インフィニット・ストラトス~ADEM~   作:Nave'x

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ここから本編始動です。
予想通り、ISキャラは未だ出せませんでした。
次回からは、少しずつでも出していければと思いますが、まずは足場固めをと思っております。


第一章 REUNION 第一話

始まり。それは何かが生まれる時に共通して経験する事象。

始まり。それはものによって様々な姿形をしているもの。

始まり。ここにまた、新しい物語が生まれる…………。

 

 

 

 

 

時刻は午前6時を少しばかり回ったところ。

未だ明けきらぬ街を、1人の少年が軽快に風を切り走っていた。

長く伸ばされた髪は首筋で一つに括られており、彼が一歩を踏みしめる度に、尾のようにたゆたう。

歳の頃は14、5だが、少しばかり大人びた雰囲気を纏っており、初見の者は彼を青年だと見紛うかも知れない。

切れ長な双眸は凛と前だけを見据え、まるで世界には自分しかいないと言わんかのように研ぎ澄まされていた。

軽快に走り続ける少年だが、その額には幾筋もの汗が滴っている。

それもその筈。彼は既に時間にして1時間、距離にして凡そ10㎞を走り続けているのだから。

しかし表情は苦悶に歪むことなく、それがまるで当然のことように落ち着き払っていた。

少年にとって、この早朝のジョギングは幼い頃からの日課であり、そして、ただの準備運動に過ぎないのだから。

とは言え、彼が行っているそれは常人の知る準備運動とは、余りに常軌を逸していた。

距離や時間もだが、彼が来ている上下揃いのジャージの下には、合計80㎏を越える重りが仕込まれている。

彼の身長は180㎝ちょうど。筋肉質なこと鑑みて、その重りの総量は彼の体重とそう大差ない。

それだけの装備を携えて、なお彼は涼しげな表情を崩さなかった。

住宅街を抜けた先、山際で雑木林が連なる一角まで走り、彼はゆっくりとペースを落とす。

そして立ち止まった彼の目の前には、古めかしい石造りの階段が聳えていた。

走っていた時と同じ凛とした双眸で、彼は石段の上を僅かに一瞥する。

木々に挟まれた石段の先は、春霞みに煙りぼやけて見えた。

ふっ、と、小さく彼は笑みを零す。

視界不良と不安定な石段、奇襲を掛けるにはこれ以上ない状況が揃っている。

それがまるで楽しみだと言うように、彼は僅かに笑みを浮かべたのだ。

現代の日本で何を物騒な話を、と、そう思うかも知れない。

しかし少年にとっては、奇襲(そういったこと)は日常茶飯事であり、むしろそれを受けるために、毎朝ここへ足を運んでいた。

石段の中腹にさしかかったところで、ようやく頂上付近を目視できるようになった。

明かしてしまうと、この上には門徒の殆どいない、されど立派な古寺が一見立てられている。

そこまで無事に辿り着くことが、少年にとっての朝の日課、その本番であった。

更に石段を登り続けると、少年は違和感を覚え、その足を止めた。

そろそろ6時半を回ろうかという時間帯。平素であれば、小鳥のさえずりが一つや二つ聞こえて来るものだが、その気配は一向にない。

意識して神経を研ぎ澄ますと、視認は出来ないが、明らかに小動物のそれと違う気配を、微かに感じることが出来た。

微かに、ということはつまり、その気配の主が、意図して己の気配を絶とうとしているということ。

もっとも、少年に気取られている時点で、その試みは失敗しているのだが。

そして先方も、少年が気付いたことを察知したらしい。

先程まで息を殺し、木々の影に潜んでいたその人物は、およそ同じ人間とは思えない速度で木々の合間から躍り出る。

それと同時に、少年の後頭部目がけ、鋭い蹴りを放った。

完全なる死角からの不意打ち。しかし少年は、それをまるで見えているかのように、身を僅かに屈め、最小限度の動きで回避して見せる。

それだけでは終わらず、不安定な足場をしっかりと踏みしめ、膂力全てを左脚に乗せた蹴りを放つ。

しかし敵もさる者。それを両の腕でしっかりと凌ぎ、反動を持って、再び木々の中へと姿を消した。

瞬時に、少年は相手の意図を理解する。

それと同時に、石段の頂上目がけて駆け出した。

相手が慌てた気配が、ひんやりとした空気越しに伝わって来る。

その相手は、遅れを取り戻そうと必死で駆けるが、終ぞ少年との間は埋まらなかった。

頂上へ辿り着いた少年は、今度はしっかりと笑みを浮かべた顔で、己を追っていた人物を振り返り告げる。

 

