Black Externa ─黒の極致─   作:サム・ソー川

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分断したはいいがどうしよう案件


62話「幻魔の孤城(10)」

 

 

 ディルがドミネーターと一騎討ちをしている頃。

 

 

 その理由となった半魔たちは巨大蟲・ギディアムペーデに追われながら、樹根ドームの下層……ドミニオンのさらなる深淵へと落ちていた。

 

「ちょいアヒャ男! ウチらこれどこまで降りてくねん!?」

「アヒャヒャヒャ! アヒャ男ってオレ様のことかあ?」

「あんた以外に誰がおるってんねん!」

「ちょっと二人とも、変なこと言い争ってる場合ですかぁ!」

 

 米俵がごとく両脇に爽帆(あきほ)とアユミを抱えたファルディアは、根の道を光のオーラを纏わせた飛行ですいすいと飛行(落下)していく。

 クライシス粒子によるオーラ飛行はそれ自体がエネルギーだ。うねる草木のエレベーター、そこから突き出た棘や破片などを気にせず突っ切れる。

 もっとも……

 

「ピギュォアアアアアアアアアアア!!」

「おっとお!!」

 

 ファルディアが横へ急移動する。

 直後、動く前の空間を自動車ほどの巨大な大顎が壁ごと粉砕した。木屑と土埃が舞うも気にする余裕は無い。

 

 スピードを緩めず半魔はさらに降りていく。

 そして獲物を逃したことに気づいた巨大百足もまた、その方向へ動く。

 

 

「あっ、広そうな場所が見えてきました! 最下層です!」

 

 夜目がきくアユミの言葉を受け、ファルディアはさらに加速する。追いかけるギディアムペーデ。

 

「着地だあ!」

 

 芝と石肌が広がる平原、ファルディアがそこに着地すると同時に二人も足を下ろす。

 が、のんびりする猶予が与えられるはずもなく。ギディアムペーデがその着地点に目掛けて頭を突っ込んできた。

 

「どひゃあああああ!!」

 

 素っ頓狂な声を上げてその場から退避する爽帆。当然、他の二人も追随する。

 

 降りる先が地面になったからか、ムカデはその巨体をようやく落ち着かせた。蛇のように上半身を持ち上げ、爪のような鎌を唸らせる。その体はもはや虫とはいわず、竜の如し。

 現在地は上層のドームと類似した広大な空間。だというのに、それが狭そうに見えてしまう圧倒的存在感の使徒(アポスル)*1

 

 それこそが、この巨虐蟲ギディアムペーデだ。

 

 

「なぁー! あんなデカいの倒す算段ついとんのー!?」

 

 散り散りになった先で爽帆が叫ぶ。

 

「アヒャヒャヒャ! 殴ってみねえと分かんねえなあ!」

 

 同じように叫び返答するファルディア。そして次の行動は早かった。

 オーラを纏ったまま飛び上がり、ギディアムペーデの腹部に大きく構えた拳を叩き込んだ。

 予備動作の大きさからASN-1には回避された一撃。しかし今回の標的はあまりにも大きい。避ける動作すらできない蟲に封印兵器のパワーが炸裂した。しかし……

 

「……っなあ?!」

 

 確かに入った一撃。だが砕いた感触は得られなかった。相手が巨大すぎるが故に比例して、甲殻も相当に分厚くなっているのだ。

 とはいえ、凹みを与えることには成功している。数をこなせばダメージとしては大きくなるのかもしれない。……が、それはファルディアの大振りに後隙が無い前提の話だ。

 

「ギュラァァァァァァ!」

 

 脚元で小突いてきた()が立ち止まった隙に潰さない者がいようか。

 ギディアムペーデはその大鎌を隙だらけの半魔へ叩き込んだ。

 

 間に合わない回避。ファルディアは代わりにガードという手段を取る。が、両手で受けるには相手の攻撃が()()()()()

 

「ぐっぎいいいいいいいい!!」

 

 足で支えようにも、その足場が威力を減衰しきれず割れ沈んでいく。

 

「アヒャ男!」

「ファルディアさん!」

 

 爽帆とアユミがファルディアの方向へ向かう。

 しかし蟻が集まるのを良しとする存在がいようか。ギディアムペーデはもう片方の巨鎌を振るう。

 

