超次元ゲイムネプテューヌ -LOST PURPLE-   作:烊々

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-LOST PURPLE 2-  LAST JUDGEMENT  
Episode "Ain"


 

 

 

「二千年か」

 

 守護女神『ネプテューヌ』が、自らの根城たる教会の上に建つ『プラネタワー』から、下に広がる街並みを眺めながら呟く。

 

「人にとってはあまりにも長い年月だからこそ、あそこからここまで発展できたってことだね。よかったよかった」

 

 そんな独り言を呟きながら、自らと自らが治める世界に生きる人々を誇らしげに胸を張る。

 

「あら、ここにいたんですね、ネプテューヌさん」

「あ、いーすん」

 

 そこに現れたいーすんこと『イストワール』。

 かつて、世界を救ったネプテューヌが、自らの世界の統治と運営を補佐する為にある者と共に創った人工生命体。

 

「ねぇ、いーすん。そろそろ頃合いだと思ってるんだ」

 

 言いながら、ネプテューヌは誇らしげながらも寂しげに笑う。

 

「この世界を、再び人のみんなに委ねてみようと思う」

 

 守護女神ネプテューヌは、再び世界に降臨してから、およそ二千年の間世界を守り続けた。

 初めは女神がいなければ存続できないほど衰退が進んだ世界だったが、時が経つにつれ繁栄を取り戻し、今や女神は象徴に近い存在になりつつある。

 

「例えばさ、親がずっと干渉してると子供が成長できないみたいに、わたしがいると……女神の存在が逆にこの世界の成長は邪魔しちゃうみたいな」

「……」

「あ、でももう神界に逃げたりしないよ? しばらく様子見して、いけそうだったらそのまま、無理そうだったらまたわたしが女神に戻る、って感じで」

「それだけでは、ないのではありませんか?」

 

 ネプテューヌの言葉に嘘はない。しかし、イストワールは、もう一つの理由があることを確信していた。

 

「あはは、いーすんには敵わないなぁ」

「けど、無理に話せとは言いません」

「ううん、言う言う。むしろ聞いて」

「はいはい、聞きますよ」

「わたしが、真の意味であの子のお姉ちゃんになりたいってエゴでもあるけどね。あの子はわたしをお姉ちゃんと呼んでくれるけど、"世界の守護者"と"守護者に何かあった時のための存在"、わたしたちの関係性は人たちのいう姉妹とはかけ離れてる」

 

 役割から解き放たれなければ、理想の関係には近づけない、ネプテューヌはそう思っていた。

 

「ま、そのためにやらなきゃいけないことは色々あるよねー。もう投げ出さないって決めたから、最後まで頑張らないと!」

「お姉ちゃん、ただいま!」

 

 すると、ネプテューヌとイストワールの元に、一人の少女がやって来た。

 ネプテューヌが自らの魂を分けた半身としてこの世に生み出した存在。

 

「おかえり『ネプギア』」

 

 『ネプギア』。それがネプテューヌの"代わり"たる"妹"の名前だった。

 

 

 

 

「二千年か」

 

 妖精のような少女が、摩天楼の下に広がる夜景を眺めながら呟く。

 

「人にとってはあまりにも長い年月とはいえ、あの滅亡寸前の枯れた世界から良くもまぁここまで持ち直したもんだ」

 

 その妖精の少女は、かつて世界の歴史を司る『史書』という役割を持ちその役割を放棄したという過去を持つ。この世界の繁栄が自分の求めるものではなかったからだ。『繁栄』や『平穏』という言葉を、その妖精の少女は嫌っていた。

 

「……お、いたいた」

 

 人混みの中から、自分が探していた"誰か"を見つけた妖精の少女は、その"誰か"が人気の無い路地裏に入った時を狙い、接触を試みる。

 

「よ、初めましてだな」

 

 そして、妖精の少女は目的の相手……フードを被り顔を隠した少女に話しかける。

 

「……」

 

