おもしろくない。
最近チームの練習にいまいち集中できてない。
メイクデビューが近づいてるというのに。
眉間にシワを寄せながらムスッとした表情を浮かべたドゥラメンテは、寮の一室で休んでいた。
自分のトレーナーに「集中できてないな、よし、暫く休養だお前」と言われて練習から半ば強制的に追い出された。
下手に抵抗して、絶賛反抗期中とか思春期とか言われたらイラッとするので大人しく従ったのだ。
集中できない理由はわかってる。
憧れのヒト、ベルサフィールのことだ。
母親代わりにドゥラメンテを育ててくれた彼女は、ドゥラメンテの永遠の憧れであった。
その走る姿を見て……心を奪われてしまった。
あの姿に追い付きたいと思った。
あのヒトに誉められたくて、堅苦しい楽器の習い事も、面倒な社交界の友人関係も頑張った。
当然、父親のように育ててくれたレグルストレーナーのチームに入るとほぼ全員思ってたし、そのドゥラメンテの才覚からクラシックの有力ウマ娘として入学前からメディアに取り上げられたりもした。
チームに不満はなかった。
けど……
「まさかトレーナー業をするなんて……」
かなり昔に聞いたことがあるけど、正直忘れてた。
なぜ今になってやることにしたのか。
なぜ相手は自分じゃないのか。
なんで、ぽっと出のウマ娘にベルサフィールの隣を奪われたのか。
怒りと戸惑いと嫉妬とでおかしくなりそうだった。
キーゼルはなにも悪くないことはわかってるから、あまり悪い思いを抱かないように接触を絶ってる。
キーゼルの走りを見ても、いまいちピンとこない。
末脚は光るものがあったが、自分のほうがずっと速いじゃないか。
どことなく外の空気を吸いたくなって寮から出ると、ドゥラメンテは吸い寄せられるようにチームとは別方向のグラウンドへ歩いた。
そこには二人のウマ娘が……トレーナーと担当ウマ娘がいた。
「キーゼル、ラスト1ハロン気を緩めたでしょう」
「はぁ……すみません……はぁ、はぁ……」
「確かにラスト1ハロンは誰だって最初の1ハロンよりは遅くなりがちだけど、最後に垂れたらその隙を狙われるかもしれないわ。まあ垂れなくても差されることはよくあるけどね、私みたいに」
「自虐ネタぁ……」
トレーニングをしているベルサフィールとキーゼルが見えて、目の前が真っ赤になった気がした。
「ベルさん!」
ドゥラメンテが大声で叫ぶと、きょとんとした顔のベルサフィールが見上げた。
「ドゥラ?どうしたの?」
いつものように柔らかい笑みで、いつものように優しい声で返すベルサフィール。
「なんで……っ!なんで、この子にしたんですか……!?トレーナーをしたいなら、お……私を担当すればいいのに」
「違うわ、順番が。この子の走りを見てトレーナーしたいと思ったの。」
「そんな……そんないい走りに見えたんですか……?」
「わかってたけどショックだぁ……」
ガーンとショックを受けるキーゼル。
ベルサフィールは本気で戸惑っていた。
「えぇ……?なんとなくビビっときたから?」
「私を担当しなかったのは?」
ドゥラメンテの一人称は「俺」だ。
けど、ベルサフィールを相手にすると「私」にする。
「私は一人が限界だし、あの人のほうが貴女は伸びるからよ」
ベルサフィールは冷静に返す。
夫でもあるレグルスのトレーナーは経験も実績も豊富だから、まだまだ未完の大器であるドゥラメンテにはあっていると話す。
ドゥラメンテは、納得できなかった。
「~!!もしキーゼルと私が対決することとして、私が勝ったらキーゼルと交換してください」
「それは無理。だってキーゼル負けるもの」
「ベルトレーナー、ひ、ひど!」
「まだキ甲も抜けきってない子供だからねキーゼル。今年デビューのあなたと比べたらね……」
誉められたのかな、とドゥラメンテは嬉しくなった。
でも、楽しそうに笑いあうベルサフィールとキーゼルが直視できなくて。
まるで本当の親子みたいで泣きそうになった。