Black Externa ─黒の極致─   作:サム・ソー川

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43話「Re:コール・ネーム(7)」

 

 

 一卵性双生児でありながら違う系列の異能に目覚めたシェイルとセルジュ。

 

 しかし、異能者の常として親から迫害され、退魔組織からの評価も「単一で能力を見れば少々物足りない」であった。

 

 そんな境遇に置かれ、周囲の人間を信じられなくなった二人は、相補的に互いを強く信じるようになる。

 

 その信頼の結果、二人は能力の真骨頂を自分たちで明らかにした。

 なんと、元々混ざっていた異能が、双子として生まれたことで分割されてしまっていたのだ。

 しかしそれを補う方法も単純だった。互いに密接することで、その間のみ能力が融合し本来の最大スペックを発揮できるようになる。

 

 

 『鎮まれ、我らが領域よ(セ=ダーテ・ドゥ・アリーナ)』。

 

 そう名付けられたこの複合封印結界は、シェイルとセルジュの二人が同時に対象をイメージし発動する。

 特定の力・生まれ・性質……それらを理解し結界の封印性質に組み込むのだ。その出力方法はむしろ、コンピューターがデータを区分けする作業に等しい。

 ツキ高の敷地内全域を覆ったアレナもこれによるものであるが、封印対象をディル以外にする仕様上、「ディル」を対象にしてから反転させて「ディル以外」を対象とした。数が増えてる分、体力の消費は増えてしまっているのだが。

 

 

 そしてその最大スペックの異能が春ノ戸の付近一帯に展開される。

 

(やはり来たか……!)

 

 結界に入れられてしまうまでわずか0.5秒。中に入れられてしまえば詰みだ。

 しかし人間とは違う反射神経の魔物だからこそ、()()()()()を起こすギリギリのタイミングを計っていた。

 

 

 0.1秒。

 

 

 瞬間、春ノ戸の体が消失する。

 

「え!?」

「うそ!?」

 

 驚愕する双子、その背後に春ノ戸が出現する。気づく時間は無い。

 

 

 次元(じげん)跳躍(ちょうやく)

 空間や時間さえ飛び越えることを可能とする特殊能力。

 おぞましき滅びの邪神『滅神』、それが滅ぼすドミニオンに斥候として出現する眷属『先導たるもの』が身につけていた力だ。

 春ノ戸はその『先導たるもの』と人間との落とし子であるため、もれなくこういった力も継承していた。とはいえ、莫大な精神力を消費するため連発はできない。

 

 

 そして背後を取った春ノ戸はその触手で双子を拘束しようとする。案の定、双子の反射神経はそこまで高くない。気づいてすらいない子供を無力化するのは簡単──────

 

 

 ……のはずだった。

 

 春ノ戸の背中に強烈な痛覚が走る。

 

「───くあっ!?」

 

 その声に反応し双子も振り返る。必殺の封印結界を躱され背後を取られていた事実に気づくも、見た光景にある種の安心感も覚えていた。

 それは何か。春ノ戸の背中を頭部の角で貫いていたヴィスカルドの姿だ。

 

(背後に回ったはずなのにこの魔物も背後に?! ()()()何かしらの力を隠していたのか!)

 

 即座に触腕による反撃。だが相手も反応が速い。

 突き刺さる角を横に動かしすぐに抜き出す、と同時に回り込み回避。傷口を広げての離脱。赤い鮮血が飛び散る。

 

「くっ……」

 

 膝をつきそうになる春ノ戸だが、このタイミングでは絶対にダメだと理解していた。

 気合いを振り絞り、すぐさま後ろへ飛び退く。

 

「「鎮まれ、我らが領域よ(セ=ダーテ・ドゥ・アリーナ)!!」」

 

 掛け声とほぼ同時に春ノ戸のいた地点に封印結界が張られる。

 

「うっ!!」

 

 もし判断が遅ければ中で完全に停止させられていただろう。カンマ数十センチ、春ノ戸は結界のすぐそばで回避に成功していた。

 

 しかし……

 

「はぁっ、はぁっ……あれれ〜? 逃げれてないよ〜?」

「それじゃあもう動けないんじゃな〜い?」

 

