King Exit ♯   作:ただの誰か

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9話 預言書

ボヘロスの街が燃えている。あの日の地獄だ。僕は空からそれを眺めている。自分の記憶ではないことはすぐわかった。覗いているのは僕を助けてくれたガーデーモンの彼の記憶だ。

 

「どうなってんだ!?」

彼も混乱している。なにが起きているのか理解していなかった。

そうしている間に他の魔族が見えてくる。その魔族達は楽しそうに人間の死体を掲げていた。

 

「お前らなにやってる!」

その姿を見て彼が食って掛かる。

 

「なにって……戦争に決まってるだろ?」

彼に止められた魔族達のほうもなにやら困惑している。いまのこの状況になんの不自然さも感じていないようだ。

 

「戦争?……今更なんで……」

「人間を殲滅して地上を支配するのが魔族の悲願だろ。お前どうしたんだ?」

「皇帝も倒した!もう戦争なんてする必要ないだろ!」

「……頭でも打ってボケたか?戦争はこれからが本番だろ?」

魔族達の言葉は明らかにおかしかった。魔族達の戦争は帝国の皇帝を打倒し終わったはずである。なにもかもが彼の認識と違っていた。

 

「俺たちはもう帝国を倒した!デスポリュカも取り戻した!……そうだデスポリュカは!?」

今のこんな状況を彼女が許すはずはない。彼女に会うことさえできれば少しは状況が理解できるはずである。そんな彼に対して魔族達は不思議そうな表情で返した。

 

「デスポリュカって誰だ?」

 

 

 

 

 

 

彼は空からボヘロスの城に飛び込む。城の玉座には魔族の長であるトーデイラがいた。

 

「やっと来たか。探したぞ」

ガーデーモンの彼を見たトーデイラは冷静に声をかける。

それに対して彼は相変わらず混乱したままだ。

「トーデイラ様!みんなおかしくなっちまった!急に人間どもを殺し始めるし!デスポリュカのことも知らないなんて言うんだ!ザナハリー様まで……」

魔族達の話を聞いたあと、彼はあちこち飛び回った。しかし、狂っていないものを見つけることは出来なかった。残滓であるザナハリーでさえデスポリュカのことを覚えておらず、残忍な虐殺を楽しんでいた。

 

「……そうか……永久洗脳はうまく機能しているようだな……」

彼の言葉を聞きトーデイラはそんなことを言う。

 

「どういうことですか!?みんなを洗脳したんですか!?」

「腹芸の出来そうにないやつらはな……順を追って説明する」

そう言ってトーデイラは腕をあげ指をさす。指さした方向にはクリスタルに包まれたデスポリュカとその仲間の姿があった。クリスタル越しにもデスポリュカは深手を負っていることがわかる。

 

そのクリスタルの隣では一人の少女がふさぎ込んでいる。

 

「そこにいる小娘がデスポリュカを襲撃した」

「は?」

彼は怒りをあらわにして、ふさぎ込んでいる少女にとびかかろうとする。

「やめろ」トーデイラはそれを制する。

「なんで!?」

「こいつはまだ生きている必要がある」

「意味が分からねぇ!デスポリュカの仇だろ!?今すぐ八つ裂きに……」

「そんなことはわかっている!」

トーデイラの怒声が響く。殺意のこもった声だ。その声を聞き彼の動きが止まる。

 

「……とにかく聞け……問題はこれだ」

トーデイラは一冊の本を取り出した。

 

トーデイラ曰く、取り出したものは預言書というものであるらしい。デスポリュカ達もこれに翻弄されていたとのことだ。その預言書はいつの間にかふさぎ込んでいる少女の手に渡り、少女がデスポリュカを打倒するための決心をさせた。少女の読んだ未来では魔物も人間も滅び誰も生き残ることない世界になっていたらしい。それを阻止するために少女はデスポリュカを襲撃した。そして、その本は今トーデイラの手の中にあった。

 

「残念ながら……魔族が勝利する未来は描かれなかったがな……少し気になる点があった」

そう言ってトーデイラはとあるページを開く。

 

