King Exit ♯   作:ただの誰か

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幕間0

あの日、僕は消えた友達を探していた。

 

魔族が現れて数日、その友達は行方不明だった。だから僕は毎日街のあちこちを探していた。どこにも人事体あまりいなかった。みんな魔族を怖がって出歩かない。そんな中でもパンを店に並べようとしていた両親はやはり少し変だったと思う。そして、その両親の言いつけも守らず、外に出歩く僕も聞き分けのいい子供ではなかったのであろう。

 

その日は、ボヘロスの像があるとこまで足を延ばそうとした。遅い時間だった。空は暗かった気がする。どれだけ探しても見つからないから、最後は神頼みになったのだ。人気のない道を進んでいった記憶がある。あのタイミングであんな人気のない場所に歩いていったのは、今思うと我ながら危機感に欠如していたと思う。そういえば、家に帰ったあと散々叱られた気がする。

 

ボヘロスの像までの道中に、一人の少女がいた。今思い返せば少女だが、あの頃の僕からしたらお姉さんという感じだ。その少女は体を丸くして一人で泣いていた。

 

「どうしたの?」

たぶん、こんな間抜けな声をかけ方していたと思う。急に声をかけられた少女がびっくりしていたのは記憶にある。

 

「……少し……辛いことがあってな……」

少女は本当に辛そうな表情をしていた。

 

「……僕も友達がどこにいったかわからなくなって……辛いです」

僕は自分も辛いとアピールして返した。今思い返すと随分と子供じみでいた返答だ。

そのあと、少しだけその少女と話した。僕はそのとき、魔族の悪口を沢山言っていたと思う。その少女はそのことをまったく否定せずに聞いてくれた。

 

「魔族のこと憎いか?」

僕が一通り語ったあと少女が聞いた。

 

「当り前じゃないですか」

僕は当然だといった態度で返した。

 

「そうだよな……魔族は悪いことをしたもんな……」

その返答を聞き、少女は笑った。悲しそうな笑みをしていた。

 

「どうやったら許されるんだと思う?」

その質問に僕は困った。許すなんて前提がまず頭になかった。あの時の僕にとって、魔族は憎むべき存在でしかない。それでも、僕は子供の脳で精一杯考えた。随分と長く悩んでいたと思う。

 

「……僕にはわかりません」

そうして出てきた答えはこれだった。

わからないから、わからないと答える。馬鹿正直な子供だったと思う。

 

「でも……僕の友達にすごく賢い女の子がいるんです。その子ならわかるかもしれません」

自分ではわからないからといって、友達任せにした。その友達ならきっといい答えを持っているのではないか、そう思った。

 

「そうか……じゃあそいつに会うことがあったら聞いてみよう」

当てにならない僕の話を聞いて、その少女は優しく笑った。本当に答えを求めていたのだと思う。

 

少女はそのまま立ち去ろうとした。

後ろ姿を向けている少女に僕は最後に一つだけ聞いた。

 

「あなたがボヘロス様ですか?」

バカな質問だったと思う。ボヘロスの像に行く道中で出会った見知らぬ少女。それだけで僕はその人を本物のボヘロス様なんじゃないかと思った。神様が僕に会いに来てくれたんじゃないか、そう勝手に勘違いしたのだ。

 

「さぁな」

その少女は否定も肯定もしなかった。そしてそのまま僕の前から姿を消した。

そんな姿を見て僕は大いに勘違いをした。本物のボヘロス様に出会ったと散々あちこちにも言いふらした。

 

その少女が魔族の幹部であることを知ったのは、少し後のことになる。あのときは魔族に騙されたとがっかりしたものだ。ボヘロス様に出会ったと言いまわっていたのも良くなかった。魔族をボヘロス様と勘違いした僕は大恥をかき、しばらく人に合わせる顔もなかった。

 

 

 

 

 

「……それがやっぱり……本物でしたとはね……」

オーフェのボヘロスの像の前で僕は呟く。

昔の記憶は中々に苦いものだった。あの時は随分と白い目で見られたものだ。

 

オーフェにあるボヘロスの像は本当にデスポリュカの姿をしていた。そのおかげで、古い記憶も随分思い出せた。わざわざ見に来たかいはあったかもしれない。

 

あの日、デスポリュカがあんなことを聞いたのも本当に答えを求めていたからなのだろう。今になって、それがわかる。本当に苦しんでいたのだと思う。だからこそ、一人で泣いていたのかもしれない。魔族に対しても、人に対しても、涙を流す。どちらものあの人にとっては大切な物だったはずだ。

 

いつも精一杯悪ぶってはいたが、優しいボヘロス様はずっとそのことを心に引きずっていたのかもしれない。

 

それでも頑張って、戦い続けて……そして、グイーネに討たれた。僕が『答えがわかるかもしれない』などと言っていたあの子にだ。冗談みたいな話だ。それで終わりだなんて僕は認められない。グイーネ本人だって認めないはずだ。だからこそ、いまの歴史を選んだのだと思う。

 

歴史はまだ続いている。まだ答えが決まったわけじゃない。いつか……遠いいつか、魔族達が許される日もくるかもしれない。そう信じて、グイーネは託した、ナージェジタ皇帝は歩んだ、魔族達は散った。僕もそのことを信じているからこそ、決められた終わりに向かっていける。

 

この世に未練もない。僕個人の人生なんてとっくに終わっている。こう思うと、何もなくなっていてよかったのかもしれない。もし、個人として何か大切なものが残っていたら、きっと辛かったと思う。それこそ、決心が揺らいでいたかもしれない。

 

僕はそんなことを考えながら、デスポリュカの姿をしたボヘロスの像を改めて見つめる。

 

その時、ふと隣から声がした「なにこれ?」

懐かしい声な気がした。そんな気がしたせいか、僕はその声に自然と反応してしまった。

 

「不思議なことにね……」

僕はボヘロスの像を見つめたまま、言葉を続けた。

 

 

 




これで終わりです。
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