超次元ゲイムネプテューヌ -LOST PURPLE- 作:烊々
「……紫のメガミが東区を統治? メガミは三人じゃなかったの?」
北区を統治する白のシェアクリスタルに選ばれたメガミ『ブラン』が、中央教会からの通達を見て呟いた。
「でも、戦う前に一度話をしてみたいわね。好戦的なメガミじゃないと良いけど……」
また、南区のメガミ『ベール』の元にも同様の通知が届いていた。
「成程。ですが、ノワールとブランを倒すのはこのわたくしですわ」
自らのメガミの資格たる緑のシェアクリスタルを手で転がしながら、来る戦いの時を見据えていた。
超次元ゲイムネプテューヌ
-LOST PURPLE- Episode3
メガミ戦争に始まりの合図はない。
出会ったメガミ同士に戦意があればそこは戦場となる。
しかし、メガミ戦争の開幕と同時に戦闘を行うメガミは少なく、メガミ戦争の序盤は自身の鍛錬や政治に時間を費やす者が殆どである。
「……少し、休憩しましょうか」
「うん。抜かれたぁ……ねぷぅ……」
メガミ単体には力の成長の限界が存在し、限界とはメガミの持つシェアクリスタルの数に比例する。
メガミ同士の戦いにて勝利したメガミは、敗北したシェアクリスタルを譲渡されることで、限界を更に引き上げることができるのだ。
「ていうか、あなた鍛錬なんて必要ないぐらい強いじゃない」
「身体が覚えてるのかな? ノワールに少し教えてもらったら、充分動けるようになったよ」
シェアクリスタルを失う、それはメガミにとって死を意味する。
だからこそ、メガミたちは慎重に事を進めるのである。
「で、東区にはいつ戻るの?」
「え?」
「戻ってあなたが統治するんでしょ? ていうかしなさいよ。それがメガミの使命でもあるんだから」
「わかってるよ」
また、戦意なき戦闘の決着においてはシェアクリスタルの譲渡は発生しない。
強引にシェアクリスタルを奪うことは可能だが、余程の実力差が無ければ不可能であり、そもそもそんなやり方を嫌うメガミは多い。
「次会う時は、敵同士だからね」
「……うん」
「もう、そんな顔しないの。メガミでしょ? 記憶を取り戻しでもすれば、あなたも私と戦う気になる筈よ。それまでは、こっちからは手は出さないでいてあげるわよ」
「ありがとう、ノワール」
「じゃあ、またね。ネプテューヌ」
そして、この時代のメガミたちは、自身の持つシェアクリスタル一つだけで強くなれる限界に達している。
本格的なメガミ戦争が、始まろうとしていた。
*
「──で、東区のメガミ様になったはいいものの、なんであんたはだらけざんまいなのよ!」
「だってぇ……記憶ないから統治とかよくわかんないんだもん〜」
ネプテューヌが東区を統治するメガミになったものの、メガミとしての職務を最低限しか真っ当していない日々が続いていた。
「でも……ねぷねぷが東区を統治してくれたおかげで、中央教会の弾圧がなくなったですから」
「それは確かに良くやったって感じだけど……」
「えっへん!」
アイエフとコンパの最終目標は、中央教会を潰し、ネプテューヌをメガミ戦争で勝利させ、世界のトップに立たせることである。
そのため、レジスタンスという立場であれど、ネプテューヌの職務を補佐していた。
「……邪魔するわ」
そんな日常の最中、唐突に来客が訪れた。
「誰です……?」
「私の知り合いじゃないわ」
ひそひそと話すコンパとアイエフを気に留めることなく、来客の少女は真っ直ぐネプテューヌの元に歩き寄る。
「あなた……メガミ?」
少女から放たれる人間と違った独特な雰囲気から、ネプテューヌはその正体を感じ取った。
「ええ、私はブラン。北のメガミよ」
言葉を聞いたアイエフとコンパは身構える。
「安心して、私は戦いに来たわけじゃないわ」
アイエフとコンパの警戒を解すように、柔らかい口調で喋るブラン。
「あなたのことが知りたくて、話がしたくて来たのよ。まずは、あなたの名前も教えてくれるかしら?」
「ネプテューヌだよ! よろしくね!」
ブランは、ネプテューヌを観察するように見つめながら、来客用の椅子に腰をかける。
「……ネプ子、私は席を外すわ。何かあったらすぐ呼んで」
「わ、私はお茶を淹れてくるですね!」
メガミ同士の語らいに自分たちが入るのは無粋だと、アイエフもコンパもその場から去る。
「良い側近さんたちね。一人はちゃんと私のことをずっと警戒してて、もう一人は癒し系って感じで」
「側近じゃなくて友達だよ」
「そう……友達」
「えっと、お話って何? わたし、記憶喪失で、ノワールに言われるまで自分のことがメガミなことも知らなかったし……」
ネプテューヌの口から放たれた「ノワール」という人名に、ブランは反応を示した。
「ノワールに会ったのね」
「うん」
「最初は襲いかかってきたけど、記憶喪失って知ったら色々世話を焼いてくれた、でしょ?」
