災厄の姫君はバッドエンドを望まない 作:うささん
「絶対に許さないっ! 父様と母様を殺したお前たちを──」
ああ……またこの夢だ。最後はやっぱこれなんだよね。
血塗られた断頭台。
「殺してやる! 殺してやるんだからっ!!」
断頭台の首を載せる台に細い身を固定された女が叫んだ。
粗末なドレスは煤けて黒ずんで所々がほつれ、破れ、長い監禁生活を現している。
かつては碧き真珠とうたわれた美貌もやつれ果て、叫び続けた声はかすれ老女のような声しか出ない。
やせ細った女に周囲に詰めかけた観衆から罵声が飛んだ。
「災厄の魔女!」
「お前のせいで何人死んだ!」
「お袋と妹を返せっ!!」
「早く首を刎ねろぉっ!」
「殺せ、殺せ!」
腕を振り上げ叫ぶ者たち。そんな罪は知らない。私は一つも悪くない。
甘い世界で楽しく暮らしていた。それをこいつらが……父様も母様もこいつらが殺したのだ。
刑場に集った者たちの望みはただ一人の女の死だった。
「これより罪人を処刑する。王国を守護する王の一族でありながら、富をほしいままにし、飢えで苦しむ民を顧みることもしなかった。罪は明らかである。王女を処刑せよ!」
「違う! この裏切り者どもっ! 貴様らは子孫末裔に至るまで呪いで朽ち果てるがよい! 神聖にして高貴な血を絶やす呪いを受けるがいい!」
それが女の最後の捨て台詞となった。
斬っ! ギロチンの刃が落ちる。呪いの言葉を散らした女の首が落ちた。
ああ……いつもの夢だ。目が覚めればいつもの日常が始まる。そんな朝の繰り返し……
◆
「うわぁぁぁっ!」
そんな声と共に飛び起きる。処刑台じゃない、いつものベッドの上だ。
自分の部屋。ちょっと散らかっている。生活感のある部屋だ、と片づけない言い訳がいつもの私。
胸の動悸はドキドキが収まらない。
首を刎ねられる感触……
自分の首に触れて確かめる。ちゃんとついている。
ごろりと転がった虚ろな女の目を思い出しておぞ気を感じる。
この感覚だけはなれることがない。
目覚まし時計が鳴り響く。
「ああ、くそ……痛い……」
中世ぽい世界で、最悪な状態で首を刎ねられる。冷や汗と動悸で胸元を抱いた。
夢にしてはリアルすぎて、感じた刺すような冷たい空気も、聞こえる音も、浴びせられる罵声も現実そのものなのだ。
人々の熱狂した、狂気を帯びた視線を思い出すだけで吐きそう。
「おはよう……」
一階まで降りてキッチンに向かえば出迎えるのはラップに包まれた皿と書き起きだ。
家の中は静かだ。誰もいない空間にボッチ一人。
両親共働きの一軒家住まい。都心から離れた、地方の街は都会過ぎず、田舎過ぎず、とまあつまらない場所に住んでいる。
書き起きに目を通して母が今夜の買い出しを頼むという内容と買い物の中身を確かめる。
父は書き置きなど残したこともない。
「いただきます」
一人レンジでチンの朝食も慣れ切っている。
不登校児の朝なんて不規則だ。学校という自分を縛るものから隔離されて自分の時間を持て余す。
同じ十代の子がどんなことを考え、どんなことで悩み、どんなことを友人と話すのかさえ分からない。
「図書館でも行くか……」
寝起きのジャージ姿でスニーカーをひっかける。
妙な夢を見るようになったのはこれが初めてじゃない。子どもの頃にまで遡るはっきりとした記憶にまでなっていた。何度も何度も同じ夢を繰り返し見る。
初めはすごく楽しい夢だ。誰も自分には逆らえず、思うがまま、わがままに振舞える。
華やかな宮廷。
庭園の目に鮮やかな色彩を咲かせる花たち。
白亜の宮殿。
広大な庭の中央で踊り、笑いさざめく紳士淑女たち。
どこまでも美しい世界。
けれど災厄が訪れて……
でも夢は美しいまま。外の世界にどんな嵐が吹き荒れようとこの聖域だけは絶対に壊れない。
魅惑のドレス。
美味に彩られるお菓子。
すべては望みのままにマイレディ。
美しい夢はそこからどす黒くなっていく。薄汚れた世界に……
