超次元ゲイムネプテューヌ -LOST PURPLE- 作:烊々
「メガミのくせに難民のフリをして私の統治下に侵入しようなんて、舐めた真似してくれるじゃない!」
鬼気迫る勢いで剣を振るうブラックハートと、慌てふためきながら防戦一方のネプテューヌ。
「はぁっ!」
「……っ」
とはいえ、敗北することなく持ち堪え続けているあたりネプテューヌがメガミであることはやはり本当なのだろう、とアイエフとコンパは思っていた。だからこそ、メガミ同士の戦いに手を出せずにもいた。
「変身もしないなんて、甘く見られたものね!」
「えっ⁉︎ 変身って何⁉︎」
「はぁ⁉︎」
「わたし記憶喪失なんだよね! 自分の名前以外何も覚えてないんだ!」
「えぇ……はぁ……もういいや。やめた」
苛立ちが困惑に変わり、戦意が削がれたブラックハートは剣を下ろした。
「記憶がない、だから戦い方も覚えていない、何のために戦うかも覚えていない。そんな奴を倒したって、何も得るものはないからね。嘘は言ってなさそうだし」
「え、あ、はい」
「ついてきなさい。あなたたちのような人向けの仮設住居に案内するわ」
超次元ゲイムネプテューヌ
-LOST PURPLE- Episode2
「不法滞在者への弾圧から逃げてきた人たちが多いものだから、そういう人たちのための設備を作ったのよ。そこに案内してあげる」
「……良いんですか。不法滞在者の弾圧は教会の指示、メガミ様がそれに逆らってこんな事業を行ってるというのは……」
「私は中央教会のやり方全てに賛同してるわけじゃないわ。それに、私の区は労働者が増える、不法滞在者は仕事を得て居住権を獲得できる。win-winでしょう? ま、変なのが入ってこないようにするために、色々制度を変えながらやらないといけないけどね」
中央教会に対するレジスタンスである自分たちは、ブラックハートの言う『変なの』である事実に苦笑いするアイエフとコンパ。
「……社会から切り捨てられる弱者を救う、そのために私はメガミになったんだから」
ブラックハートは、ネプテューヌたちには聞こえないような小さな声で呟いた。
「ここよ」
三人を空いていた住居の前まで案内したブラックハートは、三人のまとめ役だと判断したアイエフに鍵を渡す。
「とりあえず、当面はここで暮らしながら仕事を探して居住権を手に入れるといいわ。気に入らないなら、出て行くのも自由よ」
「ありがとうございます」
ブラックハートは、頭を下げるアイエフとコンパに微笑んだ後、ネプテューヌに視線を向ける。
「それと……えっと……」
「ネプテューヌだよ!」
「あ、うん、ネプテューヌ。最初に会ったメガミが私だから良かったけど、他の二人と遭遇したら見逃してもらえるとは限らないわ。記憶がないとはいえ、最低限の戦い方は身に付けておくことね」
言い残して、ブラックハートは去っていった。
「良い人……だったですね」
「……何事もなく切り抜けられて良かったわね。ていうか…………ネプ子、あんたメガミだったのね」
アイエフは、ネプテューヌに鋭い視線を向けて言った。
「うん……そうみたい。ごめんね、あいちゃん」
ネプテューヌは気まずそうに応えた。
「いいえ、むしろ好都合よ。私は、あんたのことを利用するつもりでいるわ。中央教会に対する戦力としてね」
「あいちゃん! そんな言い方……!」
「私なりのケジメよ。ネプ子、あんたのことは友達だとは思ってる。だからこそ、何も言わずに利用する方が嫌なの」
「でも……!」
「あいちゃん、コンパ」
アイエフの物言いに抗議するコンパ。
ネプテューヌはそんな二人に割って入るように、強く名前を呼ぶ。
「いいよ。わたしは戦う」
そして、覚悟を決めた表情で言った。
「わたしは、まだ何が正しいのか、何をすべきなのかはわからない。あいちゃんが言ってることが正しいのかもわからないし、中央教会ってのも。なら、今信じられるもののために、わたしは戦いたい」
「信じられるもの、ですか?」
「今はあいちゃんとコンパの二人」
その言葉を聞いたコンパはにこにこ笑い、アイエフは、嬉しそうな呆れたような表情になる。
