超次元ゲイムネプテューヌ -LOST PURPLE- 作:烊々
『メガミ戦争』。
シェアクリスタルに選ばれた人間がメガミとなるこの世界において、同じ時代に複数のメガミが生まれた際、中央教会の審判の元に行われる、この時代における真のメガミを決めるための聖戦。
メガミ戦争に勝利する為には、ただ戦うだけでなく、人々から信仰を集める、鍛錬を積み技能を得る、こういった地道な行動で力を蓄え、他のメガミと差をつけなければならない。
そしてその基本となるものが、モンスター駆除である。
「……なんて、名目だけどね」
少女『アイエフ』が、薄暗く茂った森を歩きながら、吐き捨てた。
アイエフの後ろにピタリとくっつき、怯えながら歩くもう一人の少女は『コンパ』。
「コンパまで付いて来なくても良かったのに」
「でも……あいちゃん一人では行かせたくないです……」
何の因果か、メガミ戦争が始まると、呼応されるかのようにモンスターの出現数も増える。
中央教会曰く、世界の敵たるモンスターが真のメガミの誕生を阻害しようとしている、とのこと。
「昨夜の流れ星、コンパも知ってるでしょ? 落ちたらしいのよ、それ」
「この森に……ですか?」
「ええ。だから、中央教会の連中が来る前に私たちで調査するのよ」
「でも、その落ちたモノが、私たちにとって良いものなのですか?」
「さぁね。でも、流れ星の光から、なんていうか……魔力よりも崇高な力のような何かを、私は感じ取ったわ」
「崇高な力……ですか…………ん? あいちゃん、あっちです!」
コンパが指を差した方向。木々が薙ぎ倒され、奥に穴ができていた。
「ビンゴ! よく見つけてくれたわねコンパ!」
「行ってみるです!」
そして中心には────
「何……アレ……?」
────人が頭から地面に突き刺さっていた。
「人……よね?」
「とりあえず助けるですよ! 息があるか確かめるです! 人命救助第一ですー!」
「ちょ、コンパ!」
コンパは駆け付けて、丁寧に地面から引き抜く。
突き刺さっていたのは、アイエフやコンパもさほど歳が変わらない外見の少女だった。
「息は……あるですね。脈も。外傷は……ないです。埋まってたのに一つもないなんて逆におかしいですけど……」
「とりあえず運びましょ。早くしないと誰か来るわ」
「はーい!」
*
「……ん……ぅ?」
「目が覚めましたか?」
「ここ……は……?」
「私たちの家……のようなところです」
「……」
目覚めた少女に、笑顔で話しかけるコンパと、警戒心を露わにするアイエフ。
「あんた、何者? 何であんなところに埋まっていたの? 空から降ってきたってことよね?」
「わたしは……えっと……わかんない」
「……は?」
アイエフは、拍子抜けたような声を上げる。
「わかんない、って! 自分のことでしょうが!」
「いやぁ、それがよくわかんないんだよね。名前以外覚えてなくて」
「何よそれ……じゃあ、名前だけでいいわ」
「名前……」
少女は少し黙り、そして口を開く。
「……ネプテューヌ。それが、わたしの名前」
超次元ゲイムネプテューヌ
-LOST PURPLE- Episode1
「……そういえば、私たちの名前を言ってなかったわね。私は『アイエフ』」
「私は『コンパ』。よろしくです」
「うん、よろしく」
ネプテューヌは笑顔で返しながら、周りを見渡す。
家、と呼ぶには作りが簡易すぎる。まるでテントのような建物に、必要最低限の生活品。記憶喪失であるネプテューヌにとってすら、違和感が持てるものだった。とはいえ、アイエフのコンパなりの事情があるのだと、疑問を口にせずにいた。
テントの外を見やると、アイエフとコンパの家ほどではないが、作りが簡素な家ばかりが並んでいた。
自分の持った違和感を、人々の暮らしとはそういうものなのだ、と押し込めようとしたその時、街の外から白い制服をきた集団がゾロゾロと入って来る。
『不法滞在者は立ち退いてくださーい! 立ち退かないのであれば、拘束して施設に連行しまーす!』
集団が取り出した拡音機から鳴り響く声を聞いた一部の住民が逃げ惑う様子を見て、ネプテューヌは首を傾げる。
「何アレ?」
「中央教会の連中よ。今日も来やがったのね」
「中央教会……?」
「記憶ないからそっから説明しなきゃいけないのか。えっと、中央教会ってのはね────」
『中央教会』。
