Black Externa ─黒の極致─   作:サム・ソー川

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そろそろ半分は切ったはずです。具体的にはミドルフェイズの情報収集判定中みたいな。


11話「コール・ネーム(5)」

 

 

 まるでパフォーマーのように優雅に現れた魔物、ギヴィング・デス。女性らしく二つに結んだ紅の髪は、膝下まで届くぐらい長く、コバルトブルーの鮮やかな青いマントと連動して揺れている。

 

 ディルにとって待ち望んでいた邂逅。……しかし、状況が状況なだけに懸念が生まれていた。

 メフィストが提示したドミネーターの手がかり。

 『地獄の道化師』であるということ。

 そしてドミニオンをこんな状態にせしめた空間操作能力。

 

 それは、目の前にいるかつての『恩人』にも当てはまっていた。

 そう、ギヴィング・デスは地獄の道化師と呼ばれる魔物だ。

 

(あと、こいつは前のときも異次元にすーっと消えたんだよな……。もしも、こいつが元凶なのだとしたら)

 

 気づけば拳を握りしめ、険しい顔で道化師を見ていた。

 

「あらあら、怖い顔」

「お前がここのドミネーターなのか?」

 

 ディルは挑発に耳を貸さず、すぐに質問を投げつけた。地獄の道化師相手に悠長な会話をして、手玉に取られるわけにはいかなかったからだ。

 

「その前に、まずはこれを見てもらいましょうか」

 

 そう言うと道化師は手のひらを下に向けて広げた。パラパラと破片が地面に落ちる。

 

「貴方がこれから壊しに行く黒いオブジェ、私がすでに一つ壊したわ」

「……!」

「動くのが遅くないかしら?」

 

 挑発が重ねられる。しかしそれは友人たちの顔(いいわけ)を思い浮かべて心の平静を保つ。

 ドミネーターのパワースポットを破壊したということは、彼女が対抗する側であることを意味していた。

 

「どうやらお前じゃねーみたいだな」

「『あんなの』と一緒にしないでもらいたいわね。私もこんなドミニオンを違法建築されて困っているの」

「ドミネーターを知ってんのか?」

「オブジェを爆破したときに勘づいただけよ。そこに転がっているハニワさんと一緒」

「そうか……あっ! そうだメフィストフェレス! こっちの聞きたいことを……!」

 

 ディルがハニワに詰め寄ろうとする。

 

 そのとき、ギヴィング・デスが薄い手袋に包まれた指をパチンと鳴らす。その動作にディルは自然と視線が移されてしまう。

 

 彼女が手をくるりと上に広げると、そこから炎が湧き上がる。それはスクリーンのように何かを映し出す。

 

「貴方が探しているのはこの子でしょう?」

「!!」

 

 そこに映っていたのは、花壇の横で空を見上げる恵那だった。

 

 彼女が無事であることに安堵したディルは、ほっと息が漏れ出る。とはいえ、安全が確約された訳ではない。

 とにかく次の行動に移ろうと思ったディルだが、忘れていたことを一つ思い出す。

 

「そうだ、お前に言いたいことが……」

 

 

 

 そのときだった。

 

「む! この気配は!」

 

 メフィストが警戒の声を上げる。ディルがそれを聞いたときにはギヴィング・デスも含めた一帯の地面は、底が抜けるように真っ黒い穴へと変貌する。

 

「は?! ……くっ!!」

 

 しかしそこは身体能力に秀でた半魔、グラビテイカー。優れた反応速度で即座に背中から翼を生やし、飛翔。装甲を身に纏わせながら、横にいたギヴィング・デスも抱えて少し離れた場所へ飛んだ。

 

「あ〜れ〜」

 

 しかし、拾われ忘れたメフィスト像が、素っ頓狂な声を上げながら穴の中に落ちていく。そして即座に渦を巻いて穴は閉ざされた。

 

「なっ……!」

 

 メフィストが飲まれた。かの『池袋の夜』のドミネーターが、である。

 

 さらに不穏な空気は続く。穴のあった一帯に黒い瘴気が湧き出る。それは、見ている側も知らず知らずのうちに怒りに飲まれそうな悪徳の気配だった。瘴気は漂い、地面に影を落とす。

 そして影はぬるりと赤・白・黒の三色で構成された縞模様のコーンを捩れ出す。伸び上がったその影は弾けると中から人……否、人にしては異様にほっそりとした四肢、頭の横から左右一対に円錐状の角が生えた怪人が出現した。その顔は黒く塗りたくられ、額と目に白い星模様が添えられている。

 

 その身に纏う気配と、背中の黒い鳥のような翼。それを見たディルは直感で感じた。「こいつがドミネーターである」と。

 

 

(こんなところで出てくるとか聞いてねーぞ……!)

