Black Externa ─黒の極致─   作:サム・ソー川

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さぁやって参りました。人間大砲の時間です。


30話「新宿ワンダラー(7)」

 

 

「『神風特攻隊はごめんだ』っつったのに……」

 

 キラーアンデットの台詞をそのまま引用しつつ、砲塔の中に潜り込むディル。

 その内部は人間が立ち上がってなお高さに余裕があるほどだ。

 

 DBAー02の主砲・艦首奈落波動砲にエネルギーが満ちていく。そのパイプラインの源流はコントロールルームでツーちゃんの横に陣取るサンちゃんだ。

 ギア・シンジュクのデータを解析したことで所長が姉妹の合体機構の一部、エネルギー装填だけでもできるようにしたのだ。

 

 ディルの耳に付けられたイヤホン状の通信端末から声がする。

 

「カウントダウンで発射すっぞ。バリアは合わせとけよ」

「わーった」

 

 所長からの言伝を受け、魔獣化して装甲を生成する。飛び出た翼を折り畳み、姿勢も前傾にして抵抗を減らす算段だ。

 

 そして、端末から数字を逆に数える音が聞こえてくる。

 

「スリー、トゥー、ワン……」

 

 重力障壁(グラビティバリア)を自身の周りに展開する。

 

「ゼロ!」

 

 全身を揺るがす衝撃がディルの身体を前へ吹き飛ばした。

 

 

 


 

 

 

 時は遡り十分ほど前。

 

「か、神風特攻隊はごめんだぁぁぁぁ!」

「落ち着いて。これは貴方の能力を鑑みた上での作戦なの」

「さ、作戦ンン?」

 

 拒否反応を起こしたものの、ただの無茶を彼女がさせるわけないと信頼しているため即座に話を聞く態勢に戻る。

 

 さらに、その後ろからまた別のやかましい声が上がる。

 

「アーヒャッヒャッヒャ!! 天才だから生体反応のみに絞ってサーモサーチしてやったぜ!! ほいよ、データだ」

 

 所長はキラーアンデットからプリントされたデータ資料をポイっと手渡す。恵那に煽られて実行したMMMの人数調査の結果だ。

 

「元々『こっち』に入る前に周辺データのサーチはしてたんだ。ゼロツーが壊滅させた部隊と体を操作してる部隊、あとは元の新宿にもいる……のか? これはまぁ大した数でもないから問題ないだろ」

 

 資料にざっと目を通した恵那は確信めいた顔になる。

 

「いける、はず」

「ほー。じゃあ言ってみろ。細かいとこはその後修正したらいい」

「じゃあ、作戦内容を説明していくわ」

 

 


 

 まず、私たちの目的はMMMの手に渡っているギア・シンジュクの『お体』、そのコントロールを奪還すること。

 

 その方法は二つ。

 一つは、先ほど所長さんが挙げた『お体』への直接攻撃による停止。これは破壊を行えるツーちゃんさんへの弾薬とエネルギー不足からほぼ不可能に。

 もう一つはギアちゃんを彼女の椅子……Suicaペンギン像に設置して制御系を奪還すること。そもそも、彼女はそこに行きたがっていたしね。

 

 これに当たって障害となるのは三つ。

 まず、今もこちらを狙っているでしょう『お体』の砲撃。

 次に地上にも徘徊してくるロボット群。おそらく免疫のような役割ね。

 そして体内で操作しているMMMたち。一部の隊員は巡回しているみたい。

 

 じゃあこれらを回避しどうやってギアちゃんを届けるか?

 そこで鍵となるのが黒装クン。おそらくこの中で最も機動力と白兵戦闘能力が高いはず。彼を第一突破要員とするの。

 彼の防壁生成能力と肉体の頑強さはあの壁を突き破ることすら可能なはず。

 


 

 

「でもどうやってあの中に入るんだよ。見た感じ頭以外にも砲塔見えたし全部避けれる気は……あー、それで」

 

 ディルは指摘の途中で、恵那の最初の発言を思い出す。

 

 


 

 そう、普通に近づいたら敵の弾幕で撃ち落とされかねないわ。地上や地下を行こうにもロボットに体力を削られるわけにもいかないし。

 そこで、ツーちゃんさんの主砲で撃ち出して速度と威力をさらに上乗せ、敵の砲撃が飛ぶ、というより総攻撃を受ける前に一気に内部まで侵入するの。黒装クンの今のバリアなら主砲自体の衝撃にも耐えれるしね。

 

 内部侵入後は散開しているMMMを移動しながら個別撃破。複数名いても十人とかそれ以上にならない限り、貴方ならやれるわ。

 


 

 

「まーじか」

 

