災厄の姫君はバッドエンドを望まない   作:うささん

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一話「あれ? 死んだらバッドエンド?」

 脳みそ弾けた……というのは嘘だ。

 普段使わないあぱらぱーな頭使ったせいで今日はボロボロだよ……

 世の学生どもが勤勉に学畜してる頃に起き出す自堕落マンがこの私だ。

 学畜とか、まあまあ悪くないネーミングセンス。グヘへ。

 

 もう生まれたときからニートみたいな生活に慣れ切ってるが学校行ってた時期もある。

 小学生までは普通の子みたいに振舞っていた。

 でも夢が見せる世界はあまりにも鮮烈でリアルそのもの。現実であるこの世界が偽物であるように思えた。

 

 世界は偽物。

 じゃあ両親も偽物だ。

 友だちも先生もみんな、みんな偽物で、こっちが嘘の世界なんだ。

 

 おかしいと気が付いていた母が父に相談した。その異常は家庭内に毒を落とすことになった。

 精神科の先生が娘から聞き出した夢の世界の話。

 妄想に憑りつかれている──

 当時は小学二年生の私は、無邪気に楽しく甘くどんなに振舞おうが許される世界の話を聞かせた。

 そしてこっちの世界はすべてが嘘で偽物で、両親は作りもの。もう一人の私がいれば家族なんていらないのだと話して聞かせた。

 それはもう当たり前だという顔で。

 じゃあ、ボクも偽物の人間なのかい? 

 そう尋ねる医師に私は当然だと頷いて見せた。

 もう一人の君っていうのは、どうやって話すんだい?

 そんな聞く側にとっても埒があかないであろう話をさせられた。

 バカにするくせに、どうせこの大人は何一つ理解できないのに、と冷めた目で相手にした。

 実際、最後まで聞いたのは意外な気がしたけれど、答えらしい応えを返そうとしなかった。

 

 今は難しいでしょうが、お父さん、お母さん、お子さんと向き合って過ごす時間を設けてください。

 この歳の子が語ることもいずれ夢のことだと理解するでしょうが、今はご家族での時間を増やして問題と向き合って行きませんか?

 私もお手伝いします。

 

 俺は忙しいんだ! あいつに時間を割く余裕なんかない。お前が一番わかってるだろう!

 毎日毎日休みなく働いて、帰るのは最低でも夜中の十一時だ。くたくたなんだよ!

 どうやって時間を作れってんだ。医者に行く時間は俺にはない! お前がちゃんとしないからあんなおかしいのができたんだ。

 

 あんな……ってひどい。あなたの娘なのよ……

 

 私の処遇を巡って両親がやりあった。家では険悪な空気。

 でも私には関係ない。偽物が下らないことでケンカしている。私のことは放っておいてほしい。

 当時父は新しい事業を自分で立ち上げ、会社の運営に奔走していた。

 そこらの定時までいれば給料をもらえる人と違って、人を動かし、金を動かし、時間を注ぎ込んで自分でお金を稼げる環境を作らねばならなかった。

 漏れ聴いた話からわかったことだ。

 だから何だっていうの? お母さんにひどい態度で一方的な言葉を投げつけた。

 

 母が泣いた。

 あの男は敵だった。

 その日から父は敵認定された。

 嫌いだ。

 この偽物の世界が嫌いだ。

 母を泣かせるあの男も嫌いだ。

 それが引き金だったのかもしれない。 

 ただ自分だけの世界に引きこもることにしたのは。

 

「かたい……」

 

 スーパーのフードコート。かたいパンの端を咀嚼して水で流し込む。

 だらしなく長い、ブラシを入れてない髪の先を指先でこすった。

 こんな時間にニートがフードコートでお食事である。昼前の時間に子どもが一人でも話しかけるような大人はいない。

 みんな誰もが無関心。人のことになど構うことはしない。私は幽霊だ。

 この世界が偽物、という言葉を周囲にまき散らすのはやめた。そういうのも無意味だった。

 親とのまともな会話は成立しない。

 母はどこかで諦めてしまったのか、余計な言葉をかけることはしなくなった。

 父とは対面すればピリピリとした空気に包まれて親子の会話にすらならない。

 

 私にとっては不要なもの。

 造り物の世界にいる。

 その私が造り物の小説の続きを考えてるなんて、なんておかしいんだ。

 あちら側のことをネットに存在する有象無象共に教えてあげる。

 それが夢のことを投稿サイトに上げ始めたきっかけだったっけ。

 みんなが知れば、それは私だけの夢じゃなくなる。私はおかしくなどない。お前たちの現実が間違っているのだ。

 毎度毎度首を刎ねられる痛みも思い知れ!

