そして固有名詞と説明パートが多めです。ご了承を。
Melchizedek ……メルキセデクの
Muting ……沈黙させる
Master ……熟達者
大企業メルキセデク・グループの一部門である警備会社だ。侵入者などを速やかに捕え沈黙させる練度の高い警備部隊である。その評価は黙して語らず。
しかしてその実態は、
Melchizedek ……メルキセデクの
Monster ……モンスターを
Miner ……採鉱する者
メルキセデク怪物利用機関、すなわち魔物を捕獲・実験し技術に還元する非合法部隊だ。メルキセデクグループの発展は彼らの暗躍による魔物の能力・技術解析によるものだと噂されている。
故に『夜の側』で知らぬ者はいない。遭遇すれば自らの生存権が脅かされるに等しい危険組織。天界の魔物殲滅派・メタトロンの管轄だということも拍車をかけている。
そして、メルキセデクの傘下であるレイヴン製薬、その実験体でもあったディルにとって彼
ここにいるのが殴りつけた隊員一名
先ほど感じた視線も間違いでないと分かってしまう。
(さすがに敵の数も分からねーまま相手はできねーか……!)
何故なら守らなくてはいけない存在が後ろにいるからだ。いくら個では強くても、弾幕の中で彼女たちが巻き込まれないとは限らない。
「二人とも掴まってろ!!」
MMM一名にトドメを刺す時間すら惜しいと思った彼は、恵那とギアを脇に抱え飛翔。百貨店の入口から猛速で飛び出した。どこかに隠れるべくの逃走だ。
そのまま大通りを低空飛行で駆ける。その跡を銃弾が掠めた。
「……!」
間一髪だ。ビルに潜む別の隊員による発砲。全速力でなければ蜂の巣になっていただろう。
「クソっ!」
ディルの視力と聴力がフル稼働し始める。飛行による空気の流れ、トリガーに手をかける音、アイサイトによる反射……あらゆる情報が本能的に頭の中で組み立てられていく。
そして、先ほど通り抜けたビル群、これから通過する予定のビル群、それらひとつひとつに一、二名ほどの気配があると感知する。地上は包囲されていると言っても過言ではなかった。
ならば地下は? 確かに地下街は気配が無い。
ロボット群が徘徊していたからこそ、MMMも地上で調査を行っていたのだ。
(前門の虎、後門のなんたら……っ!)
「黒装クン、地下に! 包囲されるよりマシだわ!」
恵那のとっさの一言。迷いを吹っ切り目に入った地下鉄の入口へ急加速する。
(地下に気配は無い……しばらく撒けるはず……ッ)
しかし、そう思った少年の目に予想だにしない人物たちが入り込む。
階段から登ってきた四つの人影。それは今日会ったばかりとはいえ、非常に強く印象に残ったトンチキ集団だった。
背丈の低いメイドロボ姉妹、仮称ゴーレムとしか表しようがない魔物、そして装飾過多な生意気小僧。
彼らが、気配も何もなかったはずなのに階段からヌッと現れたのだ。
無論、あちら側も突撃してくる半魔を見て驚愕したようで……
「お、お前らはぁぁぁぁぁぁっ?!」
「ア、アナタたちはぁぁぁぁぁぁっ?!」
加速していた半魔は寸でのところで急ブレーキをかけるも、完全に勢いを殺すことはできない。抱えている二人を叩きつけないよう、代わりに自らの体を打ちつけた。地下入口の壁に。
「うげご……」
壁にみしりと埋まり込むディル。その身に抱えられていた恵那とギアはぽてりと着地した。怪我は無い。
一方、驚愕の表情を浮かべた姉メイドは、迫るサイボーグ部隊を見た途端に目が鋭くなる。
「そのままじっとしてるのですわ」
「えっ」
腕を前に伸ばす。
「レーダー捕捉。照準確認。
次の瞬間、彼女の背後から轟音と衝撃が放たれる。
壁に魚拓が如くめり込んでいた少年が見たのは、爆炎により破片が舞い土煙が上がる瞬間だった。
黙々と上がる煙の奥では黒コゲになった人型だった何かがいる。完全な沈黙だ。
それはビルにいたであろう潜兵も同じ。こちらも的確に撃ち抜かれていた。
「さしずめ二十数名ほどですわね。個々は大したことないですわ」
つぶやくツインテールメイドの周囲からは砲塔だけが突き出ていた。口径にして十センチほど、数にして三十近く。一仕事終えたのか、その先端から煙がふんわりと浮かぶ。
それらは「空間をぼかしたような異次元」としか呼びようのない領域から一部分だけを出していた。
「す、すっげー……」
迫っていた者もビルからの者も圧倒的な砲火により殲滅された、その瞬間を見たディルは思わず一言漏れる。
