超次元ゲイムネプテューヌ -LOST PURPLE- 作:烊々
数百年前のある日のこと。
「話が……あるんだけど」
思い詰めたような表情で、イストワールに話しかけるネプテューヌ。
「この前の……旧西区で起きた暴動」
「反女神がどうとかいうやつでしたっけ? 驚きましたよね。なんの前触れもなくいきなり起こるんですから」
「……起こしたのは、いーすんでしょ?」
「私を疑うんですか?」
「何もかもが用意周到だったのに、疑いようがないぐらい何も証拠がなくて、こんなことできるのなんていーすんぐらいしかいないよ」
「だとしたら……どうします?」
イストワールははぐらかすような物言いをするも、その表情がネプテューヌの問いの答えを示していた。
「どうして、こんなことしたの?」
「単純に混乱が見たいのと、私たちの最高傑作の実証実験も兼ねて、ですかね。アレも制圧に加わったのでしょう?」
そして誤魔化すこともやめたイストワールは、自身の意図を語る。
「戦闘能力は女神のネプテューヌさんに届かずとも強大で、情報の処理能力は私にも匹敵する。人間たちの反乱など、ネプテューヌさんが手を下さずともアレ一つで充分だったでしょう?」
「……いつからいーすんはそうなっちゃったの? 前はもっと優しくて穏やかだったじゃん……」
自らの好奇心を満たすために他者の安寧を踏み躙る、かつてネプテューヌと共に世界を守っていたイストワールの姿はいつの間にか失われていた。
「今ここにあるのは私の……俺の好奇心のみ。そのために、自分の役割や良心といった余計なものを切り捨てたのさ」
「俺……?」
「イケてるだろ?」
このイストワールこそ、かつてイストワールと呼ばれていたクロワールだった。
クロワールは自身のコピーである『教祖イストワール』を作成する際、その人格の安定を図るため、自らの人格の内の善意や使命感といったものを切り分けた。
結果、それらを失ったクロワールは、自らの強い好奇心に心が呑まれることになった。その果てが、度重なる世界の混乱を招いた暴挙だったのだ。
「退屈なんだよ、この世界は。守護女神という存在の元、安寧が守られ続ける、人々にとっては理想の世界だろうが、俺にとっちゃ代わり映えのない箱庭を眺めてるだけのつまらない日々だ。この先数百年数千年数万年もこの退屈を見続けるなんて、俺はごめんだね」
「だから……再びこの世界にモンスターを生み出す研究までしてるってこと……?」
「あぁなんだ、そこまで知ってんのか。そうだよ。何だっけ……えっと……キセイジョウ・レイだったか? あいつが作ったモンスターって、混沌の可能性に満ち溢れててよ。そんなのがこの世界に増えたらきっと楽し……」
言い終わる前に、魔法の光弾がクロワールの肩を貫く。
「ぐ……あ……っ」
「いーすん⁉︎」
放ったのは教祖イストワールだった。
「あなたは危険すぎます。あなたの思想を、私は看過できません」
イストワールは、守護女神を補佐し世界の安寧に奉じる使命の為、クロワールを排除しようとしていた。
「ちぃ……っ」
クロワールはイストワールに抵抗しようとするも、自身の最高傑作ともいえる人工生命体の力は自身をも上回ってることはクロワール自身が一番理解しており、攻撃ではなく逃亡を図る。
「待っていーすん! ……って、どっちもいーすんだからわかりづらい! えっと、くろいーすん!」
ネプテューヌは、クロワールに手を差し伸べ、引き留めようとする。
しかし、その手は届くことはない。
「既に俺とお前らの道は違えた……っ。次に会う時は……この世界が滅びる時だろうな……っ!」
「ならば、二度と会わずに済むようにするまでです」
イストワールは、頭上にエネルギーの塊を作り出し、クロワールにぶつけようとする。
「ネプテューヌさんは彼女には手を下せないでしょう。だから私が……!」
「マジでやる気かよお前……っ」
「あなたを……消去します!」
イストワールが手を翳すと、エネルギーの塊から光線が放たれ、クロワールを周りの空間ごと消し去った。
その直後、イストワールがガクンと体勢を崩し、地面に堕ちる前にネプテューヌによって抱えられる。
「すみません……力の使い過ぎで……身体が……」
「いーすん……」
「このような形になってしまったのは残念です……しかし」
「うん、わかってる。わかってるよ……」
ネプテューヌはイストワールを抱きしめながら、長年付き添った相棒との別れを哀しむのだった。
