災厄の姫君はバッドエンドを望まない   作:うささん

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二話「王女七変化でバッドエンドは変わるのか?」

 災厄の魔女って言っても実際に災厄を起こしたのは私じゃあない。

 やりたい放題の我がままプリンセスが王家の立場が悪くなってもまったく態度を改めず、王宮に引きこもっては贅を尽くすことを止めなかった。

 その夢に引きこもりの私の願望が加わって怠惰に浸りきっていたわけだ。

 処刑されるまでずっと、自分が悪いだなんて一かけらも思わなかったのが私とクズ姫というわけ。

 

「似た者同士の私こんにちはってわけよ」

 

 髪の色は日本人でもあったので違和感ない。 

 でも容貌は日本人離れした透明感を持ちながらも、大人になれば彫りの深さも加わって凄まじい美人になる。 

 最後はやせ細って首刎ねられるんだけどね。 

 災厄を前に終わりを迎えた王国の民の恐怖を和らげる生贄としての断頭台だった。

 あの後どうなったのかなんてどうでもよかったけど、あの世界の人間は災厄に飲み込まれて全員死亡だと思う。

 それほど終末と呼ばれた大災厄は圧倒的だったのだ。全人類の抵抗など飲み込むほどに。

 

「今が五歳……処刑が二十一のときかな? 牢屋に入れられたのが十七のときで……災厄は五年前からか。十二手前くらいにはその予兆が始まってたからあと七年しかないじゃん」

「厳しいなあー。たった七年でどうにかなるもんなのか? その災厄ってのに魔道学院をどうにかして対抗できるもんなのか?」

「学院の予算は削ったけど軍事部門で兵士を魔改造して殺戮魔人造ってたわ……」

「マジかー、ブタ王ぱねえな」

「読んでねえなお前」

「だって最後つまんないじゃん。飛ばすでしょバッドエンド部分なんて」

「王族にしか忠誠を誓わない殺戮魔人で市民殺しまくってた。反逆罪も適当にでっちあげて」

「ギロチン不可避、わかるわー。士ね」

「とにかく技術力はあったわけよ。ブタ王はクズ姫が殺して、クズ姫をリリゼットが裏切って騙して開城させてエンド」

 

 血みどろの玉座で狂ったように笑いながらブタ王の死骸を踏みしめるクズ姫。

 それを死んだ目で眺める忠実な騎士リリゼット。クズ姫から兵士に命令を与える機械を奪い、城を開門させて長きに渡る王朝の歴史は幕を閉じた。

 

「つーわけで、バッドエンド回避のための手を考えようよ、というわけ」

「心象最悪から好感度マックスまで上げる、悪役令嬢の乙女ゲーみたいなことになりそう。地味に悪役令嬢主役のゲームってないよね?」

「そういうのコミュ障に期待しないで……」

「お前、ボッチ気質だもんなー……それでどうやって好感度上げんのよ……」

「ブタ王。つまりお父様ってやつはどうしようもないクズ男だけど娘には甘い。そこから動かしていくしかないのでは?」

「周りへのお前の評価も変えなきゃ行けないんだぞ。亜人娘と拾うわんこにリリゼットは一番近いところにいるじゃん。優しくしてやればいいじゃんか」

「それがわからん」

「ボッチめ……」

「そんなこと言うならあんたがやりなさいよー」

「カンペ用意してやっからちゃんと覚えろよ、このクズが」

 

 とまあ、一応の方針が決まる。タイムリミットは約七年という期限付き。

 王国の行く末を決めるイベントはどれも気が抜けないものばかりになりそうだ。

 とにかく、この日からクズ姫の顔は封印する。まるで聖女のように清らかに、ブタ王の機嫌を取りつつ手駒を増やしていかねばならないのだ。

 チート能力?

 これといって特に……

 王家の血筋ってこと以外は……

 

 魔道兵器として自分を魔改造? 今はまだ研究中で注目もされていないけれど、その資金を提供すれば魔道を扱えるようになる。

 災厄に対する対抗手段として注目されるのはずっと後のことになるけど、その力があれば終末の魔物に対抗することはできる。

 ブタ王は殺戮兵器を作ることだけしか考えなかったけれど……

 よし、最初のアプローチはこれにしよう。用意するのは初期投資と被検体……つまり私を提供しよう。

 あのマッドサイエンティストならば絶対乗ってくるはずだ。

 

 

「おはようございます。先生、今日はよろしくお願いします」

 

 この日からレティシア王女の周囲への態度が変わった。それを聞いた先生は腰を抜かしそうなほど驚いたという。

 