……と、同時にぼこりと壁から落ちた。
「
ここで、ディルの素顔を見た紫サンタ帽子……店でやかましく騒いでいた小僧は気づく。
「昼間の高校生どもじゃねーか。なんでこんなとこいるんだ?」
「巻き込まれだよ。気づいたら『こっち』の新宿に入ってた。逆になんであんたらがいるんだよ」
ディルの返しに、一瞬動作が緩慢になるクソガキ。
この仕草にディルは見覚えがあった。仕事をサボろうとする日下刑事のそれだ。
「そりゃあ、なぁ? ゼロツー、説明してちょ」
「はぁ? なんでワタクシに振るのですの?」
「めんどうだしぃー」
突然応答を投げられたメイドは苛立ちながらも答える。
「はぁ……。オホン、ワタクシどもはここの調査に来ましたの。小さいけれども最近噂されていたこの『廃墟新宿』へ」
それが今いる『こっち』の新宿であることをディルは容易に想像できた。噂も大方、「勝手に知らない新宿に出た」といったとこだろう。自分たちが知らぬ間に紛れ込んでしまったのも、ドミニオンの不可思議要素なら納得というものだ。
「えぇと……ゼロツーさんだっけ? あんたら、半魔だよな?」
「シャラップ!! その呼び方はやめてくださいまし!」
突然のシャウトに怯まされる。
「おっと、取り乱してしまいましたわ。さっきの呼び方は番号っぽくて嫌ですの。
「は、はぁ……」
まさかそんなところに地雷があるとはディルも分かるはずがなかった。こればかりは仕方ないことだ。
「改めまして、ワタクシは完璧で究極の美少女メイドロボ、『ツーちゃん』ですわ。こちらはワタクシに負けじ劣らずのキュートな妹、『サンちゃん』ですの」
「改めましてデス」
紹介に預かった妹メイドは無表情のまま軽いお辞儀をする。
「そして
「そう、何を隠そうこいつらを造った大天才、キラーアンデット
自慢げに高笑いする所長。明らかに只の役職名であることにディルが突っ込まないわけがなかった。
「いや、名前は何なんだよ」
「残念ながらこのアホはこれが名前ですわ。誰も真名を知りませんの」
「だってググられたくねーし」
「ググって出んの?!」
「出ねーが?」
「……」
傍若無人な言動ぶり。ディルが会った半魔たちの中でも特にひどいと言える人種だった。
見た目こそディルより年下だが、少なくとも年相応の見た目では無いだろう。ディルの直感が只者ではないと告げていた。
その傍若無人がディル本人へと向けられる。
「あ、そうそうお前『えとせとら』でこいつ見えてたよな」
所長は後ろにいるゴーレムのような魔物を親指で指す。昆虫のような二本足で仁王立ちする姿はなかなかにシュールだ。
「そいつ何なんだよ」
「こいつはオレ様が創った汎用ゴーレム型埴輪風万能オトモ生物的ロボ寄りサムシング・キラーアンデット
「
「こいつは人に擬態なんて器用な真似はできねぇ。そこで、天才であるオレ様はステルス装置をつけたのさ。……で、なんでお前は見えてんだ?」
所長はディルを上から下へ、首を動かしながらじろじろ見る。
「なんでって……そりゃ半魔だからだろ」
「何言ってんだ? このステルスは
そう言って後ろの恵那を指差す。彼女は店でもキラーアンデットが見えていなかったのだ。今も見えているはずがない。
「そうなのか恵那?」
「え? あ、
「うん?」
恵那の態度に違和感を覚えたディルは所長に問い詰める。
「もしかしてお前らも見えてないんじゃ?」
「え? ……あー! そういや『こっち』来てからオレ様たち全員にこのステルス適用させてんの忘れてたわ。地下のロボットどもはそれで全スルーしたかんな。解除すっか」
所長が手元に取り出したボタンらしき物体を指でカチリと押す。
すると、恵那はびくりと体を震わせた。見えていなかった者たちがいきなり視界に現れたからだ。
「え……っと、うん、個性的なヒトねー……」
ドミネーター相手に臆さず真名を言い当てた彼女ですら、昼に見ていた三人はともかくとして、初めて見たキラーアンデットの個性的な
「ヨロシクダワサ」
「!?!?」
「喋ったぁ!?」
キラーアンデットの人から外れた容姿が言葉を(しかも方言混じり)発すインパクト。さすがに二人とも困惑せざるを得なかった。
一方、ギアはそれらを見ても驚いていない。むしろキラーアンデットが喋ったことにキャッキャしている。
予想外の音声に呆然と口を開けたままの高校生に、「ツーちゃん」と自称した姉メイドが話しかける。