「今日もまた、私の勝ちですね。先生」

 

先生と呼ばれた人物は、彼が言い終わると同時に石段を登り終え、そして盛大に溜息を吐いた。

 

「だからその先生ってのは止めなさいって。自分より強いやつから言われても嫌味にしか聞こえんよ?」

 

諦めたように苦笑いを浮かべ、先生とよばれた人物は綺麗に剃られた頭を掻いた。

灰色の作務衣に身を包んでいることから、先生は禅宗の僧侶であることが伺える。

しかしながら、体躯は僧侶とは思えないほどに逞しく、筋骨隆々としており、上背は裕に180を越えている。

付け加えるなら年若い少年に対して、直撃すれば命すら奪える一撃を容赦なく放つのは、とても仏僧の所業とは思えない。

それを気にした風も無く、少年は駆け足で先生へと近寄った。

 

「霧に乗じての奇襲は昨年の秋に嫌と言うほどなさったでしょう? 今さらあの程度は驚きませんよ」

 

嫌味な雰囲気をまるで感じさせずに言ってのける少年。

そんな彼の様子に先生は毒気を抜かれて笑うことしか出来なかった。

 

「ははっ、まぁ君は、最初から奇襲、夜襲に驚くような子じゃあなかったけどねぇ。まったく…………」

 

もう一度深く嘆息し、先生はわしわしと少年の頭を撫でながら言った。

 

「…………秋二(しゅうじ)君。君は一体どこまで強くなれば満足するんだい?」

 

まるで息子を案ずる父の様に、慈愛に満ちた表情で問い掛けた僧侶に、少年、神埼(かんざき)秋二(しゅうじ)は小さく笑うばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神埼 秋二には、決して人には話せない秘密が有った。

 

一つ、彼が前世の記憶を有していること。

一つ、彼がこの世界をライトノベル『インフィニット・ストラトス』の世界として知っていること。

 

それら2つの秘密を抱え、尚且つ彼には、為さねばならない使命があった。

 

一つ、自身の身を護れる程度に強くなること。

 

こちらはたった一つではあるが、転生時に神を名乗る人物から告げられたルールが事実だと仮定すると、彼にとっては何よりも優先すべき事柄であった。

しかし、生前より用心深い性格であった彼は、まずは事実確認を行うことから始めた。

自身にとれるあらゆる手段を講じて、己が二度目の生を受けたこの世界が『インフィニット・ストラトス』の世界で有ることを立証しようとしたのだ。

結果は、これ以上ないほどの『黒』。

この世界は紛れも無く『インフィニット・ストラトス』の世界だった。

何故それが判明したか?というのは、当然の疑問だろう。

彼が生まれた当初は、当然のように『IS』なんてものは存在していないのだから。

ではどうやって彼はこの世界が『インフィニット・ストラトス』の世界で有ると結論付けたのか?

