「出ましたねギヴィング・デス!」
上空に現れた地獄の道化師を見て歓喜の声を上げるベハビア。その様子から、彼女が本物であることが伺える。
「やはり私の目論見は正しかった! ここに現れた以上、逃しはしません。シェイル、セルジュ!
通信機器で双子に連絡を取るベハビア。しかし彼女たちの反応は無い。
「何をしているのですか……これだからガキは……!」
「あの子たちなら眠ってもらってるよ」
「!」
ベハビアに向かう鞭のような触手。接近に気づいた彼はそれをひゅいっと避ける。
「新手ですと?!」
ベハビアがその出所に目を向ける。そこは屋上の扉。ディルが蹴飛ばしたままのそれは下層に繋がる階段が見えたままだ。
かと思えば、そこから、ずるり、とおぞましい触手を生やした男性が入ってくる。三年二組担任、春ノ戸ラン。
「先生!」
「ごめん、遅くなったね。あの魔剣の子が封印を解除してくれた」
見た目こそ人離れした魔物だが、その声色は優しいままだ。
そして上空に浮かぶ奇術師もふわりと降りてくる。春ノ戸とは違って怪訝な目を向けるディル。
「なーにしに来やがった」
「フフフ、何やら私の名を騙っていた人がいたみたいだから名誉毀損で訴えにきたの。まさか、私が来て何か困ることでも?」
「大アリだ! 狙われてんのはあんただぞ!」
「あら、心配してくれてるの?」
「ぐぎぎぎ……」
反応は以前に会ったときと何ら変わりない。相変わらずの小馬鹿にする言い方だ。
からかわれつつも、ディルはちらりともう一度グラウンドの方を見る。
紅い髪のシルエットは相変わらずだ。むしろ、慧那と並んでひそひそ話をしているようにも見える。
(やっぱり別人……なのか?)
隣に立っているギヴィング・デスは本物だ。ベハビアも確信していた以上、それは間違いないだろう。そして恵那はグラウンドの奥にいる。
となれば所長が言っていた通り、「ギヴィング・デス≠恵那」は間違いない。
(となれば今はそんなことよりも……!)
急に現れペースを握られている状況にイラッとしつつも、不思議なことに気疲れの感覚はなかった。それどころか、疲労やダメージによる重さも軽くなっている気がする。
「あぁそっか……」
何かに気づいたようにディルはぼそりと呟く。
「こっちは三人! 降参するなら今のうちだぜ!」
ベハビアに向かって意気揚々とセリフを吐く。
しかし隣の二人から指摘が入れられる。
「負ける側のセリフね」
「こういうときほど油断したら駄目だって日下さんに言われてたじゃないか」
「ウス……」
気分が一瞬で下げられるも、ディルの戦闘意欲が特に下がることは無い。
三対一。状況は圧倒的に有利となったのに変わりはないのだから。
しかしベハビアの態度は変わらない。
「フッフッフ……それで? 三人だったら私を倒せると? 私はリンドヴルムが生み出した
それを聞いた春ノ戸、そしてディルまでもが驚愕の声を上げる。
「リンドヴルムだって!?」
「嘘だろ?!」
「ハハハハ! ご安心を! 今の私は『元』リンドヴルムですので!」
ベハビアが手甲にブレードを生成し斬りかかってきた。
強烈なドミネーターたる首領によって侵略活動を行う、文字通りの悪の組織である。
彼らの活動はアレナで周辺をオーバーライドしながら行う。そして幹部によって統率された戦闘員と怪人を展開し、凄惨な事件を起こす。終われば夢のように忘れられる。それはまるで日曜日の朝に放送されている特撮番組のように。
しかし真に恐ろしいのは、魔物たちの間でもこのダークカルテルの活動が認知されていないことにある。アレナを展開しながら秘密裏に作戦を決行するから、というのもあるが、吸血鬼結社ペルソナ・ネットワークや中華退魔組織・龍華会、天界のエージェントなど多くの組織が存在を聞いてもフィクションだと思っているのだ。かろうじて、実際に事件現場に出会すことの多い死霊課は認知できているが。