「……全部合ってる。ノワールのこと詳しいんだね」
「ノワールとベールと私は、同じ孤児院で育った幼馴染なの。あ、ベールっていうのは、緑のシェアクリスタルに選ばれた南区のメガミね」
「友達だったんだね」
「……そうよ」
会話の後、沈黙が続く。
「私は女神戦争に勝ったら、争いのない世界を創りたい」
すると、ブランが口を開いた。
ただ自分の戦う理由を言うだけでなく、記憶のないネプテューヌの参考になればいい、そんな気遣いも兼ねていた。
「だって、皆世界を良くしようって志でメガミになるのに、一人になるまで戦い合うって、なんか悲しいじゃない?」
「そのために……戦うの?」
「戦うのは私たちが最後にする。それが私の戦う理由よ」
言うブランは、優しい目をしていた。
優しいながら、強い意志が込められた目だった。
「それに、ノワールとベールが相手だからこそ、あの二人は私の手で終わらせてあげたいし、もし終わるならあの二人に倒されてがいいわ。それに私は、敵になってもあの二人をまだ友達だと思ってるから」
友だからこそ────、それがブランの覚悟だった。
「さて、私はもう帰るわ。次会う時は……戦わずに済むと良いけど、そういうわけにもいかないでしょうね」
「わたしと……戦うってことだよね」
「ノワールとベールは私と違ってせっかちだから、すぐに決着をつけてしまうでしょうね。そうなれば、私たちのパワーバランスが崩れる。そしてそうなった時、あなたを倒して力を得る必要が生まれるかもしれない」
言うブランの表情は、先程とは打って変わって悲しそうなものだった。
「さようならネプテューヌ。私たちが会うのがメガミになる前だったら、私たちは友達になれたと思うわ」
「いいや、メガミ同士で敵でも、わたしたちはもう友だちだよ」
少ない時間だったが心が通じ合うことができた、ネプテューヌはそう思っていた。
「……そうね」
ブランは教会を去っていった。ネプテューヌ と同じことを思っていたかは定かではないが、それでも、ネプテューヌにとっては心地の時間だった。
「……ええと」
すると、丁度紅茶とお菓子の用意ができたコンパが、気まずそうに戻ってくる。
「こ、紅茶が沸いたですけど……」
「あ、ブラン帰っちゃった。一緒に飲もっか」
ネプテューヌがコンパとお茶菓子を貪っていると、アイエフも戻ってくる。
「……ネプ子、何もされなかった?」
「うん、楽しくおしゃべりしてたよ」
「なに敵と馴れ合ってるのよ」
「敵だけど……友だちみたいなものだよ。ノワールもブランも優しいメガミたちだった。会ったことないけどベールってメガミもそうなんだと思う」
だからこそ、ネプテューヌの中に覚悟が芽生える。
「その時が来たら……戦わなきゃいけないな、わたしも」
*
「果たし状なんて、いつの時代よ。メールで送りなさいよ……」
ぼやきながら、ノワールは果たし状に書き記された場所へと向かう。
「待たせたわね。ベール」
そして、果たし状の送り主であり緑のシェアクリスタルに選ばれた南区のメガミ『ベール』が待つある地点に到着した。
「いいえ、こちらこそ急に呼び出して申し訳ありません」
「急でもないわ。そろそろ仕掛けてくる頃だと思ってたしね。ていうか、そんなに畏まらないでよ。私とあなたの仲でしょ?」
「ふふ、そうですわね」
「それにしても、まさか果たし状なんて送られて来るとは思わなかったわ」
「一度やってみたかったんです。果たし状を書いて、送って、決闘する、というのを」
言いつつも、メガミ戦争において決闘というのは割とメジャーな手法である。
正々堂々の一騎討ちは禍根を残さない決着となるため、用いるメガミも歴代では多かったとか。
「負けるつもりはありませんけれど、もしわたくしが負けたとしても貴方になら南区を託せる、そう思っていますわ」
「そう? 私は託せないわね。私の地区は誰にも託したくない。だから、あなたを倒すわ」
「いい覚悟、ですわ。しかし……」
ベールは、緑のシェアクリスタルを解き放ち、自身の持つエネルギーを高め、グリーンハートへメガミ化を果たす。
「……貴方がわたくしに勝てたことがないこと、お忘れになったのかしら?」
「それは私たちがメガミになる前の話でしょう?」
「ふふ、そうですわね」
ノワールも応じるように、黒のシェアクリスタルを解き放ち、自身のエネルギーを高め、ブラックハートへとメガミ化する。
「さぁ、始めましょう」
「ええ!」
グリーンハートは大槍を手に持ち、ブラックハートに突き出す。
「は……っ!」
ブラックハートは、突き出された槍に対して、大剣を盾のように構えて防御する。
「……くっ」
しかし、大剣の攻撃範囲は槍に劣り、防戦一方を強いられる。
「武器だけ見ていると」