 しかし、フードの少女は応じるどころか妖精の少女の方を向くことすらせず、歩き去ろうとする。

 

「おいおい、つれないな」

 

 妖精の少女はフードの少女の横を飛び回り、話を続ける。

 

「俺はお前が生まれた頃から知ってるし、お前がどんな存在で、何のために生きているかまで知っているんだぜ?」

 

 妖精の少女の言葉を聞き、フードの少女の足が止まった。

 

「お前があいつらから感知されずに今まで生きてこれたのは、誰のおかげかって話さ。お前が何事も起こさず潜伏し続けてたからってのもあるけどな、俺がお前の存在をひた隠しにしてきたからってのもあるんだぜ」

「脅迫のつもり?」

 

 少女は初めて口を開いた。

 そして、フードに隠れた顔が妖精の少女の方を向く。

 黒い髪に赤い瞳。そして、その瞳に敵意を灯し、妖精の少女を睨み付ける。

 

「脅迫って……人聞きが悪いな。俺だってもうあいつらにチクれるような身分じゃねーし」

 

 向けられた敵意を気にも留めず、妖精の少女は黒髪の少女に馴れ馴れしく話し続ける。

 

「あいつ俺のコピーの分際でオリジナルに攻撃してきやがるからよ。やられたとこがまだいて〜んだよな」

「おしゃべりがしたいだけなら他を当たってくれる?」

 

 黒髪の少女から少しの苛立ちを感じ取った妖精の少女は、無駄話が過ぎた、と雑談を切り上げた。

 

「お前も俺も、目的の果ては世界の"終末"だ」

 

 そして、自らの目的を端的に言い放つ。

 

「……!」

 

 短い言葉でありながら、黒髪の少女は妖精の少女の発言の意図を理解した。

 

「……良いわ」

 

 そして、全てを聞かずとも、妖精の少女が企む"何か"を承諾した。

 

「そんなに長い間アタシを監視してて、今更接触してきたってことは、何か手段があるんでしょ?」

「おっ、やる気か。良いね」

「今のアタシがアレに逆立ちしても勝てないのは、アタシの魂が持つ"アタシの根源"の記憶が物語っているもの。アレを殺して、この世界を滅ぼす。アタシはそのために存在する。その為なら、アタシは何百年何千年何万年と時が過ぎようと、機を待ち続ける……そう決めていたからね」

 

 見込んだ通りの性質を持つ黒髪の少女を見て、妖精の少女はほくそ笑む。

 

「そういや、名乗ってなかったな。俺は『クロワール』。お前の名は確かノ……」

「……『ユニ』よ」

 

 かつて救われた世界が、過去に零れ落ちた無念から生まれた悪意に呑み込まれようとしている事を、当事者の二人以外知るものはいないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      超次元ゲイムネプテューヌ

 

       -LOST PURPLE 2-

 

       LAST JUDGEMENT

 

        Episode "Ain"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 およそ二千年前。

 ネプテューヌがメガミブラックハートを倒し、守護女神として世界に君臨した頃。

 

「教会に侵入者?」

「ええ、教会にいきなり入って来て、ネプ子はどこだ、って。敵意はないようだけど、とりあえず拘束って名目でゆっくりしてもらってるわ」

「わたしに客ってことだよね? 誰だろう……」

 

 外出から戻ったネプテューヌは、アイエフから気になる報告を受けたネプテューヌは、

 コンパの用意したお茶菓子を遠慮がちに喫するとても小柄な妖精のような後ろ姿は、ネプテューヌにとって良く知る者だった。

 

「いーすん⁉︎」

「ネプテューヌさん! やはり……人間界に降りていたのですね」

「えっと……ねぷねぷ、この人は?」

「あー、どう言えばいいかな……」

「イストワール、と言います。かつてネプテューヌさんのいた神界の住人、と言っておきましょう」

 

 『イストワール』。世界の歴史を司る史書。

 かつてネプテューヌが守護女神戦争を終結させ、ある『世界の敵』の撃破した際、力を貸していた存在である。

 ネプテューヌが神界に帰った時、共に神界に戻っていたのだが、突然神界から姿を消したネプテューヌを探し、人間界から降りて来たのだ。

 