街頭で叫ぶ者。
体制を批判し民を先導する謎の男。
刃のついた武器を携えた、鎧を着た兵たちが争いあう。
燃え上がる赤い旗。
炎は全土に広がりすべてを燃やし尽くす。
大地を、空を魔物たちが闊歩し我が物顔に蹂躙する。
そして最終章が断頭台のシーンへと繋がる。
これが私の世界の終りの物語。
何度も、何度もループしてみる夢は現実そのもので、最後は決まって同じだった。
いつも暇つぶしに読むのは漫画とかライトノベルだ。児童書のファンタジーも好きだった。
あまりリアルなファンタジーは絶対見なかった。ゲーム・オブ・スローンズとかもう無理。
それが初めは楽しいけれど、やがてくる夢の終わりに繋がる不吉なようなもののように感じたからだ。
追われているような感覚になる。
ファンタジーなんて頭軽くてポップですぐ帰ってこれるものでよかった。
人との付き合いができないのも怖かったからだ。みじめな自分を見られるのが嫌だった。
一人ならば誰も私を見ない。かえりみられることもない。そして自分の世界の中に閉じこもった。
「帰ろ……」
ネット検索はイマイチ面白くなかった。夢の中の記憶に関係する物は一切ヒットしない。何度も検索したけれどまるでなしだ。
絵本とか児童書とか、親が昔聞かせてくれた物語か何かだと思っていた時期もあった。
ただの空想だ。でも見る夢はいつも同じで、何一つ変わることがない。
いや、少し違うことを話したり、そこにいる人たちと違うゲームをしたりするシーンはあった。毎回微妙に違うが、結末は同じなのだ。
結末から逃れようとしても無駄なのだ。なので、甘く美しい世界に浸っている時間だけを楽しみとした。
誰かに相談するという時期はとっくに過ぎた。
登校拒否で制御不能になった娘に対して、両親は忙しさを理由に子どもと向き合うことを止めてしまった。こちらから助け求めるということもしなかった。
なんて空虚な家庭だろうか。
「人生のルートも夢もバッドエンド確定かよ、最低だな」
家のノートパソコンを立ち上げ、開くのは小説投稿サイトだ。
何万という作者がここに作品を投稿している。
人気作品となれば百万単位のアクセス数を稼ぎ、書籍化され、アニメにされ、とネット作者たちの夢と、実利を生み出す名を上げる場所となっていた。
ここに自分の作品を投稿している。
拙いながらも夢を整理して書き上げた唯一の作品となっている。
ラストは処刑のシーンで終わる。救いようのないバッドエンド。
人気作品とは言い難いが、なんか知らないけれどコメントはそこそこにあった。ダークファンタジーな要素が好きな一部層にはどこかがヒットしたらしい。
とはいえブクマも評価も雑魚の中堅クラス程度。ふ、この戦闘力雑魚めという感じ。
「投稿完了。でも完結だし、最後だけ予約投稿なしとか承認欲求丸出しだなー。買い物して寝よう……」
お昼。夕方以降に出かけるなど学生が出歩いている時間を極力避けるようにしている。
母に頼まれている食材はカレー。親との唯一の接点は食べ物だ。
一緒に食べること自体今は少ない。
父と顔を合わせればお互いが不幸な感じになるので顔を合わせないように晩御飯を食べるのが習慣になっている。
カレーだけが母と自分を繋ぎとめている魔法のようなものだった。
スーパーでの買い物は問題ない。引きこもりだけど、話しかけられなければたいがいのミッションはこなすことができた。
【次回作待ってます。最後まで読めたのも世界観の深さが好きだったから。バッドエンドからの別ルートとか、主人公視点変えてとかも読んでみたい】
【これは悪役姫様やり直し系はじめてもいい】
【災厄の対処間違えなければワンチャンありだよね。覚醒イベントとかあればね】
寝起きにインしてみればコメントが三つもついていた。一回投稿で一件あれば良い方だったのに珍しい。
これは奇蹟かな……これはあれだ。きっと完結に対するご祝儀に違いない。