「あんたねぇ……メガミとしてそれでいいわけ? もっとあるでしょ?」
「もっと、って?」
「え……? あー……うーん……世界平和とか?」
「そういうのは記憶を取り戻してからやるよ」
「ゆっくりで良いんですよ。あ、でも……」
「ん? 何か思いついたの?」
「えーと、ねぷねぷがメガミ様なら、東区を統治してくれれば、私たちももっと自由に動けるようになるんじゃないですか?」
「……確かに」
ネプテューヌがメガミとして東区を統治するようになれば、アイエフとコンパは、ブラックハートの統治下から抜け、比較的安全にレジスタンス活動を行えるようになる。レジスタンス活動を安全にというのも変ではあるが。アイエフとコンパにとってはこれ以上に都合の良い話はない。
「ネプ子、あんた東区を統治しなさいよ」
「統治〜? なんか大変そうだなぁ……」
「何が『大変そうだなぁ』よ。それがメガミの役目でしょうが」
「わたしまだ分からないことの方が多いしぃ、あいちゃんとコンパが手伝ってくれるならやる」
「当たり前よ。あんたのメガミとしての立場とか、利用できるものはなんでも利用してやるわ」
「……あいちゃんはさ、どうしてそんなに中央教会が嫌いなの?」
ネプテューヌは、自分がメガミという存在な以上、先ほどあえて聞かなかったその憎悪の理由を今度こそ聞くことにしたが。
「話せば長くなるわよ」
「じゃあいいや」
「いいんかい!」
「だって、あいちゃんのこと信じてるもん。あいちゃんが何か理由があって嫌ってるんならそれで良いかなって。それに、嫌いな理由ってあんまり話したくないでしょ? 特にメガミなわたし相手には」
「……ありがと。でも、いつかは話すわね。あんたにとっても重要なことだから」
「そっか」
メガミや中央教会の話題になるとアイエフとコンパの表情が暗くなることから、ネプテューヌは話を逸らそうと考えた。
「とりあえず、今日はもう休もうよ、二人も疲れてるだろうし」
「ねぷねぷもですね」
「とりあえずベッドにダイブし…………っ! 大変だよあいちゃんコンパ! ベッドがひとつしかない!」
「あんた床で寝なさいよ」
「えぇ〜‼︎」
「冗談よ。わたしは椅子でいいわ」
「ちゃんとしたところで寝た方が良いです。狭くてもギリギリ入りそうですし」
「わたし真ん中ー!」
「……」
「……」
「……」
「狭いね!」
「狭いわね」
「狭いですね」
なんだかんだで、その夜はぐっすり寝ついた三人であった。
*
「四人目のメガミが誕生したなんて、中央からまだは情報が下りてきてないけど……」
自身の拠点である西区教会に戻ったブラックハートは、先ほど邂逅したネプテューヌの存在を訝しむ。
「まぁ、あの様子を見るに、まだろくに力を使いこなせていないようだし、新たに誕生したメガミと情報が来る前に交戦した、って考えるのが妥当ね。メガミ戦争に積極的ではなさそうだったし、今は深く考えなくても……いいか」
*
翌日。
「東区に戻る……前に、もう少しここで情報を集めてからにするわ。レジスタンス仲間もいるしね」
「私は物資の調達、ですかね。色々お買い物するです」
アイエフとコンパは、各々次の行動に備えて動くことにしていた。
「わたしは……」
やりたいこともやるべきことも特に定まっていないネプテューヌだったが。
『記憶がないとはいえ、最低限の戦い方は身に付けておくことね』
ふと、昨日のブラックハートから言われた言葉が脳裏をよぎった。
「……わたしも、出かけてくるね」
そして、定まった目的のために、その足を向ける。
「えっと……ここだよね」
ネプテューヌが向かったのは、西区教会。メガミブラックハートの拠点となる場所。
「ごめんくださいなー! メガミ様ー! メーガーミーさーまー‼︎」
「なに人の家の前で大声出してんのよ」
「ねぷぅ⁉︎」
突然後ろから話しかけられ、ネプテューヌは驚いて身体を震わせる。
振り返り、目に入ったのは、黒髪のツインテールと赤い目の少女。
「……えっと、どちら様?」
