Black Externa ─黒の極致─   作:サム・ソー川

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3話「昼の側」

 

 

「黒装クン、おはよう♪」

 

 ホームルーム前の教室内、机に伏していたディルに声をかけたのは流蘭院(りゅうらんいん)恵那(えな)。昨日、彼が魔物の襲撃から助けた女子生徒にして転入生だ。

 

 そして、机に突っ伏していたディルが顔を上げるのに時間はかからなかった。

 朝陽が差し込む窓際で暖められていたからか、それとも声をかけられること自体に驚いたのか、とにかく声が聞こえた瞬間のそれは、ばねのような反応速度だった。

 

「お、オハヨウゴザイマス……」

 

 顔を上げた勢いと反比例するかのように、げんなりとした顔であいさつを返すディル。

 

「どうしたの? 元気ないわね」

「オイ! 教室ではあんま話しかけんなって言ったろ!」

「あら、助けてくれた恩人に話しかけることはダメかしら?」

「〜〜〜〜っ!」

 

 屈託のない笑顔で返される。

 昨日、ディルは帰り際に教室内で話さないようにと忠告をしていた。

 とはいえ、恵那の席はディルの真後ろ。わざわざ移動して挨拶しにきたわけでなく、前の席のクラスメイトに挨拶をする、というのは至極単純なことだ。傍から見て不自然なことでもないだろう。

 

 では、何故ディルは嫌そうな顔をしているのか。理由はこれまた単純なことだ。

 

 

 黒装ディルがクラスのはみ出し者だからである。

 

 

「おいなんで流蘭院さんが黒装に話しかけてんだよ」

「もしかしてあの不良に脅されてるんじゃ?」

「DQNネームの癖に……」

 

 怨嗟だったり、ただの言いがかりだったりがクラス中から聞こえてくる。ディル自身、この悪目立ちを予感して恵那に「話しかけるな」と言ったのだ。

 何度目か分からない居心地の悪さの中、心配そうな顔をした女生徒が恵那に声をかける。

 

「えなたん、大丈夫? 昨日黒装(そいつ)となんかあったん?」

「えぇ。といっても大事には至らなかったから大丈夫よ。帰り道に……」

 

 すでにあだ名で呼ぶ間柄の女生徒に、昨日の出来事を説明し始める恵那。

 自分が説明するよりも彼女が説明する方がマシだろう、そう考えていたディルだったが、ハッと気づく。

 

(そのまま話されたらオレが『魔物』だとバレるじゃねーか!!)

 

 慌てて恵那の口に手を当てる。その動作にまた教室がざわめくが、そんなことは気にしてられない。

 呆気にとられている恵那の手を引っ張り、教室の外へ足早に連れ出した。

 

 

 


 

 

 

「お前────っ!? あんなところで昨日の話なんかしたら色々とバレるだろうが────っ!!」

 

 ディルが校舎裏に恵那を連れて発した第一声はそれだった。

 ただでさえ危ないクラスでの立場。それに致命傷が入ると思った焦りから、彼の語気は一層強くなっていた。

 

「バレる? あら、もしかして私が昨日のことを()()()()話すと思ったの?」

「たりめーだ!! そのまま話されたらマジで学校にいれなく……()()()()?」

「あんな出来事、皆に言ったところで誰も信じないわ。『ストーカーを撃退してもらった』とか言って誤魔化すつもりだったのだ、け、ど」

 

 嗜めるように、ディルの顔を下から上へ、上目遣いで覗きこむ恵那。

 そこまで言われて、ディルは自分が早とちりで行動したことに気づく。

 

「あー……」

 

 ディルは口八丁に上手く誤魔化すことは苦手だった。

 これまでの高校生活で他人と関わることがほとんどなかったせいもあるだろう。恵那のように上手く立ち回る発想に至ってすらいなかったのだ。

 

「それよりもふふっ。いきなり教室の外へ連れ出すんだもの。クラス中大騒ぎでしょうね。まるでマスコミから逃げる芸能人みたいだったわ」

「ぐっ」

 

