———あれから2週間ほど。特科クラス《Ⅶ組》に所属することになった俺は忙しいながらも充実していると思う。1つ疑問があるとするなら、思ったよりもハードではないということだ。
確かに他のクラスと比べて訓練の内容がハードではあるのだが、特科クラス、とわざわざ銘打つ程のものでもない。恐らく、他にメインがあるのだろう。だがいったい何をするのだろう……
「おはよう、リィン!」
「や。いい朝だね」
「おはよう、エリオット、シオン。二人とも早いな。今から朝食か?」
まだ始業まで大分時間があるし、制服じゃない。あたりをつけて聞くと、揃って頷いた。
「うん、といっても僕はシオンに誘われてね」
「朝ごはん作るなら一人も十人も変わらないよ。良かったらシュバルツァーもどう?」
少なくとも後悔させないよ、と付け足された言葉に自分の空腹を感じ、同行することに。
一階に降りるとそこには既に着席しているフィーとサラ教官が。
「サラ教官、おはようございます。フィーもおはよう」
「おはようございます」
「リィンにエリオットおはよう。二人とも朝から元気そうねー」
「ん……おはよ……」
朝から快活な様子なサラ教官と対照的に眠そうなフィー。そういえば二人とも校舎ではよく一緒に居るところを見かけるけどどういう関係だろう……
関係で不思議なのといえば……
「~~~♪♪」
現在進行形で鼻歌を歌いながらフライパンをふるっているシオン。色々不思議だが同じクラスの仲間として今後彼から色々話を聞けるといいな……
「そういえば二人は俺たちより早く起きてたみたいだけど……」
「ん……シオンに起こされた。ちゃんとご飯食べないと大きくなれないぞって」
「まぁそこはシオンが正しいわね……あたしはそのついでねー、ホントはクラス全員そろってほしいんだけど。シオンのご飯は美味しいわよ~」
「なんでサラが得意気なの……?」
雑談に花を咲かせていると、朝食ができたようで。
「はい、お待たせ。帝国式のブレックファストだ。冷めないうちにどうぞ」
「ありがとう。んー、相変わらずいい腕してるわね」
「ん、ありがと」
「うわぁ、すごいね!なんだかホテルの朝食みたい」
「ああ、とても美味しそうだ。これなら料理人にでもなれるんじゃないか?」
「ありがと、トールズ卒業したらそっち方面も視野に入れておこうかな」
手早く片付けて食卓に着いたシオンはほんとに何でもないようにしている。俺も料理自体はできる方だが、あの手際の良さは見習いたいところがあるな……今度の自由行動日にでも教わってみよう。
「お疲れ様、今日の授業も一通り終わりね♡」
本日の授業も恙なく終わり、SHR。明日は自由行動日であること、来週には実技テストがあるということ、その後に《Ⅶ組》の特別カリキュラムを発表するということ。諸々の連絡を受け、SHRが終わる。
「———そういえばシュバルツァーは何かクラブに所属するの?」
すぐこちらに寄ってきたシオン。近くにはエリオットとガイウスの姿もある。
「いや、まだ決めていない。そういうそっちはどうなんだ?」
「同じく。料理研究会にでも入ろうかと思ったけど、生憎一人で黙々とやる方が性に合ってるからね。クレイグとウォーゼルはそこのところどう?」
「僕は吹奏楽部だよ。元々音楽に触れていたしね」
「オレは美術部というところに入ろうと思っている。故郷にいた頃に趣味で描いていたが、我流でな。きちんとした技術を習えるのはありがたい」
俺も何か所か見学してみようか。どうやら釣りに関するクラブもあるようだし、少しのぞいてみても良い
かもしれない。
「ふぅん、なんだかんだ目星がついていないのは僕とシュバルツァーだけか。別に強制でもないし鍛錬の時間とかにでも当てようかな、実技テストあるみたいだし」
「そういえば実技テストって何だろうね、実施すること以外何も聞かされてないけど」
「まぁ教官と組み手でもするんじゃないか?サラ教官やナイトハルト教官に手合わせ願えるなんて思ってもない機会だ」
「ふふ、リィンは随分武術に意欲的だな」
話していると前の方からサラ教官が入室して、こちらの方にやってきた。
「良かった、まだ残ってるわね」
「サラ教官、どうしたんですか?」
「実は頼みたいことがあってね。《生徒会》に取りに行って欲しいものがあるのよ」
「……とか言って、本来はサラ教官がやらなきゃ行けない仕事だったりしません?」
ジトっとした目を向けるシオン。流石にそれはないだろうと思って視線をサラ教官に戻すと……
「………………」
ガッツリ明後日の方向を向いていた。教官……?