「はぁ? 昨日の今日でもう忘れ……いや、そういえばこの姿で会ったことはなかったわね」
「昨日……?」
「私がブラックハートよ。そしてこの姿のでの名前は『ノワール』。あなたは、確か……ネプテューヌだったわよね?」
メガミには、人としての姿とメガミとしての姿が存在し、自らの身体のエネルギーを高めることでメガミとしての姿に変身することを『メガミ化』という。
しかし、メガミ化は体力の消耗が多いため、非戦闘時には人としての姿で過ごすのだ。
「あ、メガミ様かぁ! 変身ってそういうことだったんだね」
「様付け、やめてほしいわね。あなたもメガミなんだし」
「それもそっか」
「ていうか、なんの用? メガミ戦争でもしようっての? 記憶もなければ変身もできないのに」
「戦い方を教えて欲しいな、って。変身ってやつもできないからそれも」
ネプテューヌが気まずそうに訊ねると、ノワールは呆れ果てた様子でため息をついた。
「はぁ……どこに敵に戦い方を教わろうとするやつがいるのよ……」
「だよね……ごめんねいきなり押しかけて。色々ありがとう」
ネプテューヌがとぼとぼと立ち去ろうとすると。
「待ちなさいよ。別に、教えないとは言ってないでしょ」
「え?」
ノワールからの意外な一言に、ネプテューヌは目を丸くした。
「私がしたいのは"戦い"だからね。嬲り殺しじゃないわ。それに、もし丸腰のあなたが他のメガミに敗れてシェアクリスタルを奪われでもしたら、その後の戦いが不利になるし」
「どういうこと?」
「記憶がないって不便ねぇ……いいわ。一から説明してあげる。メガミ戦争っていうのはね────」
ノワールはネプテューヌに、メガミ戦争の詳細を話していく。
他のメガミを倒し、そのメガミからシェアクリスタルを託されると、更なる力を手に入れることができる。そして、全てのメガミを倒し、その時代における全てのシェアクリスタルを集めたメガミは『真のメガミ』なる存在へと進化する。真のメガミ──世界の守護と安寧を司る至高の存在に。
しかし真のメガミがもたらす安寧は永劫ではない。その力は長き時を経て次第に消耗していき、いずれは使い果たし眠りについてしまう。だからこそ、その力が弱まってきた時、新たな複数人のメガミが誕生し、戦いの果てに新たな真のメガミもまた誕生するのがこの世界の理、とノワールは語った。
「真のメガミ、かぁ……」
「私は真のメガミになって、生まれや育ちに関係なくどんな人でも幸せに生きれる世界を創る。あなたに、そういうのはある?」
「……わからない。けど、みんなには笑っていて欲しいと思うよ」
「そう」
メガミとしての記憶や信念はない、けれど護りたいものはある。そんなネプテューヌを、ノワールは肯定も否定もしなかった。
「まずは変身から、やって見せてあげるわ……アクセス!」
ノワールは自らの持つエネルギーを高め、光に包まれた。
髪の色、眼の色が変わる。
身体の起伏が増し、衣装がメガミ化専用の黒を基調としたものへと変わっていく。
「……変身完了、これがメガミ化よ」
「おぉ……」
変身前より少し低い声、迸る重圧、普段とは違ったメガミとしての気迫に、ネプテューヌは声を漏らす。
「実は、これで完全ってわけじゃないけどね」
「そうなの?」
「私の目を見て。瞳に刻まれた紋章が、半円で止まっているでしょ? 完全なメガミになれてないってこと」
「……見つめ合うのって、ちょっと恥ずかしいね。えへへ」
「う、うるさいわね! こっちは真剣な話してるのよ!」
「ごめんごめん」
「全く……後は、完全にメガミ化できたら、装甲とか羽とかも現出させられるようになるらしいわ」
「おぉ、カッコいいじゃん! やる気出るねえ!」
「……さて、こんな感じね」
ブラックハートは力を抜き、変身を解除した。
「私の変身を見て、何か思い出したりした?」
「う〜ん、さっぱり」
「そっか。じゃあ、記憶は後でいいわ……ほらっ」
「わわっ!」
ノワールは、訓練用の木刀をネプテューヌに投げ渡す。
「やるわよ、特訓」
「……うん!」
昨夜のように武器を持ち向かい合う二人。
昨夜とは違い、どこか和やかではあるが。