『キシュ歴942年魔族は本格的に人類に牙を向け、ボヘロスに地獄を作る。その中で魔族デスポリュカが死亡する』

 

そのようなことが書いてあった。

 

「デスポリュカは深手を負い今はあの状況だ。いつ目を覚ますかも知れん。しかし……死亡したわけじゃない」

「何が言いたいかよくわからねぇ」

トーデイラの言葉に彼はピンと来ていない。

 

そんな姿を見てか、ふさぎ込んでいた少女が口を開く。

「この本に描かれている未来は、この本を書いたものの認識の範囲でしかない……書いたものが死んだと思っていれば死亡したと書かれる……ボヘロス様の姿を見て……気づいた……」

「だからどうだってんだよ?」

彼はイライラした態度で少女の方に目を向ける。

 

「魔族の絶滅もそう……書いた人間が……あの子が……これを書いた時点で魔族が絶滅したと認識していれば……そう書かれる……それが歴史になる……」

少女が顔を上げる。僕はその顔を知っている。あのお祭りのときに比べたら、少しは大きくなっているが、まだ幼い顔つきをしている。いつかまた会いたいと思っていた。そう願っていた。

 

「私たちは歴史を騙す」

僕が会いたかったグイーネの姿がそこにあった。

 

魔族の絶滅は避けられない。あらゆる歴史を模索してもそれは覆せなかった。話し合う、逃げる、死力を尽くして戦う。どの未来でも結果として魔族は絶滅していた。しかし、絶滅した歴史の裏で魔族を生かすことは出来るのではないか。トーデイラとグイーネの共通の見解であった。歴史の裏で少数の魔族を生かす。その為に歴史通り多くの魔族は討たれる。そして預言書の著者に魔族は絶滅したと記述させる。

 

その未来を創るために選ばれた歴史は『King Exit』という台本であった。奇しくもデスポリュカたちが最初に否定した歴史を彼らは演じることになった。

 

「歴史の裏で一部の魔族を生き残らせる……そのために、歴史通りに魔族は滅びなければならない」

トーデイラは落ち着いた態度で語る。

 

「じゃあ外の魔族たちがおかしくなったのは……」

「そのために洗脳した。ザナハリーもな。歴史の通り悪逆を尽くし人類に討たれるのがやつらの役目だ」

「別に洗脳なんてしなくたって……」

「全員で演じるか?馬鹿を言うな……万が一にも歴史の表には出せない。だからこその永久洗脳だ」

「トーデイラさまはそれでいいんですか?」

彼はトーデイラに詰め寄る。

トーデイラはしばらく口を開かなかった。淡々としている魔族の長も多くの悩みがあるように見えた。

 

「それで……少しでも魔族が生き残るなら……デスポリュカが目を覚ますときに少しでも生き残っているのなら……それでいい。皆覚悟のうえだ……洗脳したものも含めてな」

トーデイラの言葉に彼もなにも返さない。デスポリュカのためなら魔族たちはいくらでも命を投げ出せるのは僕も知っている。それだけ特別な存在であった。歴史の通り死ぬために自身を洗脳することでさえ厭わない。もちろん彼もそうだ。

 

「わかった……それでこいつを生かしているのはなぜですか……」

彼はグイーネの方をにらむ。

 

「最初にこの案を出したのがこいつだ」

トーデイラが返す。

 

「こやつと二人で策を練った」

「デスポリュカを襲ったやつでしょこいつは!?」

「そうだ」

「じゃあなんで!」

「こやつは……デスポリュカのために泣いていた。泣きながら傷ついたデスポリュカたちに寄り添い、この本を差し出してきた。ごめんなさいとな」

「だから信じるってのか?」

「本心なのはスカサハを通して確認している。それにこやつにも役目がある……」

「役目?」

「こやつはロビィの代わりとして死ぬ。それが歴史の決まりだ」

 

ロビィは魔族を唯一産むことが出来る魔族だ。それを生かすことは魔族としても必須と言えることであった。

 

「ロビィは歴史の上ではこの小娘を乗っ取り、そして討たれることになっている。だからこそこやつにはロビィとして死んでもらう。こやつはこれから人類の救世主として戦い、我らに捕らえられ、ロビィに乗っ取られた上で死なねばならない。そのために生かしている」