「神界……つまりネプ子を連れ戻しに来た、ということですか?」

 

 アイエフとコンパの間に緊張が走る。

 イストワールの言葉が、ネプテューヌとの別れを意味しているかもしれなかったからだ。

 

「いえいえ、ネプテューヌさんの補佐が今の私の仕事ですので、そのためにネプテューヌさんを追って人間界に来ただけですよ。まさか記憶も力も無くして命の危機に陥るなんて……」

「黙っていなくなってごめんね」

「本当です。しかし、人間界の危機をまた救うとは、流石は守護女神戦争の覇者と言いますか……」

「……昔の話だよ」

 

 和やかに会話を交わすネプテューヌとイストワールを見たアイエフとコンパは、お互いにしか聴こえない程の距離と音量で、ヒソヒソと話をする。

 

「良かったわね、コンパ」

「そうですね、あいちゃん。私たちとねぷねぷは同じ時間を生きられないけど、イストワールさんがいればねぷねぷが独りになることはないです」

「そうね」

 

 それから、特に世界の危機が訪れることは無く、数百年の時が過ぎていった。

 

「ネプテューヌさん、一つ提案があります」

「なーに?」

 

 ある日、ネプテューヌが黙々と山積みの書類を処理していた時、イストワールが口を開いた。

 

「人口の増加、それによる居住地の拡大、さらにそれにより発生する問題の数々、ハッキリ言ってネプテューヌさんと私の二人でも管理しきれません」

「……いーすんもそんな気してた?」

「はい。弱音を吐きたくない気持ちも分かりますが、このままでは世界の統治と運営に差し障ります。しかし、それを今の人間に譲渡できるほど、人間はまだ成熟しきってはいません」

 

 史書は女神とは違い、女神や女神が守る世界全体への善意はあれど、そこに生きる人々に対する慈愛心はさほど持ち合わせていない。

 故に、当時の人間の評価を淡々と語り、ネプテューヌもそれを理解しているため、咎めることはない。

 

「そこで、提案があるということです」

「ほいきた」

「私のスペアとなる人工生命体の作製です」

「さらっと言うけど、そんな簡単にできるものなの?」

「いいえ。容易ではありませんね。今の世界の技術力では未知の領域と言えるでしょう」

「未知の領域……うん、チャレンジし甲斐があるってものだね!」

 

 こうして人口生命体『教祖イストワール』が誕生することになり、教祖イストワールの存在はその後の世界の安寧と発展に大きく貢献した。

 しかし、教祖イストワールの誕生が、後の災厄の始まりとなった原因でもあった。

 

 

 

 

 そして時は戻り現在。

 

「……はぁ」

 

 公園のベンチで、意気消沈しながら溜息を漏らすネプギア。

 

「私は……」

 

 その理由はネプテューヌの『もう一度世界を人間に託す』という決断にあった。

 成熟を果たした人類の手に世界を委ね、女神は見守るだけの存在となり、共に生きていく、そして、ネプテューヌは"女神"ネプギアは"女神の代用品"といった役割から解放され人間でいう"家族"になる。それがネプテューヌの願いだった。

 しかし、言葉とは必ずしも自身が意図した受け取り方を相手にしてもらえるものではない。

 ネプギアは自身の存在価値を、女神ネプテューヌの代用品という役割を、疑問を持つどころか誇りに思っていた。故に、そのアイデンティティが失われることに対して、強い絶望感を示した。

 ネプテューヌが未来に希望を馳せて語った言葉は、ネプギアにとっては自身を絶望に突き落とすものであった。

 

「私って……何のために生まれたんだろう……」

 

 この次元にはネプテューヌ以外の女神もモンスターも存在せず、ネプギアの生命を脅かすであろう者はいない。故に、ネプギアは女神として研鑽を積むことができないでいる。

 世の中のことを自分の目で見て知って欲しいからまずは仕事よりもたくさん遊んで欲しい、というネプテューヌの願いも、ネプギアの女神としての自己実現に対しては裏目に出てしまっていた。