 そんな情熱に突き動かされてヘタクソな文章力をどうにか読める形態にして小説を投稿し始めたのだ。

 

 投稿サイト。たくさん作品が投稿されてるけど実はほかの作品とか全然読んだことがない。

 だから展開のテンプレートとか、王道とか、人に読まれる小説的なガイドがあることすら知らないままに書いてた。

 お気に入り一千とか万行くのがいるなんて思いもよらなかったのだ。

 ランキングの一位からして化け物。何となく開いたページのせいで三日間徹夜する羽目になった。

 そうやって初めて格の違い、というやつを思い知らされた。私の作品など一方的な視点のものでしかなく物語として薄っぺらいと知った。

 テンプレートかぁ……無理。あんな化け物たちと同じ土俵にすら上がれない。

 そんなのに触れたせいで、私は、今、続編なんてものを考えている。

 やり直し系主人公って世界救わなきゃダメ?

 

 肝は魔道学院かなと思う。まずはここを抑えることが先決だ。

 優秀な頭脳を持つ若者が集まる学院で人材を確保し、外国や冒険者ギルドに流出させないことが生き残りには必須。

 後のことはわからない。原作なんて存在しないのだから攻略方法がわからない。どうアプローチすればいいのかも不明だ。

 だいたい、想像の中から人間像を生み出すことは難しい。

 知らない人のことは書けない。

 見たこともない展開をどうやってストーリーに乗せればいいのかがわからない。

 くそニートの知能はこれ以上働かない。

 人気作品の転生物。タイトルは何だったかな……

 意識だけが向こうに行ってて、たまに現実に帰ってくるやつ。そんな能力が当たったら作品が書けそうな気がする。

 まさにチートだ。グフフ、そしたら私もアクセスうはうはの作家に駆け上がれるかもしれない。

 

 横断歩道のランプが点滅しているのはなんだか覚えがある──

 

「想定外だ……」

「くほ……ぐ」

 

 痛い。

 体が動かない。

 

「女の子がはねられたんだよ! 早く来てください!」

 

 そんな声が近くで聞こえた。

 はねられた……?

 

「車……」

 

 ああ、そうだった。

 指……動く……

 何、このドロッとしたの……気持ち悪い。

 鮮烈な赤。

 べっとりと手の甲についている。

 

「車にはねられたんだよ、くそ、前を見ろよ」

「それ、あたしのこと?」

「くそな運転手だよ、バカ」

「じょーだんでしょ……」

 

 冗談じゃなかった。

 頭が痛い。じんじん痛い。

 グルグル世界が回っている。

 せき込んで血を吐き出した。

 痛い、いたい、イタイよ。

 偽物の世界の癖に体中が悲鳴を上げている。

 こみあげてきてまた血を吐く。

 

「私、死ぬの……消えるのかな?」

「……」

「ねえ、応えなさいよ!」

 

 もう一人の私は何も言わない。

 赤いランプ。

 白い車体。救急車。

 誰かが何かを喋っている。 

 そうして私は──

 

 

「起きろ、起きろよ」

「あん?」

 

 いつもの声だ。もう一人の私がここにいる。

 なーんだ。なんてことない。何もなかったんだ。あれもきっと夢だ。

 事故に遭った夢。滅茶苦茶痛くてきっと死んでた。

 あれはいいよ。夢ループに入れないでさ。また起きていつも通りの部屋で目覚めるだけ。

 とはならなかった。

 

「夢の中だ」

 

 夢から覚めたと思ったらまた夢の中にいた。

 え……どういうこと?

