神との契約。部屋からの解放。
今、俺の耳が聞こえ、俺の声を発する事ができたのなら、俺は助けを呼んでいただろう。ただし、現在の俺はそれができない。五感が全て消失している。確かに少し、ほんの微量だけ感覚は残っている。ただそれは、布で汚れを拭い取った時の取り残しのように微量で、人の声を聞いたり、自分が今どういう状況にいるかを判別したりすることは不可能だ。俺は時がたてばそのうち状態も良くなるだろうという希望に縋り、ただ待つことにした。
俺は今、時が流れるのをしっかりと、確実に感じている。頭が狂いそうだった。俺はそろそろやばいと思っているが、何もできることはない。この状況を良くするために何かをするには感覚が必要だ。腕を動かしても動いてるのかどうかもわからない今動くのは危険だ。まだ辛抱強く待つ時だ。
そろそろ感覚が戻ってもいいじゃないかと思い始めるほど時間がたった時、なら戻してやるといわんばかりに目に刺激が加えられ、視界が真っ白に染まった。眩しく、痛みを感じるのは俺が今まで目を使えていなかった証拠だ。
だんだんと目が慣れてきて、俺が知らない真っ白な部屋にいることが分かる。他の五感もだんだんと回復している。
手足も動くようになったのでその部屋から出ようと思った。重そうな扉が壁に設置されていた。開けようと思ったが鍵がかかっている。鍵穴がこちら側についているので部屋に鍵があるだろうと探していると、突然背の高い影が目の前に現れた。それは周りの光を全て吸収しているように黒く見えた。影は俺に話しかけた。
「いきなりで悪いんだけどサァ、僕の眷属になってくれないかなァ。」
「何を言ってるんだ。」
「おっと、そんなに敵対心剥き出しにしないでくれよ。頼みがあるんだ。」
「頼みってのはよくある魔王討伐とかか?そんなのなら断る。」
「違うよぉ、この世界の武器市場が偏ってるから直して欲しいんだヨォ〜」
市場介入でもしろってのかこれは。
「ちなみに、断ったら?」
「また違う人を探すネェ、これまで五人に断られたし。」
流石にまた探しに行かせるのもかわいそうだな…
「引き受けよう、その仕事。で、どうやって市場を直すんだ?」
「簡単な話だよ。あんまり使ってる人がいない武器使って無双して気持ち良くなってくれればいいんだ。」
「そういえば、さっき眷属とか言ってたな。神かなんかなのか?」
「もちろん。僕は武器流通の管理をしている神。」
「武器流通の神…」
「そ。普段は武器の需要に応じて供給量を調整してるんだよねぇ。」
「ってことは需要を調整しなければならなくなったってことか。」
「なんでわかるんだィ?」
「話から大体わかった。」
「話が早そうな人だなァ。」
「とにかく、この部屋から出してくれないか?このままでは何もできない。」
「あー、そうだねェ、今扉開けるねェ。」
部屋にあった扉から鍵が開いた音がした。
ドアノブに手をかけると、鍵は開いていた。そして俺の実演販売は始まる。