グリーンハートは、空いた左手から、魔力でできた槍を無数に現出させる、ブラックハートに向けて射出した。
「こうなりますわよ!」
ブラックハートは大剣を前方に構えていたせいで視界が狭く、グリーンハートの小さな動きを見逃していた。
「これは……っ」
しかし、魔力を感じ取ることはできたため、咄嗟に後退する。
「逃れることはできませんわ」
魔力によって射出された槍は、真っ直ぐに飛ぶのではなく、曲線を描きながらブラックハートにホーミングしていく。
「流石の魔法ね。けど……!」
ブラックハートは、迫り来る槍の全てを叩き落とす。
「ロングレンジでやれるのは、あなただけじゃあないわ!」
そして、剣を撫でることで自身のエネルギーを剣に纏わせ、思い切り空中を斬る。
すると、剣先からエネルギーの刃が伸び、グリーンハートまで届く。
「……っ⁉︎」
咄嗟に回避したグリーンハートだが、避け切ることができる斬撃が肌を掠めた。
「く……ぅ……!」
「どう? 人間だった頃とは違うでしょう?」
「……ふっ、擦り傷程度で良い気になってもらっては困りますわよ?」
ある程度遠距離戦ができる二人だが、ちまちま削り合うのは性に合わないと、再び剣と槍を交え合う。
「相変わらず美しい太刀筋ですわね、ノワール。しかし……」
それでも槍の方が攻撃範囲は上、グリーンハートに届く攻撃より、ブラックハートが受ける攻撃の回数の方が多い。
「……っ⁉︎」
────筈だった。
ブラックハートは、まるで動きを読んでいるかのように、最小限の身体の動きだけでグリーンハートの槍を避けている。
対してグリーンハートは、そこまで思い切った避け方はできず、剣先をある程度目で追いながらでないと動きを予測できていない。
「……なっ⁉︎」
こうなれば、先程と戦況は一転。
有利な筈のベールが、次第に追い詰められていっていた。
「見え……る‼︎」
修練を兼ねた模擬戦において、実力が近い者同士が戦うことが、一番の効力を発揮すると言われている。
ベールはメガミになってから、そういった機会が存在しなかった。それもその筈、メガミと対等に戦えるものなど他のメガミ以外無い。
「は、ああああぁぁぁぁっ!」
しかしノワールは違う。
メガミ戦争開幕の直前に、ネプテューヌと模擬戦の訓練をし続けていた。
それはネプテューヌのメガミとしての戦闘勘を取り戻すものであったが、ノワールにとっても大きな意味があった。
「そこぉおおっ!」
ブラックハートは、グリーンハートの槍術を大剣で弾きながら掻い潜り、横腹に手刀を捩じ込む。
「が、はっ……」
そして、よろけたグリーンハートの右腕から槍を叩き落とし、勢いを殺さず剣を振りかぶる。
「『レイシーズ……」
身体のバランスは崩れ、武器は腕を離れ、魔力を練る隙もない。グリーンハートにとっては、手詰まりの状況。
「……ふふっ」
しかし、そんな状況だからこそ、グリーンハートは小さく笑った。
幼馴染でありながら妹のように思ってもいたノワールの成長を喜ぶかのように。
「……ダンス』ぅうッ‼︎」
その表情変化は、ブラックハートの目に映っていない。
作り上げた隙を逃さないように、自分の技をグリーンハートに叩き込んだ。
「見事……ですわ……」
グリーンハートは、ダメージが限界を超え、変身が解除され、地面に倒れ込む。
「ベール……ベール!」
死に物狂いで勝機を通したブラックハートだが、戦闘の終わると我に帰り、自分がズタボロにしてしまった親友の元に駆け寄る。
「ノワール……ふふ、わたくしの負け……ですわね」
「じっとしていて、今助けるから!」
ベールを敵として倒しつつも、友情も捨てきれなかったノワールは、今にも力尽きそうなベールを手当てしようとする。
「何を……仰っていますの? わたくしを……他のメガミを斃し……クリスタルを得て力に変えれば……貴方はメガミ戦争の覇者に一歩近づく……わたくしの命を助ける必要は……ありませんわ……」
ベールは、そんなノワールの行動を優しく諌めるのだった。
「でも……っ」
「全く……昔から誰よりも真面目なくせに……本当は誰よりも寂しがり屋なのですから……ノワールは……」
そして、弱々しく震えながら手を伸ばし、ノワールの目尻に溜まった涙を拭う。
「……そんなんじゃないわ」
「ならいいですけど」
「ありがとうベール。さようなら」
「ええ、さようならノワール、わたくしは貴方に……全てを託します」
言い終わると、ベールは力尽き、肉体は光となって消滅した。
そして、ノワールの掌には、緑色のクリスタルが握られていた。
「わかっていた……けれど……」
ノワールの掌には、まだベールの暖かな感触が残っていた。
「気分がいいものではないわね……」
友を手にかけるという人としての道を外れた自らの行いを嘲笑しながら、他のメガミを屠るというメガミとしての運命を、ノワールは進むのであった。