序章では、ISは設定のみが語られ、ISキャラも登場しません。
もしかすると、第一章でも中々ISキャラは登場しないかもしれません。
加えて、作者はハーメルン初投稿で、いろいろと失敗をしでかす可能性が大です。
私は一向に構わんっ!!という方は、是非ご覧ください。
物語は唐突に始まる。
それは人が生を受ける瞬間であったり、あるいは人が生涯を終える際に過ぎる走馬灯であったりと、有様は正に多種多様である。
時にはその主人公(中心)が人間でないことすら、往々にしてありえるものだ。
さて、此度の主人公は紛れも無く人間である。
否、人間であったと言う方が正しいかもしれない。
今現在、その主人公はそれを人間たらしめている器(カタチ)を失っているのだから。
有り体に言ってしまえば、この物語の主人公は既に死んでいた。
と言っても、それはこの物語がその主人公の走馬灯である、という意味ではない。
言うなれば彼にとっての真なる意味での物語(人生)は、今ここから始まるのだから。
…………少しばかり、余計な前置きが長くなってしまったようだ。
それでは始めよう。
これは、世界の理(ご都合主義)を拒んだ、一人の男の物語である。
…………どこだ、ここ?
ぼんやりと、彼はそな疑問を浮かべた。
そこは天地はおろか、己と他者との境界、即ち自身の輪郭すら曖昧な、そんな場所だった。
何故自分はここにいるのか。先程の自問に応えるべく、彼は思考を始める。
真っ先に思い出したのは、自分がつい先程「死んだ」という事実だけ。
どうして死んだのか? 死の瞬間は?
そういった詳細な情報はまるで思い出せなかったが、ただ自身が死んでいるという事実、それだけははっきりと思い出せた。
一つ疑問が解決すると、新たな疑問が首を擡げるのは、人間と言う生き物の常だろう。
彼もまた多分に漏れず、次なる自問を思い浮かべる。
…………俺は、誰だ?
然して、その自問は、己の根幹を問うものだった。
一人称から、男であった事は間違いない。思い出される生前の姿も男の姿に相違ない。
どんな性格、趣味、嗜好をしていたかさえ、詳細に思い出される。
何なら、生前、最後に食べた食事の内容さえも思い出せた。
だと言うのに、己の名だけは、決して思い出せなかった。
その事実は彼を戦慄させるのに十分過ぎるものだった。
疑心は疑心を呼び、彼の不安は留まるところを知らず膨張する。
もしや、自分が己の記憶だと思っているものは、自分が知っている他人の記憶なのではないか?
ともすれば、自分はそれを見ていただけの、人間以外の生物、或いは路傍の小石なのではないか?
彼に肉体が有ったなら、背筋は凍り付き、体中を冷や汗が伝ったことだろう。
そして、そんな彼の恐怖は、予期せずして掻き消される。
『ははっ、安心してくれ。それは君自身の記憶で間違いない。ただ、『今後』に影響が出そうな内容にはフィルターを掛けさせてもらっているだけだよ』
不意に聞こえた場にそぐわない明るい声に、彼は思考を止めた。
否、声が聞こえた、というのは正しい表現ではない。
それは彼の脳裏に直接響いたようにも、文章として脳裏に浮かんだようにも思える。
もっとも、彼に肉体が無い以上、それはどちらであっても、大した問題ではないのだが。
故に、彼はそれについて言及することはせず、ただただ疑問を言葉にしようとする。
…………どなたですか? フィルターって?
彼としては、それは精一杯に声を出したつもりだった。
実際にそれが音になっていたかどうかは、また別の話しだが。
『んん? 意外と冷静だね? まぁ死んでしまった事は理解してるだろうし、そんなものか』
やはり、先程と同じ明るい調子でその声は返って来る。
声と呼ぶにはいささか怪しいそれは、本来であれば不気味なものなのだろう。
だが、生憎と肉体さえ存在しないこの空間では、彼はそれほど気にはならなかった。
『さて、話しが進まないし、質問に答えるとしよう。まず一つ目の質問だけど、そうだね…………オレは君たちが言うところの神や閻魔様ってやつかな?』
威厳の欠片も無い軽快さで声の主、その言葉を鵜呑みするのならば神、は告げる。
しかしその言葉に、思いの外彼は驚かなかった。
『んで、フィルターなんだけど、君、自分が死んだ瞬間のこととか思い出したい? 以前はフィルターかけてなくて、結構発狂しちゃう人も居たらしいけど?』
その言葉を聞いた瞬間、彼は無い筈の喉が、生唾を飲んだのを感じた。
確かに、そんな記憶、あったところで何の益もない。
『理解が早くて助かるよ。他に質問はあるかい? 幸いにも君は死んでることだし、時間はいくらでもあるからね』
今にも笑いだしそうな口調で、神は彼にそう促した。
ふむ、と、肉体があったなら間違いなく顎に手を添えたであろう体で、彼は考え込んだ。
思い浮かんだのは、先程の神の言葉だった。
…………『今後』とは? 何故俺は、生前の名を思い出せないのですか?