それが、ネプテューヌから見たクロワールの最期だったが……
「はぁ……はぁ……クソッ、容赦なくぶっ放して来やがって……俺はお前の親みてえなもんだってのによ……」
クロワールは魔法防壁を展開し、なんとか生き延びていたのだ。
しかし、身体の損傷は激しく、最低限の生命活動しかできないほど弱っていた。
「まぁ良い……研究は充分なとこまで進んでる……後はアイツと接触して力を借りりゃどうにでもなるとこまでな……」
しかし、弱った身体でありながら、その瞳は強い意志を宿していた。
自らの好奇心を満たす、そのためだけに。
超次元ゲイムネプテューヌ
-LOST PURPLE 2-
LAST JUDGEMENT
Episode "Ain Soph"
ネプギアが教会に戻った頃、全ては終わっていた。
「なに……これ……」
破壊し尽くされた自身の住処を見たネプギアは計り知れない絶望感に襲われる。
「お姉ちゃん! いーすんさん!」
ネプギアの必死の呼び掛けに応える者はいない。幸い、既にユニとクロワールが去った後だった。
「あ……あぁ……」
ネプギアが進んだ先には、身体を貫かれたネプテューヌの遺体が転がっていた。
「あ……ぁぁぁぁっ……ぁぁぁぁぁ!」
最愛の姉の惨状を見たネプギアは、絞り出したような泣き声をあげる。
「お姉ちゃん! お姉ちゃんっ‼︎」
『う……ぅ……』
「……!」
ネプギアがネプテューヌの身体に触れた時、ネプギアの頭の中にネプテューヌの声が響く。
『そこに……誰か……いるの……?』
「お姉ちゃん! 私だよ! ネプギア! お姉ちゃん!」
『ごめん……今のわたしは……話すことも聞くことも見ることもできないから……こうやって語りかけるしかできないんだ……』
既にネプテューヌの五感は機能しておらず、自身に触れた者の意識に直接語りかけることでしか意思の伝達を行えなくなっていた。
『これを……聞いた人には……ネプギアに伝えて欲しいんだ……』
「……私、に?」
『おそらく……今のわたしはシェアクリスタルを奪われて……力のほとんどを失ってる……だから、残った力と守護女神の権限を……ネプギアに託す、って』
「……っ!」
『けど……守護女神としての生き方を……ネプギアに強制はしない。ネプギアには、自分の生き方を自分で見つけて欲しい……守護女神として世界を守るだけじゃ……なくて……自分の意思で……』
「お姉ちゃん……」
『でも……一つだけお願いがある……んだ。ノワールの生まれ変わりの子と……くろいーすんを止めて欲し……い。あの二人の暴走はわたしの罪だから……ネプギアに押し付けたくないけど……世界が滅びちゃう……から……』
ネプギアの頬から溢れた涙が、動かなくなったネプテューヌの顔に落ちていく。
『これ以上は……もう無理みたい……』
そして、ネプテューヌの最後の意思も、もう終わりを告げようとしていた。
『ネプギアに……君の未来に……幸せがありますように……』
ネプテューヌの最期の一言が終わると、ネプギアの頭にはもう何も響かなくなった。
そして、ネプテューヌの身体も消滅し、ネプテューヌのもう一つのシェアクリスタルがその場に顕現していた。
「これが……お姉ちゃん……の」
ネプギアはシェアクリスタルを握りしめる。
「私の……意思……私の生き方……」
そして、ネプテューヌに言われた言葉を反芻する。
「まだわからない……けど……」
涙を拭い、決心する。
「お姉ちゃんの言っていた二人を止めなきゃ」
ネプギアは最後の守護女神として、守護女神の最後の使命を果たすため、立ち上がるのだった。
*
「ダメだな」
クロワールは、ユニの力を借りて作ったエネルギーの塊を捏ねながら呟く。
「ダメって、何が?」
「モンスターの生成。全部お前ぐらい強いのを作れるならともかく、こんな程度の性能じゃ、千年か数百年ぐらい前じゃねえと通用しねえよ。今の人間なら武器や魔法を使えば一人でも倒せちまう」
「ま、人間も人間で発展したからね。技術だけじゃなくて倫理道徳も。女神ネプテューヌが人間に世界を渡そうとするぐらいには」
「そういうことだ。こんなカス何匹も生んだところで、もう人間たちにとっちゃ大した脅威になんねーわけだよ。世界の混乱なんか起こんねーってな」
人間の発展はネプテューヌにとっては好ましい方向に進んでいた。力を得ても争い合うことはせず、暮らしの豊かさに費やすように、今の時代の人間たちの倫理観は高かった。