何でそう……決まり切ったルートは確定だというのにそんなコメントがついているのかはわかる。
よくある悪役令嬢の過去的な部分みたいに読めるんだろう。巷で流行ってる転生やり直し系に繋げられそうって思うみたい。
でもね、ルートは決まってるんだよ。私の見る夢は変わることがない。
なので続きなんて……知らないものは絶対書けっこないんだから。
おーい、脳内のベストフレンド。もう一人の私! ちょっと整理させて―。
彼女は物心ついた頃から私の中にいる「もう一人の私」だ。独り言ブツブツ頭の中の友人に話しかけるきもさは自分では考えないようにしている。
一人でいるときはもう普通の慣習になってしまっている。
「うるさいなあ……」
「今創作家としての今後の方針に関わる問題なんよ。これ続編書ける?」
「知らんけど、読者が求めてるの投げてあげれば―? 娯楽なんて読み手が求めるの与えてれば勝手に喜ぶんだからさ。あんたが飽きなければ飴上げてればいいじゃない。あんたが楽しければだけど。楽しくなけりゃ娯楽じゃないし」
「わかりきってるけど自信なんてかけらもないよ! 夢以上のことなんて書けないし!」
一番の問題じゃないか……考えるの苦手な私が唯一頼れるのはお前だけなんだぞ。
「ちゃんと読者ついて感想貰ってるんだからさー。自分の頭で考えなさいよ。感想の中からイベント想起させるもののヒントを拾うとことか一つ二つあるでしょうが」
「えー……あるの?」
「感想欄ちゃんと読め。使えそうなとこあったら箇条書きにしてメモッときな」
「うん、そうする。後で見てね、頼りにしてるから」
「カレー食べるまで思考が回らない、寝る」
「感想か……使えそうなネタね……」
3話
【最新話更新お疲れ様。何回か読み直したけど、やっぱここが癒しだね。新人メイドと拾った犬っ子とのほっこりシーンが好きで後になぜあんなことが起きてしまったのか……改めてくそブタ王市ねってなりました】
5話
【この頃は純真キラキラ護衛隊長の銀髪娘だったのに最後はどうして……どうして……】
「あん……?」
ずいぶん序盤の話に後から感想つけてる人がいた。新着見逃してたのか、感想欄見ないし、返信してねーし。
王女の近くには二人の側付きがいた。亜人メイドのちびっ子サリア。従順でずっと離れなかった。
貴族の慰み者にされ、脱走して野良犬のように路地をさ迷っていた少年クロウも拾った。
夢での二人の扱いはただのおもちゃに過ぎなかった。作中では心温まるイベントを用意したけれど、実際は違う。
その二人とも王の手下に殺された。押し寄せる反乱軍から逃れるべく奥の離宮に逃げる際に邪魔だと殺されたんだっけ。
そこには私もいた。
作中ではわりかしあっさり殺してたよね。
銀髪娘ってのは女騎士リリゼットとして参内した貴族出身の子だ。夢の中の私に仕えるんだけど、だんだん心病んでくんだよね。
純真なのはわかる。初対面からめっちゃキラキラな目で見られていたんだが、周囲が黒く染めていくんだなぁ。
災厄に対し何もしない王家。民は暴政に苦しむ。希望となる旗は国には存在しなかった。
理想と現実の狭間。仕える主はクズ姫、ブタ王だ。そりゃ歪むよ。
虐げられる領民に同情を示した彼女の両親をブタ王は見せしめに処刑した。
彼女は私を裏切った。当然だよね、無実の両親を民衆の前で八つ裂きにされたのだから。
王城の内側から反乱軍を引き入れて私を殺そうとするんだけど、そんな価値もないと髪だけ切って目の前から消えた。
私は反乱軍に捕まって監禁された。でもすぐには殺されず、四年が経って処刑場に立ったのだ。
その間の記憶というのはよくわからない。夢はいきなり何年も飛んだりするからだ。
その見物人に紛れて彼女もいたはずだ。
「とりあえず、こんなもんかな。災厄……覚醒イベントってなんだ? 世界を襲う災害にどうやって対処するんだ? クズ姫は無理だろ」