「ところで御三方、ワタクシたちが名前を言ったというのにそちらが言わないのは不公平でなくて?」
ツンケンとした態度で紹介を求めてられる。さすがにディルたちもそこで名乗りを渋るほどでもなく。
「
「
「
「……ちょおおおおいですわ?!」
しかしやはりというべきか、ギアの名前を聞いて大きなリアクションをする者はいた。
「その子、明らかにここの重要存在、っというよりワタクシたちが探してるコアじゃないですの!!」
ツーちゃんの困惑ぶりに所長もうんうんと頷く。
「そーだな。こいつオレ様たちが探してたコアだ。因果律操作でも成功したか?」
「はぁ……ともあれ、アナタ方はその子とどこで?」
「『こっち』に入りこんでから地下街で拾った。ただの迷子だと思ってたし、実際迷子だった。……まさかとは思うがお前らこの子に変なことするつもりじゃねーだろうな」
一応の牽制。MMMから助けてくれたとはいえ、彼らが何者かは未だ全貌が掴めていないからだ。
それに対し、いつの間にか所長は隠す気配も無くギアの腕にケーブルを当てていた。
「おわーっ! てめぇーっ?! 何してんだぁー!!」
「とりあえず調べようとだな」
慌てて所長からギアを離そうとするが、そこでサンちゃんが腕を握り止める。今まで特に話していなかったが故の気配の無さだ。
「説明がありマス」
続いて彼女が指差した方向、いつの間にか倒れたMMMに近寄っていたキラーアンデットが駆け寄ってくる。構造的に物を握れなさそうな
「スライドショ-ノハジマリダ」
人が機械音を真似たような何とも言えない声を上げたかと思えば、その目から壁に向かって光が照射される。
地下街入り口の壁に映される四角の簡易スクリーン。キラーアンデットが映写機の役割を果たしているのだ。
なお、皆の視線がスクリーンに寄ったその間に、ささっとMMMの装備が所長に渡される。
そして簡易スクリーンに文字が映し出される。
『戦慄! 恐るべし転移技術!』
「なんだこれ……」
「話すと長くなるので画像説明も兼ねたスライドですわ」
「じゃ、オレ様その間にMMMどもの目的も分析すっから」
所長はどこからか取り出したドライバーとレンチでMMMの装備に手を加え始めていた。なお、ディルが気を取られた一瞬の隙に、ギアの解析が終わっていたことを彼は知らない。
\ババン/
キラーアンデット製造所所長は大天才です。大天才なのでいろいろなことができます。
キラーアンデット(累計製作数二万以上)や対ディノキア用決戦兵器・自動人形*1『
「ぶふぉ──っ?!」
昨晩、帰り道に警告された魔神の名前が挙がり思わず吹き出してしまうディル。
「まだ始まったばかりですわよ。黙って聞くのですわ」
「ウッス……」
その間もスライドショーは続く。
〜都内某所にある研究所〜
ある日所長は思いつきました。
「ゼロツーとかゼロスリーに合体機構つけてーけど、アラストール*2から貰った魔艦のデータだけじゃどうにも足んねーな」
さらなる強化のためには従来のデータだけで足りないのは世の常です。
「そーだ、別ドミニオンから適当に検索して引っ張ってくるか」
さすが大天才。一部ではアカシックレコードとも言われている
「類似システムは並行世界Aのこれ辺りが良さげだな。エリア一帯の座標を指定して……あ、そろそろ三時じゃねーか。パフェ食いに行こーっと」
〜小一時間後〜
「何か忘れてる気がすっけど急ぎじゃない気がするしいっか」
馬鹿。阿保。愚か。クソボケ。
何ということでしょう。装置を起動させ転移までさせたというのに自分の
そして約三ヶ月近くが経過しました。
「あ。ゼロツーの強化案忘れてた。えー……と、いっけね装置使ってたんだった。あー、新宿辺りに並行系列の位相空間として移ったんか。現物に触れねーと分かんねーな。おーいゼロスリー、姉ちゃん呼び出してくれー」
「分かりマシタ」
※ツーちゃんは研究所を出て一人暮らしをしている。
〜そして当日〜
「やれやれ、ワタクシをわざわざ付き合わせるなんて、よっぽどワタクシの力が必要みたいですわねぇーっ!」
このメイドロボ、実はチョロいのだ。
「妙な事件になる前にそのコアとやらを回収してドミニオンを元の世界に再転移させる。善行を積もうだなんて良い心掛けですわ!」
微妙に言い方変えて説明してますね。まさか元凶が
そして一行は新宿地下から『廃墟新宿』へ乗り出す。ついでの目的で所長がデータを回収しようとしているのは気づかずに……
fin.
