Black Externa ─黒の極致─   作:サム・ソー川

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10話「コール・ネーム(4)」

 

 

 ドミニオンに包まれ、空が暗雲に覆われた池袋。

 しかしその風景の概要……ビルや建物の配置は変わっていなかった。ただ、それらの内部は全くの混沌模様が極まっている。

 まるでブロックで作った街を、形はそのままに、ブロックだけを入れ替えたように。

 そして入れ替える前と違って、別メーカーのブロックで作った(ドミニオン)と繋がってしまっている。本来ならくっつけられない物が繋がったことで、流入してくる別の住人(まじゅう)

 

 中には魔獣同士の争いが起こっている場所もあるかもしれない。爆破音が遠方から響く。

 

 混沌は増しつつあった。

 

 

 そして、その混沌をビルの上から眺めている者がいた。

 上空の風に煽られ、(なび)く青いマント。同じく青で揃えたシルクハットの下の仮面は、視線を隠している。しかし、どこかを()ていることだけは伺えた。くるくる回していた人差し指が止まる。

 

「どうやら、()()()も気づいたかしら?」

 

 何かを察知した『道化師』が、ふわりとビルから飛び降りた。

 

 

 


 

 

 

 ごちゃ混ぜになってしまった街でたった一人の少女を探すのは、砂場で米粒を探すに等しい行為だ。

 普通の人間なら諦めてしまってもおかしくない行動を、黒装ディルは愚直に実行した。

 

 彼は半魔であり、すなわち魔物だ。無意識の強力なエゴ──恵那を見つける──が人智を超えた直感を彼に与えていた。

 

()()()()()あっちの方にいる!)

 

 足を動かす。ショッピングモールの景色から商店街の脇道、かと思えばオフィスの真っ只中に切り替わる景色。区画を走り抜ける度に変わるその光景だが、もはや気に留めるような新鮮さはなかった。ドミニオン内では即時適応が心身ともに生存するコツである。

 

 だが変化には目を凝らさせねばならない。疾走しながらでも、ディルはドミニオン内の様子が変わりつつあることに気づいた。

 

(魔獣の数が増えてる……?)

 

 本屋を出発する前まで、魔物や異形の姿は見えたものの、累計ほんの数匹。しかし今は区画に入れば二、三匹は遭遇するハメになっていた。とはいえまだ建物や棚の裏に隠れている人間もちらほら見える。襲われた数はそう多くないはずだ。

 しかし、このドミニオンが数多のドミニオンと繋げられていることを考えれば、流入してくる魔獣は次第に増えるだろう。それは対応が難しくなっていくことを示していた。

 

(はえーとこ見つけねーと……!)

 

 次第に焦りが増大するディルが次に出たのは公園。トイレの入り口から出現した彼はその景色に見覚えがあった。

 植樹林が自然らしい景観を生み出す()()()()()の住処。西池袋公園だ。

 

 どうやら元々外にあった場所は空間をずらされていないらしい。公園から見たドミニオン内のビル景観はオーバーライド前と大差ない。強いて言うなら、ところどころ違う色のブロックで作ったような歪な構造に変化しているぐらいだ。そこは別の空間となっているのだろう。

 

 そのまま走り続けようとしたディルだったが、そこに呼び止めの声がかかった。

 

「お〜〜い、うお〜〜い」

「ん?! この声って?!」

 

 まるで意気揚々に司会トークを繰り広げそうな声の主を探す。最優先目的があるとはいえ、聞いたことのある声である以上、無視できないのがディルという人間を表していた。

 

「ここですぞ〜〜」

「えっ」

 

 声の出どころは足下からだった。さらに言うなら人間からではない。水筒ぐらいの大きさしかないハニワのような石像がそこにはあった。

 しかし、ディルはその石像の装飾に見覚えがあった。燕尾服と思しき服飾、顔にある触角のように伸びた口髭。

 

「メフィストフェレス────!?」

 

 池袋でドミニオンを構えているはずの地獄の太公が、変わり果てた姿(ハニワ)となっていた。

 

「このような姿で失敬! いやぁ、昼前に会ったばかりですな」

「えっ、待って、なんでそんな姿に?」

「ふむ、話せば長くなりますがよろしいですかな? 『グラビテイカー』殿?」

 

 唐突に告げられたディルの『魔の名』。それもそのはず。メフィストフェレスは『池袋の夜』のドミネーターだ。池袋に置かれているアレナの元締めたるドミニオン、その主であるが故に、池袋の様々なアレナから情報を見聞きしている。池袋内で戦闘したことがあろうものならその情報は筒抜けと言っても過言ではない。最も、メフィストに知られたからといって、彼は言いふらすようなことはしないのだが。

 

 問題はそこではなく、ディルが現在進行形で急いでいることだった。

 

(長くなるんだったらぶっちゃけ後で聞けばいい! けど突破口も知りたい……っ! どうする?)