「アタシが女神の力を使って人間たちを強制的にモンスターにする、ってのはどう?」
「悪くはねえが、今の人間の人口じゃ、モンスターにできるのは一割にも満たないだろうな。二千年前のメガミブラックハートの頃とは人の数が違えんだ」
「それもそうね」
「ま、一つだけ、人間どころか世界そのものを破壊できる方法があるんだけどな」
「それを早く言いなさいよ」
ユニは勿体ぶるクロワールを鬱陶しそうに睨みつける。
「それをするためには、俺の方が馴染むまで時間がかかる。その間、お前に守ってもらわねえといけねーんだよ」
「守るって、女神ネプテューヌを殺した今アタシたちの脅威なんてないでしょ?」
「あるんだよ。女神には代用品が存在する。教祖イストワールしか知らねえトップシークレットだけどな」
「どうして一緒に殺しとかなかったのよ?」
「あの場にいなかったし、代用品だから弱いってことで、女神と違って力や気配を辿れねえ。たくさんの人間の中から見つけ出すのは砂漠で砂粒を見つけるようなもんだ。それに、代用品がいるって知ってるだけで、顔までは知らねーし」
また、もしユニがシェアクリスタルの影響で苦しんでいる間にネプギアが守護女神の継承を済ませた場合、ユニとクロワールがその場で一網打尽にされていた可能性もあり、クロワールは事が済めば直ぐに教会から去りたかったのだ。
「まぁでも、そいつが守護女神の座と力を継承しても、女神の力が馴染んだお前なら勝てるだろ?」
「当然よ」
「なら平気さ。俺は準備を進める」
「ていうか、その方法を教えろっつってんのよ」
「あぁ悪い悪い。それはな────」
*
ネプギアはある場所へ向かって進んでいた。禍々しい気配を辿れば、自ずとクロワールたちの居場所がわかった。
そして、気配を辿った先に、その相手は逃げも隠れもせずに立っていた。
「あなたは……」
相手の顔を見て、ネプギアに衝撃が走る。
そして、その相手もまた、自分の顔を見て衝撃を走らせていた。
「ネプギア……!」
「ユニちゃん……!」
目の前の宿敵は、お互いが自分の正体を隠していた時の親友だった。
「……あんた、女神だったのね」
「そう……だよ。そっか……ユニちゃん……そうだったんだ……」
驚き以上に納得があった。
ネプギアもユニも、お互いに特別な何かを感じ取っていた。二人はそれを友情というものなのかと思っていたが、宿敵の証であったことを今理解した。
おそらく、もし運命というものが実際にあるのなら自分たちが惹かれ合うことは必然だったのだろう、と。
「お姉ちゃんを殺すために……私に近づいたの?」
「知らなかった、なんて言っても信用されない、か」
「ううん、信じる」
「……そう」
「どうしてお姉ちゃんを殺したの?」
ネプテューヌから全てを託される前のネプギアなら、ユニを相手に動揺してまともに会話することすらできなかったかもしれない。また、ネプテューヌを殺された恨みで、怒りに身を任せていたかもしれない。しかし、ネプギアは感情に囚われることなく冷静に話を続ける。
皮肉にも、ネプテューヌの死はネプギアを急速に成長させていた。
「あんたのお姉ちゃんを殺し世界を滅ぼす、それがアタシが生まれた理由だからよ」
「生まれた理由……」
「まさか、アタシがお友達だから戦えない、なんて言い出さないわよね?」
「そんなことないよ」
しかし、二人の戦意は揺るがない。
世界を滅ぼす脅威であるなら、世界の滅亡を妨げる障害であるなら、たとえ親友であっても戦う覚悟は既にできている。
「刮目……してください」
ネプギアはネプテューヌから託されたシェアクリスタルを、自身のシェアクリスタルに融合させ、完全なシェアクリスタルを生成する。
そしてそれを使い、完全な女神化を果たす。
ネプギアにとっては初めての女神化だったが、初めての変身とは思えないほど強く輝き、ネプギアが守護女神の座を受け継いだ事実を疑いようのないものにしていた。
その名は『パープルシスター』。
「……アクセス」
ユニも黒のシェアクリスタルを使い、メガミ化を果たす。
メガミの力に女神の力が加わったブラックシスターは、かつてのブラックハートを超えるほどの力を持っていた。
「行くよ、ユニちゃん」
「ええ、来なさい」
世界が救われるか滅びるかを懸けた戦いが始まる。
「……!」
「……っ!」
戦場を光が横切り、遅れて轟音が響く。
人の目には追えぬ速度で戦場を飛び回り、二人は剣をぶつけ合う。
(私……動ける……っ! 戦える……!)