「オワリデアリンス」
「うわぁ……」
「えぇ……」
あまりの適当っぷりにディル、果てには横にいる恵那ですら開いた口が塞がらない状態であった。
そして、所長側のはずなのに聞かされていない情報が多々あったツーちゃんはそれ以上にわなわなと震えていた。
「合体機構だとかなんとか、ワタクシ聞いていませんわよ……?」
「お、そっちのスライド終わったかー? こっちはとっくに終わっ……」
「このカス!! やっぱりアナタが全ての元凶じゃありませんの!!」
「げふぼっ!」
ツーちゃんの、文字通りの鉄拳が所長の顔面にのめり込む。
普通の人間なら顔面がひしゃげるところだが、所長の顔は拳の形にへこむのみで済んでいた。
(なんかもうこいつらが危害加えてこなけりゃいっか……)
あまりの自由っぷりにディルは呆れを通り越して諦めの境地に至っていた。
一方、その横で同じくスライドを鑑賞した恵那は疑問点を正確に問う。
「そういえば先程のスライド、並行世界Aとか言っていたのだけれど、ここがそうなのかしら?」
「んが?」
頭を横からこねて元の顔に戻した所長。口をもがもがと動かしてから答え始める。
「そだな。この廃墟新宿が元々あったのは地球とよく似た別のドミニオン……人間社会だとパラレルワールドとか言われてるやつだな。そこから部分転移したのがここだから、あながち間違っちゃいねぇ。正確な呼称は知らねーからオレ様は並行世界Aと仮称してるってだけだ」
「ふーん……じゃあ廃墟になってる理由も分かるのかしら」
さらなる質問。恵那の物分かりがいいと理解したのか、所長の説明はさらに続く。
「オレ様天才だから、さっきローディングした
所長はキラーアンデットの口からコピー機のように出された紙を取り出す。
「さてさて……ははぁ、コイツがいた並行世界Aは『ニューヨークの惨劇*3』後にいろんな魔物が天界と全面戦争した世界なのか。そんで新宿は数年後に廃墟になったぽいな。おっ、Suicaの導入はえーぞこの世界!」
紙面をペラペラと喋る所長だが、先ほどから難しい言葉が続く関係で、ディルは何を言っているかさっぱりだった。
「つまりどういうことだよ?」
「違う歴史を辿った地球ってこった」
「違う歴史?」
ディルが疑問を呈した時だった。
耳に入ってくる地響き。
「な、何だ?」
異変の音に周囲を見渡すディル。冷静な所長はとある方向を指差して答える。
「まぁ、つまりああいうこった」
それはディルたちが飛行してきた百貨店の方向。数百メートルは離れた場所だが、そのデパート建築が脚のように持ち上がり、再び地面に設置される。例えるなら、足だ。
「なんだよ、あれ……」
その『足』の屋根は細いオフィスビルが連結し、その先はさらなる巨大な建築物……胴体と呼べる物があり、そこから生えた首らしき巨大物も持ち上がる。
まるで巨大な亀のように新宿駅が