 

 頭で恵那のことがよぎったそのとき、メフィストが考えを読んだかのように言葉を発した。

 

「なに、厄介な事態への対処にもつながりますからな。『そちらの欲しい情報』も少しなら提供できましょうぞ」

 

 明らかな取引の持ちかけ。しかし、それを聞いたことで悩むことなくディルは答えを出した。

 

「……分かった。聞かせてくれ」

 

 直感で探すにしても限界はある。それに引き換え、この地獄の太公(デーモン)が掲示する手がかりは代償がある分、信憑性は(まこと)だったからだ。

 

「まず、この事態を引き起こしている元凶がドミネーターなのは言わずもがな」

「まぁ、そうだな」

 

 首を頷かせる少年にメフィストは巧みなトークで状況を説明していく。

 

「吾が輩は池袋の各闘技場(コロッセオ)を預かっている身。ただのドミネーターでは吾が輩は食えんよ。しかしここ数週間、池袋内で吾が輩のアレナに干渉しようとする気配が感じられましてな。それも吾が輩と同じ魔界の者(デーモン)の気配!」

 

 それはメフィストが暗にドミネーターはデーモンだと教えているようなものだった。

 

「どうやら池袋の各所に、吾が輩とアレナの関係をシャットアウトする物が置かれたみたいですな。オーバーライド直前、それが起動したみたいでして。弱った吾が輩はこの通り」

 

 地面に寝たままのハニワがごろごろと横に転がる。

 ディルはメフィストの話を聞いて、彼の供述と直前に自らが体験した現象が重なる感覚を覚えた。すかさずメフィストに問う。

 

「それってあの黒いオブジェか?!」

「おぉ、知っていますか。ならば話は早い。五つ。五つ破壊すれば吾が輩の力は戻るに違いありますまい。さすれば、こんなちゃちなドミニオンなぞ、主ごと飲み干して見せよう」

 

 元の姿であればにやりと笑っていたところだが、今の彼はハニワ。シュールな絵面にしかならなかった。

 

「おっと、それとどうやらこのドミニオンは他のドミニオンと無作為に繋がっておりまする。しかも繋がる面が徐々に増える始末! いずれ入ってくる魔獣は外に溢れ、池袋どころか東京の地を埋め尽くすでしょうな。そうなれば外の連中でも対処は難しいかと」

 

 突然告げられた時間制限。元々恵那を探すために急いでいたのに加え、街そのものへのミッションも追加されるとなると手が回らない。

 元々他の半魔がやってくれればと考えていた案件だ。メフィストがこのような状況にされている時点で、自分も加勢しなければ『相当にマズい』ことがディルには感じ取れた。

 

「ド、ドミネーターがどんな奴なのか分かんねーのか?」

「先ほどもちらりと申し上げたのですが、デーモン……それも吾が輩と近しい道化であろうことしか分からなくてな」

 

 メフィストと近しい道化。それを聞き、ディルはかつて日下や春ノ戸から聞いた魔獣の分類を思い出す。

 あらゆる存在を嘲笑する悪質な冗談の権化。魔界の住人たちすら恐れる悪魔(デーモン)、『地獄の道化師』。

 

(だとしたら厄介オブ厄介じゃねーか……)

 

「分かった。じゃあこっちの……」

「そう焦らずとも。グラビテイカー殿が知りたがっていることですが……」

 

 メフィストが言いかけたそのとき、だった。

 

 

 

 辺り一帯を撫でるような冷たい風。

 

 その場を重厚な空気が包む。見えない霧がそのまま固まって動きを止めにくる、そんな気配が全身を突き抜けるように襲う。

 

 ディルとメフィストが転がっている公園の並木道、そこに別の何かが来たことのお知らせ。

 

「おや、何者ですかな」

 

 ハニワが声だけを発する。

 

 それに応じるようにふわり、とゆるい風が巻き起こる。ディルの背後で何かが舞い降りた。

 得体の知れない不気味さと共に、つま先から地面につくような軽やかさ。その気配には覚えがあった。

 ディルはゆっくりと顔を向ける。

 

 目に映ったのは青いマントとシルクハット。

 

 それを見て確信する。

 

「出やがったな……」

 

 シルクハットの下から笑みを浮かべた仮面が姿を見せる。

 それは、ディルが『かつて会った魔物』。

 

 

「ギヴィング・デス!!」

 

 




直感で進んで結果を勝ち取る行動、BBTプレイヤーには馴染み深い『罪による達成地増強』の演出だと思ってもらえればいいです。
エゴのゴリ押し、偉大。
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