そしてその
ベハビアはそのリンドヴルムが対ヒーロー兵器として生み出した怪人だった。
ヒーロー……それはリンドヴルムの毎週の活動に現れ妨害してくる邪魔な存在。その存在は多岐にわたる。バイクに乗ってやってくる仮面の機甲兵だったり、合体する巨大ロボ、フリフリの衣装をきた少女だったときもあった。彼らによって撃破された怪人は数知れず。
そこで、あらゆる能力をコピーするのみならず、その一歩先を超えて倒す、さらには新たなヒーローにも対応して倒す、そういったコンセプトの元に自由自在な変身能力を搭載された怪人を開発部は作り出した。
ベハビアはその試作機にして組織の安定化を図る逸材……となるはずだった。
彼は廃棄処分となった。
不要となったのだ。幹部すら、いや首領すら超えて新たなドミネーターになり得るその性能のせいで。
しかし当のベハビアにそのような意志は到底なかった。本人を形成するエゴは野心ではなく純粋な任務達成への意欲。何者かに命令を与えられてようやく存在意義を見出せる精神性だったのだ。
とはいえそのまま廃棄を受け入れる諦観はなく、廃棄を装い脱走。自身に命令という名の
それが彼の生き様。彼の欲求。彼が生きる意味であった。
「私は
「させっか!」
地獄の道化師に向けられた悪魔の刃。それを同じ悪魔が装甲で受け止める。寸前でのカバー。反応できたのは奇跡的だった。
しかしすかさず第二波、四枚の翼による斬撃が来る。さすがにこれに反応する余裕はディルに無い。
だがその翼に向かって槍に変化させた触手が伸びる。
緊急離脱。四枚翼は攻撃から即座に回避へ移行し飛翔した。伸びた触手が再び春ノ戸に戻っていく。
「速い……!」
「くそっ、ラスボスみたいな風格出しやがって……」
死霊課のツテでリンドヴルムの実在を知っていた春ノ戸はともかく、特撮ヒーロー番組『
そして今、ディルの力をコピーしさらに強化した結果、その風貌は様々な装飾が増えて禍々しさと神々しさを併せ持つ姿に。
「さすがに三人相手ですと、そう易々と隙が生まれませんねぇ。……ですが」
羽ばたきながら背中を丸め力を込めるベハビア。その目は落とし子と道化師を見据えた。
「
べキリ、と腕のいたるところから鋭い触手が幾多も生える。
さらにフルフェイスと化した顔面の中央に縦に大きな亀裂が入る。そこが開かれ現れるは黒目に黄金の瞳。
春ノ戸の邪神の力だ。
そして申し訳程度にギヴィング・デスの仮面らしき物が顔の一部を覆う。戦闘に特化しているわけでもない彼女の特徴を出したところで、あまり意味はないのだから。
しかし能力としてはしっかり発露していた。
「ではまず……」
もはや原型を留めていないベハビアが指をパチンと鳴らす。それと同時にディルたち三人の周囲に爆弾がいくつも浮かび上がる。
「!!」
「この数を避けることは不可能でしょう!」
気づいた直後、すぐに爆発。屋上に爆煙が舞う。
もうもうとした煙の中、しかして直撃を受けたはずのディルたちは無傷。
「威力自体はないのか……?」
「いいえ、私が打ち消したの」
煙の中から声が聞こえる。その先の影から話すギヴィング・デス。
「元々は私の術よ。だったら打ち消すなんて簡単なこと……」
余裕綽々とした彼女だが、次の瞬間、その人影が刃で真っ二つにされる。
「!」
「おや、逃しましたか」
攻撃の勢いで煙が少し晴れる。道化師の魔術をあくまで囮として使ったベハビアがそこにいた。
しかし、真っ二つにされたはずのギヴィング・デスは煙の上でふわりと舞っていた。少しズレたシルクハットを被り直しながら。
「あの奇襲を避けるとは。やはり『鍵』の力ですか!」
「ふーん……あなた、記憶まで読み取れるのね。なおのこと看過できないわ」
(『鍵』……?)
