人類の歴史の中でも最大規模の戦争であった第二次世界大戦。
それは『夜の側』においても無関係な話ではなく、隠れて投入された人狼の暗殺部隊や吸血鬼の不死突撃部隊……様々な組織が何らかの形で己が利益のために関わっていたとされる。
そんな中、マッドサイエンティストや魔術師による人外のテクノロジーも当然、導入された。
それらの最高峰、『封印兵器』。
ただのロボットやサイボーグ、強化ドラッグとは桁の違う、「それ一つで戦局を覆す力を秘めている」とされた戦略兵器。
様々な理由により用いられることなく封印されたそれらは、今もなおどこかで眠っているという。
そして、
「大天才とやらが造った、
ファルディアと名乗った封印兵器。その力を込めた突撃は目標たるディルに向かう。
一方のディルも腕に力を込めファルディアを迎え撃つ。
衝撃。両の手が互いにぶつかる。
パワー対パワー。
衝突し合ったエネルギーは拡散、風となって流れていく。窓ガラスが割れないのが奇跡なほどに。
そして足と接する床はみしりと悲鳴を上げる。破片が力の奔流に飲まれ巻き上がる。
しかし、そんな状況でも両者は一歩も引かない。
互角だった。
血気迫る魔物同士の睨めっこ。その気迫は凄まじく、アンノウンマンが見かけようものなら卒倒してしまうほどだった。
最中、ディルはファルディアが言い放った知らない単語に思いを馳せる。
(封印兵器?! 何だよそれ……っ)
しかし検索結果は0件。
自身もメルキセデクの極秘兵器に値する存在ではあったが、だからといって『夜の側』で同様の存在にアンテナを張っているわけではない。
また、死霊課に知り合いがいるわけだが、あらゆる情報が横流しされているわけでもない。
今のディルはただの一般半魔。知りようが無いのだ。
とにかく言えるのは、今組み手を行っている魔物は自身と同じぐらいのパワーを持っており、手を抜こうものなら
拳と蹴りとのぶつけ合いが続く。
互いに致命傷と至らないまでも、少しずつ疲労と損傷が溜まっていく。
(このままじゃジリ貧だ……!)
ディルは翼による飛行移動、対するファルディアは何かしらの浮遊能力を駆使し、互いに廊下を縦横無尽に跳び駆ける。
常人では何が起こっているか捉えることすら難しい、人外のサーカスショーだ。
しかしだからこそ、殴り合いを続けるディルの頭に一つの疑問が浮かんでくる。
(こいつがこのアレナを張ったとは思えねぇ……)
ただのアレナならどんな魔物でも展開できる。
しかし、現在進行形で月影高校を覆っているアレナは、春ノ戸のような魔物ですら停止させている。
そして、今ディルと戦っているファルディア。
彼は白兵戦闘能力こそディルと同格だが、先の浮遊能力以外に目立った能力は見られない。
それらを踏まえたディルはさらに推測を導き出した。
(こいつ以外に
その可能性は焦りを誘因する。
捌き切れなかったファルディアの回し蹴りがディルの胸部に直撃する。
「ぐうっ……!」
勢いを殺せないディルは直線軌道を描いて吹っ飛ばされ、そのまま重力に引かれ廊下を滑る。
停止。すぐさま体勢を立て直す。ディルの視界の向こう、ファルディアは彼がまだやれることに歓喜している様子だ。
「いいぜえ。やっぱ
そして、ディルはその言葉を聞いて確信する。
「……オイお前!」
「あー?」
「オレと戦えるってわざわざお前に教えた
ファルディアが最初に現れたとき、明確にディルを標的だと言葉で発していた。そして意識的に勝負事を求めていることも。
しかし、ディルにとってファルディアは一切面識の無い男だ。何者かが彼に情報を提供したとしか考えられない。
「あー……確かなんていったか、ゔぇる? けな? とかってチームだ。金もくれるしお前のような強えやつと闘わせてくれるってんだ、感謝してるぜえ!」
(やはりか!)
敵は複数いる。これが分かっただけでも大きい。
(だとすれば……)
「いいから再開しようぜえ。オレ様は全力で
「アー気ニナルコト色々アルカラコノママダト集中デキナイナー」
「なにっ。そいつは困る。てめえの全力をぶっ倒さないと意味がねえ! だから全力出してもらわねえと。その『気になること』ってのはなんなんだ?」
あからさまな棒読みを疑うこともなくファルディアは話に応じた。
(しめた!)