 

「……放してくれないかしら?」

 

 ドミネーターに気を取られていた中、脇に抱えられたギヴィング・デスが呟く。

 

「あ、すまん」

 

 放された道化師はふわりと宙に浮かび姿勢を正す。

 

 

 

「おやおやおやぁ……メフィストフェレスは飲み込めましたがぁ……」

 

 背筋をだらんと垂らした人外の頭──顔は下に向けたまま──から声がする。それは音を発しながらゆっくりと頭を上げていく。

 

「ワタクシのパワースポットを壊した不届き者は取り逃したようナノネ!」

 

 ニッと歪んだ笑みを浮かべ、ギヴィング・デスを見るドミネーター。

 

 

「てめー……何者だ?」

 

 言うだけならタダと、ディルはドミネーターに向かって問う。

 

「ミーは地獄の道化師、クリニ=エル」

「地獄の道化師……?! わざわざメフィストの力を奪ったってことはやつの地位を狙ってんのか!?」

「いいえ、NO、違うなぁ! ウチは丹念に為したいジョークを彩りたいだ・け。そこにいる汝ならよく分かるでしょ同業者さん」

 

 統一性のない口調が同じ『地獄の道化師』に分類されるギヴィング・デスへ向かう。

 

「そうね。あなたのは気に食わないけど」

 

 彼女は投げかけられた雑言をばっさりと斬り捨てる。

 その道化師のやり取りを聞きながら、ディルはクリニ=エルの意図を推測していた。

 

(名前は言ってきたけど本当か……? メフィストや隣のギヴィング・デス(こいつ)とも違うなりふり構わない口調もだけど、明らかに何か裏があるだろ……)

 

 そして、今この場でどうするべきかを必死に考えていた。

 前方にいるドミネーターを倒せば事態は解決するだろうが、メフィストの力を飲み込んだ相手だ。倒せる保証はどこにもない。それこそ、各地に置かれたというオブジェを破壊しなければ、だ。

 そもそもこの場から逃げられるのか? 相手はドミネーターだ。これからそのオブジェを破壊しようとしている存在をそう易々と逃すわけがないと。

 

 ディルがそう考えている間も、隣の道化師はドミネーターに口論をふっかける。

 

「わざわざアレナの近くにオブジェを置いていた辺り、よっぽど自信があったみたいね。陣形で芸術点でも取りたかったの?」

「おっほほほ。これだから無知な魔物はぁ。そんなちんけなコトに芸術を求めるとは愚か愚か。真の芸術はその姿を現してこそ芸術として認知されるんだ!」

「へぇ……『姿を現して』ね。まさか人間に見られたい露出癖でもお有りで? お生憎様だけど、私たちは人に見られず済ませたいの。それこそメフィストのアレナを使ってね。まさかお気に召さない? 自己主張が強いのかしら」

「ふん、所詮メフィストのやり口ではアレナは使いこなせません。それならわてくしが発展的な使い方をお見せしようとね! 異形を呼び出してぇ!!」

「──つまり、『魔獣の姿を隠すアレナが魔獣を呼びだすゲートになってしまう』。そういうジョークなのね」

 

 クリニ=エルの目頭がピクリと動く。ギヴィング・デスの推理が少なからず当たっていることを示していた。

 

「だけど、本当の()()()()も別にあるんでしょう? ()()()()はお見通しよ」

 

 ギヴィング・デスが最後に付け加えた一言。それがクリニ=エルの信仰心、その逆鱗に触れた。

 

「『主』の眼下で知った口をぉッ!!」

「やっぱり。あなた、語尾を伸ばすときは本当のことを口走っているわね。『堕天使』サン♪」

「…………ッッッッ!!」

 

 なんてしたたかな誘導尋問なのだろうか。横にいたディルはただただ驚嘆するしかなかった。

 ドミネーターを相手に一切臆することなく口論で優位に立ち、あまつさえ情報を引き出す。並みの魔物でもできないことだ。

 

「いずれにせよ、私の()()の邪魔なの。消えて」

 

 ギヴィング・デスが指をパチンと鳴らす。

 

「させませぇん!!」

 

 クリニ=エルは体を前傾させ、膝に力をこめる。前進する構えだ。しかしその僅かな隙さえ、仮面の道化師にとって狙い通りだった。

 