「あの姫様から、よろしく、とお願いされました……しかも授業中に暴れたり、エスケープすることもなくなって」

「私めも、いつも奇麗にしてくれてありがとう。後でこれを皆さんで召し上がってくださいね、とお菓子を頂きました」

 

 侍女のフィリパも困惑する。

 いつも威圧的で、自らの勝気さを隠さずに年上の貴族であろうがわがままいっぱいに振舞う姿しか知らないレティシア王女を知る身からすれば、その変化には天と地ほどの差を感じたほどだ。

 

「まるで別人のようじゃないか……中身違う人じゃ……」

 

 王宮に上がる貴族の子女も、態度が悪いとレティシアに目を付けられれば、容赦のない鉄拳が飛んでは躾けられるまで苛め抜かれていたのだが、今ではすっかり大人しくなり……

 

「ま、前の方がマシだぜ……優しい顔して何考えてるのかわからねえ。怖い……」

 

 殺気ましましに暴れ回っていた頃ならば、大人しく従っていれば良かった。

 何せ機嫌がいいように見えるときほど恐ろしいことをする。優しい声を出せば、次の瞬間にはとんでもない悪戯をする。

 それで死にかけた者もいたくらいだ。

 

「手習いの書留に使った紙があるのですが、あなたの息子さん、ちょうどわたくしと同じ年頃よね。文字の練習にこの裏紙を使ってくださいな」

 

 近衛兵の息子にと自分お下がりを渡したりと、その「奇行」には暇がない。

 一週間でレティシア王女の変わりぶりが王宮中で話題になる。

 

「あの野猿娘が礼儀作法とはな……」

 

 玉座に座る太り四肢のブタ王……もといバルトロ国王の口ひげが揺れる。黒ヒゲの熊王というのが諸国でのあだ名だ。

 娘のレティシアといえば、いくら教育係を変えても酷いものであった。少しでも気にくわないと罵倒し、抵抗しないとわかっていて相手をいびり倒す。

 それで何人の教師を変えたことか。

 同じ年の遊び相手がいれば少しは大人しくなるかと思ったが、徹底的に自分の支配下になるまで殴り倒す有様。

 野猿とあだ名をつけたが、父王の前では甘えてくる。それが可愛くて仕方がない。ついつい言うことを聞いてしまうのだ。

 ゆえにレティシア王女の横暴、わがまま、暴力を止められるものはいなかった。

 

 が……この一週間、レティシア王女の態度や言動が一変し、まるで最初からそうだったかのように王家の姫として振る舞い、貴族の子女や、侍女たち王宮に仕える者に対して物腰柔らかに振舞うようになったのだ。

 父親の目から見ても、その変わりぶりは目を疑うものであったのだ。

 いつ元に戻るのか……その心配をよそに、王への謁見の場で、市民からの陳情案件を手に「窮する民への炊き出し」に対する寄付と予算の割り振りを願い出たのだ。

 

「良かろう。それは対処させる」

「ありがたく存じます。陛下」

 

 と返事を返し、優雅にお辞儀をして謁見を終えた。

 陛下! 陛下だと? 公私など知ったことかと内々で使うお父様とどこでも呼んでいた娘が公衆の面前で陛下と呼んだのだ。

 娘が市民の陳情を議題に上げたことよりも、陛下と人前で呼んだことの方がバルテロにとっては衝撃であった。

 その様を見ていた貴族、市民の代表に町長たちも噂は真であったかと、その話を家に持ち帰って家族に話したのだった。

 

 

「よしよし、初手はこのくらいでいいだろう。政治に顔を出せるようになれば、予算の件もどうにか口を挟めるようになるはずさ」

「えー、あれでどうにかなるわけ? 遠回りじゃない? 炊き出し程度で?」

「わかんないかなあー? 今まで政治も外交も知らない、無視してたやつがいきなり意見を通せる立場になれるわけないだろ? まずは軽くジャブ。強烈なのは取っておいて、ここだってとこでフィニッシュを決めるんだよ。効果的な一撃ってやつだ。学院の方はそれからだ」

「ふーん。それで上手くいく?」

「行かなきゃ次の手を考えよう」

「よしわかった。作戦を練ろう……」

 

 ベッドの上で作戦を書いた羊皮紙を順序だてて並べる。

 全部日本語で書いてあるので、誰が読もうが謎の記号にしか見えない。

 毎夜取り出しては作戦会議で使う。

 

「誰かと話しているようですが、部屋の中には誰もいません……」

「警備は厳重です。この部屋には誰も入っていないし、出て行ってもいません」

 

