遅筆なのは許して……
「———若者たちよ、世の礎たれ」
ヴァンダイク学院長の演説に大きな拍手が巻き起こり、それが終わると各クラスへと移動するように案内が流れたのだが……
「僕たち、そんなの聞いてないよね?」
「ああ、入学案内書にもそんなのは書かれていなかったはずだが……」
入学式で席が隣同士、制服も同じ周りと違う真紅の制服ということで早速打ち解けたエリオットと共に首を傾げていると、
「はいはーい、紅い制服の生徒は今から『特別オリエンテーリング』を行うのでこっちにいらっしゃーい」
ワインレッドの髪の女性が他にもぽつぽつといる俺たちと同じような生徒に声をかけていた。
「……えっと」
「……とりあえず、行くしかなさそうだな」
「やれやれだな」
他の紅い制服の生徒と共に移動する。移動した先に見えたのは恐らく旧校舎……だろうか?歴史を感じさせるような古さを感じさせる。そして何より……
「何か出そうだよね、ここ」
「え?」
「うわぁっ……!?」
いつの間にか隣に男がいた。気づかなかった。仮にも老師に初伝で見限られたとはいえ、それでも気付かれずにこの距離までいつの間に……?
「ああ、すまない、驚かせちゃったかな。シオン・ルクレシアだ。恐らく同じクラスだろうし、よろしくね?」
「いや、こちらも少しぼーっとしていただけだから大丈夫だ。俺はリィン・シュバルツァーだ。こちらこそよろしく」
「僕はエリオット・クレイグ。出来たらびっくりさせないでほしいなぁ……」
「善処するよ」
シオンの謝罪を受け取りながら互いに自己紹介する。悪い人ではないんだろうが……正直心臓に悪いからやめてほしいのはエリオットと同意見だった。
そうこうしているうちに旧校舎があき、その中に招かれる。
中はそこそこ広く、舞台の上に例の女性が仁王立ちしていた。
「ひーふーみー……よし、全員いるわね。それでは今から特別オリエンテーリングを始めます。全員そこの……うん、黒髪の子を中心として集合しなさい」
言われた通りに集合する。女性が少し下がり、スイッチのようなものが見えたとき、嫌な予感がしたが、周りを囲まれていて動けな……!?
「じゃ、いってらっしゃーい♡」
ガコンッ!と大きな音を立てて床が大きく傾く。目の前で金髪の女の子が体勢を崩して落ちていくのが見えたので、どうにかするべく下に飛び込む。こうして俺達は旧校舎の地下へと落とされた—―
———すさまじいの一言に尽きた。初伝止まりの俺でも分かる。動きに無駄がない。恐らく暗黒時代の負の遺産であろうガーゴイルを相手に一歩も引かないどころか翻弄している。
「烈破掌!三散華!」
迫りくる攻撃を躱し、的確に相手の腕や足を潰し、行動を阻害し続けている。しかし決定打に欠けているようにも見える。それもその筈だ。
(なんであいつ素手で戦ってるんだ……?)
恐らくこの場にいる全員が抱いている疑問。そう。戦っている本人……シオン・ルクレシア。地下に落とされていつの間にかいなくなっていた彼は学院の制服しか着ていなかった。
いや武器は!?そういえばさっき地下で準備しているときも武器を持っていなかったような気がするな!?
「あのー!そろそろ手伝ってくれるとー!助かるんだけど―!?」
「あ、すまない」
茫然としていたシオン以外の《Ⅶ組》が戦闘態勢をとる。相手はあんなに簡単に捌かれているとはいえガーゴイル。油断していい相手ではない。シオンが一撃を入れたところに合わせるように追撃。
「八葉一刀流四ノ型・紅葉斬り!」
「っと、ありがと!僕一人じゃどうにも決め手に欠けてね!」
体勢を崩したガーゴイルにフィーが双銃剣で切り込む。こちらも実践に慣れているようで、一撃離脱を繰り返している。
「そなた、少し下がるがよい」
そう言ってラウラは、身の丈ほどある大剣を構えた。
「はぁぁぁ……鉄砕刃!」
瞬間、ガーゴイルの両腕が吹き飛ぶ。かなりの威力だ。流石帝国最強と名高い《光の剣匠》の息女。余りにも真っ直ぐな剣筋に戦闘中だというのに一瞬見惚れてしまった。自分はまだ初伝止まりなのにという気持ちが鎌首をもたげるが、己の鍛錬不足と割り切り、目の前の戦闘に再度集中する。
その時、持っているオーブメント……《ARCUS》が突然光りだした。
「え……?」
不思議な感覚があった。皆の動きがよく分かる。アリサとエマ、エリオットが前衛の俺たちに補助のアーツ、ガーゴイルには攻撃アーツを飛ばして牽制。
「ラ・フォルテ!」
「ルミナスレイ!」
「アクアブリード!」
動きを制限している間に
「受けるがいい……エアリアル!」
「今だ!ブレイクショット!」
駆動を終えたユーシスのアーツとマキアスの射撃が直撃。更に体勢が崩れる。
「ゲイルスティング!」
「鳳墜拳!」
そこにガイウスとシオンがそれぞれ下と上から同時にクラフトを叩き込み、完全にダウンさせる。
「弧影斬!」
「クリアランス」
俺とフィーが相手が起き上がらないよう体を削り取っていく。本命は俺達ではなく。
「任せるがよい……行くぞ!奥義!洸刃乱舞!」
帝国の双璧を誇るアルゼイド流の奥義が、ガーゴイルの首と胴体を切り離した。
パチパチパチ。
ガーゴイルを倒し、勝利の余韻と先ほどまでの不思議な感覚に浸っていると俺達を落とした張本人が現れた。
「お疲れ様ー!いやー、もう少し手こずるかと思ってたけど、思ったより行けそうね。というわけで……これで入学オリエンテーリングを終わるわ。私は貴族平民関係なく集められた君たち特科クラス《Ⅶ組》の担当、武術教官のサラ・バレスタインよ。よろしくね」