 このでっかいベッドは私のものだ。といってもあっちの世界。つまりは偽物ではない方のという意味だ。

 何もかも知っている部屋は王女として暮らす部屋そのものであった。

 自宅部屋であれば手を伸ばせばすぐに届く位置に物があるものだが、調度品やら収納までの距離が遠い。

 計算されつくした家具の配置は高貴な姫君の部屋そのものと言っていい。

 すべてがリアル! ハイビジョンから4K大画面になったくらい違う。

 

「おかしくね……事故にあって轢かれたんだよね」

「スプラッターされた。ひき肉だな。多分死んだ」

「手が小さい……えっといつ戻ってきたのこっちに?」

「あたしもさっき起きたからわかんねえ」

「むう」

 

 とりあえず確かめるか。

 豪奢なベッドを降りて鏡台にかかるシルクの布を取り去る。

 年の頃五歳の私がここにいる。

 お気に入りのパジャマ姿でそこに立っていた。

 見るからに育ちの良さがわかる健康的なお肌と色気もないペタン胸。

 ぱっちりしたお目めに長いまつげ。

 スラっと伸びる鼻梁は美しいカーブで鼻先を頂点にする。

 アユタシア王朝の王族のみが持つ黒い髪。深い緑の瞳。

 黒髪だが日本人離れ……いや人種的に日本人ではない顔立ち。

 まさにこの顔、見慣れたものだ。

 

「何だか今までと違う……」

 

 まじまじと鏡の自分を眺める。

 碧き真珠と呼ばれる深い緑の瞳も王家の証だ。

 いつも夢という形であったので、登場する場所、やることに自分から介入できたことはほとんどない。

 今このシーンを夢で見たことはおそらくない。

 幼少期からの夢の中に似たようなシーンはあったが、みな台本の台詞を違えることはなかったのだ。

 現実に感じながらもそのパターンに沿った行動しかできなかった。

 でもこれは違う。明らかに違う。自分の意思で今動いている。

 

「夢じゃない」

「夢の世界じゃないのか? どう見てもあっちのお前じゃない」

「事故は現実に起きた」

「たぶんね。あれも夢じゃないと思う。きっと」

「じゃあ……」

 

 お互いわかっていること。私は、いや、私たちは。向こうの世界で交通事故にあった。

 

「死んだのかな?」

「走馬灯ってやつは体験しなかったけどな」

「そっか。未練ある? あっちの自分に? あの家庭に? 父親に? 母親に?」

「偽者だって思ってたじゃないか。死んでるならむしろ好都合だろ? 戻る必要はなくなったんだから」

  

 こっちが現実? 少なくとも小さい頃の私はそう思っていたんだ。

 向こうの世界のことに未練を持つ? 

 死んだら終わりかなって思ってた。でも私はここにいる。そう、私は正しかったんだ。

 この世界こそが本物なのだから。

 

「はは」

 

 笑みを作る。そして腹の底から溢れてくる思いを口に出した。

 

「帰ってきた! 帰ってきた! 帰ってきたんだっ! 私は帰ってきたんだ~っ!」

 

 叫んだ。そして、扉を開け放ち素足に埋まる絨毯を駆けた。走る幼い主君の姿に気が付いたのは紅の近衛兵だ。

 

「姫様、レティシア様! お待ちになってくださいませ」

 

 侍女のフィリパが大慌てで大事な姫様のすぐ後を走った。その後ろを重い装備を身につけた衛兵たちが同じ速さで走って侍女と並んだ。

 私に追いつけるものですか!

 

「ふははっ!」

 

 春の風が庭から吹いてくる。

 私は笑った。

 踊るように回廊を駆けて、上から注ぐステンドグラスの影を踏んだ。

 一面は多重構造の花壇に色とりどりの花が咲き誇る。

 

「フィリパ!」

 

 そこで立ち止まり、振り向くと猪突に走っていた侍女が足を止める。

 勢い余った衛兵が転んで仲間内でもんどり返る。滑稽な様を王女の前にさらし、兵らは慌てて兜を脱いでその場に膝をついた。

 腰に手を当て支配者の顔で声を上げる。

 

「わたくしは誰っ!?」

 

 意気揚々と高々に勝気な視線を配下に向ける。

 

「我らが光。アユタシア王家の姫にして碧き真珠のレティシア殿下にあらせられます」

 

 フィリパが臣下の礼で深々と頭を下げた。

 これが私だ。そう私はもう偽物の世界の自分ではない。

 これこそがレティシア・アンナマリア・アユタシア。

 アユタシア王朝の血を引く者にして、最後の神聖なる血統。

 断頭台にて長き王朝の歴史に幕を引く災厄の魔女だった──

妖精的マスコットいる?

  • ふわふわもこなやつ
  • いや悪魔的なやつ
  • いかにも妖精的な
  • 頭ん中だけでいいやろ
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