実のところ、彼が行動を起こすまでもなく、それは実証されてしまった。

というのは、彼が入学した小学校に『織斑 一夏』と『篠ノ之箒』という生徒が在籍していたのだ。

もっともクラスは違ったし、向こうは彼の名前は愚か、顔さえも知らないことだろう。

しかし、二人の姿を見た彼は、改めて自身に課せられた運命を知り、肌を粟立てた。

これから先、一切の『ご都合主義』による恩恵を受けず、『ISが使えるたった2人の男性』として、自分は生き残らなければならない。

事実を知った彼の行動は、とても迅速だった。

まずは自身の強化、これは日常的なトレーニングから始まった。

幸いなことに、彼は『前世』でも身体を鍛えた経験があり、ある程度の基礎的なトレーニングは、特に周囲を頼ることなく行えた。

ちなみにこの時、秋二は小学校に入学したばかり、即ち6歳であった。

突如として直向きに自身の肉体を練磨し始めた息子に、両親は『強さに憧れる男の子に有り勝ちな行動』と、好意的に解釈してくれた。

それでも小学校二年になるころには、あらゆる競技でその才覚を発揮し、神童と持て囃されることもあった。

クラブ活動やスポーツ少年団への入団を勧める両親に、彼は断固として首を縦には振らなかった。

なおこの頃、彼は自身の身体能力(性能)が、前世に比べ遥かに優れていることに気が付く。

結果、これは自身が忌み嫌う『ご都合主義』によるものではないか?としばしば悩むことになるが、命が惜しいことに変わりはなく、やがて深く考える事を止めた。

加えて記しておくと、彼が遭遇した神を名乗る存在は、大雑把ではあるが律儀である。

故に自ら課した秩序を破ることはなく、即ち秋二の能力は、ただただ彼の努力の賜物であったのだが、彼は知る由もない。

さて、二年になると同時に彼が行ったのが、所謂『師匠』を探すことだった。

体を鍛えることは出来ても、戦い方、それも実践を想定したものとなると、独学ではやはり限界がある。

3ヶ月を費やし、打って付けであろう人物を血眼になって捜し続けた。

その結果見つけたのが、先程彼に奇襲をかけていた『先生』である。

先生が住職を務める古寺は遥か以前、鎌倉時代から続く由緒ある寺社であった。

全盛期には多くの門徒を抱え、寺の麓には元は僧兵を訓練するための武道場まで存在した。

そしてその道場は、つい20年程前まで存在しており、現代では廃れかかっている、実践を想定し兵法までを含める古武道を指南していた。

しかしながら、先生の代にはその勢いを既に失っており、秋二が生まれる十数年前に道場は取り壊されていた。

先生がその流派の皆伝であると知ったのは、地道な聞き込みが功を奏した結果である。

そこからは、夜討ち朝駆けを繰り返し、只管に師事を望み続けた。

初めは子ども特有の『強さへの憧れ』だと、先生は秋二を相手にもしなかった。

しかしそれが1ヵ月もの間続き、秋二の瞳に真摯さを垣間見た先生は、彼が師事する旨を渋々ではあったものの了承した。

先生の思惑としては、すぐに根を上げ逃げ出すだろう、というのが本音だった。

だがしかし、当の秋二にしてみれば、自身の命がかかった問題である。

血反吐を吐こうとも、修練を投げ出すことなど端から頭にはない。

それどころか、生前武道を学んでいた経験から、師の身の回りの世話は弟子の務め、と寺社の清掃、洗濯、炊事までをこなすと言い出す。

これに加えて、親に頼んで月謝まで払おうというのだから、道場を畳んでいる経緯から、もともと代金を請求するつもりのなかった先生は当時ほとほと困り果てた。

その後、秋二の両親も交えた厳正なる協議の結果、『指導の代金は毎日の寺掃除で十分』と相成った。

後に判明したことだが、初老と言っても差し支えない年齢でありながら、結婚もしていない先生にとっては、住居の清掃だけで十二分な程に助かっていたのだという。

こうして本格的に修練を開始した秋二。しかしながら、先生が課す修行は彼の想像を遥かに上回るものであった。

割と本気で血反吐を吐くこと数十回。重症と言っても過言ではない負傷で病院送りとなること数回。

それでも、死ぬことに比べればマシだと、秋二は喰らい付いていた。

そして迎えた中学への進学。この春に秋二は念願の免許皆伝と師匠越えを果たすことになる。