「ん────っ!」

「ひゃぁぁぁあぁ」

 

 一帯を薙ぐ剛刃。咄嗟に身を屈めて地にしがみつく爽帆に対し、非パワー型のアユミは鎌を避けど風圧に吹き飛ばされる。

 

「パッチー!」

「だ、大丈夫です!」

 

 上方に飛ばされるアユミだが、そこは猫の柔軟性と脚力。壁に叩きつけられかねないところを空中回転と足のバネで見事受け止めた。

 しかし頭の猫耳はペタリと伏せられている。

 

「八宮アユミ! 黒装ディルから『頼む』っ言われてんだあ! 巻き込まれるから隠れとけえ!」

 

 ファルディアが叫ぶ。百足の意識が一瞬だけ二人に向いた隙にオーラ飛行で抜け出したのだ。

 

「ちょっ、アヒャ男! パッチーだって頑張っ…………パッチー、ここはウチらに任せて下がっといて!」

 

 必死にフォローの言葉を浮かべようとした爽帆だったが、現実を見て見ぬふりはできない。

 無傷で済んだものの、アユミは他二人と比べて絶対的にパワーが足りないのだ。普通の魔物相手なら問題ないが、今の相手は広いドームすら狭く見えるほどの超巨体。

 これといった特殊攻撃手段もない上に、彼女の防御力では掠りでも致命傷になりかねない。

 それなら戦闘に参加せずにいてくれた方がこちらも心置きなく戦える。()()()()である太田爽帆の心境はそんなところだった。もちろん、友達に怪我してほしくないというところもあるのだが。

 

 そんな爽帆の言葉を無碍にするほど、八宮アユミという少女は強気ではない。なにより、先の攻撃で心がビクついてしまった。本来戦える側でない彼女はもう果敢に挑めない。

 友の忠告にアユミは無言でこくりと頷く。唇を噛み締めながら。

 

 

 そして、今この場で唯一飛行できる封印兵器(ファルディア)は作戦を変更する。

 

「だったら遠くから攻撃すればいいってなあ!!」

 

 片腕を上に掲げ手の先にエネルギーを集約させる。

 

千年(せんねん)隕石(いんせき)っ!!」

 

 通常なら下に向かって放つところだが、今は相手が大きすぎるが故に水平投擲。逆に言えば、避けられる心配もない。

 

 車二つ分ほどのサイズの巨岩エネルギーが、メジャーリーガーも驚く超豪速球で空気を裂く。そのままムカデの頭部に命中した。

 

 大砲が着弾したような轟音が響く。同時に、後ろへ揺れるギディアムペーデ。サファイア色の甲殻は割れていないものの、凹みと擦れた傷跡がついていた。

 

「もう一丁お!」

 

 すでに再攻撃の構えに入っていたファルディア。千年隕石をもう一度放つ。

 

 

 ────が。

 

 

 放たれたエネルギー塊は命中する前に真っ二つとなり霧散した。

 

「!!」

 

 かつてそれを実行したのは、月影高校で対決した黒装ディルの『白い闇』を纏ったブレード。

 しかし、エネルギーの塊であるからといって、『白い闇』でなければ両断できない訳ではない。

 大質量と超硬度、加えて研ぎ澄まされた切れ味。それらを満たせば可能だ。そしてそれはムカデの頭にある。

 

 長さだけなら優に二階建て家屋を超えるだろう刀角。もし、この使徒に図鑑的説明がなされるならこの部位はこう記されていただろう。

 『ダイヤモンドの切先(アダマス・ラミナ)』と。

 

 

 表層から遠く離れているとはいえ、光虫の淡い光をも強く反射し輝く刃。

 

 それを生やす頭部の左右の眼はどこを向いているのか分からない。しかし、ファルディアはそれが自身をはっきりと睨んでいると確信していた。

 

 広いとはいえギディアムペーデのサイズなら狭く見えてしまう空間。動き一つが脅威になる以上、ファルディアは動向を注視する。

 

 鎌は動かない。尾を振り払うわけでもない。代わりに頭が少し上げる。

 

(来るか……!)