「そんなことできるんですか?」

「我らのもてる技術の全てを使いロビィを模したものを作る。それと永久洗脳の組み合わせだ」

 

トーデイラはグイーネのほうに目を向ける。グイーネのほうもその視線に応えて目を合わせる。不安そうな表情だ。しかし、彼女はしっかりと魔族の目を見据えていた。

 

「レジスタンスの人たちは?」

「貴様の情報どおりの場所にいた。全て捕らえて洗脳済みだ。この本については全て忘れてもらった」

「そう……なら予定通りね……」

 

グイーネは彼のほうに目を向ける。

 

「私はこのあと永久洗脳を受けて歴史の通りの人生を歩む。全てを忘れてね。だから後のことは、あなたたちにお願いするしかない」

グイーネは震えている。冷静な口調ではあるが恐怖があることは見てとれた。痛々しい姿だ。

そのままグイーネは言葉を続ける。

 

「一番大変なのは次の皇帝ナージェジタ……彼は魔族を滅ぼし……救う……そしてその次に難しい役目なのがあなた……」

「……俺?」

「あなたには最後の魔族として死んでもらう……それが役目」

 

彼の役目は最後の魔族として死ぬことであった。魔族が絶滅したと思われた数年後、突如としてボヘロスに現れ国を混乱させ、そこでかつて人類を救った英雄に討たれる。そのような筋書きが本には書かれていた。

 

「本来の未来であれば、最後の魔族が死んだのはもっと後で、ラシュヘイトでのはずだった。たぶんだけど……これは皇帝……ブレスカースが生きていたからだと思う……。でもブレスカースが消えた今描かれている未来では、953年……ボヘロスでの出来事になっている……あなたはそこで死ぬ」

「ちょっと待ってくれ……なんで俺なんだ?……別に他に相応しいやつが……」

彼は困惑していた。ガーデーモンの彼は魔族の中でも特質して優秀というわけではない。自慢の飛行速度だって、他のガーデーモンと比べても差はほとんどないだろう。魔族全体の命運を左右するような大役を任されるような立場ではないはずだった。

 

「貴様は魔族では珍しく人間との仲が良かった……先ほども人間の子供をボヘロスの外に運んだろ」トーデイラが言う。

実際彼はここに来る前に、人間である僕を助けてくれた。

 

「そりゃ……まぁ……そうですけど……仲が良かったって……それだけで?」

「それが一番重要だ。これからの世界で人間を最後まで信じきれるか……そこが問題だ」

最終的に魔族の生き残りたちは人間の手で隠され、その庇護下に収まることになる。そのことを信用できるものこそ、最後の魔族として死ぬものに相応しいと言えた。

 

「貴様がやることは既に決まったことだ……」

そう言ってトーデイラは彼にいくつかの書類と予言が書かれた本を彼に手渡す。

 

「仔細はこれに記した。予言書と共にナージェジタに渡せ。それが最初の仕事だ。急げよ」

有無を言わさない態度だった。

 

「……最後に聞かせてくれ……これは本当にデスポリュカのためになるんだよな?」

「すべてがうまくいけば……きっとな……」

「わかった。ならやる」

デスポリュカのためという言葉が聞ければ、彼に迷うことなどなかった。

彼は手渡されたものを抱えて動き出す。翼を広げ飛び立とうと、窓のほうへと移動する。

 

「少し待って」

その彼をグイーネが呼び止める。

「なんだ?まだなにかあるか?」

彼が歩みを一瞬止める。

「青い帽子の子助けてくれたんでしょ?」

意外な話だった。

「だからなんだよ」

「……ありがとう」

「そうかよ」

それだけの言葉を交わして彼はすぐに飛び立った。

最後に彼の記憶から見えたグイーネはあの地獄の中で少しだけ笑顔だった。

 

 

 

あの後、彼はたくさん辛い思いをした。人間も沢山殺した。魔族の仲間もいなくなった。それでもいつか来る最後のために生き残り続けた。

 