またそれ以前に、『鳳 鈴音』の転入や、『五反田食堂』へ来店する、といったイベントもこなしているが、その当時の様子は後々明らかにするとしよう。

さて、話を戻すが、師匠越えを果たした秋二は、先生をして『戦国時代なら刀一本で一生食って行ける』とお墨付きを貰えるほどの腕前に達していた。

師である先生としては、自分に教えるべきことはこれ以上なく、彼としても申し分ない程の強さを手に入れたのでは? と、そう考えていた。

しかしながら、当の秋二は全くと言って良い程満足していなかった。

そう言う経緯もあり、彼は夏休みを最大限活用し、武者修行の旅を敢行する。

早い話が、各地の名のある道場、格闘系ジムを転戦し、自身の実力を図ると同時に、更なる飛躍を目指した。

その多くで快勝した彼だが、しかしながら、黒星が付くこともあった。

理由としては、主にルール上彼の実力が発揮しきれない競技だった、というのが殆どだが、1つだけ例外も存在する。

それは更識が表向きに開設している道場での一戦だった。

後学の為、一手ご教授いただきたい、という秋二の申し出に、以外にも二つ返事で了承を示した更識道場。

彼の相手を務めたのは、後の『更識 楯無』こと『更識 刀奈』。

意図的に原作の主要人物との接触を避けていた秋二だったが、こと彼女に関しては逆に手合わせをしたいと願っていたため、これには内心とても喜んだ。

彼が知る限り、彼女の実力は『織斑 千冬』や『M』、『スコール・ミューゼル』などを除けば、作中最強クラスといって遜色ないもの。

IS無しとは言え、彼女と渡り合えるかどうかは、彼の今後の進退を決める上で、またとない機会だった。

果たして手合わせの結果は、彼の敗北だった。

完膚なきまでに、と言う訳ではない。実践を想定し、何でもありの状況で行われた手合わせは、凡そ2時間にも及んだ。

千日戦争(ワンサウザンドウォーズ)の様相を呈し始めた手合わせは、数分の睨み合いの後、両者決死の覚悟で放った一撃にて幕を閉じた。

敗因は、『ほんの僅か、速さで劣っていた為』。

本当に僅かな差であったが、実践ではそれが何よりも命取りになる。

故にそれをたかが一敗と笑い飛ばせるほど、秋二は楽天的ではなかった。

さらなる修練を積むことを誓い、彼は更識の道場を後にしている。

尚、別れ際に刀奈より『お互いに強くなったら、また手合わせしましょ♪』と満面の笑みで言われ、前世含めて女性に全く免疫のない秋二がドキマギとさせられたのはご愛嬌である。

以降は特に原作の登場人物達と接触することも無く、今日まで只々己を鍛えて来た。

無論IS開発や白騎士事件、モンドグロッソの開催、女尊男卑社会の形成など、知識として知っていた事柄を、実際に経験し驚くことはままあった。

しかし秋二にとって、それらはあくまで事実確認以上の意味を持たず、彼にとって最大の問題はそれらの後に起こる事件だった。

そしてつい先日、それは起こるべくして起こった。

 

 

――――――――――世界で初めて男性のIS適合者が見つかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は件の古寺へと戻る。

先生との手合わせの後、いつも通りに寺社の清掃を終えた秋二は、春休みであることから、先生と二人分の朝食を作っていた。

古い建物であることから、寺には昔ながらの釜戸が今なお存在しており、秋二はせっかくだからと、それに火を入れ、せっせと米を炊く。

尚、秋二が師事した当時は、この炊事場も散々たる有様であり、現在こうして使用出来ているのは、これまた秋二の努力の賜物である。

コトコトと蓋を鳴らし始めた釜の隣では、芳しい香りを漂わせる鍋に、既にこの山で採れた山菜を具とした味噌汁が出来上がっていた。

先生が待つ居間では、囲炉裏で目刺も焼かれている。

一汁一菜。これまさに日本人の心である、とは秋二の言である。

炊きあがった米を腕によそい、小鉢に昨晩用意した一夜漬けを盛り付けると、秋二は朝方と同様迷いの無い動作で居間へと向う。

 

「いつもいつも悪いねぇ。おじさん家事はからっきしだからさぁ」

 

自身の家事能力を諦めているらしく、先生は明け透けにそう言って笑う。

秋二からすれば、それもいつものことなので、これくらいなんともないと、小さく苦笑いを浮かべて返した。

 