器用にウインクして見せたサラ教官に呆気に取られていると、いち早く我に返ったマキアスが吠える。
「き、君たちだって……!?冗談じゃない!こんな鼻持ちならないような貴族なんかと一緒のクラスなんて、僕は認められません!」
「ふん、それはこちらの台詞だ。貴様のような貴族だとみるに誰彼構わず噛みつくような狂犬なんかと一緒にやっていけるものか」
「何だと!?」
「はいはい、君たちの言い分も尤もね。だから私の話を少し聞いてもらおうかしら?」
爆発するように始まった喧嘩を、サラ教官は視線一つで終わらせた。すごい。恐らく圧をかけたのだろうが、俺たちにそのような気配はない。マキアスとユーシスは固まっているが俺たちには一切その影響はない。一体どれだけ鍛錬を積めば同じ土俵に立てるだろうか……
「このクラスはさっきも言った通り貴族平民、果ては留学生までその身分に関係なく構成されているわ。その理由は……」
心当たりのそれを取り出す。
「《ARCUS》……」
「正解よ、リィン。ラインフォルト社とエプスタイン財団が共同で開発した次世代の戦術オーブメント。ただ、試作だから数も限られるし、適合者も限られてくる。そこで最も適合率が高かったのが貴方たちよ。勿論それでも、というなら今からでも貴族クラスと平民クラスに戻してあげられるわ。入学デビューにはまだ間に合うわよ~?」
からかう様に告げるサラ教官とは裏腹にそれぞれ考える。俺は……決まっている。
一歩前に出て宣言する。
「リィン・シュバルツァー、参加させてもらいます」
あの日の間違いを繰り返さないため、己の中の《鬼》を律するため……特科クラス《Ⅶ組》、全力でやらせてもらう。それが我が侭を言って入れてもらった父さんや母さんにも報えるはずだ。
「一番乗りは君か。さて、他は?」
「私も参加させてもらおう。元より修行中の身……此度のような試練なら望むところだ」
「俺もだ。元より異郷の地より訪れた以上、やりがいのある道を選びたい」
続いてガイウスとラウラが。
「私も参加します。奨学金を頂いてる身ですし、少しでもお役に立てるなら」
「ぼ、僕も参加します。皆と一緒ならやっていけそうだし……」
「うんうん、貴重な魔導杖のテスターも参加ね。《ARCUS》とは別でそっちのレポートも期待してるからよろしくね♡」
「はい、分かりました」
「ううっ、やっぱり早まったかなぁ……?」
エマとエリオットも。二人は《ARCUS》とは別にレポートを書くものがあるのは本当に大変そうだな……
「私も参加します。テスト段階の《ARCUS》が使われていることも気になりますし」
「ふぅん?意外ね、もっと反発すると思ったのだけど」
「……こんなことでいちいち腹を立てていても仕方ありませんから」
どこか遠い目をしながらぼやくアリサも参加。あとは……
「それで……そこの二人はどうするのかしら?」
これまでずっと目を背けていた不穏な空気をまき散らす二人をそっと見る。
「……ふん」
「くっ……」
なんか……ダメそうだな。
「まぁ、色々考えてるみたいだけど二人仲良く青春らしく汗でも流せば仲良くなれるんじゃない?
「そんな訳ないでしょう!?帝国に貴族制度などという搾取制度がある限り、帝国に未来はありません!」
「うーん、私にそんなこと言われても困るんだけどなぁ」
ややヒステリック気味な声で反論するマキアスと対照的にユーシスが貴族らしい優雅で静かな所作で前にでる。
「……ならば話は早い。ユーシス・アルバレア、《Ⅶ組》への参加を宣言する」
「なっ……」
あっさりと参加を決めたユーシスにマキアスがつっかかる。
「君のような大貴族が平民と同じクラスなど我慢できないはずだろう!?」
「勝手に決めつけるな。こちらなら変な取り巻きがつかなくて好都合だ。それに貴様が貴族と共に学ぶというのが嫌、というならここで袂を分かつのが互いのためだと思うが?」
はっきり自分の考えを伝える堂々とした姿に貴族としての誇りを感じさせるユーシス。
「誰が君のような傲岸不遜なやつの指図を聞くものか!……マキアス・レーグニッツ、特科クラス《Ⅶ組》に参加する!時代に取り残された貴族風情にどちらが上か思い知らせてやる!」
「ほう……!」
バチバチと見えない火花が見えるような気がする。……うん、まぁ切磋琢磨するのは悪いことじゃないな!
「君たちも参加、と。あとは……フィー、あんたは?」
「ん……」
サラ教官に問いかけられたフィーは一瞬シオンの方を見て、
「やる。仕方ないけど、そうじゃないと怒られるしね」
「投げやりね……私も参加してくれる方が嬉しいけど。最後に……」
今までずっと平静を保ってきたシオンに全員が目を向ける。右手を腰に当てて目を閉じている。熟考している……?
と思ったらぱちっと眼が開いた。
「勿論参加しますよ。面白そうですし、何より学び甲斐がありますから」
笑顔と共に宣言するシオン。ということは……
「じゃあ全員参加ね。いやー、めんどくさい手続きしないでいいから助かるわー♡」
「それ、教官としてどうなんですかね……」
「いいのよ、そんな細かいこと気にしてたらこの先大変よー?———それでは、この場を持って、特科クラス《Ⅶ組》の発足を宣言する!この一年、ビシバシ行くから楽しみにしてなさい—―!」
こうして、俺たちの学院生活が幕を開けた……