おめでとう!!!
バキッ、と歪な音がした。
あぁ、折れたな。
そう思った。
折れたのは左前脚。
これじゃあ、もう走れない。
ふらふらと減速する私を容易く追い抜く彼ら。
悔しい、こんな結末になるなんて。
嫌だ、負けるのは……嫌だ!!
ノリさんはコースアウトしようと上手く手綱を操る。
正しい判断なのだろう。
私だってこれが最善なことはわかってるんだ。
このロスはなかなか埋められない。
このまま走ったら命さえもなくなるかもしれない。
それでも、それでもだ。
私は勝ちたい。
自分自身の意思で。
『ベルサフィールに故障発生!そして先頭はダイワメジャー、ダイワメジャーに変わって残り300!…………いや、戻ってきた!ベルサフィール戻ってきた!?』
「ふざけるなああああ!!!」
「嘘でしょ!?」
「ベル!?」
「お前、脚……」
前とは六馬身ほど……だろうか。
埋められるか、いや、埋めてみせる。
左前脚を庇って三本の脚だけでターフを駆ける。
もちろん、庇っても死ぬほどそこは痛いよ。
でも、勝つならこの痛みにも耐えられる。
『ものすごいスピードで差を詰めて……五番手……いや二番手まで踊り出た!?』
「あと一頭!!!」
スピードにはほんの少しだけ、自信がある。
たとえつばさが砕け散っても、必ずゴールしてみせる。
「あああああ!!!」
一生懸命だったからか、痛みを堪えるためか。
私は無我夢中で走った。
あたまのなかが、まっしろになる。
『勝ったのは……ベルサフィールの猛攻を凌いだのはダイワメジャー!二着はベルサフィール惜しくも一馬身届きませんでした。ですが、ですが……大丈夫なのでしょうか。いったい……』
「負けた……」
明らかに、負けた。
私は届かなかった。
「痛いっ……!」
ズキズキと激しく痛む脚。
これは……ダメ、なのかな?
「ベル!!」
ふらっと倒れそうになった私を咄嗟にメジャーが支えてくれた。
彼は馬体が大きいから、ちょうど少しよりかかっても大丈夫なのかも。
「お前、なんでこんな無茶を……脚を怪我して走ったら危ないって、わからなかったのか!?」
「よく、知ってる。それは……ね。でも、ぜったい、勝ちたかったの……」
息をはあはあと荒くしながらしばらく寄りかかる。
ノリさんは私から降りて心配そうに見ていた。
「このままだと他馬の迷惑になるな……寄りかかったまま歩けるか?外ラチにコースアウトするぞ。」
「がんばる……」
なるべく左前脚を地面につけずに庇って歩く。
ゆっくり、ゆっくりと……支えられて歩いて、着いた瞬間崩れ落ちた。
「大丈夫か!?」
「平気……ではないけどね。ありがとう。メジャーはウイニングランしなよ。私に構ってないでさ」
「それは……」
「まさか、私が怪我をしたから勝敗納得してないって?ダメだよ。私はちゃんと走って、貴方に負けたんだから」
ファンが待ってるよ、と言うと苦いものを食べたような表情をしたあと、トボトボと歩いて去っていった。
厩務員さんや調教師さん、お医者さんが私の脚を診ている。
うん……がんばりすぎちゃったかな。
眠い、ひたすら眠い……。
次話、ベルサフィールのデータベース。