「それなのにさ……」

僕を助けるために彼は消えてしまった。魔族の融合ということは理解できた。僕と彼を一つにしたのだ。通常の融合と違うのは、残った人格が魔族である彼ではなく、人類の僕であることだ。

 

「バカだ……ほんとバカだよ……」

彼はここで消えていいはずがなかったのだ。未来で最後の魔族として死ななければならないはずだった。たかだか一人の人間を助けるために投げ出していい命ではなかった。だというのに死に際の僕の世迷い事のせいで、彼は消えてしまった。

 

「……頼む……か……」

彼は最後に僕に頼むと言っていた。魔族のことをデスポリュカのことを頼むと願っていた。

「……僕が最後の魔族ね……」

 

そんなことを呟く。人格は人のままだ。彼の記憶は見た後も、自分が魔族である自覚なんてもてなかった。それでも自分が魔族の最後を努めなければいけない。それだけはわかった。

 

 

その場でただ待つ。彼がここにいた理由もわかっている。

数時間後、人間が数人ここに来た。フードを被り、顔を隠している。その中の一人がフードを脱いで顔を出す。

「どうして貴様がここに居る」

少し威圧的な口調だ。

 

「お久しぶりですナージェジタ殿下」

僕の前には険しい顔つきの王子様がいた。僕が帝国にいってから優しく面倒を見てくれていた時の表情ではない。

 

「……一人か?」

「はい」

「他の者は?」

「皆死にました」

王子様は言葉を選んでいる。この場で会うはずだった魔族がおらず、人間の姿をしたものがいるのだ。最悪の事態も想定しているのかもしれない。口封じのために僕を殺すことも考えている可能性だってある。

 

「大丈夫です……待ち合わせの通りですよ」僕が言う。

「お前……融合で乗っ取ったのか?」その言葉を聞き王子様は少し食い気味に返した。

「融合はしました……残ったのは彼じゃなくて僕の方ですけど」

「…………そう……か……」

王子様は僕の言葉を聞き少し黙る。先ほどの険しい表情ではなくなったが、今度は見てるこちらが辛くなるような暗い顔に変わる。

 

「あいつの記憶を見たか?」

「はい」

「……今の自分の立場は理解しているのか?」

「だから予定の通りここに居ました。僕が最後の魔族です」

僕の言葉を聞き、王子様は崩れるようにその場に座り込んだ。そしてまた沈黙が続いた。王子様は顔を伏せたまま喋らない。僕をどうするべきか悩んでいるのか、はたまた僕の今の立場を憐れんでいるのか、どちらにせよ困らせていることに間違いはなかった。

しばらくして、やっと王子様が口を開いた。

 

「魔族嫌いの殿下が……裏では魔族を匿ってる…………誰が信じる?」

「……誰も信じないでしょうね。僕だって考えたこともなかった」

「なら……上手くいっているのであろうな……」

王子様は沢山の魔族を殺す裏で、一握りの魔族を救った。どうやったかは知らない。僕と融合した魔族もそのことについては詳しく知らなかった。ただ、王子様が歴史に記された外側で、魔族の一部を救い出していることは当初の予定に決まっていた。そして、それを信じて多くの魔族は死んでいった。そのことを裏切るような人ではないことだけは僕も知っている。

 

「魔族の中にはな……洗脳を受けなかったやつらだっているんだ……お前と融合したやつのようにな」

唐突な内容だった。それでも僕は黙って聞く。

 

「全員が全員を洗脳したわけじゃない……歴史の調整役のようなものもかなりいた……それこそ余に殺されるための部隊を率いていたりな……」

王子様は魔族との戦争に一度たりとも負けなかった。今となってはそのからくりもわかる。歴史にそう決められていて、その通りに王子様と魔族で帳尻を合わせていただけだ。結果の決まった内容を彼らはそうとバレないように必死に演じてきた。

 

「それで……そういうものを殺すのが余の役目だ。だから斬った!……斬ってきたんだ!……斬らなきゃいけなかったんだ……それでそいつらは毎回死に際に言うんだ……『デスポリュカを頼む』とな……」

王子様はへたり込んだまま両手で顔を覆う。その下の表情がとても辛いものなのは見えなくてもわかった。

 