彼の疑問に、神はくくっ、と喉を鳴らして笑う。
『良い質問だね。それに良く人の話を聞いてるし、洞察力も見事だ。君を選んだオレの目はやはり正しかったらしい』
告げて、神は本当に可笑しそうに、今度は彼が間違いなく聞こえたと、そう確信できるほどの声で笑った。
『くくっ、いや、すまないね。嬉しくてつい、というやつさ。…………さて、『今後』についてだけど、これはそのままの意味だ』
一頻り笑った神は居住まいを正し(彼にはそう感じられただけ)、しかし、喜色ばんだ口調を改めることはなく告げる。
『君、生前ラノベとか二次創作SSとか好きだったろ? あれで言うところの転生ってやつさ』
およそ神の口から飛び出して良いとは思えない言葉の連続に、彼は一瞬目眩が(したような気が)した。
『名前を思い出せないのは、君が生前の名に縛られないようにっていう配慮だよ。ああちなみに君が転生するのは決定事項で、拒否権とかはないから』
身も蓋もない言い様だが、なるほど、それを罷り通せるのなら、やはり自分が相対しているものは神なのだろうと、彼は妙に納得する。
しかし…………転生か、と、彼は呆れにも似た感情を抱いた。
先程神が述べた通り、彼は生前サブカルチャー、所謂オタク文化というものを、こよなく愛していた。
故に、二次創作SSにおける転生モノ、即ち既存作品の世界に、現実世界の人間が転生し、物語を引っ掻き回す、と言った傾向の作品も幾度となく目にして来ている。
しかしながら、彼はどうにも、その転生モノと言われるジャンルの作品が好きになれなかった。
デウスエクスマキナ、という言葉があるように、転生モノ作品の多くには、どうしても『ご都合主義』による、半ば強引な物語の収束が含まれる。
彼はその『ご都合主義』というやつが、どうしても肌に合わなかったのだ。
あれは、登場人物達の人生を、努力を、信念を、一瞬で水泡へと帰してしまう。
所謂、『興を冷まして』しまうものだ。
転生モノ、というジャンルの性質を考えれば、それは仕方のないことだとも思う。
あの作品群は今の自身と同様に『神』によって、有象無象の中から選ばれた、無個性な主人公が、物語を書き換える様を楽しむものである。
無個性な主人公とは、即ち何よりも読者が、自身を投影しやすい器である。
そんな彼らは、即ち無才であり無力だ。
そういった主人公が生き残るためには、すなわち『見えざる神の手』、言い換えれば『ご都合主義』による事態の収束は欠くことが出来ないファクターだ。
理解は出来る。しかしそれでも、主人公達の道程、全てを無へと帰すその傾向を、彼は受け入れられなかったのだ。
故に、言い方を選ばなければ、転生モノの主人公に自分が抜擢された、という現状に、彼は深く溜息を吐きたい心持だった。
しかし、それを見越していた、と神は笑った。
『ははっ、そうだろうと思っていたよ。実はオレも同意見でね? 神を名乗っておいて何だが、『見えざる神の手』というやつが、ど~にも好きになれないんだ』
そこでだ、と、妙に含みを持たせた言い方で、神は彼に詰め寄る(ような雰囲気を醸し出す)。
『突然だけど、君にはこれから『インフィニット・ストラトス』の世界に行ってもらう。しかし、オレは『君が世界で2番目にISを動かせる男』になるよう仕組む以外、一切の事象改変を行わない。まぁ、専用機をお膳立てするぐらいはさせてもらうけどね?』
むしろそれ以外のISは動かせないことにした方が良いかな? と、神はやはり楽しげに言った。
インフィニット・ストラトスという作品は、彼も好んで読み、アニメを観賞したこともある作品だった。
だがしかし、確かその作品は、と、彼が疑問を明確に浮かべるよりも早く、神が口を開く。
『察しの通り、あの作品は原作からして『ご都合主義』に溢れているよね?』
一つ、女性しか動かせない筈のISを、主人公、織斑一夏だけは何故か動かせること。
一つ、登場するヒロインが、尽く一夏に惚れること。
一つ、窮地に陥った主人公が、仲間の助けを借りつつも、何故か必ず勝利できること。
決して原作を批判するつもりはない、寧ろ彼は楽しんで鑑賞させて貰っている(※メメタァ!!とか言われてもこれはガチで作者もだから)が。
しかし、『ご都合主義』による事態の収束が多いのも事実である。