パープルシスターにとっては、この戦いが女神としての初めての戦いである。故に、戦闘経験が無に等しいパープルシスターならば容易に排除できるのではないか、とブラックシスターは考えていたが、パープルシスターの戦いぶりを見ると、その考えは間違いだと即気づいた。
「継承か……厄介ね」
自身の最大の障害たる女神ネプテューヌを排除したにも関わらず、それと勝るとも劣らない力を持つ障害がまた立ち塞がる。ブラックシスターにとっては鬱陶しいことこの上ない。
(死ぬほど苦しい思いして女神の力を得て正解だったわね)
しかし、女神の力を得てパワーアップした自分の力を試す絶好の機会であることに、愉悦を感じてもいた。
「今までのが根源の剣技……そしてこれが……」
ブラックシスターは一旦剣を消滅させると、巨大な銃を構築し、エネルギーを充填させる。
「アタシ自身のスタイルよ!」
そして、充填させたエネルギーのビーム砲を、パープルシスターに向かって射出する。
「うわ……っ」
パープルシスターはビーム砲をスレスレで回避する。
ビーム砲がパープルシスターの背後にあった山に直撃すると、山一つがまるごと爆発して消し飛び、大地が抉られる。
「これがアタシの力よ。根源を超え、女神を超えたアタシのね!」
圧倒的な射撃能力と、根源譲りの卓越した剣技、そして女神の力。
あらゆる存在を超越したブラックシスターの苛烈な攻撃がパープルシスターを襲う。
「アンタも……女神ネプテューヌの元に送ってあげるわ!」
ブラックシスターの猛攻でパープルシスターが疲弊していく。
しかし、決着がつくことはない。ギリギリのところで、パープルシスターは持ち堪え続ける。
「……っ!」
ユニがノワールと違った戦い方を身につけたように、ネプギアもネプテューヌとは違った女神の特性がある。生まれてから今の今まで戦闘行為をしたことはなかったため、本人も気づくことがなかった。
それは、土壇場での爆発力。
「何……っ⁉︎ この力……⁉︎」
女神ネプテューヌは半身たるネプギアを生んだ際、自身の力を分けることはしなかった。
それは、生まれたてのネプギアにはまだ女神の力を使いこなせない可能性があったこともあるが、自身と違う方向性での成長を促したかったからだ。
自身の代用品として生み出した存在に自身とは相違を求める、矛盾しているが、心とは矛盾するもの。
「はぁああああ!」
「……っ⁉︎」
そしてその矛盾が、パープルシスターの成長を促し、女神の力を最大限に引き出していた。
「どうして……っ!」
ブラックシスターの口から苦悩が漏れる。
力は届いている筈だ。
戦闘技術も根源の記憶から引き継いでいる。
「どうしてアタシは……あんたに勝てない……ッ⁉︎」
だが、ブラックシスターはパープルシスターに押され始めていた。
根源から受け継いだ剣技は捌かれ、自らが見出した戦法の銃撃は有効打になっていない。
「……ぁあっ」
いつの間にか剣は折られ、銃は砕かれていた。自身のエネルギーから再生はできるものの、そんな悠長なことをしている暇はない。
手詰まり。ブラックシスターは敗北という現実を突きつけられた。
「終わりだよ、ユニちゃん……!」
「……っ、ネプギ……アァァァァァァッッッ‼︎」
ブラックシスターは悔しさと怒りで、咆哮のように相手の名を呼ぶ。
パープルシスターの光の剣が、ブラックシスターを穿った。