ディルの推測、それはこのファルディアという男が『雇われ魔物』……いわば傭兵なのではないか、戦いが第一欲求の戦闘バカなのではないか、先の会話からうっすらと考えたのだ。
結果は当たっていた。
そしてディルはひとまずの疑問をガンガンぶつけていく。
「このアレナ誰が展開したんだ?」
「チームにいた双子のやつらだな。なんか変な能力持ちのようだぜえ」
「オレ以外の半魔も動かなくなってたけど、それはそいつらの仕業なのか?」
「おうよ。その双子のふくごー封印けっかいとやらでお前以外を止めてるんだってよ。そしたらオレ様はてめえと闘ってヨシ! だってさ」
(さすがにペラペラ喋りすぎだろ! 逆に罠じゃねーのか?!)
何も考えず話すファルディアに対して、疑念がよぎるディル。
しかし当の本人は本当に裏などないようで、身体をぐいーっと伸ばしながら話している。早く闘いたいのだ。
とりあえずディルは誘導尋問を続ける。
「そのゔぇるけな? ってのは何が目的なんだ? オレだけを動かせるようにして……」
「知らねえ。あの仮面リーダー、何も言ってなかったしな」
「仮面? そいつについて……」
「おい、そろそろ闘わせろよ。もういいだろうが」
「ま、待てって。こ、コッチハマダ気ニシチャッテぇ……」
痺れを切らしてきたファルディアは足をぴょんこぴょんこ動かし始める。
そして、何か思いついたように握り拳で手を叩いた。
「そうか! オレ様
「大……天才……?」
その言葉にディルは頭の中で何か引っかかりを覚える。
(そういえば最初の名乗りのときもそんな感じのことを……)
『大天才とやらが造った』
『オレ様』
『アッヒャッヒャッヒャ』
これまでファルディアが口走っていた様々な口調・単語。それらが組み合わさってくる。
そしてディルの頭に浮かんできたのは、紫サンタ帽を被ったとあるクソ生意気マッドサイエンティスト。
「お前まさか……」
「考えてみたら、闘いながらでも話はできるよなあっ!!」
合理的発想に至った封印兵器が再びディルに飛びかかる。
その拳を手甲でガードしつつ、ディルはあまり考えたくない可能性を尋ねてみた。
「まさかお前の作り主って……!」
「あいつううう? 名前は確かああああ、キラーアンデット製造所所長だああああっ!!」
予想的中。
「ぶぇっくしょい!」
都内、どこかにある研究施設。
そこで機械のパイプラインをいじる男が盛大にくしゃみをする。
「あー、これは誰かが噂してんな。二回じゃなかったからいい噂だ」
「アナタがいい噂されることありますの……?」
広々とした空間で巨大飛行戦艦を弄るキラーアンデット製造所所長、と彼に怪訝な目で言葉を投げかけるツーちゃん。機械弄りの現場ながらその服装は変わらぬメイド服だった。
ここは所長の研究所、その中にあるメンテナンスルームだ。本日のツーちゃんは
とはいえここまでの広い空間、東京二十三区で易々と確保できるわけもない。実態はアレナも併用した異空間である。
「失敬な。オレ様だっていろんなとこに貢献してるんだぜ。人間どものでっかい戦争に兵器提供したこともあるし」
「ロクでもないですわね」
二人が駄弁る中、ツーちゃんの妹・サンちゃんがたくさんの紙を抱えて入ってくる。そして所長の前でドサリ。
「所長、部屋掃除でいらない書類たくさんデス。処分しておいてくだサイ」
「あーっ! これは昔の記録文献! これは捨てたらダメなやつだっての!」
「だったらしっかり整理しておくことですわ」
二人のメイドロボに嗜められながら、所長はかつての成果をひいこらまとめていく。
すると、何か気になるものがあったのか、二人に話しかける。
「お、これ見てみろよ。オレ様がさっき言ってた昔の兵器」
二人が覗き込んだその紙には人の形をした生体兵器の説明が書かれていた。
「見たことないですわね……ホムンクルス?」
「いんや、違う。これ、元『オレ様』の一部な」
「……は?」
「こいつ何言ってんだ」という顔をするメイドロボ。
所長はさらに説明する。