「それを聞いてな……また余は魔族を殺すんだ……魔族だけじゃない。それに巻き込んで人間だって沢山殺した。自分の手で直接殺したものだって数えきれない……誰かに命じたものを含めればなおさらだ……いまこの世で一番命を奪ったのは……僕で間違いない……僕は魔族嫌いの殺戮者だから!歴史でそう決まっていた!」

王子様は悲痛な声が響く。

「…………もう……気が狂いそうだ」

あまりにも弱り切っている王子様を見て、ひとりの付き人が体を寄せて支える。フードの奥にいつか眺めた金髪が見えた。その人に支えられた王氏様はもう泣くのを止められなかった。その場で大声で泣き散らす。魔族嫌いの殿下の姿はそこにはなかった。

 

王子様は歴史の本に書かれた通りの未来を演じた。誰よりも魔族を憎み、誰よりも多くの命を奪った。そういう風に決まっていたからだ。僕だってその姿が当たり前なことと受けとっていた。

 

でも、歴史を演じていない王子様は今にも壊れそうなほど、憔悴している。それも当然だ。王子様はなにも変わっていない。僕が小さい頃に話したときと同じ、優しい王子様のままなのだ。そんな王子様に歴史の与えた役目は厳しすぎた。

 

「それで……貴様にできるのか?」

しばらくして、泣きはらした顔のまま王子様は僕に尋ねる。最後の魔族として死ねるのか、そういう意味であった。

 

「はっきり言うが、余は信用していない」

王子様の意見ももっともだ。昨日の今日すべてを理解したものに任せられるような役目ではない。それに僕が魔族に思い入れがあると言っても、王子様たちほどじゃない。デスポリュカのために死ねると堂々と言うことだってできない。それでも、僕は自分こそが最後の魔族に相応しいと感じている。

 

「昔……あなたに女の子の話したの……覚えてます?金髪の子の話」

「……それが?」

急な僕の話に王子様は少し困惑している。

 

「……その子……グイーネっていうんです」

僕の言葉を聞き、王子様はまた少しうなだれる。どう反応すればよいのかわからないのかもしれない。

 

彼女がどう生きてどう死んだかは有名な話だ。それにどうしてそうなってしまったのかも王子様は知っている。王子様にとってみれば、どれだけ恨んでも足りない存在かもしれない。でも僕にとっては違う。僕にとっては今でも大切な存在だ。

 

「だから……僕がやりますよ。最後の魔族は僕です」

彼女が始めたというなら、僕はそれに寄り添いたかった。そのために今があるのだと。そんな気さえしていた。

 

僕の言葉を聞き、王子様は懐から一冊の本を取り出す。表紙のタイトルには『King Exit』という文字が見えた。

「これが変化しないってことは……この役目は貴様のものなんだろう……」

歴史の本が変わらない。それは僕が役目を果たして死ぬという保証でもあった。

 

「この歴史を作るためにどれだけ犠牲になったかわからない……魔族も人も死んだ……多くの悲劇があった……これからも多くの悲劇がある……」

 

王子様は忌々しく本を見つめる。その内容を僕も知っている。魔族は絶滅する。それを宣言するのは王子様だ。そして王子様は皇帝になって更に大きな権力を持つ。その後、大陸の南ではこれから大王と呼ばれるものが暗躍することになる。それは死んだグイーネの身体を乗っ取り沢山酷いことをする。世界を救った英雄たちも死ぬ。あのゲオルイースだって酷い目にあう。そのことを知っている。

 

でも僕たちはそれを知りながら眺めるだけだ、止める気なんてない。うまくそうならなければ、そうなるように手助けすらするのであろう。

 

それが彼女が選んだ歴史だからだ。こんな酷い世界でも、最良として選ばれたのがこの歴史で、そのためにもう山ほどの犠牲を強いてきた。もう止めることなど出来はしない。

 

「全部……わかっているつもりです……それでも、僕がやります」

どんなに酷い歴史であろうとこれは彼女が選んだものだ。なら、それに沿って死ぬことくらい、僕の役目があってもいいだろう。

 

 

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