『まぁ、お約束を楽しむ作品、って言ってしまえばそれまでなんだけど…………それじゃ物足りないと思わないかい?』
ニヤリ、と神が笑ったように、彼は感じた。
『『ご都合主義』に守られている登場人物達、しかし君はその世界において、ISを扱える男、というだけの一般人になるわけだ。これがどういうことか分かるかい?』
つまりそれは、自身に降りかかる逆境を、全て俺の努力と才覚のみで越えて行かねばならないと言うこと。
彼がその結論に達するや否や、神を名乗る者は、もう一度けたたましい笑い声を上げた。
『いいねぇ? その思考の速さ! もちろん、こっちとしても転生させたのに簡単に死なれちゃ興冷めだからね。一応、転生させる人間は吟味したんだよ?』
神曰く、転生者に求めた条件は3つとのこと。
一つ、冷静さと緻密な思考力、鋭敏な洞察力を併せ持つ者。
一つ、理不尽を理不尽と思わず立ち向かえる剛胆さと気骨を持つ者。
一つ、『ご都合主義』に甘んじる事を良しとしない、現実主義者であること。
そして彼は、その3つの条件を満たし、且つ、このタイミングで死した唯一の人間である、と神は語った。
『事情は把握出来たかい? さて、拒否権はないといったけど、一応確認しておくよ? そんな理不尽な世界で、生き残る覚悟はあるか?』
これまで、お世辞にも神だとは思えない軽薄な口調だった神。
しかし今告げられた『覚悟』ということばには、相応の重みと、荘厳さが籠っていた。
故に、彼は考え込む。
彼とて、憧れた作品の世界に暮らしてみたい、物語の中で登場人物たちと生きてみたい、そう思ったことが無い訳ではない。
しかし、何の加護も無く、自身の力のみを頼りに、剣林弾雨の中を生き残れるだけの器用さが、自身にあるとは思えない。
だからこそ、彼は己の意志を確かめるために、神にも1つだけ質問をした。
…………ここが死後の世界だとして、ISの世界で俺が死んだ場合、今度はどうなるんですか?
その際も再び転生させられるのか? それとも、今度こそ本当の意味で、自分は死んでしまうのか?
それこそが、彼に迷いを抱かせる最後の疑問であった。
しかして、神は荘厳な佇まいを崩し、先程同様の軽快さで、これに答える。
『その質問って、意味ある? 勿論、今度死ねば転生なんて特典はないし、死後の世界なんて、それこそ生きてる人間は誰も知りやしないだろう?』
軽薄な口調ではあったが、なるほど神の言った言葉は理に適っていた。
死後の世界のことなど、結局は誰も知りはしないし、今現在、自分がこうやって神と言葉を交わしていること自体、相当に稀有な例だろう。
故に彼の返答は決した。
…………覚悟、といえるかは分かりませんが、もう一度生きる機会が与えられるなら、そう簡単には死ねないし、死にたくはありません。
その言葉に、神を名乗った存在は、満足げに笑った。
『良いね。オレにとっては十分過ぎる回答だ。では改めて、ルールを確認しようか?』
一つ、神が干渉するのは、彼が「ISを使える男」となる一点のみ。
一つ、彼は与えられる専用機以外のISは動かすことが出来ない。
一つ、他の登場人物が受けられる『ご都合主義』の恩恵を、彼は何一つ受けることが出来ない。
以上の3つが、神が彼を転生させる上で提示した、唯一にして絶対のルール。
数度その言葉を反芻し、彼は気持ちだけ、ゆっくりと首肯する。
それが合図だったと言わんばかりに、突如として彼の意識は遠のき始めた。
最後に…………。
『君がどんな物語(人生)を刻むのか、神(作者)として目一杯楽しませて貰おう…………』
無邪気な子どものように笑う神の声が、今度ははっきりと耳を突いた。
お目汚し失礼致しました。
今回は序章ということで、作品の傾向紹介みたいなものだと思って頂ければ幸いです。
本文中で何度も申しました通り、この作品は某スクールマギクス同様に『ご都合主義』に寄らない物語の収束を目指します。
作者の実力不足で『それってご都合主義じゃね?』という展開がございましたら、ご指摘頂けると幸いです。
なお、作者は遅筆なため、更新速度はせいぜい一か月に1、2本程度となる予定です。
最後に、皆さんの忌憚ないご意見・ご感想を頂ければ大変励みになりますので、是非ともご投稿くださいますよう、お願い致します。