「キーゼルさん、少しよろしいかしら?」
「ハ、ハイ……」
中等部の教室にやってきて、にっこりと微笑んだクイーンサフィラ(姉)の圧に負けてコクコクと頷くことしかできなかった。
場所を変えてチームレグルスの部室。
メンバーも多く実績もあるからか広く品のある調度品で揃えられてる。
壁にはたくさんのレイとトロフィー、そして写真。
「あ……」
暗い鹿毛の小さなウマ娘を抱いて微笑む綺麗な女のひとの写真がお父さん……レグルストレーナーの机に飾ってあった。
「この人って……」
「お母様……あなたのトレーナーです。この子供はキングルナーリアです。このときは写真を撮る余裕があったんですけど……」
話はお母さん……ベルサフィールから聞いている。
末子キングトルマリンを産んだ際に体調を崩し一時命も危うくなったことを。その後も体調不良が頻発し入院していたことも。
「ルナーリアはまだトレセン学園に入る年齢ではありませんが……なかなかに素質を感じられるんですよ」
妹のことを話す彼女は楽しそうでもあり、悲しそうでもある。
「それで、お話とは?」
「それはお母様のことです。」
わかってはいた。
彼女たち姉妹からすれば疑問だろう、わたしも未だに謎だ。
なぜベルサフィールは私を選んだのか……。
わざわざリスクのあるトレーナー業をすることにしたのか。
「どうか、お母様を見ていてください」
「……え?」
トゲのある言葉を吐かれると思っていた。
でもあまりにもそれは……予想外だった。
「お母様はただでさえ体が弱いんです。本来、トレーナーが学生である私たちウマ娘を見なくてはいけないことは分かっていますが、お母様が心配なのです。」
頭を下げ必死に頼み込むクイーンサフィラに慌てて頭を上げるように頼む。
「やめてください!わ、私はそのつもりですから!」
「本当ですか?ありがとうございます。任せますよ?」
「はい。任せてください」
そもそもベルサフィールの体の弱さは現役時代を知るファンからすれば当然の知識だった。
脚が脆く体は弱く全力を出しづらい……。
その風貌もあいまって桜に拐われそうな儚さがある。
「そのもうひとつお願いがある……というか謝罪ですがいいでしょうか?」
「なんですか?」
「ドゥラメンテのことです。ええと、あの娘の家庭事情を知っていますか?」
「お母様が物心つく前に亡くなられていて、母親代わりのひとに育てられたと……」
「それが私のお母様です」
なるほど、と思った。
だからあのときあんなに驚いていたのだ。
「ドゥラメンテはお母様、ベルサフィールに強く憧れてるのです。だから自分ではなくあなたをスカウトしたことがショックだったのでしょう。これからあなたに強く当たるかもしれませんが、あの娘自身もそれはよくないことだと分かってるので……許して上げてください」
「はい。今さらなんですが私は……サフィラ先輩の家族の方の心を乱してしまったんですね」
「気にしないで。あなたは悪くありません。ただ、私たちは本当に……本当に、疑問だっただけなのです」
「サフィラ先輩は春シーズンを休むと聞きました。秋シーズン頑張ってください」
「えぇ。華麗なる一族として……チームレグルスの一員として全力を尽くします」
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