だいたい夢の中に出てくる災厄も最後までその正体がなんであるのかなんて明確にされていなかったのだ。
アレは自然災害などというモノではなかった。大地が腐り、そこから生まれた魂なき魔物がすべてを喰らう。
終末の大災厄──
もし夢の中の世界に転生とかしてもう一度そこでやり直すのであればいくつかターニングポイントがある。
箇条書きメモメモ……
「という感じなんだけど、どうすればいーい?」
「クズ姫が死んでもこの世界の先は続いていくから、災厄に対してどう向かって対応するかだな。そのために手元に扱える材料を用意しないと」
「うんうん、災厄の対策が優先事項だね。まるっと」
1:災厄の対応(最優先)
2:人材流出阻止のため魔道学院を存続させる
3:2からのブレーンとなる人物の確保
4:冒険者ギルド、冒険者との友好関係
5:扇動者となる者たちへの対処
1は話の最初から最後まで関わってくる重要な部分だ。王国内及び全世界に訪れる災厄へどう対応していくかがキーになる。
王はそれに対して何もしない上に内乱煽って自滅する。
各国との連携が測れるように災厄前から外交するしかないんだけど、外交音痴すぎるの上に身内で争う内患憂慮。
きつすぎる。
情報とかまるでないまま夢の私は死ぬ。最後までクズ姫なまま。
2、3は魔道学院を財源の都合で閉鎖することを阻止する。予算編成で着服している腹黒貴族をどうにかする。
どうにかすることで優秀な人材を手元に置いておける。
とにかく終盤は相次ぐ人の流出で、技術に後れを取って各国の後塵を拝した挙句に反乱軍に多数身を投じるのでこれを見過ごすと致命的なことになる。
軍師レベルの人材に側にいてほしい。私の頭では謀略とか無理だよ。
脳内私の相談役。めちゃキレるかというと……どっこいどっこいだよ。面倒がりは私以上なんで。
4は人材流出によりその技術が冒険者ギルドで使われ、武装でも魔法でも正規軍を圧倒する力を有する連中がごっそり反乱に立ち上がることになる。
民を守るための戦いに身を投じる冒険者は少なくなく、災厄にも対応する冒険者は民の間の唯一の希望となっていく。
反乱軍の中核となった冒険者集団はとにかく手が付けられない存在となる。
ゆえに2、3を解決し、冒険者ギルド、冒険者たちとの友好的な関係を築けなければバッドエンド確定よ。
もし彼らが仲間になれば、という仮定であれば、協力関係を結び、災厄に対抗する大きな力になりえるはず。
5は、これがよくわからんのよね……
各地で謎の覆面ローブの扇動者が現れて革命家が出没する。夢の中の私を災厄の魔女に祭り上げて処刑にまで至る道を作ったのはこの連中だ。
神出鬼没でついぞ捕らえられたという話を夢の中では聞いたことがなかった。
そこら辺をどうにかできればバッドエンドを回避できるのかもしれない。なんか箇条書きしたら無理じゃねと思う。
甘い世界に浸りきって別にどうもしたいとか、結末を変えたいとも思わなかったヘタレが物語を描けるのだろうか?
バカみたい……私はプロの作家志望じゃない。ド素人の、よく見る夢を箇条書きにして文章くっつけただけの適当作家だ。
書籍化作家みたいな展開望まれても実力不足で死ぬ。きっと。
「これ、どうやってお話にしたらいい?」
「知らないよ。好きにして」
この後、晩御飯のカレーは大盛お代わりしました。
妖精的マスコットいる?
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ふわふわもこなやつ
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いや悪魔的なやつ
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いかにも妖精的な
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頭ん中だけでいいやろ