 王女の部屋の前で聞き耳を立てるのは侍女のフィリパと紅の近衛隊長だ。

 職務を放り出してまで聞き耳を立てているなど厳罰ものであるが、これは王からの密命であった。   

 猿娘の変化が本物であるのかを疑ったバルテロが二人に王子の様子を探るように命じていた。

 

「確かに姫様の変わりぶりは驚きですが……本来あるべき王家に相応しい姿を示してくださっているのであれば周囲への示しもつくというものです。たとえ嘘でもこのままであってほしいものです」

「生まれたときよりお世話しておりますが、生まれたときは本当にタマのようにお美しいお子様で……奥様が亡くなられていなければ、あのようにお育ちにならなかったのではないか、という思いをずっと抱いておりました。しかし、今の振る舞いはまさに王女たるに相応しいお姿。多少、奇行はございますが、今のままでよいと心から願っております」

 

 近衛隊長とフィリパが胸の内を明かしながら、王女の計画はベッドの上で進む。

 

 

「新しく入りました侍女をご紹介します。サリア、お入りなさい」

「お初にお目にかかります……サリア、です」

 

 その日、王宮勤めに上がった少女は亜人だった。

 元は奴隷として商人から燐国の貴族に献上されたモノであったが、この国への贈り物の一つとして差し出された中に彼女がいた。

 見め麗しい中から選んだだけあって、容姿は整っていて、最低限の教育、礼儀作法は叩き込まれている。

 見た目がほぼケモノと言っていい獣人族と異なるのは、亜人は獣人と人との間から生まれた種の子孫にあたる。

 獣と卑しむ獣人族の混血とあって、亜人は下に見られ、奴隷として扱うことを許されていた。

 サリアは人の血の方が濃く、獣人らしさは薄いが、亜人特有の獣の耳や尻尾を持つ。

 ゆえに両親共に奴隷として売られ、家族とは離れ離れとなって異国の地まで流された。

 

 

「あなたは今日からわたくしのものになります。私のものになった以上、私以外の者に道具扱いされることは許しません。わかりましたね?」

 

 これは王女以外の誰にもサリアはいじめさせないという宣言である。

 そのわかりにくさはまだ七歳のサリアを怯えさせた。ひどい目に遭わされるのではないかという……

 王宮の仕事を覚えさせるためにフィリパがサリアを連れて退室する。

 

「おお、来たな、サリア―。すごく可愛い……」

「でしょー。やばいよ、やばいよ。モフモフだよー!」

「んで、犬っころも来るんだろ? 気になってたんだけど、クロウって犬なの?」

「は? あんた、ちゃんと読んでねえでしょ? 人間だって」

「いや、設定でも犬、犬呼ばわりしかしてないから獣人か何かだと思ってたわ……」

 

 クズ姫もクロウじゃなくて犬としか呼んでないしな……本人それで受け入れて喜んでるしな。

 私もワンころとしか思ってなかったわ……

 最後も無惨にクズ姫の目の前でサリアと一緒に殺されて、それで唯一の理性プッツンしてブタ王殺すし。

 そのバッドエンド直行ルートは絶対回避だっちゅーの。

 

「サリアには優しくなー」

「わかってるよ。サリアもクロウも不幸なルートは回避ねー」

「クロウ回収はいつ頃さ?」

「サリア来たからすぐのはず……離宮に行く日で雨降ってたと思うけど、ひき殺しかけたみたい」

「うっかりひき殺すなよー」

「まあ気を付けよう、そこは……」

 

 クロウ回収もあるけど、そのイベントは一か月以上は先のはず。

 今は自由時間を使って王宮を抜け出し、魔道学院に訪問する機会を作らないと。

 王宮の抜け道は知ってるので、警備を潜り抜け、侍女の目を誤魔化して外出する。

 今の魔道学院は門徒を閉ざしていて、技術を外には漏らさず、王家に貢献するために動く機関として存在している。

 王家の人間でもそうやすやすと入っていける場所ではないのだ。

 それを一般に大学として開放し、生徒受け入れで財源を確保しながら、末端の学問向上の場にするというのが目的だ。

 それは早ければ早いほどいい。

 これから会おうという相手は魔道の先端を行く天才的なマッドサイエンティスト。その男に会うことが先決だ。

 その技術と力が私の道を開くのだから。

妖精的マスコットいる?

  • ふわふわもこなやつ
  • いや悪魔的なやつ
  • いかにも妖精的な
  • 頭ん中だけでいいやろ
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