 

「……珍しいわね、あんたがそんなに落ち込んでんの」

 

 意気消沈するネプギアに声をかけ、ベンチに腰掛ける少女が一人。艶のある美麗な黒髪と吸い込まれるような赤い瞳をフードを隠した少女……否、人の形をしたモンスター、メガミであるユニだった。

 

「ユニちゃん……」

「いつもはウザいぐらい明るいあんたがそこまで落ち込んでるなんてね。なんかあったの?」

 

 ネプギアはネプテューヌの半身ではあるものの、生まれてから数年も経っていないため、まだ自身の女神としての力をほとんど行使できない。だからこそ、本来女神が纏う特有の気配をほとんど感じさせることがなく、ユニにただの少女だと誤認させていた。

 また、ネプギアは歴戦の女神であるネプテューヌほどの感知能力も持ち合わせていないため、ユニがメガミであることをネプギアは見抜けていなかった。

 ネプギアもユニも、ただの少女と思い込んでいるお互いから『自分の見た目ぐらいの年齢の少女』というものを学ぶために交流する、それがこの関係性の始まりだった。

 女神の半身たる代用品と、メガミの生写し。互いが互いの正体を知れば、激突が必至の関係であるが、それを知らぬ二人の仲はそれなりに良好だった。

 

「えっと、その……私……お姉ちゃんがいるってのは知ってるでしょ?」

「あー、前聞いたわね。アンタと違ってとっても優秀な姉だっけ? そのお姉ちゃんがアンタの家の家業を継いで、アンタはそのお姉ちゃんになんかあった時のための代用品って自分で言ってたわね。普通は家族にそう扱われたら嫌がるもんだけど、何故か誇らしげに」

 

 ネプギアは、自分が女神だとバレないように行動する、というネプテューヌの言いつけを守るため、自分の状況を例え話にしていた。

 女神として扱われれば、女神としての振る舞いを要求される、それは生まれたばかりのネプギアにはまだ早い、というのが理由だ。

 

「うん……けど、お姉ちゃんはその家業をお姉ちゃんの代でやめようって言うんだ」

「やめる? なんだまたそんな」

「えっと……家業を、家族だけでやるんじゃなくて、他の優秀な人にもやらせたいって感じ?」

「あー……えっと……要は一族経営だったのを、優秀な外様の社員に経営させてみれば良いんじゃないか的なことをアンタのお姉ちゃんが考えたってワケ?」

「あっ、そういうこと! 流石ユニちゃん!」

「あーなるほど、見えてきたわ。つまり、小さい頃からお姉ちゃんの代わりとして育てられてきたあんたは、いきなり自分のアイデンティティを失うってことで、悩んでんのね」

「……うん、そう」

「なーんか、必要のない悩みね、それ」

「……え?」

 

 ネプギアの悩みを言い当てたユニ。約二千年生きておりネプテューヌに察知されないよう人として生きてきたユニは、当然人と関わることもそれなりにあり、故に人と感情というものにそれなりに理解があった。

 しかし、ユニにとって人間などどうでもいい存在である。道端の雑草と変わらない。そんなユニがネプギアの人生相談に乗っていたのは、単なる気まぐれだった。

 

「例えばさ、あそこに歩いてるあの男の子。見た目的にアタシたちとそんなに歳は変わんないわね。あの男の子には、自分が生まれた理由とか、生きてる目的とかそういうの自覚してると思う?」

「どうだろう……?」

「多分してないに決まってるわよ。てかそれが普通だと思うわ」

「そうなの?」

「そうよ。そういうものって、まだ子どもなアタシたちはこれからの人生で見つけてくものなんだと思うわ」

 