「……はぁ、分かりました。俺が行ってきますよ」
「助かるわ。場所は……」
「じゃあついでに僕が連れて行こう。この後丁度行く用事があったからね」
それなら俺が行く意味はないのでは……?そう非難の感情を乗せてシオンを見ると、
「それは僕じゃなくて教官に向けて欲しいし、その後僕は用事があるからどの道リィンが適任なんだ」
肩をすくめた上でそう返された。予定があるなら仕方がないか。
「じゃ、後はヨロシクね♡」
サラ教官は言うが否やささーっと退出していった。
「……こういう時の逃げ足の速さだけは見習いたいね。それじゃあさっさと行こっか」
「ああ、よろしく頼む」
生徒会館は中に学生食堂や生徒会室、いくつかの部室に最上階には貴族生徒専用のサロンがある、らしい。シオンに説明されながら到着したのは良いものの、入り口で変な先輩に捕まってしまった。
「また新入生からお金をたかる気ですか?先輩」
「人聞きの悪いことを言うなよシオン。ちゃんと返すからたかってはいねーよ」
「会話が余りにも不穏」
仮にも目の前に本人がいるのに話すことだろうか。違う気がする。
「まぁまぁ。そんなわけで手品したいからミラかしてくんね?タネをみやぶったらしっかり返してやるよ」
「はぁ……」
特に大きい金額でもないしと50ミラ硬貨を渡す。
クロウ先輩と呼ばれたバンダナを巻いた先輩は背負っていた荷物を下ろし、硬貨を弾く。しっかり硬貨を凝視する。先輩の胸の高さまで来た時、パッと両手を交差させる。
……硬貨はなくなっていた。
硬く握った両手を前に出しながら、
「さて問題だ。右手と左手、どちらにコインがある?」
残念ながら全く見えなかった。こうなっては賭けだ。
「……右手です」
「残念、ハズレだ」
そう言って右の手を開ける。
「……動体視力には自信があったのですが」
「シュバルツァー、これはどっちにコインがあるかどうかが答えではないはずだよ」
「……そういえば、手品ってことは」
「おいおい先にばらすなよ、俺の楽しみが半分減っちまったじゃねーか」
言いながらもう片方の手も開く先輩。じゃああの50ミラはどこに……?
「ま、その調子で精進しろってことだ」
颯爽と去っていく先輩。どうやら2年生もクセモノぞろいのようだ。……あ。
「50ミラ……」
「……まぁ、タネを見破ったら、って言ってたし、一本取られたね。気を取り直して生徒会室に行こうか」
———コンコン、と生徒会室のドアをノックする。
どうぞーという声が聞こえたのだが、どこかで聞いたような気がする。そのまま入室するとそこには入学式の際に校門にいた少女が座っていた。
「あの時の……」
「えへへ、2週間ぶりだね。サラ教官に言われて来たんでしょ?私は生徒会長のトワ・ハーシェルって言います。改めてよろしくね、リィン君」
「せっ、生徒会長!!!???」
「気持ちはよく分かるよシュバルツァー……」
「シオン君もいらっしゃい。もしかしていつもので来てくれたのかな?」
「あぁ、お疲れ様です、ハーシェル会長。はい、それで合ってます。後こちら、差し入れです。またずっと仕事してたんでしょう?キルシェでスイーツを頂いてきたのでよろしければどうぞ」
「わぁ、いつもありがとうね。4人分ってことはジョルジュ君たちにもだよね。あとで皆で食べようかな」
「シオンはトワ会長と知り合いだったのか?」
テンポよく会話する二人に疑問を投げかける。するとトワ会長が困ったように笑いながら説明してくれた。
曰く、入学初日にトワ会長が技術部で友人たちと談笑しているところ、シオンが技術部に依頼をしてその縁らしい。
「いや初日から何をしているんだ……」
「違うんだ待ってくれ別に人の談笑をぶち壊すのが趣味とかそういうわけではなく僕が武器がなかったから至急必要なため購買も閉まっていたしそこで技術部に駆け込むというのは苦肉の策だったんだ許してくれ許してくれるかいありがとう」
「早い早い早い!あとそこまで言っていないから止まってくれ!そして一人で完結させるな!」
「そうだよ、わたしも他の皆も気にしてないから大丈夫だよ!」
「えうっそ今の聞き取れたのやば……」
「なんでこっちが引かれるんだ!?」
唐突に弁明を始めるシオンを宥めて……宥めて?どうにか場を収集する。
「なんだか疲れたな……」
「あはは……シオン君が技術部に来た日のことを思い出すね……」
「これ2回目なのか……」
「……まぁそんなことは置いといて、何か受け取るものがあるのではなかったのかい?」
「あ、そうだったね!えーっと……これだね」
そういってトワ会長は先ほどまで使っていた机の上から手帳と封筒を取り出した。
「それは……生徒手帳ですか?」
「うん、昨日やっと完成したんだ~」
昨日完成したのか……って、
「え!?これまさかトワ会長が作ったんですか!?」