 少し焦りはしたものの、すぐさまニヤニヤとした態度で笑う双子。その視線の先、春ノ戸の右腕は結界に捕まっていた。逃げ遅れだ。

 中ではうねることのない宙吊り状態の触手。まるでそこだけ時間も空間も止まったかのように歪な状態。さらに言えば、春ノ戸自身もその部分の感覚は消失してしまっていた。

 そして白いシャツを赤く染める鮮血。貫通されただけあってそのダメージは大きい。さらに移動も不可ときている。

 

「……」

 

 だが、そんな中でも春ノ戸はヴィスカルドの能力、未だ全貌が掴めていないそれの推察に思考リソースを割いていた。

 まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(あの子たちの反応から察するに次元跳躍のことは最初から知られていたわけではなさそうだ。なのにあの妖獣は背後を取れた。向こうも同様の能力が? それならもっと前から使うタイミングがあったはずだ。……もしや)

 

 何かに気づいた春ノ戸はゆっくりと顔を上げる。教室一つ分を挟んだ先にいるセルジュと彼に()()()()()シェイル、そしてその前で()()()()()()()()()を崩そうとしないヴィスカルドをしかと把握する。

 

「君たち、学校には行かないのかい?」

「「……はぁ?」」

 

 突然脈絡のない話を振られ、双子は息の揃ったリアクションをする。当然、「困惑」のだ。

 

「……な、なに言ってるかわかんないんだけど」

「ぼくらにせっきょーでもするつもり?!」

「親御さんが心配するんじゃないかい? こんな危ないところにいて」

 

 その言葉にセルジュはピキリと青筋を立てる。

 

「うっさい! ぼくらに親なんていらない! だって助けてくれないじゃん!!」

「……そうか」

「だいたいあんただってぼくらの敵じゃん! それに……」

「時間だ」

「え?」

 

 春ノ戸がそう呟くと同時に、双子の前に陣取っていたヴィスカルドが突然ひざをつきその場に倒れ伏す。

 泡を吹き、目の焦点が合わなくなっていた。

 

「ヴィ、ヴィスカルド?!」

 

 セルジュが彼に目を囚われた瞬間、春ノ戸は固定されていた右腕をぷつりと切り離した。

 

「!!」

 

 余裕の状況から一転、狼狽えるセルジュ。

 「自分の腕を切り離すなど痛くてやるはずがない」、子供ながらにそう考えていたが、目の前の男はそれを悲鳴をあげることもなく実行したではないか。

 

 しかしここで手を止めてはならないことも理解している。

 廊下の直線、必殺の複合封印結界を放てばあの男に避ける術はない。先の瞬間移動も、連発できないだろうことは予想済みだ。

 

 必殺の詠唱を行う。

 

鎮まれ、我らが領(セ=ダーテ・ドゥ・アリー)……シェイル!?」

 

 セルジュはそこでようやく気づかされる。自身にもたれかかっていたシェイルの呼吸が荒く、顔が青いことに。

 

「やっぱり……学校全体に特殊なアレナを張りながらあんな大技を連発できるはずがないんだ」

 

 接近しながらぼそりと呟く春ノ戸。

 

 

 セルジュが使用する結界能力はアレナの延長。領域を展開するものだが、何十キロの範囲にでもならない限り体力の消費はさほどない。

 それに比べて、シェイルの封印能力はオーラを対象に放ち作用させる。しかし月影高校を覆う封印結界の場合、彼女から結界、結界から範囲内の対象へ、といった具合に。

 

 ところがここに罠があった。今回、彼女たちが指定した封印対象は「黒装ディル(という性質)以外の存在」。その数は膨大だ。

 とはいえ、アンノウンマンの封印にはさほど力なんてかからない。魔物の封印も少々なら問題無しだ。……()()()()

 

 

 そう、月影高校は魔物、もとい半魔が多いのだ。春ノ戸も正確な数は把握できていないが、部活中の生徒だったり溜まり場としている生徒だったり、とにかく色々いるだろう。彼ら全てを一人で封印、しかも継続的にし続けるとなれば、体力消費は馬鹿にならない。

 緩衝地帯を踏み抜いて作戦を決行したツケが回ったのだ。

 

 そして、例え体力の消費が大きかろうと、すぐに気づけば調整は利く。

 ……だというのに、春ノ戸のちょっとした煽りに乗ったがために、互いに気づかずじまいとなってしまったのだ。

 

