Black Externa ─黒の極致─   作:サム・ソー川

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そろそろ終盤です。


31話「新宿ワンダラー(8)」

 

 

 だだっ広い体内、もとい新宿駅内で悪魔のような半魔が暴れ狂っているため、MMMは人員の割り当てを変更せざるを得なくなっていた。

 それにより、コントロールを担当する人員は最低限になり『お体』の武装はその真価を発揮できない状況となったのだ。

 

 元来、おびただしい砲火で外敵を迎え撃つはずが、その砲門のいくらかは操作の手が回っていない状態に。さらに、ギアがいなければ自動操作も使えないのがMMMにとっては痛かった。

 

 

 そして、それこそが恵那の作戦の狙いだった。

 

 夕焼けの空から六つのブースターを全力で噴かせ空中戦艦が飛来する。

 

 もちろんこの接敵をコントロール担当班が許すはずなどないだろう。二名というあまりにも少ない人員で各種砲塔を動かす。

 

 胴体の巨砲、頭部の機関銃砲、腕部のミサイルポッド。それらが一斉に放たれる。

 

 しかし()()それだけ。

 

 当初ツーちゃんが距離を取る際に危惧した全砲一斉射撃(フルバースト)に比べれば大したものではない。

 

 主翼の前方と下面に付けられた副砲が迎撃を行う。

 サンちゃんとエネルギーバイパスをリンクさせたことでレーダーの精度も上がったツーちゃんは、百発百中でミサイルを撃墜させていく。

 ついでに重砲も処理される。

 

 しかし主砲のレールガンは副砲でも威力を殺せない。狙い撃つためにタイミングを遅らせた一撃が今、放たれた。

 

「ここですわぁっ!!」

 

 強い叫びと共にツーちゃんは主翼下面の浮遊用バーニアを()()()()()作動させた。

 

 バランスを崩した飛行戦艦はその姿勢を大きく左にずらす。

 そしてその腹部すれすれをレールガンが勢いよく通過していった。

 

 完璧なタイミングの回避。戦艦そのものとリンクさせているからこそできる感覚ワザである。

 そして、速度を殺さず回避したことで次の行動に移る。そこには「次は撃たせない」という明確な意志があった。

 

 レーダー担当のサンちゃんが砲塔内部へ的確な照準を合わせる。

 

「姉サマ、ここデス」

「サンキューですわ!」

 

 DBA-02上部からボックスのようにミサイルポッドが現れる。そして一切の隙を見せない発射。

 それらは先ほど自分たちを狙った砲塔へ放たれていき……

 

 見事なまでに砲の中へ入り込んだミサイルが着弾、大爆発を起こす。

 

「やりましたわ!」

「えぇ、では着陸に移りましょ!」

「オカノシタ」

 

 恵那の呼びかけでキラーアンデットが再び形態変化する。

 最重要人物であるギア、そして唯一の人間である恵那を脇から生えてきたベルトで抱える。

 

「なぁ、オレ様の扱い雑では?」

 

 所長は丁寧さの欠片もない逆さまの状態で背中に括り付けられていた。

 

 そして空いた二本の腕を横に伸ばしたかと思えば、その先の爪から膜が生え胴体との隙間を埋めていく。翼の完成だ。

 

「ジュンビオッケ-ヨン」

 

 

 

 ペンギン広場上空まで飛来したところで、DBAー02はホバリングモードへ移行する。

 敵からの砲撃が無くなったが故にできる安全体制だ。

 

「では降下しますわよ!」

 

 ツーちゃんが宣言。それと同時に彼女と、彼女とバイパスで繋がっていたサンちゃんの二人に接続されていたパイプが切り離される。

 

 すると、空中戦艦がその場で手品のように姿を消失させた。ツーちゃんが魔獣化を解き、異空間に格納したのだ。

 

 そして中にいた面々は床が無くなったことで垂直落下を始める。

 しかし予め飛行準備を行なっていたキラーアンデットは慌てることがない。

 

 空いた足でメイド姉妹を掴み、翼を大きく羽ばたかせる。

 まるで妖精のようにゆっくり降下していく。姿はコウモリのようだが。

 