 言葉だけを並べるとかなり無茶なように聞こえるが、実際のところディルはそこまで難しいように感じていなかった。

 以前と比べて体調そのものに問題はない。むしろ、いくつかの戦闘経験を経て重力能力(グラビティバリア)の精度も上がっている。

 

 MMMとの戦闘においても、特にプレッシャーを感じることはなかった。

 何故なら百貨店で遭遇した時のように、守る存在を気にかけなければいけない、なんてことは無いのだから。

 

 とはいえ、魔物狩りと恐れられるMMMをそれで殲滅できると見なせるのは異常なのだが。

 

「まぁ大丈夫だと思う。そっからは?」

 

 


 

 MMMの数を減らしたら『お体』の操作人員は減るはず。弾幕が減ったタイミングでこの戦艦で接近、皆で乗り込みます。

 資料のマップによるとペンギン広場は駅の外側にあったから直接降りれるはずよ。

 


 

 

「ぎあがかん(じぇ)んにうごか(ちゅ)ときに()かうちがわに()まらないので()!」

 

 えっへんと自信ありげな顔をするギア。普通なら欠陥品と言われかねないが、今この時ばかりはこの仕様に皆が感謝していた。

 

 


 

 ギアちゃんがコントロールを奪取するまでは残りのMMMから彼女を護ること。これは護衛役の人……といっても黒装クンが合流できてるとは限らないし……

 


 

 

 恵那が言い淀んだところで、ツーちゃんが質問を挟む。

 

「ちょっと待ってくださいまし。そもそも主砲を撃つ弾丸はディル(その方)でいいとして、エネルギーの問題はどうするのですの?」

「それなら問題ねぇぜ! ギア・シンジュク(そのガキんちょ)のデータを解析したおかげでお前とゼロスリーのバイパス合体だけでもできるようになったかんな!」

 

 いつの間にか出していたタブレットを操作し、完成図を見せつける所長。

 エネルギー問題をその場の科学力で解決する、天才マッドサイエンティストならではのパワープレイだ。

 

 しかし、元はと言えばこの男がギアを転移させたことで起こった問題である。

 そのことに恵那は気づいていたが敢えて黙っていた。

 

 続いて口数の少ないゼロスリー、もといサンちゃんが挙手をする。

 

「ワタシが護衛を引き受けマス」

 

 珍しく自分から主張した彼女に、知り合って間もない三人はともかく、所長たちも目を丸くした。

 

「珍しいなゼロスリーが自分から声を上げるなんて」

「なんとなくデス。そう、なんとなく()()()の助けになりたいと(エンジン)が言っていマス」

 

 傍から聞けばただのきまぐれにしか思えない発言。

 しかし()()()()()()()()()()()()()()()()()所長はその発言をしっかりと肯定した。

 

「じゃあ問題ねぇな。出番が来たらしっかりやれよ」

「ちょっと待って。その子、まだ戦っているところを見たことがないのだけど本当にやれるの?」

「心配すんな。ディル(そいつ)とゼロツーが出張っているから動いてなかっただけで、本人が意志を見出せばしっかりやれるからよ」

 

 その言い様は自分の技術力への絶対的自信か、それとも製作物への愛か。

 

 とにかくそれを信用しないことには作戦が始まらない。自動人形(ツーちゃん)の妹であるサンちゃんもまた強力な半魔だろうと見込み、恵那は信用を決定することにした。

 

「じゃあ護衛役も決まったところで、作戦の大まかな方針はこれでいいかしら?」

 

 頷く一同。

 

「じゃあ作戦(オペレーション)開始(スタート)!」

 

 彼女の口達者な部分が、いつの間にかクセのある人物たちの音頭を取っている、その瞬間だった。

 

 

 


 

 

 

 廃墟の上空を凄まじい速度で突き進む光の潮流。

 その先端で黒装ディルはバリアを維持しながら進んでいく。

 

 音速を超えた速度。光速に至ってないのは質量が故か。

 

 それでも余波のビル破壊が衝撃の大きさを物語っていた。

 

 

 無論、空中戦艦をマークしていた機動要塞(ギア・シンジュク)がこの砲撃に対応しないはずもなく。

 

 胴体に備え付けられた、頭部の砲塔を超えるサイズの大砲が迎え撃つ。

 

 迫る砲弾。

 

 砕ける。どっちが? 言うまでも無い。

 

 爆破の衝撃すらかき消して半魔の弾丸は突っ切る。

 

 

 距離三百。

 

 

 距離零。

 

 

オォォォォ

 

 