 ユニの計画が成就すれば、世界は滅びる。世界が滅びるということは、全ての人間が死ぬわけで、当然ネプギアも死ぬ。だからこその気まぐれ、ユニの計画にとって無価値で無意味なこの交流が、ユニにとってはそれなりに好きな時間でもあった。

 

「……なんか、気持ちが楽になったよ。ありがとうユニちゃん」

「どういたしまして。さて、アタシもう帰るわ。用事ができたから」

「そうなんだ……もっとおしゃべりしてたかったけど……私はもうちょっとお散歩してから帰ろうかな」

「……もしかしたら、もう会えないかもしれないわね」

「え? 今何か言った? ちょっと聞こえなくて……」

「ううん、なんでもないわ。さよなら、ネプギア」

「うん、またねユニちゃん!」

 

 ネプギアの姿が見えなくなると、ユニはネプギアとの会話中から頭の中に響いていた声に返事をする。

 

「……急に頭の中に喋りかけてくるのやめてくれない?」

『しょうがねーだろ、公共の電波なんて使ったらアイツらに捕捉されかれねーんだから』

「で、例のモノできたわけ?」

『あぁ、ばっちりだ。なんたって、二千年モノだぜ』

「そう、じゃあ受け取りに行くわ。そしたら、仕掛けるわよ」

『あぁ、善は急げってな』

「アタシたちは悪だけどね」

 

 プラネタワーを見上げ、歪んだ笑みを浮かべるユニ。

 

「アタシの生まれた意味……それを果たしに行こう」

 

 

 

 プラネタワー最上部、女神の居住スペース。

 神聖な雰囲気の中に少女らしい可愛らしさが感じられるこの空間に、佇む女神が一人。

 

「ネプギア……」

 

 自分の決断を聞いたネプギアが落ち込んだ理由を、ネプテューヌは後からようやく気づいた。

 

「難しいね……言葉って」

 

 こことは違う次元の彼女は誰よりも人の心に理解がある、そんな女神である。しかし、このネプテューヌは、長い時間独りの女神でありすぎた。二千年という時は、ネプテューヌが人の心の機敏に少し疎くなってしまうには充分な時間だったのだ。

 

「帰ってきたらちゃんと伝えないと、わたしの思いを」

「相変わらず辛気くせえ場所だなここは」

「……っ⁉︎」

 

 ネプテューヌは、クロワールの声を聞き、そして姿を見て、驚き狼狽える。

 

「いーすん……っ」

 

 かつて、自らを探すため神界から降り、再び世界の守護女神となった自分をサポートし続け、自らと共に教祖イストワールを作り上げた相棒ともいえる存在。

 しかし、クロワールがここにいていいはずがない。ここどころか、この世にいるはずはない。

 

「どう……して……?」

 

 何故なら、数百年前のある一件で、クロワールは教祖イストワールに殺された筈なのだから。

 

「よっ、久しぶりだな、ネプテューヌ」

 

 数百年前に死んだはずの元相棒が突如現れたその事実は、ネプテューヌに動揺を与え、二千年ぶりに隙を晒させた。それは一秒にも満たない隙であったが────

 

「……アハッ!」

 

 その隙を狙い、クロワールの移動魔法を使いネプテューヌの死角から急に姿を現したユニが、ネプテューヌが感知する一瞬前に、ネプテューヌの脇腹に短剣を刺す。

 

「ぐ……っ」

 

 守護女神の力を使えば、刺し傷程度は数秒で完治する。

 しかし、この傷は何かが違った。回復するどころか、まるで侵食されてるかのように、傷が広がっていくのだ。

 

「これ……は……っ?」

「アタシの二千年を込めた恨みよ。守護女神はこういった感情が力を持ったものに弱い、クロワールの言ってることは本当だったようね」

 

 ユニの持っていた短剣は、ユニが持つ自身の世界や女神への恨み、そして人々の負の感情、二千年もの間貯め続けたそれらを凝縮し、エネルギーに変換し、武器にしたもの。

 女神すらも一撃で行動不能にできる威力を持つが、その威力故に一度刺すだけで崩れ落ちてしまうたった一度きりしか使えない武器である。

 