 

「終わらせるよ」

 

 黒目の中で輝く黄金の瞳は双子に向かって迫る。

 

 焦るセルジュ。二人で技を放とうにも、横にいるシェイルはぐったりとして呼吸が荒い。意識が落ちかけているのだ。

 

「バ、結界(バリエル)!」

 

 それでもと自身の結界能力だけでも発動させる。狭い廊下内でこれを展開すれば強力な防壁になることは間違いない。春ノ戸の目の前に展開される防壁。

 

 しかし、

 

「甘い!」

 

 彼は足を止めることなく片方の触腕、その触手群を刃に変形させる。そのままノンストップで刃は防壁へ縦に線を入刀。

 

 するとどうだろう、その切れ込みから結界は泡のように消失していく。そして春ノ戸が防壁を抜けてくる。

 

「な、な、なんでぇ?!」

 

 セルジュの困惑も無理はない。

 魔力壁のスペシャリスト・日下の下で春ノ戸は散々結界の扱いを叩き込まれていたのだ。魔力由来の結界ではないが、基本性質は同じ。封印能力が混ざってなければ打破は容易い。

 

「こ、こないでぇぇぇぇ!!」

 

 自身の能力も無効化されたセルジュは泣き叫ぶ。

 

 しかしおぞましい触手の半魔は、刃を降り下ろし──────

 

 

 

"こや……つらは、傷つけ……させんぞ……っ"

 

 行動不能になっていたはずの妖獣が身を前に出す。

 

 

 

 ヴィスカルド。

 

 彼はタイリクオオカミが鹿の妖獣、その屍肉を喰らったことで妖獣となった魔物だ。頭部の角はその影響で生えたものであり、「精神力を糧に五秒先の未来を視る」異能を得た。そして嗅覚は向上し、人並みの智慧も獲得した彼はオオカミの群れのトップになるはずだった。

 

 しかし人間の異能者が人の社会で迫害されるように、オオカミの異能者もまた、群れから迫害された。

 

 誰とも絆を持たない魔物は奈落堕ちし、魂の壊れた異形と化してしまう。

 

 彼は恐れた。怖かった。誰でもいい。誰か、我と共にいてくれ────

 

 そのとき、彼が出会ったのは同じく迫害された二人の子供だった……

 

 

 

 ピタリと止められた刃。

 

 蠢く触手の剣は妖獣の鼻の寸先にあった。

 

"なぜ……止め、る……?"

 

 テレパスのように口から発せられる疑問。その口はまだ泡が残り下がだらんと垂れている。

 

「逆に聞くよ。君は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。なのに、どうしてその身を投げ出してまでこの子たちを庇うんだい?」

 

 春ノ戸は淡々と尋ねる。ヴィスカルドが言葉を話せることにも内心驚いていたが、そこは些細な問題。

 そんなことより、春ノ戸は自身が使ったであろう()()()()を受けてなお、立ち上がる精神に興味が湧いていた。

 

 

 ヴィスカルドが突然倒れた理由から説明していこう。

 ヴィスカルドは五秒先の未来視ができる。これにより、春ノ戸が次元跳躍を行い双子にカウンターを入れると知り、先読みの反撃を行った。

 逆に春ノ戸は様々な条件から能力が未来視だと予想。未来視が追いつかないほどに怒涛の攻撃を行うといった手段も取れたが、双子がいる都合上、より確実な「敢えて未来視をさせて倒す」という手段に出た。

 敢えて未来視をさせて何をするのか。簡単だ。()()()()()()()()()()()()()()()()

 邪神の眷属、その落とし子である春ノ戸にはそれが可能だった。姿を見た者全てを発狂させる邪神の姿への変貌。

 あとはヴィスカルドが力を使うタイミングの把握。これは観察すればすぐに導きだせた。双子に危機が迫る時だ。

 そしてそれを見計らい、「真の姿になる」という思い込みをする。

 

 「手段として模索している時点で、その未来を視るとは限らないのでは?」確かにそうだろう。だが、例えプランとして成功しなくても実際に邪神化すればそもそもとして無力化はできたのだから。

 そうしなかったのは、まだ子供であるシェイルとセルジュが一時的な発狂を通り越して、魂の崩壊に至ってしまうかも、という春ノ戸の配慮からだった。

 

 そして実際に、ヴィスカルドは五秒先の未来でこの世のものとは思えない『何か』を視て、正気を喪失してしまった。

 

 

 だが彼は平衡感覚や五感の異常に苛まれながらも、双子の前で盾になろうとしている。

 

 何故?