「えへへ、そうだよ?シオン君も手伝ってくれたんだー」
「僕がやったのはほんの一部で殆ど会長が作ってましたね……差し入れくらいかな、手伝ったの」
俺は自分の手帳と他の皆の手帳を、シオンは自分の分を会長からもらった。
「はい、一番上のがリィン君のね。シオン君のはこっちだよ。それにしてもリィン君たちは1年生なのに感心しちゃうなぁ」
「……?ありがとうございます、他の皆にも渡してきますね。それで、この封筒は……?」
「サラ教官から、『《Ⅶ組》として自らを高めるために生徒会の手伝いをしたい』って聞いたときは驚いちゃった。その封筒は明日やってほしいことのリストだよ。基本的に生徒の子や町の人からの依頼が主な内容だよ」
(……あの時の♡はそういうことか)
(……まぁ手伝える時は手伝うよ……)
「……わかりました。ではしっかりやらせてもらいます。随分お忙しそうですし遠慮なく仕事を回してください」
「うん、お願いね。シオン君は今日もジョルジュ君の所?」
「はい、とりあえず基礎が出来たので試作ですね……」
話しているシオンと別れてから寮に戻る。全員にすぐ渡しに行きたいが恐らくクラブ見学などで散らばっているだろうし、寮に戻ってからでもいいだろう。
ふとポケットの中のアークスが震える。どうやら通信機能のようだ。
「……はい、リィン・シュバルツァーです」
『グーテンターク、我が愛しの教え子よ。その様子だとしっかり生徒手帳とお仕事を貰ったようね』
「その愛しの教え子を騙し討ちしたのは誰ですか」
『まぁまぁ、これは《Ⅶ組》のカリキュラムにもちょっと関係しててね。先に一人にリハーサルしてもらおうと思って』
ふざけた調子から急に真面目な雰囲気になった通信の向こう側の教官。確かにそれならまだクラブに所属していない俺は適任だろう。
『それに生徒会が忙しいのは確かだし、一石二鳥の采配じゃない?』
「今回のことを鑑みるに教官も生徒会が忙しい原因の一環だと思うんですけど……」
『まぁまぁ。それで、引き受けてくれるかしら?』
「……わかりました。明日の自由行動日に生徒会の手伝いをすればいいんですね?」
『それは君の判断に任せるわ、もし何か用事があるならそちらを優先してもらっていいし、折角のお休みだから羽を伸ばしてもらってもいいわ』
「いえ、特に予定もなかったので構いません。ですが——1つだけ。なぜ"俺"なんですか?」
クラス委員長はエマだし、副委員長はマキアスだ。身分で言うならラウラやユーシスもいる。それに、別にクラブに所属する予定がないのは俺だけじゃない。シオンもだ。その中でなぜ俺が選ばれたのか。
『……ふふっ、それは君があのクラスの"重心"とでも言えるからよ』
「え……?」
『あくまで"中心"じゃなくて"重心"よ。平民生徒に貴族生徒、果ては留学生までいるこのクラスにおいて君の存在はある意味"特別"だわ。それは否定しないわよね?』
「それは……」
それは確かだ。貴族であって貴族ではない、というのは確かにあのクラスでも特異だろう。でも……
「ですが、それならシオンが適任ではないですか?彼も色々"特別"なように感じましたが」
この年ではありえないほどの戦闘技能に入学前からサラ教官とも関りがあった様子。先ほど見たように入学から2週間しかたっていないのにトワ会長と仲良くしていた様子から対人能力も高い。それに行動のちょっとしたところに貴族特有の礼儀の良さが垣間見える。こんな俺よりよっぽど適任だと思う。
『んー、あの子もあの子でちょっと事情がね……私の口から言ってもあれだし、そこは仲良くなったら話してくれるんじゃないかしら』
「はぁ……」
肩透かしのような回答で少し気が抜けてしまった。……いや、少し卑屈になりすぎたかもしれない、切り替えていこう。
『とにかく、私はこの《Ⅶ組》という初めての試みが今後どうなるかを見極めるために"重心"足りえる君に働きかけた。それが今回君を選んだ理由よ……ぷは~~~!』
「ってサラ教官、何飲んでるんですか!?」
『何って、ビールよ、ビール。週末なのに部屋で寂しく一人酒よ。おつまみ係も帰ってこないし。素敵なオジサマの知り合いでもいたら一緒に飲みに行ってるんだけど』
「あのですね……」
先ほどまでの空気はどこへやら。完全に通信相手は酔っ払いのようだ。
『ま、あんまり深く考えずにやってみたら良いんじゃない?"何か"を見つけようと焦ってるみたいだけど、楽しい学生生活は始まったばかりなんだし。まずは飛び込んでみないと"立ち位置"も見つからないわよ』
「……!」
『ふふっそれじゃあね。ちゃんと寮の門限までには帰るのよー』
そういって通信は切れてしまった。……飛び込んでみないと"立ち位置"も見つからない、か。
「……そうだな、まずは動いてみるか」
自分は悩んでるのに近くに完璧超人がいたら凹みも僻みもするよねって話。