ボヘロスの館の前、僕がもってきたパンを魔族がかじっている。
魔族がこの街を占拠してから3年たった。僕はあのころよりかなり大きくなった。もう街を50周はできる。
「先輩がさぁもう引退するとか言いだしてなぁ」
「なんで?」
「もう体にガタが来ちゃってんだと」
僕も隣で一緒にパンを食べる。3年という月日で僕も少しだけ魔族という存在に慣れた。全部が全部というわけではないが、ボヘロスの館の周りにいるガーデーモンとは、たまに話したりもする。僕の家のパンをよく買ってくれるお得意様だ。
「あぁ……時々疲れたとか言ってたガーデーモンの魔族?」
「そうそう、もう足ひっぱちまうって言ってさ」
「空飛ぶのってやっぱ疲れるんだ」
「当り前だろ。お前だって街の周り走れば疲れるだろ」
「……まぁそうだよね。でも魔族は疲れないって思ってる人もいっぱいいるよ」
「そういう誤解が少しずつ解ければいいんだがなぁ……」
魔族は姿かたちも人間とは違う。僕だって長い時間をかけて、やっとほんの少し理解が出来ただけだ。世界中の人間が理解できるには、それこそ僕の一生の間にはこないと思えた。
「難しいんじゃない。僕らは空も飛べない」
「いや、魔族だって飛べないやつばっかだぞ」
「そういうことを言いたいわけじゃないんだけど……まぁいいや。とにかく空を飛べる君たちと、僕らじゃ目線が合わないんだよ」
人と魔族ではすべてが違いすぎる。能力も見た目も、寿命だって違う。まるっきり別の生き物なのだ。
「目線合わせればいいんじゃねぇか?」
そう言って、隣にいたガーデーモンが僕を抱えて空に舞い上がる。
「うわあああああああ!?」
僕は情けない大声をあげた。地面がどんどん遠ざかっていく。すごいスピードだ。
あっという間に僕は雲の上までたどり着く。下を見たら僕の住んでいるボヘロスの街が手の中にすっぽり収まるサイズになっていた。
「どうよ、同じ目線になってみて」
魔族の彼が楽しそうに僕に聞いてくる。「悪くないね」そう答えた。
自分の見ていた世界が、あんなに小さなものだとは今まで知らなかった。
「それじゃあ、俺たち仲良くやれっかな」
「そうだね。僕はうまくやっていければいいと思うよ」
「他の連中もこうすりゃうまくいくかな?」
「それはどうだろう」
そう言いながら、僕は地面に小さく見えるボヘロスの街を両手で包み込む。
ただ、あれくらいの小さな世界での話なら、なんとでもできるような気がした。
今の僕と彼みたいに、友達のように笑い合えるんじゃないか。そう思えた。