リズ・フリート
紅の髪と瞳を持つ12歳の少女の物語
日差しの刺すような暑さに項垂れながらも、外を駆け回る。なんて事ない日常の、しかし私にとってはとても幸せな景色。
「リズー。」
母親の声に私はすぐに振り返り、駆け寄る。母は、優しい人だった。いつも泥だらけの私を、笑顔で出迎えてくれた。もう少しで母の元に辿り着くという時に、黒い影が嵐のように全てを飲み込む。真っ黒に染った空間の中で、私はずっと泣いていた。
「おかーさん・・・。」
気がつくと、ベッドの上で呟いていた。起きてから今までのことは夢だったことを認識し、まだ覚めきらない目を擦りながら、体を起こす。部屋を見渡すと、横にはベッドに今でも激しい寝相の余韻が窺える、幼女神ヘスティアが寝ており、起こさないように気をつけながら、洗面台の前に移動する。鏡に映るのは、血のような赤黒い色の腰ほどまである髪と同じような色の瞳の少女と言うより幼女と言った方がいい、私自身が眠そうな顔でたっている姿だった。身長もヘスティア様と対して変わらない。もう少しくらい伸びて欲しいものだ。
「はぁ。」
とため息混じりに準備を進める、腰に剣を装備すると、扉へ手をかけヘスティアに「行ってきます。」と言って部屋を出る。
街はいつものように暗い雰囲気を纏い、何とか街として維持できているようにすら見えた。
「またの
「こんどはどこの派閥がやられた?」
どこかの冒険者が話している声を聞きながら、ダンジョンへと向かう。そんな声を聞いていれば、嫌でも嫌な気持ちになる。なんてことを考えながら、ダンジョンの前に着き、気持ちを切替える。
ギアァという悲鳴をあげながら、コボルトが灰へと変わり、小さな魔石が落ちる。冒険者になって約2ヶ月。ようやく戦闘にも慣れてきたという実感が湧いてきた。魔石を腰に着けたポーチに入れたとき、足音が聞こえ、慌てて剣に手をかける。ダンジョンでは、少しの油断が死を招く。何度もアドバイザーに言われた言葉が脳内で繰り返される。道の先からコボルトが4体現れる。コボルトも私を見つけたのか、殺意の混ざった咆哮をあげながら、突撃してくる。1匹目の爪を回避し、すれ違いざまに腹部を斬る。2匹目は頭部を刺し、抜いた勢いを3匹目への攻撃に利用する。4匹目は、その光景に恐れたのか、逃げようとしたところを背中から斬り、先頭が終わる。剣を鞘にしまうと、どっと疲れが来る。たった数秒の戦闘にも関わらず、何時間も戦ったかのように錯覚する。
帰りたいという思いを飲み込み、先に進んだ先7階層を狩場として、モンスターと戦闘を続ける。とはいえLv.1のステータスで、複数体を相手にすることも出来ず、常に一対一になるように気をつけながら立ち回る。同じファミリアの、とまではいかなくともパーティーさえ久米れば変わるのになぁと、悪態をつきながら魔石を拾う。そこへまた足音が聞こえてくる。数はかなり多く、数え切れない。モンスターかと警戒し、姿を隠すが、すぐに人の足音だと判断する。とはいえ今は暗黒期、闇派閥の可能性も捨てきれず、様子を伺う。先頭に見えてきたのが、金髪の
探索を終えて、ギルドでの魔石の換金をして、ファミリアのホームの扉を開ける。そんな私を待っていたとばかりにヘスティア様が立ち上がり、私の傍に寄ってくる。
「おかえり、リズくん。怪我はなかったかい?」
「はい、大丈夫です。」
私の返事を聞くと、ヘスティア様は、ふふんと鼻を鳴らして、テーブルを指さす。そこには皿に乗った、じゃが丸君だった。
「凄いですね!ヘスティア様。今夜はご馳走です。」
「そうだろぉ、そうだろぉ。」
ヘスティア様がうんうんと首を振って、嬉しそうに夕飯の準備をする。私も準備を手伝い、楽しく夕飯を済ませた後、私はベッドに背中を出して横たわる。ステータスの更新。背中に一滴の
リズ・フリート
Lv.1
力: F316→ F341
耐久: G247→ G254
器用: B782→ A801
敏捷: D559→ D572
魔力: I0→ I0
《スキル》
《魔法》
羊皮紙に書かれたステータスには、相変わらずスキルや魔法が無く、自分の才能の無さに少し落ち込んでしまう。それに気がついたのかヘスティア様が、
「君には絶対に凄いスキルも魔法も発言するから、気にしなくていいぜ!」
と親指を立てながら、励ましてくれる。ヘスティア様にお礼を言い、ベッドの中で疲れた体を休ませる。きっと強くなれると信じ込んで。
次の日も同じような朝を迎えて、ダンジョンの階層を進む、そういつも通りのはずだったのだ。魔石を拾いポーチに入れた時、違和感を覚える。多くの足音が一気に押し寄せて来る。前を走る男たちが必死にすぐ後ろを追う、キラーアントの大群から逃げてくる。それに気づいた時にはもう遅く、モンスターを押し付けられた。
「クソが!」
モンスターの波が私を飲み込む。次から次へと襲いかかってくるモンスターは、どんなに斬っても終わりが見えない。いつもの戦闘とは違う蹂躙。足の肉を食いちぎられる。爪が腕に刺さる。首を噛まれる。
「ガ・・・アァ・・・ァ」
叫びすらも出てこない程ボロボロの身体の悲鳴を無視し、死を纏って剣を振るい続ける。それでもまだ波は止まない。死の感覚は拭えない。自分の血なのかモンスターの血なのかも分からなくなった頃、戦場に立っていたのは、私一人になっていた。ろくに歩けない身体で、ボロボロになった剣を杖のようにして、上の階層を目指して進む。何かを考えることは出来なかった。目の前にコボルトが見えた時に、私の意識は途切れた。
目を覚ました私の視界に入ってきたのは、同い年くらいの金の髪と瞳の幼女だった。
「あの、大丈夫ですか?」
その言葉で時分がどんな状況だったのかを思い出し、身体を飛び上がるように起こすと、傷が綺麗に消えていた。
「あれ?」
「リヴェリアから貰った、
私の素朴な疑問に目の前の幼女が、すぐに答えてくれた。どうやら彼女が私を助けてくれたらしい。
「助けてくれてありがとうございます。ご迷惑をお掛けしてすみません。」
「ううん、平気。無事で良かった。」
そう言って彼女は私に微笑んでくれる。
「今度お礼をさせて下さい。私は、リズ。ヘスティア・ファミリア所属です。」
「私はアイズ。ロキ・ファミリア所属。」
これが私と、アイズの出会いだった。
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