ただし、その分繊細な操縦が求められるようになったため、ロボットアームを扱うスペシャリストが必要なのは昔と変わらず、そしてアーム自体もリミッターをかけられることになったのだ。
3機収容した時点でボールドウィンは中山に質問をする「中山、今何分経過したんだ」「6分だな、少し厳しいな」その言葉を聞いたボールドウィンは少し慌て始めた。
別に急ぐ理由はないのだが彼のプライドが許さないのだ。
ボールドウィンは少しリミッターをいじり少し早くした、それに気づいた中山が警告する「間違っても船体を傷つけるんじゃないぞ」しかし彼の耳には入ってないように見えた、いつものことではあるのだが…。
それでもボールドウィンは船体を傷つけることなく全機収容仕切った、やり終えた彼の第一声は中山、いや誰にでも予測できるものだった「よし、何分経過したんだ」「15分、ただ7秒早くなったな」それでもボールドウィンは不満げな表情だった。
<艦載機全機収容しました>
「近くの掃海艦にデブリの位置を知らせておけ、我々は現軌道より離脱するぞ」。
副長が機関長に司令する「機関長聞いたな、予定通り巡航速度で現軌道を離脱だ」「了解」
機関に火が灯り慣性が感じられる中オブライエン艦長は乗組員を守りきれるかどうか考え始めていた