「君は……まさか……ノワー……ル……?」

 

 声を聞き、そしてフードを取ったユニの顔を見たネプテューヌは、かつての親友であり敵であったメガミの名を呼ぶ。

 

「久しぶり、そして初めまして、アタシはユニよ。あんたの言うメガミノワールの生まれ変わりみたいなものね」

「……」

「二千年前、確かにあんたはアタシの根源の魂を救った。けど、根源の全てを救えたわけじゃない。世界への恨み、無念、悲哀、嫉妬、そういった救われなかった感情が力を得てメガミの形となったのがこのアタシよ」

 

 女神の降臨は、メガミという存在の劣等感を無意識に引き出し、復讐の化身を作り上げてしまった。

 かつてのネプテューヌの罪が、思いもよらぬ形で牙を剥く。

 

「く……ぅ……!」

 

 ネプテューヌは力を振り絞って女神化するも、現出させた装甲は体力に比例し脆く、ユニが振るった剣で軽く切断されてしまう。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 パープルハートは時間を稼ぎ、自身の力が戻る可能性や助けが来ることに賭ける。

 

「そうだ、イストワールなら来ないわよ」

 

 そんなパープルハートの意図を読んだユニは、冷酷に言い放つ。

 

「あっちの方はこっち以上に運ゲーだったけどね。女神相手にはさっきのを使えば勝てるけど、あっちは普通に実力勝負だったから」

 

 ネプテューヌは動揺するも、納得もする。イストワールは確かに強大な力を持つが、かつて自分が戦った最強のメガミであるブラックハートならイストワールを倒せてもおかしくはない。

 そして、イストワールがいない今、教会には戦力はない。

 ネプテューヌによる女神の統治を人間に託す計画の中で、既に女神と教祖以外の武力は人間たちに委譲していたからだ。

 

「終わりね、女神サマ」

 

 勝敗は既についていた。

 ユニは自身のエネルギーを高め、メガミ化をする。

 メガミ化せずとも今のパープルハートを仕留めるのは容易いが、なんとなくメガミ化がしたい気になっていた。

 

「ウフフ、メガミ『ブラックハート』ならぬ『ブラックシスター』ってとこかしら?」

「……」

 

 パープルハートは抵抗しなかった。既に抵抗ができる状況ではないこともあるが、目の前の『ブラックシスター』という存在もかつての自分の罪が生み出したものであったからだ。

 

「さよなら」

 

 パープルハートは、ユニが自身の力で創り出した巨大な銃による射撃で身体を貫かれ、その場に倒れ、意識を失った。

 

「呆気ないわね。いや、このシチュエーションのために二千年もかけたから、長かったって言う方が正しいか」

 

 ユニは、パープルハートの身体から、シェアクリスタルを取り出す。

 

「これで……アタシは根源を超える。そして世界を滅ぼせる」

 

 得意げに笑うユニに、わざとらしい拍手をしながら近づいてくるクロワール。

 

「マジでやっちまうとはな」

「アンタのアシストがあったからね。あの隙を付けなきゃ、一撃すら与えられなかったと思うわ。実際ギリギリの勝ちよ」

「ま、勝ちは勝ちだ」

「そうね」

 

 ユニが握るネプテューヌのシェアクリスタルを見て、クロワールはユニに警告する。

 

「気をつけろよ? 神聖なものとはいえ、女神の力は人間やモンスターにとっては毒になる。女神のシェアクリスタルを取り込んで力を得ようなんてしたら、下手したら死ぬような苦しみを味わうことになるぜ?」

「そんなものでアタシは怯むとでも?」

「そうかい」

 

 そして、ユニはシェアクリスタルを取り込んだ。

 

「う……ぅ、ああああああああッ‼︎」

 

 直後、地獄のような痛みと苦しみがユニを襲う。

 しかし、痛みと苦しみを味わえば味わうほど、自身の力が増していくことを確信し、苦しみながらも笑うのだった。

 

 

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