「残念。後ろよ」

「何ぃ?!」

 

 確認する暇も無くドミネーターの背中が爆発する。その爆煙は瞬時に周囲一帯を包み込んだ。

 

『残念ね。あなたの器は並の魔物と変わらないわ。所詮メフィスト(たにん)の力でドミネーターごっこをしているだけの存在』

「き、貴様ぁ!!」

 

 煙の中で響く道化の罵り合い。しかし口喧嘩の勝敗は明らかだった。

 

「けほっ。オイ! 何も見え……」

 

 巻き込まれたディルだったが、その手が強く引っ張られ、体ごとその方向に投げ出される。次の瞬間にはすとん、と地面に転がっていた。

 上に目を映すと空間そのものに開けたような穴。そこから投げ出されたのだろう。しかしディルが確認したと同時にしゅるしゅると閉じられる。

 辺りを見回すと、そこが先ほどまでいた西池袋公園とは全く別の場所であることに気づく。アーケードが頭上に見える商店街の道の真ん中だ。

 

「……は?」

 

 あっという間の出来事。呆気に取られるディルだったが、直後にギヴィング・デスの声が周囲に響いてきた。

 

『さすがに今ドミネーターとやり合う訳にはいかなかったから、目眩しの間に別の場所に飛ばしたわ。私は手品師だからこういうのは得意なの』

 

『私はあの道化紛いを撒いたら他のオブジェを破壊しに行くわ。貴方は他に優先したいことがあるんでしょ? あの子はサンシャインビルの四階、屋上庭園よ』

 

 その言葉を最後にギヴィング・デスの気配は消える。

 

「くそっ、言いたいことだけ言って消えやがって……」

 

 ボヤきながらも、足を動かす。アーケード商店街の広い通路を疾走する足音が響き渡る。

 

(にしても言いそびれたな。以前助けてくれたことの礼……)

 

 心残りは残ったままだ。しかし彼女がドミネーターを撃破することを頭に入れているのなら、この後また会うだろう。ドミネーターを相手に話術だけで翻弄し、あまつさえ自身を逃す余裕さえあった魔物だ。そう易々とドミネーターに捕まるはずがないだろう。

 

 

(そーいや……)

 

 走りながらディルはある事を思いついた。情報が手に入ったのだ。有効活用しない手はない。

 

 スマホを取り出し、本屋で待っている友人に電話を繋げる。

 

『もしもし? ディルか?』

「お! つながった! 宗也、そっちに天使の名前で魔界にいて神に忠誠誓ってそうなほっそいやつの……」

『待て待ていきなりペラペラ喋るな。まず、状況は? 流蘭院さんのことから』

「……今向かってる」

『じゃあまずそっち優先しろ! 口頭だと何言ってるかさっぱりだろ。L◯NE使え。てかこっちからメッセージ送るからその通りに送ってこい!』

「お、おぅ」

 

 困惑しながらも、通話が切られるとすぐ宗也からメッセージが届く。

 それはディルの『ドミネーターの正体を知りたい』という意図を汲み取った、宗也による箇条書きフォーマットだった。ディルから口頭で聞いたとしても、ごちゃごちゃの情報で推測することすら難しいと判断した宗也の智慧だ。

 

 箇条書きでシンプルに、と書かれた情報項目に、先ほど得られた情報を打ち込み送信する。分かりやすい仕様のおかげで入力に迷いは生まれなかった。

 

(さっすが成績上位の男……あのまま喋ってたらやり取りだけで時間吸われるところだったぜ……)

 

 

 


 

 

 

「おや、宗也君どうしたんだい?」

 

 隠れ家と化した本屋で書籍を読み漁っていた泰輝が質問する。ディルからのメッセージを読んだ宗也は泰輝に相談を持ちかけていた。

 

「なぁ、天使とか悪魔とかはお前の方が詳しかったよな」

「フッ……何を今さら……もしかしてRF3*1の新キャラの元ネタ探しかい?」

「いや、違うな。ディルが変なやつを見かけたからって情報を送ってきたんだ。それのネタ元を調べてくれってさ」

 

 直接的な表現は避けつつ、泰輝にもその情報を見せる宗也。

 

「天使……悪魔のふり……クリニエル*2……? うーん、さすがに分からないね! ここが本屋で助かったよ。書籍で調べ学習といこうか!」

「そーだな」

 

 事態解決までの新たな暇つぶし……もとい敵の核心に至る推理が始まった。

 

 

 


 

 

 

 宗也と泰輝がやり取りをする短時間の間に、ディルはまた別の出来事に見舞われていた。

 

