刻一刻と迫るタイムリミット。猶予が失われるにつれて心臓の鼓動も早くなる。
早く終われ、いや終わるなと曖昧な受け答えが心中で殴り合いを続けていた。
それに決着をつけたのは彼の視界に入る問十……小テストの最後の問題だった。
(あ、さっぱり分からん)
(……)
(…………)
沈黙。蛇に睨まれた蛙のように、ディルの思考も手の動きも数十秒止まった。
「はいそこまで! 後ろの席から回収して!」
教師の合図と共に、教室内のあちらこちらで筆記具を置く音が響き渡った。
そして風船から空気が抜けるように、ディルもしなしなと机に着地した。
(数学……死……次の定期テスト……欠点……留年……)
魂が抜けたように項垂れるディルだったが、その真後ろから背中をちょんちょんと
「黒装クン、前に回して」
後ろの座席の
「あー……」
テストの出来に意気消沈したまま紙を後ろから前へ、流れ作業のように手渡していく。
「その様子だと今回も撃沈かしら?」
「どーせオレは成績底辺のチンピラですよーだ……」
ディルの成績はどの科目ともに褒める要素がなかった。
なかった。
二年生の冬にツキ高に転入した身だが、とある事情により中学三年の途中から教育を受けていない。そのため、授業は一年と半に渡るハンデを負ってるに等しかった。
とはいえそれが無かったとしても地頭が賢くないため、ついていくことすら大変なことには変わりない。
春ノ戸先生が少しはサポートしてくれたものの、彼も妻帯者。常に構ってられる余裕はない。かといって他に勉強を教えてくれる存在がいたかと言うと、いなかった。
去年は見かねた春ノ戸によるピンポイント対策でかろうじて留年は免れた。しかし今年はそうもいかない。一年から三年までの範囲が積み重なってくるのだ。その上、現時点で小テストが壊滅状態。限界成績であった。
(留年したらまたこんな学校生活をもう一年……そしたら宗也とか
そこまで考えてディルはある考えにたどり着いた。
「そーじゃん
机に突っ伏しながら呟くディル。
そう、今年の彼は去年とは状況が違うのだ。友人がいる、それだけで彼にとって心強いものはなかった。
「……私だって成績いいのに」
「え?」
気が抜けていたからなのか、半魔の聴力であっても聞き逃した恵那の言葉。
「じゃあ次教科書の五二ページ開いてー」
振り返って聞こうにも、授業が再開されて聞ける状況でなくなる。
ディルは仕方なく授業に集中することにした。
その後ろで頬を少し膨らませた女子がいるとは思わずに。
名前が挙がっていた泰輝は以前の番外編で宗也が言っていた劔好きの
なお成績はそこまででもない模様。そして、宗也は上の中ぐらいには食い込むほどの優等生です。