「やっぱりこの掴み方、雑じゃありませんの?!」

「仕方ねーだろ。この中だとお前らが一番頑丈なんだから」

「むむ……言い返せませんわ」

 

 逆さまのままツッコむ所長を見たら、彼女は割り切りざるを得なかった。

 事実、ツーちゃんやサンちゃんは表面こそ人肌と変わらない軟質素材だが、その中身はナパームに耐えることも可能な超特殊合金である。メイド服も精神力で耐久性が変わる特殊繊維なのだから、下手な魔物より頑丈だ。

 

 

 この間にもキラーアンデット・フライングフォームはペンギン広場へ羽ばたきながら降下する。

 

 レンガの床が近づいたところで、足のメイド姉妹が先に着地。続いてキラーアンデット本体も着地した。

 

「ここまでは問題無し、と。ギアちゃん、このペンギン像で間違いない?」

 

 目的であるギアの『いす』……広場に鎮座するSuicaペンギン像を恵那が指差す。

 

「うん! ()ゃあとりかえ(ちゅ)ね!」

 

 元気よく返事をしたギア。その顔に光のラインが走ったかと思うと、体全体が透き通り光り始める。

 

「コントロールユニット接続。Suica適用範囲拡大開始。全エリア到達までの時間……七分」

 

 瞳が水色に発光し、その声は機械的な物へ。さらに、光り始めた身体は半ば幽霊のようにペンギン像と一体化する。

 

 完全にコントロールモードになったギア。そんな彼女の横で所長は端末とペンギン像をケーブルで繋ぐ。

 

「さてと、この間に転移の用意をさせてもらうぜ」

 

 この『廃墟新宿』を元のドミニオン・並行世界Aに再転移させるべく、所長は準備に取り掛かり始める。

 

 

「黒装クンまだね……」

 

 恵那は少し不安げな表情で周囲を見渡す。

 いくら愉快な面々とはいえ、誰もかしこも今日が初対面の魔物。ブリーフィングでは舵を切ったものの、今は唯一の親しい人(ディル)もいない。何も話すことがなく手持ち無沙汰であった。

 

 そんな彼女の袖を引っ張る者が一人。

 

「質問いいデスカ?」

 

 背丈が頭一つ分ぐらい下の幼いメイド、サンちゃんだ。

 

「いいわよ。何かしら」

 

 自分から話すことが少なく、表情も分かりづらい彼女が自分に一体何を聞くというのか。内心、恵那は困惑していたが表情には決して出さない。

 

「ディルサンとはどういう関係なのデスカ」

「ん"っ"」

 

 予想外の質問に一瞬むせかける。決して出さないはずの表情がぽろっと出かけた。

 それもそのはず、見た目は小学生相当のはずなのに(ある意味)デリケートな部分を、しかも真顔で聞いてくるとは思わなかったからだ。

 

「えぇと……クラスメイトかしら。なんでそんなことを?」

 

 無難な回答、に抑えておきながら、さらっと理由を問う。

 それに対する自動人形の答えは意外なものだった。

 

()()()()()()()()()()()()()は今どんな人と過ごしているカ、知りたくなったノデ」

 

 それはとある話を聞いていた恵那にとって聞き逃せないものだった。

 

「それって……」

「おいお前ら! MMMが近づいてきてるぞ!」

 

 恵那が何かに気づきかけた時、所長が警告の言葉を皆に投げた。レーダーで索敵も行なっていたのだ。

 

「所詮MMMですわ。こちらに位置を送って頂けたらすぐ撃ち抜いて……!?」

 

 余裕のつもりだったツーちゃんだが、言い切る前に顔を逸らす。刹那、その顔を弾丸が掠める。

 

「──っ! そこですわね!」

 

 即座に砲塔を一門出現させ、射線に撃ち返す。一秒後、百メートル先にある別の駅ビルが爆発。見事なカウンター……のはずだ。

 

 しかし一息つく間もなく、別方向から黒い爆弾が放物線を描いて落ちてくる。

 

「手榴弾!」

「あっバカやめろあれは!」

 