「正確には、オレ様の細胞の一部を組み換え培養したのさ。天才的頭脳を戦闘力に変換してな。いわゆる能力覚醒方向のベクトル変換なわけだが、普通にやると上手くいかねぇ。そこでその際、チラッとクライシス星人*1のサンプルをいくらか混ぜた。それで完成したのがこの『
つらつらと語った所長。しかしツーちゃんが先の話と噛み合ってない事実に気づく。
「ちょっと待ってくださいまし。アナタ、さっき『人間どものでっかい戦争に兵器提供した』って言ってましたわね? 時系列がおかしいですわ。千年前の守護者交代劇はあくまで『夜の側』の戦い。当時の『昼の側』で人間の大きな戦いは無くてよ?」
指摘を受けた所長の目は斜め上に泳ぎ、口はタコのように笛を吹いている。
「まさか、でかい戦争ってのは第二次世界大戦のことでして……?」
「あ、いやぁ……あの頃いろんな組織が『封印兵器』を導入しようとしてたからよ、オレ様も便乗して千年寝かせてたファルディアを投入してみたくて……」
「はぁ──────っ?!」
その単語を聞いたツーちゃんはワナワナと震えだす。ちなみに、横にいたサンちゃんは生誕してから日が浅いからか、なんのことだか分かっていない。
「ア、アナタ……そんなとんでもないものを……」
ツーちゃんはフリーランスの雇われ半魔として活動もしている。そのため、夜の事情について多少なりとも詳しい。
そのため、封印兵器(およびそれに類する存在)がどれほどの力を持っているかは想像できた。おそらく自分たちよりも強いだろうことも。
「おっとちょい待て。オレ様とて分別ついてるさ。あくまでそういう戦略兵器欲しいなーってとこに売却しようとしただけで……でも運搬途中で落ちて行方不明になったから使われてないハズだし。テヘ⭐︎」
「こんのカス!!」
「ギョエエエエエエ」
あまりにもテキトーが過ぎた過去の行いにツーちゃんは怒りの卍固めを所長に繰り出すのであった。
「────そしてオレ様は数年前にどっかの無人島で起きたってわけだアッヒャヒャヒャ!!」
「あんのカス所長ぉぉぉぉ!!!!」
殴りあいが再開されていたツキ高一階の廊下。ディルの叫びが響き渡る。
ドツキ合いをしながらも、ディルとファルディアのお喋りは行われていた。
そして、ファルディアが語った自身の出自。すなわち、
それを知ってディルはこの戦闘狂の強さをより理解した。メイドロボ二人と直接ぶつかり合うことはなかったディルだが、その強さは折込済み。その上で、ファルディアは戦争用に生み出されたという自供。メイドロボたちよりも強いことは安易に予想できた。
(それより校内に他の魔物もいるってんなら早く恵那の安否を確認しねーと!)
何とかしてファルディアを撒けないか、ディルは戦いながら模索する。
しかし、当の封印兵器は持ち前の格闘能力を生かしてか、ディルとの距離を離さない。
「クソッ……邪魔だ!!」
苛立ちが言葉、そして拳となって放たれる。
しかしファルディアは難なくそれを受け止める。
「分かってんだぜえ、てめえが別の場所に行こうとしてることぐらい……」
「!!」
ファルディアがニタリと笑う。
「だったらなおのことだ、おめーの相手は後でしてや……」
「何言ってんだあ? これはオレ様の仕事でもあるんだぜえ。さっきは勝てたら話するって言ったがだいたい話しちまったし、まあそもそも……」
拳の応酬の中、兵器の気が溢れる。
「お前はオレ様に倒される」
鳥肌が立つようなゾワリとした感覚。
一瞬だが、ファルディアの恐ろしいまでの執着心が歪んだ姿となって見えたのだ。
ファルディアがただの戦闘狂だろうと甘く見てたディルはその認識を改める。
戦闘狂であるが故に、その戦闘の機会を一切逃す気は無いと。
(マズい……)
先ほどよりも焦りが強くなる。
(オレはこいつに勝てるのか……?)
封印兵器はゲーマーズフィールドの記事で紹介されたサプリ未収録のルーツ『継承者』の扱う専用アイテムのことです。説明はだいたいお話の中の通り。
このアイテム群の中には「無双大豪傑」という「本人の肉体そのものがめちゃ強い封印兵器だ」ってのがあります。ファルディアはそれに当てはまります。