意味深な単語に疑問を抱くディル。しかし悠長に考える時間はない。
すかさずベハビアに攻撃を加える。
「あなたの力はすでに把握済みなのですよ!」
「だったら根性で押し通す!」
突撃するディルに向かって翼と触手による四方八方からの打撃。しかしディルは止まらない。多少の被弾を覚悟で攻撃部位を突っ切る。
強引な突破。当然ながら切先による傷は発生し、身体にかかる負担は増える。
しかし、そのぐらいしなければ自身の上位互換化しているこの魔物に、隙を与えることは難しいと考えたのだ。
両腕のブレードを交差。懐に向かって十字斬りが放たれる。
「無駄ですな!」
────無情にも、ベハビアの多岐に渡る能力の扱いは天下一品だった。
脇腹から新たに生えていた結晶鱗による黒腕。それがディルの刃を受け止めていた。ディルの力に加えて先ほど慧那を見たことでその能力から完全に模倣した技だ。
「言ったはずです、私はコピーした力をその持ち主以上に引き出せると!」
「いーや、これでオーケーだ」
ニッと不敵に笑うディル。ベハビアがその意味を探ろうとした瞬間だった。
強い閃光。
目に入るは自身の横、煙の向こうから迫る太い熱線。それも極太の。体の動作は間に合わない。
「は……」
凄まじい熱量がベハビアを包み込み、過ぎ去っていく。
近辺にいたギヴィング・デスも何が起こったか把握できていなかった。出所の方へ仮面を向ける。
エネルギーの奔流による風が屋上の残った煙を掃いていく。晴れたその先には砲塔。それを抱くは春ノ戸。その先端からは煙が上がっている。
彼の腕がおびただしい数の砲塔へと変貌していたのだ。
無論、その威力と引き換えに消耗は激しい。
「────っぷはぁ! もうしばらく立てないや……」
どさりと床に倒れ込む春ノ戸。双子の時とは違い、息絶え絶えであった。
そして熱線の通った先……黒コゲになったベハビアと、生焼けのまま残った触手先端を引きちぎるディル。
彼を囮として注意を引かせ、必殺の火砲でベハビアを焼き払ったのだ。煙の中からでも春ノ戸の眼は敵を感知できる、が故に行った咄嗟の作戦。
無論、春ノ戸の消耗はディルを巻き込まないようにしつつ、ベハビアに最大限のダメージを通せる位置を狙うよう、細心の注意を払った結果でもあった。
「別にオレごと巻き込んでくれても大丈夫だったんすけど」
「はぁ……はぁ……それで教え子を……巻き込むようなら僕は……ふぅー……教師失格だよ」
仰向けになりながら生徒に返事する春ノ戸。
「フフフ、思ったより早く終わったわね」
ギヴィング・デスが横にふわりと着地する。
「あんなコピー能力、一つだけならまだしも全員分使えるとなったら初見殺しするしかねーかんな」
そう言ってディルは目の前で黒い炭と化したコピー能力者を覗き込む。春ノ戸の一撃を受け、見た目こそ黒ずんだが、触手や翼はまだ形を残している。
そして腰のバックルも。
「──────!!」
驚くほどダメージを受けていないそれを見た瞬間、ディルは横にいるギヴィング・デスを庇おうとする。
だが遅かった。
黒ずんだ表皮を突き破りボディを再構成したベハビアが彼女を捕らえた。
「!」
「私はッ!
ギヴィング・デスを脇に抱え、即座に翼を広げた傭兵は屋上を飛び立つ。
ベハビアの力は大部分がバックルに集約されている。ここが大破しない限り、彼の変身能力が失われることはない。
「まさか逃げるつもりか!」
「その通り! 私の目的はあくまでこの道化師の確保! それさえ達成していればあなた方に構う必要はない!」
一方の道化師は掴まれた腕の中で指をパチンと鳴らす。何かしらの力で脱出しようとしたのだろう。
しかし何も起こらない。
(……?! 能力が使えない!?)