 所長の制止は間に合うはずもなく、見事な迎撃が爆弾を撃ち抜く。

 

 

 それこそがMMMの狙いだった。

 

 破壊されたのはただの手榴弾ではない。爆破の衝撃で中に詰められている粉末がチャフのように散らばる。

 

「──っ!? イ、EMP〜?!」

 

 Electromagnetic pulse……電磁パルス。

 電子機器に異常をもたらす電磁波がこの一帯に発生したのだ。

 

 とはいえ、そこらの機械とはレベルが違うメイドロボ半魔がそんなもので稼働停止するわけなどない。せいぜい軽度の花粉症のような不快感に襲われるだけだ。

 

 問題は、一帯が煙幕のように電波遮断されたこと。

 つまり、所長のサーチも含めたレーダーにMMMが映らない=敵の場所が分からないという致命的状況に陥ったのだ。

 一応、目視での確認に異常は無いが、数的不利の状況でこれだけというのはマズい。

 

「やっばいですわ!!」

「だから言ったろ!」

 

 焦りが言葉に現れる中、銃撃が飛んでくる。

 

 

 しかもそれだけではない。

 

 広場の端、改札口の向こう側からさらにMMMが三名出現、向かってくる。

 

 その身に付けた装備──片腕に取り付けた胴体ほどのシールド──を見てツーちゃんが目の色を変える。絶望の白目へと。

 

「最初のMMMじゃありませんわ! ()()()()()()()()!」

 

 

 MMMの多くがサイボーグとて、全ての隊員が同じ実力というわけではない。

 

 メルキセデクに付き従う冷酷無比な組織ではあるが、それぞれに意思があり個体差がある。

 つまり、戦場を多く経験しているベテラン兵はそれだけの実力があり、半魔への対抗策を知っているのだ。

 

 そして今、駆け足で接近する上位MMMはハンドガンとシールド、他にも所持はしているだろうが、明確に言えることは近接戦闘用の装備に切り替えているということ。

 

 その理由は、この場で最も脅威となる半魔を封殺するためだった。

 大通りで下位部隊が最後に残した通信には「広範囲への射撃攻撃」とあった。ビルに潜伏していた隊員もやられたことから、強力な索敵能力もあるのだろうと部隊長は推測した。

 

 ならばどうするか?

 

 索敵できなくした上で白兵戦に持ち込むのだ。

 

 そしてギア・シンジュクの中心部がこのペンギン広場であることも分析済みの彼らは、そこに降りてくるだろうギアと半魔たちの制圧に人数を割くことを決定していた。

 

 問題となり得る白兵戦の脅威……黒翼の半魔は下位のβ(ベータ)隊が引き受けている。例え彼らが全滅しても駅内は迷宮であり、ここまで来るのに時間がかかることも計算済みなのだ。

 

 つまり、このMMM部隊・ハイα(アルファ)はツーちゃんが最初に壊滅させた下位部隊より圧倒的な手練(てだれ)……エリート部隊なのだ。

 

 

遺物(オーパーツ)を使う。αスリー、αフォー。散開して照準を逸らせ」

「「Roger(ラジャ).」」

 

 ツーちゃんの目視がまだ生きていることを察している上位MMMはその通り散開。

 

「ち、近寄らせませんわ!」

 

 接敵を恐れたツーちゃんは迎撃。しかし別方向からの射撃に気を逸らされる。

 

 さらにMMMは盾を巧みに使用、当たりはすれど受け流すように向きを変える。前進が止まらない。

 

 そしてメイドがそれに気を取られたその隙だった。指令を出した隊長、αワンは古めかしい銃器を出す。まるで蜘蛛を思わせるような装飾、それでいて地球のものと思えない技術の様相。

 

「メッシュウォール、展開」

 

 呟きと同時に放たれる弾丸。

 

 もちろんツーちゃんが反応しないわけはない。今回は先ほどのEMPの反省も活かし回避だ。

 

 

 ……しかしそれもまた無駄足だった。

 

 彼女の側を通り抜けることなく、狙ったようにすぐ傍で弾丸は炸裂、内部の粉末が網目状の壁を形成していく。

 