「そういえば先生、昨日は随分と急なお出掛けでしたが、どうされたんですか?」

 

「あ、それ食べながらで良い? 俺冷めた味噌汁ダメなんだよ」

 

それに腹も減ったし、と、先生はだらしなくも自身の腹部をぽんぽんっと叩いて見せる。

もう一度、秋二は苦笑いを浮かべた。

 

「そうでしたね。それでは朝食に致しましょう」

 

言うや否や、二人揃って静かに手を合わせる。

 

「「いただきます」」

 

朝食を前に手を合わせる。

そんな、秋二にとってはいつも通りの光景が、今はとても尊いものに思えた。

互いの膳に手を伸ばし、黙々と食事を始める二人。

僅かばかり腹が落ち着いたのか、先に口を開いたのは先生だった。

 

「昨日出掛けてた用件なんだけどさ。アレだよアレ。男性のIS適合者がどうのってやつ」

 

右手で箸をクルクルと回しながら、忌々しげにそうぼやく先生。

秋二はそれに眉を顰め、行儀が悪いですよ、と静かに戒めた。

先生は苦笑いを浮かべつつ、しかし悪びれたそぶりもなく、すまんすまんと短く謝った。

このやり取りもこの数年で何度も繰り返したものであり、こと礼儀作法や行儀と言うものに、秋二は人一倍うるさい性格をしていた。

そのため、秋二自身はそっと箸を置き、先生に向き直って口を開く。

 

「ISの適合試験ですか? 先生にまで参加要請があったなんて」

 

「やんなっちゃうよねぇ? こんなおじさんが今さらIS動かせたってどうしようもないっての。秋二君も受けたんでしょ? どうだった?」

 

「適合していたら、今頃私はここにおりませんが…………」

 

苦笑いを浮かべる秋二に、そりゃそうだ、と先生は楽しげに笑った。

それを会話の終わりと捉え、秋二は置いていた箸に再び手を伸ばす。

漬物と白米を口に運び、ゆっくりとそれを咀嚼した。

先生の言葉通り、秋二もまた、例の事件を受け、ISの適正試験を受けてはいる。

もっとも、これも今の会話から分かるように、男である彼がISに適合する筈もなかった。

 

「今ん所見つかってる適合者って、ブリュンヒルデの弟君って話でしょ? そんな血統書付でもなきゃ、そうそう男でIS動かせたりしないよねぇ?」

 

ずずっ、と味噌汁を啜りながら呟く先生に、咀嚼していたモノを飲み込んでから、秋二は大きく溜息を突いた。

…………注意するだけ無駄だな。

そう結論付けて、秋二は自分も味噌汁を啜った。

 

「保守派のお歴々はこれを機に、女尊男卑の風潮をどうにかしたい、というのが本音なのでは?」

 

汁椀をそっと膳に置きながら、秋二はキャスターのお手本染みたコメントを零す。

そんな彼の様子を、先生は意外そうに見つめていた。

 

「残念がらないんだね? 秋二君、IS好きだからもっと残念がると思ってたよ」

 

「…………」

 

先生の言葉にぴくっ、と秋二の眉根が跳ねた。

何と答えたものかと迷っているのだ。

実のところ、彼はISが好きではある。彼とて男だ、ロボットやパワードスーツというものに、相応の憧れはある。

加えて言うなら、ISスーツの露出度とラインには、正直そそるものがある、とかも思ってしまっている。だって健全な男子中学生なのだから。

だが、先生のいう『ISが好き』というのは、そう言った意味合いのものではなかった。

 

「白騎士事件の後は、稽古の合間に必ずって言うくらい関連雑誌読んでたし、モンド・グロッソの中継なんて、視線で人が殺せそうなくらい真剣な顔で見てたよね?」

 