「ハハハハ! 私は
コピーしたシェイルの封印能力を使い、ギヴィング・デスを無力化。
最初からやればよかったのだが、他に半魔が二人もいる状況かつ、他の能力も行使しながら、というのではさすがのベハビアも無理があった。
春ノ戸が体力切れ、ディルも相当に疲労しているこの瞬間こそ、不意打ちで使えたのだ。とはいえ双子が倒されていなければこんなことをしなくても済んだのだが。
魔轟重爆砲のダメージに加え、封印能力を使っている以上、先ほどまで行っていた能力の同時使用はあまりできない。残りの力を逃走に回すベハビア。
「
ギヴィング・デスが呼びかけようとするも風音に掻き消される。
当然、それをただ眺めるディルではない。
ギヴィング・デスの拉致。それが何のためかは分からなくても、彼女には様々な感情がある。問い詰めなくてはならないことも。
(逃がさない……けどっ)
問題はベハビアの飛行速度。彼は自身と同じステータスとなっている。さらに言えば、それ以上の力を引き出せてる可能性が高い。このまま飛んだところで追いつけないだろう。
不安になったその時、脳内を声がよぎる。
((ククク……相変わらず追い詰められているようだな))
ディノキアだ。
(こんなときに……! こいつの力を借りたらどうにかなるかもだが……)
葛藤するディルだが、魔神は意外な答えを返した。
((あの程度ならオレの力を借りなくても問題ない。お前の力は応用が利かせられるからな。あの偽者のように))
その言葉を聞いてハッとなる。
重力……もとい引力の逆、斥力。
((あの程度の魔物にできて、お前にできぬはずはなかろう。何せ、オレと波長の合う魔物なのだからな))
妙なエールを受けたディルはイメージする。考えたら、元々自分の能力なのだ。自分がそれをできない道理はないはず。
(引き剥がすイメージ……)
いつもの重力操作の逆、しかして発生点はそのままに……
幸いにも、ディルにとってそのイメージは掴みやすかった。
(捉えた)
どんどんと離れていく空の影に焦点を合わせる。
「リパルジョン」
そう呟くと同時に、ベハビアに掴まれていたギヴィング・デスがパチンと外れる。まるで反発する磁石のように。
そのまま彼女は屋上に引き寄せられる。
「何ぃっ?! 私の力を使っただと!?」
ディルの記憶を読み取り、思考が単純で複雑なことはできないだろうと高を括っていたベハビア。その油断が、即座に使われた斥力に牙を剥かせた。
「元々オレの力だバーカ!!」
罵声を投げ、ディルは落ちてくるギヴィング・デスをキャッチしにいく。彼女は封印されたせいでいつものように浮遊することすらできないのだ。
「させません!」
獲物を取られたベハビアは急旋回、落ちる道化師を再び捕らえようとする。速度はこちらの方が上。
(間に合うか?)
ディルはここで残り少ない体力を使い、飛ぼうとするが……
それよりも速く、光の線がベハビアを襲う。
「────ッ!」
焼ける右腕。
横たわりながらも春ノ戸が放った火砲だ。消耗からか、先ほどよりもその威力は弱く、細い一撃となってしまったが牽制には十分。
その間に落ちてきたギヴィング・デスをディルが両手で受け止める。
そしてすかさず彼女を後ろに。距離を取らせる。
「あ、ありがと……」
「下がってろ。後は、オレがなんとかする」
お礼をさっと聞き止め、ディルは庇うようにさらに前に出る。
「よろしいでしょう! 最後まで邪魔をするというのなら、あなたを先に粉砕し
ベハビアは上空で翼を大きく広げる。そして片足の周囲に空気の渦を巻き起こす。エネルギーを溜めている証だ。
目で見た相手の力をコピーできるベハビアは、その記憶を記録のように読み取ることまで可能だ。その結果、彼は今出せる最大火力を放つことにした。
それは、ディルがレイヴン製薬ビルとギア・シンジュクに叩き込んだ
(受け止めきれるか?!)
技の溜めを見たディルは構える。しかし頭をよぎる疑念。
このままグラビティバリアで受け止めたとしても、校舎が衝撃に耐え切れなくて崩壊するだろう。そうなれば受け止めるどころかモロに攻撃を喰らうことになってしまう。
協力を仰ごうにも春ノ戸は体力切れ、ギヴィング・デスは能力が抑えられてしまっている。迎え撃てるのは自身のみ。
放たれる前にどうにかしないといけない。だが今のディルに遠くの敵を攻撃する手段は無い。
(さっきのリパルジョンで遠くに……ダメだ。
ファルディア戦と同じ迎撃状況。しかし、諦めの念は無い。
(もっと、もっと……遠くのあいつにぶちかませるような技のイメージを!)