 『廃墟新宿』全域を揺るがすような空気の波動。全長二五◯◯メートル近くにも及ぶ『お体』が揺れる。

 轟音と立ち昇る煙がその威力の凄まじさを知らせていた。

 

 

 新宿駅の地下施設を丸ごと持ち上げたような『お体』の胴体、そこに大きく深々とした穴が出来上がっていた。

 

 さらにその奥では、通路や店といった痕跡が分からなくなるぐらいのクレーターを生み出した主……ディルがゆっくりと膝を支えて立ち上がった。

 

「フーッ……まずは第一段階、っと」

 

 身体に異常は無い。強いて言うならサンドバッグにタックル練習をした後のような筋刺激が残っているぐらいだ。

 

 衝撃による電磁障害か、端末からの音声はノイズがかかっている。しかしやることはブリーフィング通り。

 

「体内のMMMを殲滅する……っ!」

 

 単独行動状態となったディルはもはや止まらない。

 普段は街中だったり守る人がいたり(これはこれで時たま最大の力になるのだが)でリミットが掛けられている動きにアクセルがかかる。

 

 そのリミットとは、脚力と壁だった。

 

 

 


 

 

 

 敵兵器による破壊を受けて現場に向かうMMMの隊員。

 通路を走る彼だったが、範囲(セクター)二つ分に差し掛かったところで半魔の奇襲を受けた。

 

 突如、横の壁をぶち破った半魔は頭を鷲掴みながらその勢いのまま向かいの壁も破壊、隊員を叩きつけながら直進する。

 

 時折進行軸を変えながら、さらに壁を突き破り二人目のMMM隊員の側に現れる。

 

「なっ……壁くぁびぎゅっ」

 

 最後まで言い切らぬ内に、もはや肉片と化していた一人目の犠牲者をその顔に叩きつける。

 哀れな二人目の犠牲者は顔面から鬼も真っ青な頭部粉砕をされてしまった。

 

 MMMの多くは非合法サイボーグ兵であり、それ故に魔物の多くが恐れる強力な部隊と言われている…………はずなのだ。今無惨に破壊された隊員も。

 

 メルキセデクの保有戦力図が変わると称された計画『黒き装甲の子供たち(アルミュレ・ノイア・ディハーブ)』、その中でもフリックの傑作であるAnethum graveolens(黒装ディル)の前ではたかが普通のMMMでは敵うはずも無い。

 

 とはいえMMMも素体は人間。その返り血は容赦なく半魔……黒装ディルにかかる。

 

 しかし、それに対して人の心が動くことは一切無い。

 

「次!」

 

 縮地のようにその場からいなくなる。次の獲物を直感で捉え向かったのだ。

 

 

 


 

 

 

β(ベータ)シックス、応答しろ」

 

 息絶えた隊員に通信を送る別の場所にいる隊員。こちらは二人体制で行動していた。

 

「電磁障害の発生が確認されていました。それでは?」

「いや、このノイズのタイプは装置そのものが破損したものだ。つまり……」

 

 そこまで推測したところで隊員は何かが迫る音に気づく。

 

「来るぞ!」

 

 通路の向こう側か。いや、何かが壊されている音。壁からだ!

 

「ぐぶ……ぼぎゃ……」

 

 壁ではあった。

 

 床という名の壁だが。

 

 下から突き上げるように床ごと持ち上げたディルの膂力は、MMM二名をプレス機で圧縮するように潰した。

 

「次ぃ」

 

 背中の翼で立体機動しながら体内の駅通路内を通過していく。

 

 壁を破壊しながら縦横無尽に飛び回り、圧倒的なパワーで獲物を叩き潰すその姿は、まさに悪魔そのものだった。

 

 

 


 

 

 

「──黒装クン、聞こえる?」

 

 復帰した通信端末からの声。

 

「今十二体。次はどこがいい?」

 

 総数三十、その半分近くのキルスコアを稼いだディルは返事する。

 

「問題ないみたいね。そろそろペンギン像に向かって。おそらくMMMも集まって行動してるはず──ザザ」

 

 数の暴力を危惧した恵那からの忠告。しかし相変わらず通信状況がよくないのか、途切れてしまった。

 とにかく作戦第三段階への移行を命じられた半魔は次なる目的地へ向かおうとする。

 

 ……が。

 

「ペンギン像って場所どこだ?」

 

 知っている恵那、データMAPとしてすぐ理解できる所長一家。だから「皆知っている」と思い込んで誰も言わなかったのだろう。

 

 地頭はただの人間である馬鹿(ディル)は肝心の場所を聞きそびれていたのだ!

 

 




ディルの暴れシーンを書いている時、ブ◯リーが頭の中よぎってました。

恵那「あ、悪魔たん……」(文字通り)
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