僕は今日も走る。走るだけで本当に強くなれるのかはわからないが、体力だけは間違いなく昔よりついた。いまは街を10周しても平気だ。
家に戻ると金髪のお姉さんが買い物をしているのが見えた。僕の家のパンを買ってくれている。なんとなく、僕は少し離れてその人を眺める。金髪の綺麗な女性だった。誰かのことを思い出す。あの子も成長したらあんな風に綺麗になっていたのかなと思った。
「おい貴様」
「わっ!?」
急に後ろから声をかけられ、びっくりして振り返る。そこにはピンクの髪にフリフリの衣装を着た王子様がいた。
「ダイアナのことを見つめていたが……まさか気があるのか?」
王子様がかわいい顔をして睨んでくる。見れば見るほど女の人のようだ。
「ち、違いますよ……ただ、昔の友達を思い出して……」
「なるほど。そうか」
王子様は睨むのをやめてくれる。
「しかしあの見つめよう……その子のことが好きだったのか?」
「それは……」
僕はその質問に困る。あの頃の僕にそのような恋愛的情緒があったのだろうか。まだ幼かったころだ。まぁ、いまでも大人と言うほど成長していないが。
「わかりません……もし一緒に大きくなってたら……好きになってたのかも……」
「ははは!なんだそれは!」
あいまいな僕の返答に王子様は大げさに笑う。馬鹿にされたようで少し悔しい。
「しかし……なら、再会して確かめてみないとな」
「……きっともう……死んでますよ」
彼女の姿は魔族が現れたあの日以来見ていない。
「確認したのか?」
「……死んだって話は聞いてないですけど……」
「なら、まだわからないじゃないか!生きてるかもしれない」
「……それは……」
難しいと思えた。たくさんの人が死んだのだ。あの中にいたと考えるほうが自然だ。
「どちらかわからないなら。生きてると思っていた方がいいぞ。貴様は再会したときに『死んでたと思ってたよ』なんて言うつもりか?」
「……それは……確かに一理あります」
可能性が0ではないなら、それに備えておくのに越したことはない。頭でっかちな僕は納得してしまう。
「再会したらどうする?」
「……今度こそ、悲しいことにはならないようにしてあげたいです」
そのために、今日も走っていたのかもしれない。強くなっているような実感はないけど。
「そうかそうか……いい心がけだ……よし、暇な時があったら余が剣を教えてやろう!今日はもう帰るがな!」
そう言って王子さまは金髪のお姉さんを迎えに行く。
家の前で僕をからかっていた王子さまを、今度はお姉さんがからかっている。でも楽しそうだ。さっき突っかかってきたのもあるし、王子さまはお姉さんのことが好きなのかもしれない。
二人がはしゃいでいる姿を見て僕は思う。もしかしたら、やっぱり僕もあの子のことが好きだったのかもしれない。だから、今度はあの子が悲しまなくてもいいようにしたいなんて答えたのかもしれない。
いっぱい走ろう。王子さまに剣も教えてもらおう。強くなろう。そんなことを勝手に決意した。そうすれば、今度こそ悲しいことからあの子を守れるはずだ。