 何もしなければすぐ収まったはずの波を荒立たせてしまったことで、ディルは若干の後悔に襲われていた。

 教室に戻ると怪しむ数多の視線が降り注ぐだろう。それを考えるだけで羞恥と苛立ちによる汗がにじりと湧きだす。

 それに呼応するように、ホームルーム前の予鈴がスピーカーから鳴った。

 

「あら、もうこんな時間よ。戻りましょ」

「あー……そうだなぁー……」

 

 気の抜けた声でとぼとぼ歩きだすディルだったが、思い出したかのように恵那に声をかける。

 

「なぁ、さっきも言ったけど教室でこっちに話しかけんなよ」

「なぜかしら?」

「なぜって……そりゃあこっちはクラスのはみ出しもんだし」

「ふーん……」

 

 前を歩く恵那は振り返らない。興味がないのか、それとも何か考えているのか。寸刻の後、ディルの方に振り返って口を開いた。

 

「もしかして、『私まではみ出し者になってほしくない』ってこと?」

「ばっ……ち、ちげーよ!」

 

 見透かされたかのような発言に、思わず否定するディル。だが、恵那に嘘をつくのも申し訳なく思ったのか、少し冷静になって彼女の答えを肯定した。

 

「……いや、合ってる。あんたは偶然『夜の側(こっちがわ)』を知ってしまっただけだ。深入りして、疑われて、学校(ここ)に居づらくなっても……」

 

 スッ。

 

 ……と、発言を遮るように恵那の人差し指がそっとディルに向けられた。唇に触れるか触れないかの瀬戸際。消極的になっていた言葉はそこで消える。

 

「昨日の『契約』は私から取り付けたの。そのぐらい折込済み。そもそも、私を『守る』んでしょ?」

 

 再確認。あぁそうだ、と。それら危険をどうにかするのが自分の『契約』であったことをディルは思い出す。

 

「それとも自信が無くなっちゃった?」

 

 小悪魔のように恵那は微笑む。昨日と同じようにからかう彼女に、ディルは自分が格好悪く見えてるような気がしてばつが悪くなった。

 

「ねーよ、そんな訳……」

 

 直視できないのか、目線が自然と斜め下に逸れる。頬も紅潮していた。

 

「ふふ、それならよかったわ。そうそう、私、上手く立ち回るのは慣れてるの。だから、教室でも普通に接してね」

 

 そう言って教室への道を歩きだす恵那。

 

(『普通に』……か。簡単に言ってくれやがって)

 

 揺れる紅髪を眺めながら、ディルは無茶への不満と、されど不思議な安心感を感じていた。

 

 

 


 

 

 

 その後、教室に入った二人は奇異の視線に晒されるが、担任教師の話が始まるとそれらは教壇の方に向いていた。

 

 そして、一限目が終了し休み時間になった。

 ホームルーム前に恵那に話しかけていた女生徒が再び彼女に声をかける。前の席で机に顔を突っ伏しながら、ディルはその会話に耳を傾けていた。

 

「あれ結局なんやったん?」

「昨日『クラスの皆と打ち解けるにはどうしたらいいんだぁ〜』って泣きつかれたのよ♪」

 

(オイ!!)

 

 その後、小悪魔が『道案内してもらっただけ(何もなかった)』と言う(偽る)まで、ディルは耳が赤くなりっぱなしだった。

 

 




解説コーナー
半魔と魔物の違いって何?

その前にまず『魔獣』という存在の振り返りから。
ビーストバインドにおける魔獣とは、自らの欲望や衝動、つまり自我(エゴ)によって超常の力を引き出す存在を言う。
例:超能力者、吸血鬼、天使、悪魔、宇宙人……etc.
つまり、大雑把に人外の総称=魔獣と思ってもらえればOK。

で、魔獣というでっかい括りの中で、さらに細分化がされている。
エゴを極めて自分の世界を持つようになった『ドミネーター』、魂が奈落に飲まれた化け物『異形』、それら以外のやつが『魔物』だ。

で、魔物でありながら人間なんかの世界に迎合して生きようとするやつ……そういう半端な魔物は『半魔』と呼ばれ軽蔑されるという。

ちなみに、元々人間だけど魔物の力に目覚めたやつも魔物に含まれたり。そして言うまでもなく半魔として扱われる。


そして、これはそんな半端者たちのお話。
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