 

 いつでも回避できるよう身構えるファルディア。

 それを知ってから知らずか、ギディアムペーデは頭を勢いよく振り下げた。

 

 『ダイヤモンドの切先』は当たらない距離。そう判断したファルディアだが、すぐにそれを取り消す。

 

「衝撃波かあっ?!」

 

 巨体から放たれた突然の飛び道具。

 無論、回避の構えを取っていたためにその直線軌道を読むことは容易かった。

 しかし巨体が故に速い。体を逸らしたがその余波までは避けられない。肩に傷が入る。

 

「──────ッ!」

 

 ダメージを負ったファルディアだが、冷静にその攻撃の性質を分析する。

 彼は所長によって造られた生体兵器であるが故に、服も特製のものとなっている。なんとあのツーちゃんたちDBAシリーズの強化繊維「ガッツファイバー」をも上回る、耐久向上素材「ハイパーガッツファイバー」で製造されているのだ。その強さはナパーム弾でも耐え抜くほど。

 

 ──それが、容易く()()されている。衝撃波でこれなのだ。角に当たれば体は真っ二つになってしまうだろう。

 

 だがもっと大きな問題は……

 

 

「ギュオオオオオオオ!!」

 

 ギディアムペーデが首を何度も振り、恐怖の斬撃を連発する。

 そう、エネルギーの刃を飛ばすわけではなく、巨体のただの()()なのだ。何回、その気になれば何十回と放てるだろう。

 

 飛んできた斬撃をファルディアは飛行しながら回避。また回避。避けきれないものはクライシス粒子による相殺。しかし余波が浸透するようにヒリつく。そしてまた回避作業に戻る。

 こうなると攻撃どころではない。

 

「鬱陶しいぜえ! 太田爽帆! 攻撃できるかあ?!」

「言われんでも!」

 

 地表付近の爽帆がスクールウェポン(野球バット)を両手で持ち接近。ムカデの意識は上空のファルディアに向いている。準備は万全だ。

 

「もろたで!」

 

 甲殻の腹側、おそらく比較的薄いと思われる箇所にフルスイングを叩き込む。

 金属音。しかしそれはボールを打ち返したときのような軽快さより、重い鐘を叩いたときのような、打つ側が押し負けたとき耳に響くそれ。

 

「あががが」

 

 バットの先で発生した震えが爽帆の身体を電流のように伝っていく。

 パワータイプの半魔である爽帆だが、さすがに封印兵器であるファルディアには及ばないのだ。

 

 そしてその衝撃に気づいたギディアムペーデが大鎌を振り下ろす。

 

「ちょっ、まぁ!」

 

 なんとか跳びはね避ける爽帆。思わず叫んでしまう。

 

「あっかん、こんなん身が保たんで! 落ち着いてーな!!」

 

 しかし巨虐蟲がそんな訴えに聴覚を貸してくれるわけもなく。

 

 

(くそっ黒装ディルにわざわざ貸しを作ったのに……。このままじゃ貸しにならねえ)

 

 本来護衛しなくてはいけないはずの爽帆を戦わせてしまっている状況。『夜の側』で依頼をこなして生活する半魔にとって、任務が達成できないことは信用問題だ。ベハビアほどではないが、ファルディアもそこは弁えている。早期の状況打破が望まれていた。

 

()()を使うか……?)

 

 猛攻が続く中、脳裏によぎるとある手段。

 だが傭兵にとって手の内を無闇にひけらかすのはリスキーだ。例え同行者が一般半魔であれ、いつ敵になり得るか分からないのが魔物の世界。出す必要が無ければ出したくはない。

 

 かといって抱え落ちして死ぬのはもっと馬鹿らしい。

 

 

 適切なタイミングを見計ろうとしていたファルディアだが、ふと平原の端で退避していた人物が顔を出しているのが見える。

 

(八宮アユミ? 何するつもりだ?)

 

 回避に身を割かざるを得ない状況、言葉を投げる余裕もない。

 

 

 そして次の瞬間、あろうことか隠れておくように忠告された少女は……

 

 ギディアムペーデに向かって走り出したではないか!

 

「!?!?」

 

 

*1
ドミネーターから直接力を分け与えられた特殊な魔獣のこと。っぉぃ

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