東西南北四つの地区からなるゲイムギョウ界の中心部に存在する、政治行政司法全てを司る国の中枢。
中央教会設立前は無秩序な力のぶつかり合いだったと言われるメガミ戦争の審判も務めており、また人がメガミへと進化するアイテム『シェアクリスタル』の管理も行なっている。
「────つまり、居住権を持っていない不法滞在者を弾圧しに来たのよ。とりあえず隠れて」
「う、うん……」
前述した通り、その活動は多岐に渡り、国の運営から末端の治安維持まで行なっており、不法滞在者の弾圧も中央教会の名の下に行われる正当な治安維持活動なのだ。
「二人は持ってるの? 居住権」
「持ってないから今隠れてるんじゃない」
外を見ると、居住権を持たないであろう人たちが、次々と連れ去られていく。中には小さな子供もいた。簡易的に作った小屋を重機で破壊され、住むところを失った人もいた。
先程までは、貧しながらも活気のあった街並みが、簡単に破壊されてしまった。
公的な機関の行動にしては、些か品がなく思えるような言動や行動の職員たちに、ネプテューヌは怒りで拳を握り手を震わせるが、アイエフが釘を指す。
「……出ていって助ける、なんてことしないでね。あんたができることなんてないわ」
「うん、分かってるよあいちゃん。二人がいなかったらそうしてたかもしれないけど、二人に迷惑はかけられないもん」
「ならいいわ…………ってか、あいちゃん? それ私のこと?」
「そうだよ。コンパもそう呼んでたし」
「はぁ……好きに呼んだら」
拒否する意味もないと思ったからか、あだ名呼びを認めるアイエフ。
「……奴ら、撤収していったわね」
「見つからなくてよかったですぅ……」
「人々の暮らしを良くするための中央教会が、人々を弾圧するなんて……」
「今の社会システムで、所謂庶民以上の人々は安寧を享受してるのよ。そして、そこが多数派で支持が集まるから、中央教会は好き勝手できるってこと。その裏で苦しんでる庶民未満がいるのは、庶民からしたら知ったことないし」
「そう……なんだ……」
「ここも日々弾圧の回数が増してきてる。そろそろ拠点を移したほうが良さそうね、コンパ」
「そうですか……ここは好きだったんですけどね……」
荷物をまとめ、次の移住先を考えるアイエフとコンパ。
元々移住を繰り返していたため、すぐに行動に移れるようにモノを多く持ってはいなく、すぐに準備は完了する。
「あんたも来るでしょ、ネプ子」
「もちろん行くよ……って、ネプ子?」
「ネプテューヌだと長いからネプ子。いいでしょ?」
「ネプ子……ネプ子かぁ……」
「何よニヤニヤして」
「だって、あだ名で呼び合うって、友達みたいでいいじゃん。さっきコンパにも『ねぷねぷ』っていう素敵なのを付けてもらったし」
「……緊張感のないやつ」
仮住まいを後にした三人は、町外れの荒野を歩いて行く。
「次はどこに行くの?」
「西区ね。さっきまで私たちが居たのは東区」
「西区は、メガミ様が統治しているです。だから、さっきのような弾圧はほとんど起こらないですよ」
「へぇ、良いじゃん。なんで西に住んでなかったの?」
「メガミが統治してる分、私たちが好き勝手動きづらくなるのよ」
「……?」
違和感のある言い回しに首を傾げるネプテューヌに対し、アイエフは何かを観念したような顔でまた口を開き、言葉を続ける。
「私たちは、中央教会に対するレジスタンスのようなものよ」
「あいちゃん、言ってもよかったんですか?」
「隠す方がなんか嫌だしね。だからネプ子、あんたは私たちの反教会活動に絶賛巻き込まれ中ってわけ」
「そっかー」
「反応薄いわね……」
「だって、教会の人たちのあんな姿を見せられたら、あいちゃんとコンパみたいにそういう活動をしだす人がいてもおかしくないかな、って。まぁ、今のわたしには行くアテがないから、巻き込まれて続行って感じでいいよ」
「なら、そうさせてもらうわ」
ネプテューヌに嫌がられるのではないか、という懸念があったアイエフとコンパだったが、杞憂だったことが分かると、ほっと胸を撫で下ろす。
「東区は、メガミが統治していないから、好き勝手やりやすかったってこと。その分中央教会の弾圧が過激だけどね。それに……メガミなんて、中央教会の手先のような奴らじゃない。そんな奴らに従って生きるのなんて癪よ」
「あいちゃん……」
「それに、メガミってのは……」
言いかけて、言葉を止める。
