模倣宝石(もほうほうせき)とは、天然の宝石や貴石をまねて製造された素材のことである。合成宝石(人工宝石)、人造宝石、模造宝石に大別される。天然の宝石や貴石に比べて価格が安い。
Wikipediaより
私はキーゼル。
ドイツ語で小石を意味する。
突然だが、私には前世というものがある。
この世界にはウマ娘なるものが存在し、別世界の魂と名前を引き継ぎ生まれてくる。
非常に走ることが大好きで優れている。
かくいう私もそのウマ娘のひとり。
私が他のウマ娘と違うのは……前世の記憶、この身体と名前に宿る魂を覚えていることだ。
ではどのような人生を前の魂は送ってきたか……それは、「ない」。
この魂は、走ることを楽しむ前に亡くなっている。
夭折、というのだろう。
母親が目を離した一瞬、スピードを出しすぎるあまり柵に激突。
骨折し薬を打たれ安楽死、だ。
でも私はこうやって元気にしてるしおとなしい性格だったから壁や柵に激突なんてしたことがない。
そもそも私は孤児院育ちである。
母親の顔は知らない。
今日がトレセン学園入学式で、この魂にとっての本番はここからなのだろう。
わかったよ私、絶対生き残ってみせるからね……!
『わたしはお母さんに会いたいんだけど……』
ん?誰かいる?気のせい?
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「私はレッツゴードンキっていうの。よろしくね!」
「あっ、うん。私はキーゼル。よろしく。」
きらきらとした瞳のかわいい栗毛の女の子が隣のゲートみたいで……。
今は最初の選抜レース。
これに出走し何かしら記憶に残さないとトレーナーにスカウトされない。
証拠にスタンド席には大勢の中央トレセンのトレーナーたちがいる。
スカウトされないと、どうなってしまうのか……想像しただけでゾッとする。
『お母さんいないかなあ……』
「あー……緊張するな……」
あいにく注目されてるのは同じレースを走る名門の令嬢リアルスティール。
アメリカからの良血のお嬢様ウマ娘とウマ娘の名門出身の父親を持つエリートだ。
だからきっと幾分かは楽なはず。
「東条トレーナーだ、今日もカッコいい……!」
「沖野トレーナーもいいよね……実力は確かだし」
「南坂トレーナーに初G1プレゼントしてあげたい……」
リギル、スピカ、カノープスのトレーナーたちは流石の人気。
実力もあってキャラも立ってるからな……。
「あっ、チームレグルスのトレーナーよ!いつも忙しいのに……!珍しいわね!」
「いつ見てもあれが既婚者なんて信じられないわ」
「子持ちでもあるしね」
いっそう在校生のざわめきが強くなる。
チームレグルスのトレーナーは、大企業の社長とトレーナー業を掛け持ちしてることで有名だ。
しかもトリプルティアラウマ娘アパパネ、スプリント女王ロードカナロアなどのスターウマ娘も輩出している。
そして……
「クイーンサフィラ先輩だわ!今日も麗しいわね」
「ドバイシーマクラシックを制覇なんてすごいよね。しかも相手はあのジェンティルドンナ先輩!」
若々しい端正な顔立ちをした男性の隣に佇む美しい先輩。
瞳はサファイアのように青く煌めいている。
「チームレグルスっていつもはカメラでレースとってスカウトする子決めてるんだって。今回直接赴いてるなんて珍しいよ」
「へえ……」
どくん、どくん。
心臓がいやな音をたてる。
魂が叫んでいる。
あれは私の家族だと。
「キーゼル、もう時間よ?緊張してるの?」
「あ、そうなの……?」
いけない。レースに集中しないと。
頬を叩いてゲートに入る。
この閉塞感は慣れない。
「ふぅ……」
魂が家族と言ってるからなんだ。
私は私なのだ。
母親なんて、知らない。姉なんて、知らない。
ガチャン!!!
ゲートが開き、私はすうっと前に行った。
ドンキちゃんは逃げ、リアルスティールさんは私と同じ先行。
これは1600メートルマイル戦。
一番この時期の、デビュー前のウマ娘たちがこなす距離である。
故にリアルスティールさんはなれてるだろうしドンキちゃんもそうだろう。
他の子も……拙いがきちんと位置取りしてる。
私は三番手の位置、スロー逃げのドンキちゃんに着いていく形。
コーナーを曲がり坂を上ると、ゴールが見えた。
先頭はドンキちゃんだがリアルスティールさんに抜かされそうで。
他の子も一斉に脚を伸ばす。
私は最内を通って懸命に頭を伸ばした。
ゴールするのは一瞬で、あっという間だった。
そして順位が今ボードに書かれて……
一着リアルスティール
二着レッツゴードンキ(1馬身)
三着キーゼル(クビ差)
ほんの少しの差で負けてしまった。
はあ……。
でも三着だしもしかしたら最後の脚を見てスカウトが来るかも??
リアルスティールさんはたくさんのトレーナーに囲まれて、その問題のチームレグルスのトレーナーとクイーンサフィラさんは……。
「そこのあなた、少しいいかしら?」
優美にどこか儚いオーラを出しながらこちらへ歩いてきたクイーンサフィラ。
……の、後ろは……
「さっきのレースに出てた……」
日焼けした黒い肌に癖のある茶髪、軽そうな見た目だがどことなく気品がある、そんな男性だった。
「おと……」
「も、もしかして、私ですか!?」
お父さん、と私が口を動かそうとしたのとほぼ同時にドンキちゃんが叫ぶ。
「うん、そう。スカウトしに来たんだけど」
「受けます!もちろん受けますよ!!」
「はは、すごい熱量」
和やかな会話が交わされるのを目の前に見て、私はようやくまともな思考を取り戻した。
あぁ、恥ずかしい。
ドンキちゃんと言葉を重ねてなかったら、変な目で見られるところだった。
わかるはずもない。
そう、わかるはずもないのだ。
私は所詮イミテーションで、道端にある小石。
キングやクイーンの冠を生まれたときからつけられていたひとたちとは違う。
なぜ、神様は私を、私だけ記憶を戻したのだろう。
なぜ本来死ぬはずだった私がここで走ってるのだろう。
やはり、きつい。
きついともうひとりの私も泣いている。
せめて認知してほしいと……まあそんな日訪れなさそうなんだが。
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「……。」
今日の選抜レースを大画面のテレビで見ている女性がいた。
美しい黒絹の髪をおろして、理知的なサファイアの瞳をじっとテレビへ向ける。
「どうしたんだ?お前のお眼鏡にかなうウマ娘でもいたのか?」
「……まあね」
ウマソウルが関係あるだけでこのウマ娘世界にベルサフィールとキーゼルに母子関係はないです。