「そういえばこの前、私の娘……キングキュアノスが皐月賞を勝ったじゃない?」
「はい」
「そのときは直接見れなかったけど、席取れたからダービー見に行きましょう」
「いいんですか!?」
「えぇ、勉強になるでしょう。なにせ世代のトップを決めるレースだものね」
月曜日、トレーニング終わりにそう言われた。
昨日は部室で一緒にオークスを見ていた。
やれこのウマ娘が強そうだの調子が悪そうだの。
桜の女王ハープスター先輩を退けたのはヌーヴォレコルト先輩。
そして次の日曜日、最も盛り上がるレース……日本ダービーがある。
「楽しみです!私直接レースを見たことないので……」
「それは良かった。じゃあ日曜日、10時に正門集合ね」
キングキュアノス先輩はベルトレーナーと同様に逃げの戦術を使う。
大本命の1.2倍に支持された皐月賞は逃げて五馬身の圧勝。
まだまだ未熟なウマ娘である私から見ても強い勝ち方だった。
正直あの世代は彼女キングキュアノス一強だと錯覚するほどに。
「もしかしたら戦うかもしれないのか……?」
だとしたら正直恐ろしい。
だって差せる気がしないもの。
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「よし、五分前ピッタリ……」
トレセン学園の制服……ではなく入学祝いに施設長から買って貰った薄い青のワンピース。
襟元に控えめのフリルがついていて清楚さを演出している。
ベルトレーナーはいつもおしゃれで高そうな服を着ているためそれに並ぶ私も相応の服を着なければならない……と思う。
制服で十分?
いや、これはベルトレーナーとの観戦。
つまりはデートだ!!!
ドキドキしながら正門で待ってると、黒塗りのリムジンが静かに止まった。
……え、なんかデカくない?
「おはようキーゼル。」
「オハヨウゴザイマス……?」
「なんでカタコトなのよ。ほら早く乗りなさい」
車内に入ると……もうすごい。
まず広いしクッションあるしふかふかだし……小さな冷蔵庫にあったソフトドリンクを差し出されたのでいただく。
「つめたい……おいしい……」
「イタリアのファンから贈られた葡萄ジュースだけど美味しいわよね。日焼け止めは塗ってきた?日傘差せないから帽子とかあるといいわよ」
「はい。帽子は持ってきてないですけど。あとお昼ご飯ってどうするんですか?」
「東京レース場にあるお店のウマそばは美味しいわよ。あとは甘いものもあるし……絶対混むから私が二人ぶん買うようにするわね」
「意外です……トレーナーさんってそういうの食べるんだ……」
「失望した?」
「いいえ!むしろ親近感わきます!」
「そう。なら良かったわ。初めて観戦するって言うからどうせなら東京レース場のグルメを食べさせたくって」
その気遣いに感動する。
ベルトレーナーってお嬢様だけど意外と俗世のものにも親しんでるんだ。
「というかリムジンって初めて乗りました。ふつうの車と全然乗り心地違いますね。」
「あぁ、それは実家からのだから。いつもなら私たち家族が使ってるリムジン出すんだけどそれは夫……チームレグルスが使うらしいからね」
流石華麗なる一族……車ひとつとっても一流……
「ふふ、車だけでこんなにはしゃぐのね……ダービーはもっとすごいわよ」
くすくすと笑うベルトレーナーを見て恥ずかしくなった。
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そこから東京競馬場につき、グッズを買ったりご飯を楽しんだりレースを見たり……メインの日本ダービーの時間が近づいてきた。
「パドックでの様子だけでハイレベルなことがわかります……」
「キュアノスは……大丈夫そうね。まああの人が担当してるもの……」
大本命キングキュアノス先輩は堂々とした落ち着きっぷり。あのひとだけシニアウマ娘の貫禄だ。
ハーフアップにされた黒鹿毛の美しいウマ娘。
姉であるクイーンサフィラ先輩、キングアイオライト先輩、母のベルサフィール先輩と似たような勝負服だ。
黒がメインで青と黄を差し色にしていて大人っぽい。
「勝負服、憧れます……」
「かなり後になるけど、今のうちにデザインとか決めておいてね?」
そっか……私クラシック走ることが目標だからね……。
「他の先輩もすごいですよ!」
「流石ダービー。キュアノス以外だと……ワンアンドオンリーや皐月賞二着のイスラボニータかしら?」
私からしたら皆レベルが高いように見えるけどなあ。
そのなかでもキュアノス先輩はずは抜けてる。
「ゲートは……皆落ち着いてるわね。キーゼル、見逃しちゃダメよ?」
「はい!あぁ、始まっちゃう……」
熱狂のダービーが。
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『今スタートしました!第81回日本ダービー!大外の大本命キングキュアノスぐんぐん伸びて……逃げてます!いつも通りの横綱レースを見せてくれるのでしょうか?』
「(大外で心配だったけど、スタートも良かったしこのまま逃げれそう)」
ほっと息をついたキングキュアノス。
まだ油断はできない。
わたし対策に大勢のウマ娘がプレッシャーを飛ばしている。
楽に逃げられる、なんて思わない。
大外なぶん距離のロスがあるし……マークも集中している。
だけど、成長してるのは他のウマ娘たちだけじゃない。
浅く息を吸い、コーナーを曲がりながら加速する!
『さあ先頭のキングキュアノスに向かって他バが襲いかかる!!逃げきれるのか一番人気キングキュアノス!おっとここで加速したー!!』
「(あっ、これは勝てるな)」
普通はそんなことは思わない。
だがキングキュアノスには確信があった。
絶対に勝てる……と。
『キングキュアノスが止まらない終わらない!二番手争いは接戦!イスラボニータとワンアンドオンリー!』
ふと観客席を見ると、憧れであり大好きな母親が見えた。
「(お母さま……)」
皐月賞では来てくれなかったのに、本当にずるいひとだ。
最近は担当ウマ娘にかかりきりで寂しく感じる。
「(私、お母さまを越えたい)」
偉大すぎる母親の重荷を、少しでも……
『キングキュアノス!キングキュアノスだ!これは圧勝!キングキュアノス一着!今年もベルサフィールの子供が熱い!』
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ウイニングランをするキングキュアノス先輩。
「圧勝でしたね……」
「圧勝だったわね」
七馬身の圧勝劇。
大外の不利をものともせず……世代どころかシニアのウマ娘と走っても勝てるのでは?
「すごかったです……!本当に、言語化できないけど……!」
「そうね。一着のキュアノス以外にも強いレースをして、将来を感じさせる子ばかりだったわ」
「トレーナーさん、私もいつかは大舞台で……!」
「えぇ。わたしが連れて行ってあげる」