 魔の姿のままアーケードを抜け、暗雲の空が見えたら翼を広げ飛翔。上昇気流のように、商店街が見渡せる上空まで上がっていたのだ。

 サンシャインビルの方向まで一気に突き抜けようとしたディルだったが、その視界の端で思わぬ物が目に入り、迷いが生じていた。

 

 昼食をとった直後に見かけたオブジェである。サンシャイン60通りで見た物だ、当然サンシャインビルに向かうなら見かけてもおかしくない。

 

 壊すか否か────。

 

 恵那への道を優先したいとはいえ、そのルート上にある。通りがてらに一撃で破壊できるのなら大きなアドバンテージだ。

 問題はそう簡単に破壊できるかどうかだが……

 

(あの仮面道化師ですら壊せたんだ。オレだってやれるはずだ)

 

 慢心とも取れる考え。だが、破壊できるかどうかでいえば可能であろう。魔物の中でも高い部類に入るディルの膂力と、腕に纏わる『白い闇』のエネルギーを合わせた破壊力は相当なものだ。

 

(すぐ終わらせる!)

 

 迷うぐらいなら、と視界の真ん中にオブジェを捉え、隼のように翼を少し折りたたみ急降下する。ビルが立ち並ぶサンシャイン通りを、上から下へ風圧が駆け抜ける。

 そして地面に近づいた折で、ハンマー投げのように遠心力を強くかけ、オブジェに向かって急突進。

 

 距離二十、十、五、三……。

 

 勢いを活かしたまま腕を上げ、振り下ろす。

 

「オラァッッッッ!!」

 

 拳に生えたブレードで斬る、というより叩きつけると言った方が正しい一撃がオブジェに加えられた。

 

 それは言葉通り切断に至らず、鈍器で殴ったようにオブジェを粉々に砕いた。

 

(よしっ……!)

 

 

 

 しかし、慢心が裏目に出るのはこの時だった。

 

 確かに、破壊できるかどうかに関して言えば問題はなかった。時間もほぼ数秒。道すがらにしてはほぼ誤差になる程度。

 

 だが、破壊することで罠が発動するとは念頭に置いていなかった。

 

 秒カンマも無い時間。オブジェの跡地から予想もつかぬ物が空間を割って出現する。

 

 

 中世の拷問器具、鉄の処女(アイアンメイデン)だ。

 

 二つに(わか)たれた三メートルほどの空洞人形、それが攻撃直後で隙だらけの憐れな獲物(ディル)を挟もうとする。

 内側に付けられた数多の直針。それが彼の視界に映る。挟まれれば即ち串刺し。

 しかしあまりにも速い出現。回避は間に合わない。

 

(死──────……)

 

 

 

 刹那、乙女人形が左右ともに撃ち抜かれる。

 

「!?」

 

 死亡直前のスローモーション視界が急に平常速度に戻る感覚。バラバラと砕けた処刑器具が地面に落ちる。

 あまりにも速い出来事にディルは脳が追いついていなかった。

 

 

 二、三秒経って少年はようやく気づく。魔天楼通りの上空を、直立したまま降りてくるシルエットに。

 

 全身をインディゴで染め上げた無機質なボディ。各部を走るラインはスカイブルーに発光している。全身鎧というには人間、それも女性としてのシルエットがよく(あらわ)れていた。

 鋭く伸びた剣のような翼と、肩・脚先のバーニアが、飛行を制御しているのだろう。その手に持つ形は銃なれど、銃口の無い異様な形状は地球上のものではないことが分かる。

 

(助けてくれた……? 半魔なのか?)

 

 口も目も見られない顔面は、表情が一切感じられない。しかし、一度も見たことのないマスクから響いたのは意外な声だった。

 

「やぁ少年! 無事かい?」

 

 陽気で軽薄そうな声。その声は、昼間公園でメフィストと共にいたとある人物のものと同じだった。

 

「アオイさん!?」

 

 

*1
巷で有名なゲーム『第三次ロリっ子ファンタジア』の英訳頭文字Rolita Fantasia the 3rd の略である。

*2
「偽名っぽいけど手がかりだろ」と思ってディルは入れたようだ。




即死級(トラップ)鉄の処女(アイアンメイデン)
オブジェ破壊に反応して、破壊者を即座に閉じ込め処刑する。

ゲームだったら上級ドミニオンルールの資産:トラップを極高数値にしたようなものです。【白兵値】25、ダメージ〈肉体〉75+2D6、みたいな。数値に起こすとやべーなオイ。
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