 

 

"こやつらが、我と境遇を、同じくした(とも)……だからだ……っ"

 

 

 力強い思念。彼にとってシェイルとセルジュはそれほどまでに大事なのだ。

 

 いくら境遇が近かったとはいえ人と獣。それだけで数年も過ごせるわけではない中、双子は共に過ごしてくれた。

 二人にとっても、言葉を話せるという安心感、親のような頼もしさを感じていた。

 互いが互いに絆を持っていた。

 

 

"故、死ん……でも、触れさ……せ"

 

 そこで獣の意識は落ちる。今度こそ身体完全に横たわった。

 

「ヴィ、ヴィスカルド……」

「大丈夫。気絶しただけだよ。後で正気に戻せる。さて、それよりも……」

 

 教師の触手は蠢き、影で表情が見えない中、眼光のみがその輝きを見せる。

 

「君たちには緩衝地帯(ここ)を戦地にした罰を受けてもらわなきゃいけない。とはいえ君たちはまだ子供だ。その責任は()()()保護者に取ってもらわなくてはいけない」

 

 春ノ戸の触手──先端が鋭利になった刃──が倒れた妖獣に向けられる。

 

「い、嫌だ!」

 

 彼を庇うようにひしりと腕で抱くセルジュ。その体は恐怖に震えながらも、決して恐怖の魔物(春ノ戸)から目を逸らそうとはしていなかった。

 

「だ……だめ……」

 

 その背中に続くシェイル。重い身体を引き摺りながら彼女も必死の抵抗、その意志を見せていた。

 

 人生経験の浅い子供にとって、種が違えど共に過ごし育ててくれた存在はもはや親に近いといっても過言ではなかった。それが目の前でとどめを刺されるかもしれない。抗おうとするのは必然だった。

 

 少なからずの善性。春ノ戸は双子のそれを確認すると、安堵したようにその刃を引っ込める。

 

「……君たちがどんな子かはよく伝わったよ」

「「え……?」」

 

 双子が驚いた瞬間、背後に回り込んだ春ノ戸の触手が彼らの頭を叩く。

 

「「あ……」」

 

 二人はわずかな反応の後、その場で意識を失った。

 空間の中に漏れ出ていたシェイルの封印オーラ、春ノ戸はそれをかき集め当てたのだ。この戦闘の間に抵抗力がついたからできた芸当。

 そして彼女らはしばらく目を覚まさないだろう。

 

 

「ふーっ……あとは日下さんたちに来てもらうとして……」

 

 ()()()()()()()()()、できるだけ被害を与えず無力化しようと気を遣っていたからか、事が終わると同時に大きな息を吐き出す春ノ戸。

 しかしその容貌は、右腕が千切れ胸には貫かれた跡という酷い有様。

 だが本人はさほど緊迫している様子を見せていない。

 

「……よっと」

 

 千切れていない片方の腕……もとい触手の群れを傷口に近づける。それらはふわりとした光を放ったかと思うと、みるみるうちに胸の傷を塞ぎ、右腕を元の状態へと再生していく。

 

 

 『異能:ゴッドハンド』。

 異能者たちの再生能力、物体復元能力などは「まるで神の如き医療術だ」と比喩されることからそう呼称されている。

 

 

 春ノ戸もこれに類する治癒能力を持っていた。

 服に染み付いた血痕は消えなかったものの、体の欠損は物の見事に無かったことに。

 そしてその能力を使った上で体力にはまだまだ余裕があった。自慢の感覚器官が屋上の異変を感じ取る。

 

(この子たちに指示を出していたリーダー格がいるはずだ)

 

 見当をつけると一屈伸。

 

「行くか……!」

 

 春ノ戸は走り出した。自身の生徒たちが戦っている屋上へと。

 

 




ところで、この複合封印結界、上手く使えば感覚遮断落とし(ry
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