自身のあらゆる能力をしらみ潰しにして遠距離攻撃を検索するも出てこない。そこに……
((ならばオレの記憶を見せてやる))
突如ディノキアが名乗りを上げる。ディルの前向きな姿勢に当てられたのか。しかし理由を聞く時間は無い。
そして有無を言わさずディルの脳内に湧き立てられるヴィジョン。
黒い竜。その口から放たれた黒い球体が何もかもを押し潰していく────
((後は、お前が完成させるんだなクックック……))
一瞬だった。しかし、それだけで充分。
目が見開く。頭が冴え渡る。腰を深くかがめる。
「視えた……」
標的は上空。両手を広げ向かい合わせる。それを引くように体の横へ。向かい合った掌の隙間に電流が走る。
そして発生する。黒い球体が。それはみるみる大きくなっていき、黒い電撃をまとわせていく。空気がその球体に引き寄せられ、風を生み出していく。
届かないなら、こちらから届かせる。
「終わりです!」
「ブラック……」
一方のベハビアも必殺の一撃のエネルギーを溜め終えた。
「オーバーチェンジ……」
「エクス……」
急降下するベハビアに向かってディルはその球体を押し放つ。
「クラッシャァァァァァァッ!!」
「パンディクション!!」
放たれた球体はさらに大きくなりながら電撃を放ち上昇する。
「!? 遠距離攻撃だと?!」
衝突。隕石のような蹴りと超重力のような球体が空中で凄まじい波動を放ち合う。
「こんなもので食い止めるつもりですか!」
しかしベハビアの方がパワーは上回っている。ディルの体力が少ないからだ。ディノキアの霊力で多少回復したとはいえ、連戦の疲労は確実にのしかかっていた。
「ぐぎぎ……」
ベハビアの蹴りが黒球を押していく。それに釣られてディルの足も後ろにずり下がっていく。このままでは押し切られるだろう。
(ここで防がねーとツキ高はどうなる! 完全に壊される! それに後ろの
耐えろ。
耐えろ。
耐えろ。
「これで終わりです!!」
ベハビアがさらに力を込める。
(終われない……終わらせない!)
少女は見ていた。
散々戦い、限界が近いというのに、その少年が全力で踏ん張っているところを。
しかし足りない。その疲労で不足した力が、敵を押し破るあと一歩が。
────彼がどれだけ健闘していたかは知っている。見ていたから。
何のために戦っているか……は、人の心なんて読めるわけじゃないから完全には
でもぼんやりと、「
だから力になりたい。
でも私は何もできない。それでも、何かしてあげたい。
私ができること……
……ねぇ、貴方はこんなことでも喜んでくれるのかしら────
少女はありったけの
「ディル──────っ!!」
耳に届く声。
恵那の声だ。
それを聞いた瞬間、ディルの口角は自然と上がっていた。
そういえばと、今までの呼び方を振り返ってみる。
いつもはわざわざ取ってつけたようなクン付けだ。
あぁ、こっちの方が馴染むな。
冬の路上で名付けられて家族にそう呼ばれ続けていたオレの名前。
自分の魔の力と密接に関係づけられていたオレの名前。
それが、好きな子に呼ばれるだけでここまで力が湧いてくるとは。
押されつつあった足はもう後ろへズレない。
エネルギー球を押し続ける左腕にぐっと力を込める。
「ハッ……ハハハハハうらぁぁぁぁぁぁあぁぁっっっっ!!!!」
力が、漲る。
「なっ……なぁぁぁぁああああ?!」
優勢だったベハビアの体が、押し返され、持ち上げられていく。
「馬鹿な、十分過ぎるほどに疲労は蓄積してるはず! 一体何が!?」
困惑するのも無理はない。一人の少女が名前を呼んだだけで出力が上がったのだから。
校舎に近づきつつあった隕石蹴りが、逆に校舎から離れ上空に。黒のエネルギー球がその足を、次第に体全体を飲み込んでいく。
体を蝕む圧縮重力。メキメキと音が立つ。もはや逃げることすら許されない。
「この私が……っ! 上回っているはずの力で負けるというのですかぁぁぁぁぁぁっ……!?」
黒球がベハビアを完全に飲み込んだことを把握したディル。
親指を横に向けた握り拳を一閃。
「地獄で滅びろ!」
月影高校の上空に、黒の爆滅が轟いた。
Q.コピー能力持ちが自分よりワンランク上のコピー能力持ちです。どうしたらよいですか?
A.その場で新技を開発してぶつけます。初見殺しです。
ちなみに、ベハビアもさすがにディノキアの感知ができないため、コピーも不可能だった模様(できたとして、