「……いや、やめておくわ。推測を事実のように語るのは好きじゃないし」
どこか憎しみのようなものを押し殺すアイエフと、思わせぶりな表情で俯くコンパに、ネプテューヌはそれ以上何も聞くことができなかった。
「とにかく、中央教会には裏がある。私たちはそれを暴くために行動してるってこと。今あんたが持ってる荷物の中にも、連中に見られたら面倒なものがあるから、こんな荒野を通って西区に向かってるわけ」
「この武器とか?」
「いちいち取り出さなくていいから。それに、急ぐわよ」
荒野を抜け、森に入る。
少し早足になるアイエフとコンパに、遅れないようについていくネプテューヌ。
すると、木を薙ぎ倒しながら、巨大な狼のような生物が、目の前に現れた。
「くっ……出たわね、モンスター……っ!」
『モンスター』。
何処からともなく現れ、人を襲う魔物、人間のそして世界の敵。生態は不明な点が多い。
生き物、特に人を襲うことから、武装した複数人がいなければ危険だから街の外に出てはならないと言われている。
「見つかってしまった……ようですね」
「逃げるわよ!」
「武器があるんだから、戦わないのー⁉︎」
「この武器はモンスターと戦うためのものじゃないわ!」
振り返り、走って逃げる三人。
しかし、巨体ゆえ歩幅も大きいモンスターを振り切ることはできない。
「こっちにもいるです!」
「囲まれたようね……っ」
小型の狼型モンスターが、三人の逃げた先に立ち塞がる。
「……わたしが戦うから、二人は逃げて」
「ねぷねぷ⁉︎」
「無茶よ!」
「このままじゃ三人ともここでやられちゃうよ! わたしは大丈夫! 何が大丈夫なのかわからないけど!」
ネプテューヌが荷物から剣を取り出し、モンスターに向ける。
「さぁこい! わたしは簡単にはやられないよー!」
「ねぷねぷ……ダメです!」
「そうよ! モンスターは……!」
ネプテューヌがモンスターに剣を振ろうとした瞬間。
「はぁぁぁぁぁっ!」
炎を纏った斬撃があたり一体を薙ぎ払い、モンスターを撃滅した。
「……え?」
ネプテューヌも、アイエフも、コンパも、困惑と衝撃で目を丸くする。
ネプテューヌは自分は剣を振おうとしただけで、まだ振るってはいない。
アイエフとコンパは、そもそもモンスターと戦おうともしていない。
ならば、斬撃の主の正体とは、その場に現れた新たな人物ということになる。
「あなたたち……もう大丈夫よ」
主とは、白い髪をたなびかせ、黒い衣装を身に纏う、黒のシェアクリスタルに選ばれたメガミ『ブラックハート』。西区の統治者でもある。
「その様子だと、東区から追いやられてきた……って感じかしら」
「……っ」
ブラックハートは、そこそこ大荷物な三人を見て、状況を言い当てる。
バレたか、と思い眉を顰めるアイエフ。
「住んでるところから追いやられて、モンスターに襲われて、その上不法滞在者だから処罰される……なんてあんまりよね。今回だけは見逃してあげる。その代わり、西区でちゃんと仕事でも見つけて居住権を手に入れなさい」
不法滞在者であることがメガミにバレれば追いやられるか捕まるかだと思っていたネプテューヌたちだったが、予想の真逆の言葉が出てきたことで安心した。
「……わかりました。ありがとうございます」
「ありがとうございます!」
「優しいね! 流石はメガミさん!」
礼を言い、頭を下げてそそくさと立ち去ろうとする三人。
「けど……」
しかしブラックハートは、剣を取り、ネプテューヌに向かって振りかざした。
「……っ⁉︎」
ネプテューヌは咄嗟に反応し、手に持ったままだった剣で受ける。
「あなたは別よ。紫髪のお嬢さん」
「ちょ、ブラックハート様⁉︎」
「何をするですか⁉︎」
「だって、目の前に宿敵がいるのよ? こんなチャンス、逃すわけにはいかないでしょう」
「宿敵……」
アイエフもコンパも、なんとなく言葉の意味を理解していた。
そもそも、アイエフとコンパはネプテューヌのことを普通の人間だと思っていない。空から飛来し、地面に突き刺さり、意識と記憶を失いながらも外傷一つないところから、人の形をした人ではない何かだとは思っていた。
「気づいていなかった、それか気づいていながらも考えないようにしていた、という感じね。その様子だと」
ブラックハートの言葉の意味、それは。
「あなた……メガミでしょう?」
ネプテューヌもまた、シェアクリスタルに選ばれし者『メガミ』だということ。