彼が初めてG1を制した有馬記念、強さを示したドバイシーマ、三強の対決となったキングジョージ。全てが心に残っています。どうか、安らかにお眠りください。
伝説は死なない。あなたの騎手を勤めたひとからの言葉です。
ベルサフィールにとって、キングカメハメハとは別方向にきっとあなたは無くてはならない存在でした。あの有馬記念は彼女にとっても大きな転換点だったと思います。奇しくもベルサフィールの月命日、五回忌1ヶ月前に亡くなってしまい、私はもっと元気なあなたの姿が見たかったと悔しい思いでいっぱいです。
天国では、キングカメハメハやスイープトウショウらの同期、ディープインパクトたちライバルとあなたの子孫の活躍を見守っていてください。
荒々しく、と私
何度か現役時代走ったアドマイヤグルーヴさん。
そのヒトも私と同じファームにいる。
穏やかでどことなく気品がある方だ。
「牡ですか?」
「えぇ、ちょっと元気すぎるところがあってね……」
「牡ですもの、それくらいがちょうどいいですよ」
あぁ、あのヒトは毎年子供を産めるのだな、と少し自己嫌悪してしまう。
私の息子と娘は、活躍しているらしい。
私はお医者さんが言うには、子供ができにくい身体らしい。
でも0ではなく、事実2008年から今年2012年までは3頭の子供を産んだ。
私だって普通の牝馬のようにたくさんの家族に囲まれたい、みたいな夢ぐらい持つ。
3頭の子供の父親は皆カメハメハくんで、とても感謝してるのだ。
……すごい気まずいけど。
受胎しなかった繁殖牝馬も複数おり、その子たちと来年は産めるといいわねえ、あんな痛い思いそうそうしたくないよ、なんて話をする。
……あら?
てくてくと私の方に歩いてきたグルーヴさんの牡。
「ねえ、お姉さん、遊んでよ」
「……お母さんに遊んで貰いなさい」
「やだ。だってお母さんよりお姉さんのほうが速そうなんだもん」
「……」
なんとなくそれが、昔の私に、キングアイオライトに、クイーンサフィラに、キングキュアノスのように見えてきて。
「いいわよ」
なんて返事をしてしまったのだった。
「ごめんなさい、ベルさん。うちの子がわがままを……」
「いいえ。元気な子ね、将来が楽しみだわ」
この子、カメハメハくんの子供なのよね……。
グルーヴさんは現役時G1を連覇するほどの実力の持ち主だったけど、それでも満足しないのかしら。
「一緒に走りましょう。あそこ……グルーヴさんのところまで……ね?」
「わかった。よっし……」
一気にキリッとした顔つきになった彼。
他の牝馬よりは速い自信があるが体重が増えてかなり衰えてる。
満足させられるだろうか。
「よーい、どん!」
久しぶりに芝を駆ける感覚。
あぁ、そうそうこれこれ……本当に久しぶりだわ。
もう少し軽い体重にしたら気持ちよく走れるのに。
あのこは、びっくりしたような顔で、必死に私に追い縋ってる。
この歳でここまで走れるなら気性次第でG1とれそうだけれど。
まだまだ未熟……未完の大器といったところだろうか。
「ふう……いい運動になったわね」
「お姉さん、手抜いたでしょ」
私が先にゴール地点に着いて、ワンテンポ遅れて彼も着いた。
じろりと睨んでくる。
だが怖さなんてものはなく、可愛いなあと思うだけだった。
「当たり前じゃない。折れたらどうするのよ。」
「むう」
「単純に実力差もあるけどね。…………じゃあ私はこれで」
「待って!!もし、もしだよ。おれがお姉さんより速くなったら、ちゃんと相手して!」
「……いいよ。そのときに、会えたら……ね」
2017年
「……お姉さん」
「えぇ、まじかあ……」
「何だよその顔。これでも二冠馬だぞ」
「へえ、そうなんだ。立派になったねぇ……というかなんか擦れた?こう、反抗期来てる気がする。あ、名前は?」
「……ドゥラメンテ」
「うん、いい名前だね、ドゥラメンテ」
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さいごのはなし
きっと私は、予感していたのだ。
薄々気づいていた。
私の命があと少ししかないことに。
まあ長くは生きられないことは、この身体に産まれたときから決まってたことだ。
後悔はない。
消えゆく運命なら、受け入れるまでだと。
ただ、最後に欲張ってしまった。
まっすぐ好意を伝えてくれた彼へ、形として残したかった。
子供はものではないのに、愚かなことだと思う。
でも私は、願ってしまった。
「わたしの命と引き換えにでもいいですから、最後に仕事は全うしたい」
なんとなく、産めば私が死んで、私が生きればこの子が死ぬのはわかっていたように感じる。
だけど私はベルサフィールだったから。
期待してくれたみんなのためにどうしても頑張らなければいけなかった。
「なんで、なんでだベル。どうして俺を置いてくんだ」
ぽろぽろと涙を溢すカメハメハくん。
泣かないでほしいと思うのは傲慢だろうか。
「どうして、どうして生きたいと願わなかった」
そりゃあ、母親だもの。
どうかこの子を憎まないでほしい。
彼だけではなく、他の皆も。
悪くないのだ。
悪いのは、身体が弱い私。
「行かないでくれ……お願いだから、行かないでくれっ……!」
泣き叫ぶ我が子の声が聞こえる。
切に願うカメハメハくんの思いが伝わる。
もう、いいのだ。
私は数えきれないほどの幸せを人生で掴んだのだから。
だから、どうか……
「あなたに、あなたにも祝福がありますように」
ベルサフィールが死んだ。
子供を産んでから、死んだ。
自分の子供を産んで、死んだ。
「あぁ……」
そんな、そんなのって
「俺の、せいじゃないか……」
オルフェーヴル、ゴールドシップらステマ組……ベルサフィールおば……お姉さん。おばさんなんて言った日にはぶっとばされる。ベルサフィールは子供がなかなかできない体質なので実子、または弟のように彼らを可愛がってる。
ジャスタウェイ……同期のダービー馬クイーンサフィラのお母さんは自分の父親(ハーツクライ)の好きなヒトなので会うたび緊張してる。何も知らせてないのに鬼電がかかる。
クイーンサフィラ……ジェンティルドンナに負けず劣らずのお嬢様。だが男前。それがいい。ディープかディープの子供とばかり配合させられてるがジャスタウェイくんが気になるお年頃。