よっぽど好きだと思ってたんだけど、と串に付けたままの目刺に齧り付きながら首を傾げる、という器用な芸当を披露して見せる。

それに突っ込むことを既に諦めた秋二は、皿に取った目刺を、一口大に箸で分けてから口に運んだ。

言ってしまえば、彼がISに並々ならぬ興味を抱いているように見えたのは、それが彼にとっての死活問題だったからに他ならない。

他ならないが、それを上手く先生に伝える術を彼は保有しておらず、仕方なし、押し黙ったまま、それを返答とするしかなかった。

そんな彼の様子に、何か思うところがあったのだろう、今度は箸ではなく、串をクルクルと回し、先生は少々いやらしい笑みを浮かべた。

 

「もしかして…………ISスーツエロいなぁ、とか? 秋二君って、意外とムッツリさんだねぇ?」

 

「…………もうそれで構いません」

 

ゆっくりと目刺を嚥下して、秋二は今日何度目になるか分からない溜息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………そういやぁ、ISといえばさ」

 

土間で食器を洗っていると、居間でTVを見ていた先生が、不意に秋二へと声を掛ける。

秋二はこれに、律儀にも食器を洗う手を止め、わざわざ居間へと近付き膝を突いた。

 

「ISがどうかなさいましたか?」

 

「…………いや、うん。君の性格知ってて呼んじゃった俺も悪いけどさ、わざわざそこまでしなくて良いよ? ただの世間話のつもりだったし」

 

毎回のことではあるが、先生は秋二のやたらと礼節を重んじる性格に辟易していた。

もっとも、秋二のそれは嫌味を感じさせるものでなく、他者への尊重と、また目上の者に対する敬愛が、ひしひしと伝わってくるものであった。

故にそれに壁を感じたことはないが、元来より良く言えばフランク、悪く言えば大雑把な性格をしている先生にとっては、時折堅苦しいものであった。

その先生の性格を知っているので、秋二は小さく苦笑し、性分なもので、と小さく謝った。

 

「では失礼ですが、洗い物の続きをしながらでよろしいでしょうか?」

 

「ああ、うん。むしろソウシテクダサイ。で、話しだけど、ビッグサイトでISの展示会やってるでしょ? 秋二君、見に行かないのかなぁ?って思ってさ」

 

「…………」

 

今度は意図せずして、秋二の手が止まった。

 

「ん? 秋二君、どうかした?」

 

「…………いえ、ちょうどこれから行こうと思っていたので、少し驚いてしまっただけです」

 

微笑んで、秋二は再び食器を洗う作業に戻る。

しかしその内心は、言いようのない感情が渦巻き、自分が上手く笑えているかどうか、とても不安だった。

『ジャパンISEXPO』と銘打ったそれは、日本全国のISに携わる企業が、自社の威信を掛けて作り上げたISを披露すると言うもの。

中には、今回のコンペティションで初お披露目となる第三世代機さえも展示されているという。

男である彼が、かつて神を名乗る者が言った『秋二が唯一動かせる、彼の専用機』に出逢える機会があるとするならば、これをおいて他にないだろう。

それはとどのつまり、この何でもない日常を送れるのは、今日この瞬間が最後かも知れないということ。

秋二は知らず、胃の辺りに重苦しさを覚えていた。

 

「そうなんだ? 面白い機体があると良いねぇ」

 

そんなことも露知らず、先生はTVを見ながら、明るい声色で話を続ける。

TVからは、ちょうどISEXPO特集が流れ始めていた。

 

「ええ、本当に…………」

 

小さく言葉を発しながら、秋二はそれが先生に対して言った言葉なのか、自身に向けての言葉だったのか、答えの無い自問自答を繰り返していた。




お目汚し失礼致しました。
今回のお話、と言うより第一章は、秋二君が専用機と出逢うまでのお話のつもりです。
タイトルの意味合いは『邂逅』のつもりですが、用法はとても怪しいかと(汗)
もちろん邂逅、ということで、一部のISキャラとの出会いも踏まえて行きたいと思っております。
ここまでは書き溜めていた為、連続での投下となりましたが、次回からは大幅に更新速度が落ちる予定ですので悪しからず。
なお、本編中、生徒会長様の台詞を入れたのは政治的判断です(笑)
それでは、皆さまの忌憚ないご意見・ご感想をお待ち致しております。
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