「な、なんですのコレ?!」

 

 ツーちゃん一人の周囲だけを覆うドーム。網目になっているため周りの様子は見えるが、その硬さはダイヤモンド並みだった。極め付けは、砲撃が放てない狭さだということだ。

 古代遺跡で採掘された超技術の拘束兵器は、ツーちゃんを実質行動不能にしてしまった。

 

 

 ──本来MMMが『廃墟新宿』へ潜入したのはギア・シンジュクの技術と、兵器としての力を確保するためである。

 

 しかし、実際に降りてきた件の射撃半魔はメイドロボであった。これを知った彼らは作戦を少し変更した。

 

 メイドロボの半魔はその身に心魂機関(ゴスペルエンジン)を宿している。永久機関であるこれは裏世界では超高額で取引される代物なのだ。そして、兵器としての力も。

 無論、そんな貴重品をMMMが見逃すはずはない。

 

 破壊するには惜しいと思った彼らはツーちゃんも確保することにしたのだ。

 

 

「げっ、ゼロツーが檻に入れられた! キラーアンデット、MMMを迎撃しろ!」

「ガッテンダ」

 

 動けないメイドロボの代わりにキラーアンデットがMMMの前に立ちはだかった。相手は三人、腕を四本にして白兵戦闘を仕掛ける。

 

 しかしいくら腕が増えたところで相手は手練(てだれ)。爪を回避し的確に付かず離れずの位置を保つ。

 

 そしてその均衡を保ちながら隊長は別の場所へ指令を出す。

 

「数を減らす。αツー、背の高い女を狙え」

「Roger.」

 

 駅ビルの高層で待機していた別の隊員が動き出す。窓際に移り、広場に向けてライフルをセット。そして照準を現時点で最も戦闘力が低い人間……恵那へ合わせる。

 しかもそれだけでは無い。銃器の弾丸をチェンジ。狙撃点で炸裂し、周囲にも被害を与える特殊弾を装填する。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「こちらαツー。αエイト、ナイン 、テン。着弾後突撃、制圧せよ」

「「「Roger.」」」

 

 

 

「!!」

 

 何もできなくなったツーちゃんだが、むしろ何もできないからこそ、ビルの窓から銃口が反射していることに気がついた。

 このドミニオンが常に夕焼けであることも幸いしただろう。

 

 銃口の狙いは? 考えている暇は無い。

 

「避けてくださいまし!!」

 

 全員に向けてのとっさの警告。

 

 

 しかし、無慈悲にも特殊弾は放たれた。

 

 狙われている本人(えな)の反射神経は足りない。

 

 対応できない。できるはずもない。

 

 外装が剥がれ、炸裂していく弾丸が幾重もの金属片となり降り注ぐ。

 

 

 

「……馬鹿な!?」

 

 スコープから見る景色が自分の予想と大きく外れたことに驚愕するαツー。

 

 本来だったら恵那を中心に炸裂し、近くにいる他の半魔にも被害をもたらすはずだった炸裂弾。

 

 それが雨粒のように弾かれたのだ。

 

「……やっぱり、立候補するだけあるわね」

 

 砂煙の中、避ける動作すらしなかった恵那が呟く。

 

 彼女に降りかかるはずだった凶弾を全て弾いた鋼の盾。大きさは一メートルを超え、淵から放出されるエネルギーが見た目以上の大きな壁を形成していた。

 

「どうやらしっかりと心魂機関(ゴスペルエンジン)に火は()いてたみてーだな」

 

 砂煙が晴れ、鋼の盾を持つ幼い背丈が次第に見えてくる。

 

 両目の下から頬にかけて現れるリベットライン。それが瞳と同じ黄色に光る。

 

()()()()()の代わりに守りマス……!」

 

 DBAー03、又の名をサンちゃん、しかしてその元となった魂の名は……黒装カンナ。

 

 『黒き装甲の子供たち(アルミュレ・ノイア・ディハーブ)』唯一の、造られた魂が動き始めた────

 

 




『廃墟新宿』編、いよいよクライマックスへ。
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